天空(そら)の彼方に響く旋律 -穢れた七世界の中で生き抜く戦士達-   作:室谷 竜司

1 / 39
Introductly Chapter.
Prologue. 神の御遊び


「フフ……、フフフ……。」

 ただ白くて、それでいて何もない空間の中で、そんな笑い声が虚しく響く。

 ここはいわゆる神域。神の住まう空間である。

 その空間に立つことを許されるのはたった一人、神しかいない。

 「つまり……、この瞬間……、私は神になったの……。 ようやく辿り着いた……。」

 ボロボロの身体を引きずりながら、私は不敵な笑みを浮かべる。

 そして、この白い空間と同じ、白く輝く玉座へと手を伸ばした。

「私の苦労……、無駄じゃなかったんだね……。」

 玉座に手が触れる。

 その瞬間、触れた指先から何かが私の中に流れ込んでくるのが分かった。

 けれど、嫌じゃない。

 暖かくて、とても心地の良い感覚だ。

 見ると、私の傷だらけの身体がゆっくりと元の綺麗な状態に戻って言っている。

 そして、その身体を覆うようにこれまた白い羽衣が重ねられていく。

 どうやら、私はこの空間に認めてもらえたみたいだった。

 私はそのままゆっくりと、白い玉座に腰を落ち着ける。

「今日から、私が新たな神だよ。 これからの世界は、私が作るんだよ。」

 喜びのあまり、身体の震えが止まらない。

 玉座に腰かけたことによって、私が神になったということを改めて実感できたからだろうか?

 まぁ、そんなことはどうでもいいか。

 今は、とりあえず私を散々苦しめてくれたあの世界を……

「消さなくちゃね……。」

 私は右手の人差し指を伸ばす。

 というよりかは、感覚的にそうしていた。

 こうすれば自分のやりたいことができる、というイメージが脳内に流れ込んできたのである。

 すると、思った通り私の目の前に文様が浮かび上がった。

「我が望むは、悪しき下等生物のいない世界……。 我が手の中の力を、新なる世界の糧とし、我が理想の七世界と……」

 と、そこまで言ったところで、私の脳裏にとある考えが浮かび上がる。

 一つくらい……、人間がいる世界があった方が面白いかも……。

 私を散々苦しめてくれたあの憎い存在どもを、私の持つこの「力」で直接滅ぼしてあげるのも面白いかもね。

 あっけなく世界事つぶしちゃったら、なんか詰まんないよね。

 だから私は……

「ただ一つ、悪しき存在の住まう地を求。」

 私の願いを追加し、詠唱を完了させた。

 次の瞬間、白世界を大規模な揺れが襲う。だが、その振動に不快感はなく、むしろ理想の世界が書き上げられていくという高揚感に打ち震えてしまっていた。

「神になるって、すっごく気持ちいいんだね……! 元の世界では抑圧されていたけど、ここではもう私がルールなんだよね。」

 やがて揺れが収まる。

 つまり、世界の書き換えが完了したということだろう。

 私はそれが確認したくて、またもや当然のように人差し指を自分の眼前に掲げた。

 すると、鏡のような薄い板が7枚、目の前に現れた。

 その鏡にはそれぞれ、全く別の光景が映し出されていた。

 しかし、どの鏡の中にも共通しているものがあった。

 それは、その鏡に映し出された世界にいる人々は皆、漫画なんかでよくみる「異能力」を使っている、ということだ。

 そう、私と同じ、異能力だ。

 私は、ごく普通の世界に生まれたごく普通の人間だった。そのはずだったのである。

 しかし、物心ついたころだっただろうか、暑すぎて水がほしいとかそんなことを考えていたら、本当に私の目の前に冷水が現れたのである。

 確か、そこは屋内で、尚且つ水道があるわけでもないところだったはずだ。

 それなのに、冷水……?なんて感じで首をかしげながら周りの人たちを見回すと、みんな驚愕の表情……。

 その時察したね。これ、私がやったのかって。

 つまり私は、普通じゃなかったってこと。それからの記憶は、あんま思い出したくないから勘弁。

 でも、この異能力が普通に存在する世界を作ってしまえば、私はもうあんな思いをしなくて済む。

 次こそ、楽しいライフが待ってるんだ。

「にしても、本当に7つも世界が存在してたんだねぇ……。 最初は半信半疑だったけど、これを見せられちゃうと、信じるしかないよね。」

 私は自然と、人差し指を構えていた。

 この新たな7つの世界それぞれに、私の分身体を置いてしまおう。

 そして、1からやり直そう。

 私のためだけの世界で……。

「フフ……、フフフ……。」

 再び、この空虚な空間に私の不敵な笑い声が響いていた。

 

----------------------------------------

 

 この世界には、普通の人間とは異なる特殊な細胞を持った人間が存在する。

 この細胞が発見されたのは、おおよそ200年程前のことで、とある生態研究者自らが非科学的現象を起こし、自身の身体内細胞を調べたところ、通常の人間には存在しない小器官をもった細胞が発見された。

 その生態研究者は、自身の中にある特殊細胞を、「一般の人体細胞を拒絶して独立した新たな細胞として生まれ変わった」という仮定より、「Rejection(拒絶)」と「Cell(細胞)」という二つの英単語を組み合わせて「リージェル」と名付けた。

 その後の研究で、リージェルは他の人体細胞とは連絡経路を持たず、完全に独立した細胞であることが証明された。また、細胞内小器官の一つに特殊なエネルギーが検出されたという研究結果も発表された。

 この特殊エネルギーは、リージェルを発見した生態研究社当人が起こした非科学的現象を発生させるためのものであることが後に発覚。具体的には、リージェルに内包された特殊エネルギーを体外に解放することによって、非科学的現象が発生することが分かった。ちなみに、実際に内包エネルギーを体外にすべて放出するという実験を行った結果、総内包量は20ピコグラムであった。

 そこで、次に挙げられた疑問点が、非科学的現象の種類であった。

 リージェルを保有した生態研究者が発生させた現象は、いわゆる念動力による物体の浮遊であった。なお、何度発動させても念動力以外の現象は発生しなかったとのことだ。

 しかし、超常現象を一つ見つけてしまったら、さらに多くを求めようとしてしまうらしく、その生態研究者は協力者たちとともに「リージェル保有者探査プロジェクト」なるものを立ち上げた。

 探知機を製作し、世界全体を巻き込んでの大規模実験が行われた。

 その結果、ごく少数とは言えども、リージェルを保有した人間は世界各地でちらほら見つかった。

 研究者たちはその結果に大いに喜び、次の実験段階へと進もうとしていた。

 しかし、研究者たちの実験に付き合わされた挙句、何の収穫も得ることがなかったその他多くの人間たちから反感を買うこととなった。

 恐らく、人間たちは少なからず期待をしていたことだろう。それまでは想像の産物でしかなかった「超能力」が存在し、さらにその超能力がもしかしたら自分の中にあるかもしれないというならば、期待に胸を膨らませないわけがないだろう。

 だが、現実はそうではなく、ただただ上げて落とされただけであった。しかも、実験をやるだけやってこれといった見返りもなかったのだから、肩透かしもいいところだ。

 そうして激怒した人間たちは、徐々にその矛先を研究者たちからごく少数のリージェル保有者たちに向けるようになった。それはやがて、不等な差別へと変貌していった。

 こうした事態を予測できなかった研究者たちは、自分たちの実験が巻き起こした事態に狼狽してしまった。何とか事態の鎮静化を図ろうとはしたが、結局それは火に油を注ぐだけの結果に終わってしまう。

 そこで立ち上がったのが、数人のリージェル保有者であった。

 彼らは、不等な差別を行う人間たちと直接対峙するのではなく、自分たちの持つ力で世界の役に立つことによって間接的に事態を鎮静化させようと試みた。

 当時では不治の病とされていた病気の治癒や、大気汚染や水質汚染、土壌汚染などの除去による農産業の潤滑化などなど……、彼らは自分たちの手で世界全体を向上させることに尽力した。

 その中心にいたのは、賀村(かむら) 竜太郎(りゅうたろう)。彼は、研究者たちの実験に真っ先に協力を申し出た人物で、リージェルの詳細な構造や特徴などについて最も早く熟知していたといわれている。

 そんな賀村が率いるリージェルチームは、特に世界の中枢を担っていた国々のトップたちから多大な評価を得た。

 ただ、事態は思っていたよりも単純なものではなく、一般人たちは賀村たちが行った偉業にさらに腹を立てる結果となった。

 それから、一般人(オーディナル)リージェル保有者(リージェリスト)たち……、とはいえ、ほとんど一般人たちによる一方的なものではあったが……、対立関係が生まれてしまった。

 

 その後も研究は続き、リージェル保有者には先天性のものと後天性のものとの2種類に分けられるということが判明し、さらに多くのリージェル保有者が見つかっていった。

 一方で一般人たちは、リージェル保有者を「便利な道具」と認識し、彼らを奴隷として扱うようになった。これには流石に、賀村たちも頭を抱えてしまった。他のリージェル保有者たちは、一般人たちの一方的な支配に激高したが、賀村たちが何とかリージェル保有者たちをなだめていた。

 だが、それも長くは続かず、賀村たちの死後、ストッパーを失ったリージェル保有者たちは一般人たちに抗うための計画を立て始めた。それを先導したのは、津野(つの) 利明(としあき)

 そうして、リージェル保有者たちを保護し、育成・訓練する施設を設けることとなった。その第1合目が、月銀島(つきがねじま)に建てられた。

 その名も、「沖月(おきつき)リージェル保有者訓練専門学校」である。

 と同時に、このリージェル保有者たちが扱うことのできる超能力を、「レジェリザム」と名付けた。

 ーーリージェル保有者(リージェリスト)一般人(オーディナル)との愚かな争いは、ここから始まった。ーー


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。