ガンダムSEED Destiny 白き流星の双子   作:紅乃 晴@小説アカ

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アナトリア戦線編
第73話 地獄の門へ


 

 

まだ名もなき新型機のテストの最中。

 

コクピットシートに座るラリー・レイレナードは、イベリア半島の沖合で海上を航行する遭遇した不明藉の巨大な兵器を見て、驚愕した。

 

 

(アームズ…フォート…!?)

 

 

頭部に備わるデュアルアイのカメラが捉えたのは、この世界には存在しないはずの企業『インテリオル・ユニオン』が開発した新型の水上型アームズフォートである「スティグロ」が悠々と海上を航行していたのだ。

 

 

 

アームズフォート。

 

 

企業が開発したそれは、規模は小型でも数百メートル、巨大なものでは全長数キロにも及ぶ巨大な兵器だった。

 

維持コスト、建造コストは莫大であるが、アームズフォート最大の利点はハードウェアとして安定した戦力を発揮できることもあり、事実としてAFの前では並程度の『ネクスト』と『リンクス』は、『狩られる側』となってしまった。

 

アームズフォートの台頭により、パワーバランスを『個人』にゆだねるリスクも避けられ、戦争形態は再び『物量とパワー』に回帰することとなる。

 

その中で、中型と位置付けられる「スティグロ」の最大の特徴は機体前面に配された大型のレーザーブレードだ。

 

これを展開しながら敵艦隊、あるいは敵部隊に突撃する、という極めて攻撃的なAFである。しかも4系統では廃されたレーザーブレードによる光波の発生が可能で、多数のミサイルも搭載されている。

 

その航行速度は、ネクストのオーバードブーストでも追いつけないほどの高い機動性を持つが、その耐久力が低めであり撃破は容易である。

 

もちろんそれは、あのゲームの中の話だ。

 

しかも中型と言いつつも、全長はアークエンジェルやミネルバよりも巨大で、そんな代物が並のMSでは追いつけない速度でレーザーブレードを展開して突撃してくるのだ。

 

あんなものがジブラルタルにたどり着けば、基地の被害は甚大なものになるのは明白。

 

 

「ライトニング1よりオービット!海上にて所属不明の巨大兵器を確認!まっすぐジブラルタルに向かっているぞ!」

 

 

即座に戦術データリンクへ送った敵の姿を見て、のんびりと新型機の動作テストとして身構えていたAWACSの反応が瞬時に切り替わった。

 

 

《なんだ、あのデカイやつは!?ライトニング1!敵戦闘能力は確認できるか!?可能なら停止命令を…》

 

 

ニックの言葉に応じることはできなかった。横合いから突き刺されたスラッグキャノンの弾幕を掻い潜る。モニターに目を走らせると、そこには

 

 

『あはっ!新型を引っ張り出してきたんだから、それくらいしなくっちゃあ!』

 

 

独特なフォルム。

 

それはウィンダムのフレームをベースにしている。

 

背面の排熱装置とスラスターによる機動力に優れた機体構成となっており、武装はスナイパーライフルと肩部の〝スラッグキャノンのみ〟という極めてシンプルな物だ。

 

 

「あの機体…例のお嬢さんか!!」

 

『新型機?へぇ、ザフトも同じようなことするんだ。真似っこしても落ちちゃうんだからね!!』

 

 

とんだ新型機のテストになったもんだ!用心を兼ねて実弾装備で出たことが幸いした。ペイント弾でアームズフォートの相手なんて自殺行為の何ものでもない。

 

スラスターを吹かして戦闘機動を始めたサレナ・ヴァーンのヴァルキュリア相手に、ラリーは全神経を戦闘へと向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新型機のテストぉ?」

 

 

激戦に続く後片付けという名の戦場をくぐり抜け、アークエンジェルの仮眠室で爆睡していたメビウスライダー隊のメンバー。

 

寝起き早々にオーブで備えられた艦内大浴場とサウナで寝汗を落としたラリーたちが格納庫に来ると、朝イチでタスク隊からデリバリーされた装甲が取り付けられている新型機を目にしていた。

 

 

「タスク隊から装甲が入ってきて、ほぼ仕上がった状態なの。大丈夫、フレームの設定や足回りも充分に手を入れたから」

 

 

ふと、横を見ると大型輸送機が一機と旧世代の戦闘機が三機。帰り分の補給を受けようとしたタスク隊だが、ジブラルタルは中東やアフリカのように化石燃料が取引されている環境でもなかったため、給油機が到着するまで待機となったようだ。

 

普段、目にすることないMSや武装の格納庫をあらかた見て回ったタスク隊も見学に加わっている中、風呂から帰ってきたラリーに装甲や部品を組み終わったハリーが満面の笑みで「これからテストよ」と言ってきたのだ。

 

ジブラルタルってザフトの勢力圏ど真ん中なんですけど、オーブや各技術を惜しげもなく突っ込んだ機体のテストをするとか正気か?

 

 

「マリューさんやザフト側にも許可は取ったから大丈夫」

 

「逆にそれが不安なんですけど?」

 

 

そう切って返すが聞く耳を持たないハリーに押し出されて、渋々パイロットスーツに着替えてくる。横から久々に立ち上がっている機体は、見慣れた骨格フレームではなく完全な装甲やスラスターノズルに覆われて、目の前に佇んでいる。

 

しかし、まぁ外観からすればかなりまともだと思えてしまうほど、スッキリした機体となったものだ。

 

 

「ハリーにしては控えめな…」

 

「まだ素体の調整中と言ったところね。けど、機動性は保証するわ。なんたって四肢と腰、胴体と背部の至る所に小型のスラスターと大型ノズルをつけてるんだからね」

 

 

ハリーからカタログスペックが表示された端末を渡される。横からキラやシンが覗き込んで見ているが…この機体、外観はおとなしいが出力値が頭おかしい値を叩き出してるんだが?

 

ざっと見てもキラが載っていたフリーダムの2倍。かのホワイトグリントの最高出力も上回っている。

 

 

「スラスターまみれだな」

 

 

見上げていたアスランが呟いた言葉に、その場にいた全員が同意した。よく見れば装甲の隙間にもスラスターノズルがある。関節を曲げた時や、スライドした時に有効になるらしいが、それでも従来の機体と比べれば圧倒的に多い。というか多すぎる。

 

バッテリーがアズラエル財団で作った新型のパワーエクステンダーシリーズのものだからってちょっと付けすぎじゃないですか?

 

 

「その分、早く動けるわよ?」

 

「人が乗ること考慮してます?」

 

「ラリーが乗るから平気よ、平気」

 

 

顔を引きつらせるフレイの質問に、ハリーは即答。はっはっは、さてはこいつ俺を戦闘マシーンかなにかと勘違いしてんな?言い切った後、フレイとキラが頭を抱えている。

 

 

「とんでもないこと言ってるけど、説得力が半端じゃないんだよなぁ」

 

 

リークが付け加えるように言った言葉は納得がいかなかった。

 

武装はライフルとシールド、ビームサーベルというヤキン・ドゥーエの時のシンプルイズベストなホワイトグリントのような形状になっているが、機体性能は段違いであった。

 

とにかく早い。

 

全てが早い。反応速度も加速性もエネルギー効率も何もかもがレスポンスが早いのだ。

 

スラスターノズルが多い分、吸収源を細分化しているので絶えずスラスターを吹かしても、他の供給ユニットがチャージするため、延々と急加速のようなステップが可能となる。

 

全部のスラスターベーンを全開にすれば、なんとMA形態だった頃のホワイトグリントと同等の加速性能を叩き出すことができるのだ。なお、搭乗するパイロットの安否は考慮されていません。

 

ある程度の頑丈さを誇るキラが、「全開機動をすれば僕じゃ一分も持たずに失神しますね」と死んだ目で答えてくれたので、出撃前にはすっかり人外認定されてしまった。解せん。

 

そんな機体を振り回しながら、テストの最終行程へと入った当たりだった。

 

広域モニターに信じられないほど大きな機影を捉えたのは。

 

 

 

 

 

 

 

「コクピットを開けたのか!?戦闘中に!?」

 

 

交戦機動をしてる最中、ラリーの目の前でヴァルキュリアは信じられない行動を起こした。なんとコクピットハッチを開いたのだ。しかも横Gが掛かる旋回機動の最中にだ。

 

最初は機器の故障かと思おうとしていた。

 

だが、ある程度距離を空けたヴァルキュリアが空中で止まるとコクピットハッチの足場を踏み締めてパイロットが出てきたのだ。

 

戦闘中にも関わらずヘルメットを脱いだサレナは、イベリア半島に広がる海風に髪を踊らせる。

 

 

「モニターなんていう粘膜越しに貴方のことなんて知らないじゃない」

 

 

あの狂人的な機動や戦い方とは裏腹に、ヘルメットを脱いだサレナは、にこりと花が咲いたような笑顔を浮かべてラリーの乗る新型機を見つめる。

 

 

「あなたはダーリンじゃない。けど、とても似てるの。ダーリンじゃないけど…あの男に。あの〝レイヴン〟に」

 

「レイヴン…?」

 

 

レイヴン。それはこの世界とは異なる人型兵器のパイロットを示す言葉でもあった。彼女は髪をかき上げながら本当に楽しげな顔をしている。その笑顔と裏腹に吐き出された言葉は狂気に満ち溢れていた。

 

 

「私が倒したいのはダーリンで、私を殺してもいいのはダーリンなの!!アンタなんかじゃない!!カラスは真っ黒なんだから、アンタも真っ黒に燃えさせてあげる!!」

 

 

彼女はそう言って再びコクピットシートに腰を下ろした。操縦桿を握る。だが、目の前にモニターはない。

 

なんと彼女はそのまま戦いを再開したのだ。コクピットハッチを開いたままという状態で。

 

 

「よく見えるわ、レイヴン!!貴方になら殺されてもいいし、殺してもあげる!!」

 

 

 

あはははは!!ほらほらぁ!!翼をパタパタさせて避けなさいよ!!死んじゃっても知らないよ!?

 

 

レイヴン…!!聞こえる!?私の声が!!

 

 

通信機越しではない。

 

風の中で、その声がはっきりとラリーには聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 


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