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ウルキオラのその言葉と重なるように闇は飲み込んだ。
そして爆発音が辺りに響きわたる。宝具の解放は間に合わなかったのだろうか?誰しもがそう感じてしまう状況。
――次の瞬間、辺りの空気が一層重くなった
まるで海の底にいるかのような暗く、重い圧力と息苦しさ。辺りには雨のような物が降り注いでいるようにも見える。
「こ…これがウルキオラさんの宝具なんでしょうか…?」
息苦しそうにマシュが話す。マシュだけではない、立香やオルガマリーも同様に息苦しそうな顔をしている。
「これが霊圧…?なの?今までとはまるで全然違う…まるで海の底にいるみたい」
これがウルキオラの宝具。本当の力。解放前のあれでも力を抑えていたというのだ、宝具である力の解放とは一体どれだけの物なのか予想もつかない。
「解放は出来たか……だがこれが魔力による制限か?少しばかり能力が下がっているな」
煙が無くなると同時にウルキオラがその姿を見せた。
その姿は背中からは大きな翼が生えており、仮面の形は変わり角のような形状に変わっている。
――怖い――
立香は直感的にそう感じた。自分が呼び出したのは一体何なのだろう?
あれは何だろう?英霊と言うにはほど遠い姿、どちらかと言えば悪魔の方が近いだろう。何よりこの圧力は何だろう?彼は霊圧と言っていた、だが最初に感じた物よりも随分と質が変わっている。
ブルッと足が震えるのがわかった。これが恐怖、人に備わっている本能的な機能の一つだ。
「マスター」
ウルキオラに呼ばれビクッとする立香。
「俺が怖いか?」
俺が怖いか?という意味がなんなのか一瞬わからなかった。
ウルキオラは心配をしてくれているのだろうか?でもそれは違うと感じた。
一体自分は何に怖がっていたのだろう、自身が呼びそれに応え来てくれたサーヴァントではないか、自分のサーヴァントを信じられないでどうするのだ。
そして立香の目は恐怖から一転、強い目に変わった。
「怖くないよ!めっちゃ強そう!!」
ニカっと笑みを作りながらそう答えると「そうか」とだけ帰ってきた。
「私の宝具を相殺するとはな…それが貴様の宝具か?」
「俺達破面は本来の姿を刀という形で封印している。それを解放することを『帰刃』と言う」
「変わったのは姿だけか?見たところ武器はなさそうだが?」
見た目からは刀は無くなり外見が変わったようにしか見えない。確かに圧力は先ほどより遙かに重く強いというのはわかる。
「油断はするな、俺が武器を持たないからと言って構えを崩すな、気を張り巡らせろ」
――――刹那、アルトリアの眼前には光の刃が迫っていた
剣でそれを防ぐ、だが一撃が重いのかはじき返せずにいた。上体を逸らし剣の向きを変えることで力を逃がし辛うじて回避することに成功した。
回避に成功後、素早く距離を取る。自身が反応出来ない以上距離を取るのが最善の判断だと感じたからだ。
「今のによく反応したな」
「驚いたぞ、私でも目で追えないとはな」
「だが距離を取ってどうする?」
「確かに貴様の速度は恐ろしく速い…なら間合いに入らなければいいだけのことだ」
わざわざ敵の得意な条件で戦う必要はない。かつてのアルトリアであるなら正々堂々と戦っているだろう。だが今の彼女はそれではない。勝つためなら自身が有利である場所で戦う。それだけだ。
「愚劣だな。間合いなど意味はない」
光の刃を手に作り出すと一瞬で距離を詰める。
「――くっ!」
なんとか防ぐと剣に魔力を込め応戦しようとする。
先ほどまでは有利だったはずの状況が一転。ただの宝具の解放でここまで戦局を左右されるとは思わなかった。だがそれでも有利だと感じられるのは絶対的なアドバンテージである魔力である。
ウルキオラはマスターである立香の魔力が枯渇してしまえば終わり、だがアルトリアはほぼ無限に魔力が供給され続けている。
戦力的差はあろうと長期戦になれば必ずアルトリアが勝つのは明白だ。
それはウルキオラ自身も理解しているのだろう。勝負を長引かせまいと猛攻を繰り出してくる。
「立香……貴方が呼んだのは本当にサーヴァント…?」
人間離れしたその姿、あの騎士王を圧倒する戦闘能力。恐怖しか湧かないその感情を隠しきれないオルガマリーは召還した本人に聞いていた。
「わかりません所長……でもウルキオラは私のサーヴァントです!彼がどんな姿をしていても英霊じゃなかったとしても私の思いに応えて来てくれました、だから私は信じます。自分のサーヴァントを」
強い目をしている立香。その顔はマスターとして相応しい顔をしていた。
「先輩……」
「あ!勿論マシュもだからね!何度も守ってくれたし、ほんっとに頼れる後輩!」
「は…はい!ありがとうございます先輩!」
マシュに向かって笑顔でそう言うと、マシュも笑顔で答えた。
そして戦いの場へと目を向ける。決着はまだ着いていない、黒い魔力があちらこちらで噴出し抵抗しているのがわかる。
するとブワっ!と魔力があふれ出す、どうやらアルトリアが宝具を使うようだ。
それを察知しマシュは宝具の用意をする、すると手が伸びてきてそれを止める。
「もう大丈夫だ盾の嬢ちゃん」
クー・フーリンの言葉を信じると宝具の使用は止めた。
「私の全力だ……心して受けるがいい!」
かなりの魔力量なのか空気が振動している。アルトリアの立つ足場に亀裂が入るほどの力の奔流。ウルキオラをそれだけの敵と認め全力で倒すつもりなのだろう。
「卑王鉄槌。極光は反転する、光を飲め…!――
地面を削りながら向かってくる力。それに向けてウルキオラは片腕を出す。
「大した力だな。ならば俺も見せてやろう、解放状態にしか見せられん黒い虚閃を」
指先に真っ黒な霊圧が収束されていく。そして言った
「
漆黒の力がぶつかる。黒と黒、飲み込もうとしているのはウルキオラの方だ。
一瞬の間にアルトリアの宝具を消し飛ばし、そのまま向かっていくと辺り一面を吹き飛ばした。
辺りの地形を少しばかり変化させてしまう程の破壊力。
最初に見せた
――カンっ!
と音がする、そこには剣を杖にして立っているアルトリアがいた。
鎧は無く黒いドレスのような服装だ。鎧は魔力で作られていたのか、それを維持することが難しくなり今のような姿になったのだろう。肩で息をしており、剣を構えるのも難しそうだ。
「鎧に魔力を集中させて威力を殺したか…いい判断だ」
「まさかこれほどまで力の差があるとはな…」
そんなアルトリアに止めをさそうと近づくウルキオラ。
「ふっ……聖杯を守り通す気でいたが……ここまで魔力を解放しても敗北してしまったか……」
アルトリアの身体が光り出し、ウルキオラは歩みを止める。
「結局、どう運命が変わろうと、私一人では同じ末路を迎えるという事か…」
「あ?どういう意味だそりゃあ、テメェ何を知ってやがる?」
意味がありげなその言葉にたまらずクー・フーリンは質問した。
「いずれ貴様も知るだろう、アイルランドの光の御子よ」
徐々に光は強くなりアルトリアの身体は透けていく。
「グランドオーダー ――聖杯を巡る戦いはまだ始まったばかりという事をな」
「グランドオーダー…だと?」
「そうだ…そしてウルキオラ…貴様の戦いはいいものだったぞ。お前も知ることになるだろう自分の存在の異質さを…な」
そう言い残すと光となって消えていった。
消えていったアルトリアに納得がいかず、後方ではクー・フーリンが叫んでいる。
「チッ!俺もここで強制送還かよ!納得はいかねぇがしょうがねえ、お嬢ちゃんあとは任せたぜ!」
クー・フーリンの身体もアルトリアと同じように光り透けていっている。どうやら彼も消えてしまうようだ。
非常に納得いかないのか、悔しそうな顔をしている。
「次があるなら、そんときはランサーとして呼んでくれ!ああそれとあんた!機会があればあんたとは一度手合わせ願うぜ!」
まだ何か言いたげだったがそのまま消えてしまった。
アルトリア、クー・フーリンが消え、一瞬の沈黙が辺りを包み込んだ。