オーシア・フリート ―臨時艦隊の異世界海戦記―   作:ねこぽんづ

16 / 19
第13話 結集と策謀

『………次のニュースです。今朝行われた横田総理大臣の記者会見で、

横須賀女子海洋学校所属の学生艦数隻が行方不明となっていることがわかりました。

また、横須賀女子海洋学校所属の航洋直接教育艦晴風が、

教員艦さるしまを撃沈したということも明らかとなり、現在警察と海上安全整備局が、

合同で捜査を行っています。なお、晴風はすでに撃沈が確認されており………』

 

ディスプレイのモードを切り替え、テレビから会議用の画面を映す。

 

「ほとんどロクなこと言ってなかったな」

「そういうもんでしょう」

 

ハワードの愚痴にケヴィンがそう返す。

 

「で、あっちの方はどうだ?」

「オーシア艦隊は重軽傷者13名、死者3名。晴風は軽傷者1名、重傷者1名です」

「わーお、随分被害出したな」

 

言いつつ、ハワードはケヴィンと共に甲板に上がる。

ちょうど、オーシア艦隊の艦長達と晴風副長のましろ、

そしてハーリングを乗せたMV-22が着艦するところだった。

着艦したMV-22から、最初に降りてきたのはハーリングとジョンソンだ。

ハワードはハーリングにいつも通りの格好でいつも通りの話し方をした。

 

「ご苦労様です大統領、いや、もう前大統領でしたっけね?」

「ああ、そうだ。久しぶりだねコーラル君。もう9年ぶりになるか」

「早いもんですなぁ。お互い年は取りたくないもんだ」

「君はまだ49歳だろう?私はもう58だよ」

「大して変わらんでしょう。にしてもお互い随分老けましたな」

 

そう笑って話しているところを見て、後に続いた艦長達は目を丸くする。

ましろがおずおずと進み出て、ハーリングに聞いた。

 

「前大統領、お知り合いですか?」

「ああ。彼は9年前の環太平洋戦争時、私が乗艦したある空母で副長をしていたんだ」

「あの時は酷ェもんでしたよ。艦載機なんざいやしねえ。

ウォードッグが………おっと、この話は2020年まで厳禁でしたか」

 

そう言ってハワード口を手でふさぐ。

 

「ともあれ、会議室までご案内します。さすがに今の状況はかなりのイレギュラーだ」

「そうだな、ぜひ頼む」

 

ハワードの案内で、ハーリングやましろ、他の艦長達がアルバトロスの艦内に入っていった。

 

 

 

医務室に来た明乃は、ベッドに横になる鈴を見て固まった。

鈴は眼を開いてこそいるものの、その視線はどこも注視しているようには見えず、

ついでに明乃が医務室の扉を開けた音にも一切反応を示していなかった。

 

「鈴………ちゃん………?」

「………」

 

明乃はベッドに近付いてみるが、やはり何ら反応していない。

 

「あ、艦長いたのか」

 

そう言って、医務室を開けていた美波が戻ってきて声を掛けた。

 

「み、美波さん。鈴ちゃんは………?」

 

明乃が恐る恐るそう聞くと、美波は落ち着き払ったいつもの口調で告げた。

 

「遷延性意識障害の疑いがある」

「せ、遷延性意識障害………?」

「頭部の外傷などにより脳が損傷し、覚醒していながらも、

意識内容、精神活動がほぼ完全に失われ、運動反応が様々な状態で障害された状態のこと。

この状態が長期間持続した場合は遷延性意識障害とされることが多い」

 

そう言って美波は持ってきたペットボトルのふたを開け、

しんばし救助時から少しずつ飲んでいた経口補水液を飲む。

 

「そ、それって、治る………?」

「個人差があるので一概には言えないが、成人で外傷性の場合、

1ヶ月間この状態だった患者は50%程度が受傷後1年以内に意識を回復している。

小児だとある程度は確率が上がるともいわれている。

………もっとも、これが当てはまるかはわからないが」

 

そう答えた美波は経口補水液を飲み干した。

 

「全ては本人と運次第。誰かが完全に治せるようなものでもないし、

まして症状を軽くすることもできない。他の者は、ただ祈るしかない」

 

美波はそう告げると、未開封の経口補水液のペットボトルを明乃に渡す。

 

「艦長も、少しは休むべき。昨日から艦長が休んでいるところを見た覚えがない」

「う、うん、ありがとう美波さん………」

 

その感謝の言葉は反射で出た言葉だろう。

明乃の顔は、美波が告げた内容に衝撃を覚えた後、変化していない。

 

「艦長、少し留守番を頼む。デスクの上のネズミと知床さんには触れないように」

「わ、わかった………」

 

美波は明乃をおいて、医務室を出た。

美波は医務室の扉をそっと閉め、先程デスクから出した資料を手に歩き去る。

医務室からは、明乃がすすり泣きまじりに鈴に何度も謝っている声が聞こえた。

 

 

 

「今後について話し合う前に、ハーリング前大統領に伺いたい」

 

会議室にアルバトロス戦闘群の艦長達と、先ほどMV-22でやってきた面々が着席するや、

真っ先にハワードが口を開く。

 

()()()()()()()()()()()

 

その問いに、ましろだけが驚いた。

何故前大統領相手にそんな失礼な質問ができるというのか。

ハワードは続けた。

 

「私の記憶が確かなら、あなたは国際停戦監視軍が実施した救出作戦で、

オーシア軍機の誤射を受けて死亡したはずだ。

何よりその疑いをかけられてうちに飛ばされてきた連中もいます。

にもかかわらず今あなたはこの場にいる。ご説明願いたい」

「君の言うことはもっともだ、コーラル大佐。

しかし申し訳ないが、実を言うと私も何があったのかはわからないんだ」

 

そう言って、ハーリングは話した。

あの時、AWACSの誘導を無視して、軌道エレベーターを守ろうとした時、

ミサイルが命中し、墜落していくMV-22の中で、

ハーリングはパラシュートを付けて、気を失っていたジョンソンを担ぎ海に飛び降りた。

そして無我夢中でパラシュートを開いたが、その時にはオーシア機もエルジア機も、

さらには軌道エレベーターすらもなかったのだという。

さらに、驚いたことに、着地したところがあのしんばしだった。

幸い着地したところは見られていなかったが、常識の違いに驚いたという。

 

「そうして今に至るというわけだ」

「とんだ無茶をしでかしましたね」

「ああ。まったくだ」

 

説明を聞いたハワードは苦笑するしかない。

ハワードも例の救出作戦の報告書は読んでいる。生存が絶望的な状況だということは、

この報告書を読んだだけでよくわかった。

それによればジョンソンはMV-22のコクピットで敵機の攻撃を受け死亡し、

それをハーリングが操縦して軌道エレベーターに反転したという。

しかし実際には、ジョンソンは頭を打って気を失っただけだというのだ。

 

「まあ、これで疑問は1つ解消しました。

では本題に入るとしましょうか。まず現状についてですが………」

 

そう切り出し、ハワードは現状を整理する。

 

・アルバトロス戦闘群は現在ブルーマーメイドと協力関係、ただし今後関係断絶の恐れあり。

・オーシア艦隊は現在所属不明艦という扱い。先の戦闘でおそらく敵対視されている。

・晴風は撃沈されたことになっているが、先の戦闘で生存報告が上がっている公算大。

・臨時即応戦隊は解隊、所属艦はハワードの判断で元の所属に戻し各校に帰投させた。

・ブルマーは高林一派により警備艦を出動させ、晴風撃沈に躍起になっている。

・横須賀女子海洋学校及び安全監督室はブルマー内部を捜査中。

・日本政府は晴風は撃沈されたものと見て公式発表。

・その他所在不明艦複数。いずれも横須賀女子海洋学校所属艦。

 

「………と、こんなところですかね」

 

ハワードはそうまとめた。

 

「晴風が狙われる理由はおそらく、

乗員に宗谷 ましろ及び万里小路 楓が含まれているからと思われます。

宗谷は実家がブルーマーメイドの名門、万里小路は重工業系の大企業です。

ただそれだけの理由で抹殺を画策するのは無理があるので実際どうなのかはわかりませんが」

 

ハワードがそう補足説明をすると、アルトリアが挙手をした。

 

「コーラル大佐。貴官はつまり独断でブルーマーメイドとやらと協力関係を構築したのか?」

「ああ。今のアルバトロスはIUN国際停戦監視軍の所属だからな、これに関しては適法だ」

「ふむ、なるほど。しかしそうなると厄介だな。それだと下手に手を出せん」

「おい待て。手を出すの前提なのか?」

 

ハワードがそう聞く。この場で言う『手を出す』とは、ブルマーへの攻撃を意味する。

 

「当然だろう。奴らのせいでこちらは3名死者が出ている。このままタダで済ますつもりはない」

 

そうきっぱり言い切ったアルトリアに異議を唱えたのは、ましろだった。

 

「そ、そんな!確かにあの攻撃で死者は出ていますが、あれも何か事情があって………」

「そんな事情などこちらの知ったことではない。

殺された分報復をしなければ、死んでいった者達が浮かばれないだろう」

 

アルトリアがそう言い放つ。平静を装ってこそいるが、彼女は怒り心頭だったのである。

 

「報復、か………9年前もそうだった」

 

そこでハーリングが口を開いた。

 

「あの時は友好国だったユークトバニアが攻撃を仕掛けて、死者が出た。

そして副大統領が私を幽閉して、戦争を進めた。

オーシアが報復をして、その報復をユークトバニアがして………その繰り返し。

あの時は誰もが操られていたんだ。復讐という感情と、それを利用した『灰色の男達』に」

 

その言葉に、誰もが沈黙する。

9年前の環太平洋戦争でその核心に迫った1人であるハーリングの言葉は、とても重かった。

 

「私はそういった報復を望まない。

無論、出した死者の分だけブルーマーメイドには償いをしてもらうつもりだ。

だが、武力だけでの仕返しは新たな憎悪を生み出してしまう」

 

ハーリングはそう言って、この場にいた全員の顔を見回した。

 

「私は、9年前と同じことになってほしくはない」

 

言い切ると、ハーリングは立ち上がり、ハワードを見据えた。

 

「コーラル大佐、今いるオーシア艦全艦の指揮権を君に託したい」

 

その言葉の意味を、ハワードは察した。

ハーリングは、「事態を平和的かつ速やかに解決してくれ」と言っているのだ。

ついでに、「君ならできると信じている」とも。

ハワードは苦笑交じりに答えた。

 

「了解しました。なんとか事態を終息させてみましょう」

「そう言ってくれると助かる。他の者も異論はないかな?」

 

ハーリングがそう聞き、全員を見渡す。反論はなかった。

アルトリアも、少し過激になりすぎたと思っているようで、反論しない。

 

「よし、これよりオーシア艦隊はIUN国際停戦監視軍アルバトロス戦闘群の指揮下に入る。

以後は司令であるハワード・A・コーラル大佐の命令に従ってほしい」

「「「サーイエッサー!」」」

 

会議室に艦長達の返答が響いた。

ハーリングはそれを聞くと、「ありがとう」とだけ言って席に座る。

そしてハワードは、本来の話題を切り出した。

 

「で、今後どうするかという話だが………」

 

その時、会議室の扉をノックする音が聞こえた。

 

「入れ!」

 

ハワードがそう言うと扉を開けて美波が入室した。

 

「失礼する。今回の事件で報告すべきことが1つ」

 

そう言いつつ美波は持ってきた資料を片手にポケットからUSBメモリーを取り出し、

会議室前方のディスプレイにデータを表示させた。

 

「今回所在不明となっている艦艇は、このウィルスに感染していると思われる」

 

表示させたのは、何かの細菌のようなものと、それに関する説明文だった。

 

「海兵隊から伊202艦内にいたネズミの死骸を貰って解析した。

その結果、体内からこのようなウィルスが出てきた。

これに感染した一次感染者は凶暴化し、また侵入したウィルスの電磁波のハブとなって、

周囲の人間の脳波に干渉、周囲の人間に同様の症状を引き起こさせ、

生体電流ネットワークを構築、単一の意思により行動する群体を構成する。

また電子機器に影響を及ぼし、機能不全を引き起こす。

おそらくこのウィルスが今回の事件で所属不明艦を作ったと思われる。

そして製造元も判明した………」

 

ディスプレイが次の画面に切り替わる。映し出されたのはある組織のデータだ。

 

「海洋研究開発機構、略称『OSDS』。

海洋研究や技術開発、ブルマー装備の開発や調達も行っている海上安全整備局の下部組織。

昨年、突如として生化学系企業への援助や技術者の交換研修を始めていた。

おそらく、そうして得た技術をもとに生み出されたのがこのウィルス、

OSDSの呼称で言う『RATsウィルス』であると思われる」

 

その画面を食い入るように見ていた艦長達は、美波の説明を理解した。

つまりウィルスによる集団感染によって凶暴化した各艦が、

そのまま日本近海を彷徨っているということになる。

 

「よく製造元がわかったな」

 

そう感心したのは、駆逐艦ストークの艦長だ。

 

「ゲーンズビルの通信員に調べてもらった」

「何でもありだなあのお調子者(コーラサワー)

 

するとハワードは美波に聞いた。

 

「このウィルスへの対処方法は?」

「血清を作ってある。これをもとに抗体を繁殖させた薬品を量産すれば対応は可能。

あと、感染してすぐであれば海水に叩き込むことでウィルスを除去できる」

「なるほど」

 

それを聞いて、ハワードは何かを考えた。そして再度質問する。

 

「抗体を量産するのにどのぐらいかかる?」

「設備は晴風のもので十分。量産は5分で6人分作れる」

「わかった。直ちに量産してくれ。できるだけ多く」

「了解した」

 

そう言って美波は会議室を去り、医務室へ戻る。

 

「………さて、ブルーマーメイドはBC(生化学)兵器まで作ってやがったわけだ」

 

ハワードはそう告げて席を立つ。全員の顔を見回した。

オーシア側のハーリングや艦長達は険しい表情で、

晴風副長のましろは信じられないと言いたげな顔だ。

 

「では今後の方針についてだが、行方不明艦を捜索するということで異論はないな?」

 

ハワードはそう聞いて、全員の顔を見た。反対はいない。

 

「よし。これより我が艦隊はブルーマーメイド内の不穏分子排除を目標とし、

第1段階として行方不明艦の捜索及び制圧を行う。各員気を引き締めて任務に当たれ。以上!」

「「「サーイエッサー!」」」

 

ハワードの言葉に、艦長達は了解した。

ともあれ、こうして即席の艦隊の方針は決まったのである。

そんな中1人、ましろは暗い沈んだ顔をしていた。

 

 

 

同刻、太平洋上、警備艦くなしり艦橋。

 

「レーダー感あり!本艦隊に接近!数は6!いずれも改インディペンデンス型警備艦の模様!」

 

民間人を輸送していたくなしりのレーダー員が声を上げた。

奏江は報告を聞き、訝しみつつIFFを照会させる。

 

「この数がこの海域にいるとは聞いてない。IFFは?」

「応答ありです。これは………保安即応艦隊特殊機動作戦隊のものです」

「特殊機動作戦隊?」

 

奏江はますます訝しむ。

特殊機動作戦隊といえば、全艦が黒一色の改インディペンデンス型で構成された特殊部隊だ。

それが何故こんなところにいるというのか。

 

「確か隊司令は『宗谷 真冬』二等保安監督官だったわね。通信繋いで」

「了解………あれっ?」

 

通信員が驚いて思わず声を出す。続いて報告をした。

 

「特殊機動作戦隊、『べんてん』以下どの艦も無線に応答しません!」

「なんですって?」

 

奏江がそう言い返した時、遠方の黒い艦船が光った。

その光は、演習でいつも見慣れた発砲炎だった。

 

「べんてん発砲!『けらま』、『さきしま』、『よなぐに』、『はてるま』、

『あぐに』も続けて発砲!砲口は本艦隊を指向していますっ!」

「なっ………!?」

 

奏江はあまりのことに言葉を失う。

次の瞬間、容赦なく放たれた砲弾が4隻の警備艦に突き刺さり、問答無用に警備艦を穿った。

 

 

 

一方べんてんの艦橋には、隊司令の真冬が戦果を確認していた。

 

「全弾命中。目標、沈没していきます」

「よろしい」

 

そう言うと真冬はため息をつく。

 

「反乱艦とはいえ、同じブルマーを手にかけるのは気持ちのいいもんじゃないなあ」

 

そう嘆息する真冬の手元の情報端末には、保安即応艦隊司令部からの命令文があった。

『反乱艦くなしり、えとろふ、はぼまい、しこたんを撃沈せよ』。この一文である。

 

「ま、仕事だし仕方ねえか」

 

そう言って、真冬は端末を閉じた。

 

 

 

民間人を救助し護送していた警備艦4隻が反乱艦武蔵に撃沈されたという速報が流れるのは、

この僅か数分後の出来事である。


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。