天空(そら)の彼方に響く旋律 -穢れた七世界の中で生き抜く戦士達-   作:室谷 竜司

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Episode16. 彼方の策略。 サプライズ、仕掛けます!

「ところでさ、彼方。 今日買った洋服はどうするの? 日用品の一部は未来の部屋においてもらうことになったけど、流石に服は手元にないとだよな。」

 俺の部屋に戻るなり、俺は彼方にそう問いかける。服の保管をどうするか、聞いておく必要はあるだろう。

「うーん、ある程度の量なら持ってきてたバッグに入るけど、前部は難しいよね。 なんだかんだで結構買っちゃったし。」

 彼方は、手に持ったバッグと買い物袋を交互に見やりながらそう言った。

「やっぱり、小雪か未来の部屋に泊めてもらった方がよかったんじゃないか? 異性の俺だと、いろいろと気を使っちまうだろうし。」

「ええっ、ワタシレンくんのところがいい……。」

 うおっ、そんな目で俺を見るなよ……。なんか申し訳ない気持ちになってしまう……。というか、どうして俺のところにこだわるのだろうか。女同士の方が普通はいいと思うんだけどなぁ……。

 まぁ、彼方がここがいいって言うのだから、俺は断るつもりもないのだけれど。一人じゃないっていうのは、結構嬉しいものだったりするしな。

「わかったよ。 んでもって、服の保管はどうするよ。」

「この袋のまま置いておいてもいいかな。 流石に箪笥とかは借りられないからね。」

「箪笥か……。 空きはないことはないけど……。 俺と同じのを共有ってのはちょっと嫌だろ?」

「え、そんなことないけど……。」

 彼方の感性がよくわからない。普通、自分の着替えを異性に見せたり、同じところにしまうなんてことしたくないはずだ。特に女の場合は。それとも、今時こういう考え方を持つ人なんていないのか?

「ま、まぁ、彼方がよければ、箪笥使ってもいいけど。」

「いいの? そしたら、ありがたく使わせてもらおうかな。 えっと、さっそくしまってもいい?」

「あ、ああ。 箪笥は寝室に置いてあるから、こっち来な。」

 何かモヤモヤしたものを心中に残しつつ、俺は彼方を寝室へと案内した。いや、一度来ているわけだし、案内っていうのは変な話か。とにかく、俺は彼方と連れ立って寝室に向かうのであった。

 

「ほいよ。 この箪笥の一番下の段が空いてるから、テキトーに使ってくれ。 全部は入りきらないだろうから、残りは自分のバッグにでも入れておいてくれ。」

 寝室に置いてある箪笥を指さしながら、俺は彼方に服の収納を進める。つっても、数日間だけの話だろうから、そんなきっちりさせる必要はないだろう。

「わかった。 ありがとう。 それじゃあさっそくしまっちゃおうかな。」

 そう言って彼方は、今日買った洋服を袋から取り出し始める。それから、1着ずつ丁寧にたたんでから、俺の進めた箪笥の一番下の段にしまっていく。一つ一つの作業が素早い。結構手馴れているのがよくうかがえる。

「あ、でも、結構大きいね、この箪笥。 全部入るかはわからないけど、それでも結構しまいきれそうだよ。 あっと、うーん。 これはどうしようかなぁ……。」

 彼方が唐突に袋から下着一式を取り出した。俺はとっさに目線をそらす。いつ見ても、俺には刺激が強すぎるのでな。

 というか、仮にも男の部屋なんだから、躊躇うとかしようよ、彼方……。っていうのは今更か……。日中、俺を下着売り場まで連れ込んだ張本人なわけだし。

「これ、大事にするね。」

 彼方は、昼間俺が選んだ……というか半強制的に選ばせた下着を大事そうに抱えながら、恥ずかしそうにはにかむ。これだから、美少女というのはずるい。

「あ、ああ。 そうかい……。」

 なんだか俺も恥ずかしくなってきてしまった。後頭部あたりをポリポリと掻きながら、短くそう返す。てか、普通知り合って1日しかたっていない男女がすることじゃないよな、一緒に下着選びって……。そういうのって、恋人とかそんな間柄の中で行われるようなことじゃないのだろうか。俺にはよくわからないけど。

 とにかく、今日俺は途轍もなく恥ずかしいことをさせられたということだな。くそっ、いいようにしてやられてしまったものだな……。そんな俺が情けないぜ……。そして、おいしい思いをしたと考えてしまっている俺がさらにつらい……。

「あっ、せっかくだから、レンくんに選んでもらったやつ、今着て見せようか?」

「馬鹿言うな……。」

 俺は軽く彼方の頭をはたく。

 ったく、今朝言ったことを忘れているんじゃなかろうな。ちゃんと男女としての距離感を持ってもらいたいものである。でないと、昨日みたいな過ちが起きてしまいかねない。ピュアハートとは言えども、俺も男の端くれである。彼方の珍行動でいつ限界を迎えるか分かったもんじゃない。だから、最低限節度を持っていただきたいものである。俺のためにも、彼方のためにもな。

「ふにゅぅ……。 ご、ごめんなさい……。」

「はぁ……。 そういうことやって後悔するのはお前なんだからな……。 自分はちゃんと大切にしろよ。」

「う、うん。 気遣ってくれるなんて、やっぱりレンくんは優しいね。 そんなレンくんだからこそ、ワタシはこういうことを言うんだよ。」

 頬を上気させながら、上目遣いでこちらを見つめてくる彼方。その表情には、いつもの幼げであどけない雰囲気の中に、どこか艶めか視差のようなものが混ざり合っているように感じられた。思わずドキリと心臓が跳ねる。な、なんだこれ……。彼方って、こんな表情もできたのかよ……。

 正直、今までで一番理性の限界を感じた瞬間だったように思う。ヤバいヤバい、このままでは本当にまずい……。

「だ、だからって、あんまり自分を蔑ろにするのはよくないぞ。 そこら辺の線引きはちゃんとしておきなよ。 一応、俺からの忠告。」

「わかった。 なんかごめんね。 やっぱり、ちょっと常識なさすぎるかなぁ、ワタシ。 もっとしっかりしないとだよね。」

 あ、その辺りの自覚はあったのか。

「まぁ、その辺はこれから少しずつ身に着けていけばいいさ。 きっと自然と身についてくるもんだしな。」

「そっか、そうだよね。 これからいろいろ頑張らないと。 っと、うん。 この箪笥に入るのはこれくらいかな。 残りはバッグに入れておけば大丈夫だね。 レンくん、ホントありがとうね。 助かっちゃった。」

 洋服(下着含む)をあらかたたたんで収納し終えた彼方が、改めて俺に頭を下げてくる。このお礼の言葉も、昨日今日で何度聞いたことか。まぁ、もうしばらくは聞き続けることになりそうだけどな。

「あいよ。 さてと、風呂の準備でもしてくるかな。」

「あ、今日はワタシがするよ。 少しの間とはいえ、お世話になる身だからね。 これくらいのことはさせてよ。」

「え、いや、でもなぁ……。 料理まで作ってもらって、さらに仕事を押し付けるなんてできないよ。 それに、これくらいならすぐに終わるし。 だから、彼方はゆっくりしてていいよ。 来客を扱き使うのは気が進まないって。」

「で、でも……。 なんか申し訳ないよ……。」

「気にすることないのにな。 気持ちだけ受け取っておくよ。」

「そ、そういうことなら……。」

 というわけで、俺は浴室に向かう。そして、浴槽を洗浄し、栓をしてから自動お湯張りのボタンを押す。実に3分もかからない簡単なお仕事だ。彼方に任せるまでもない。というか、人に頼ってばかりだと、人間マジでダメになる。

 そして、俺はすぐに寝室に戻った。昨日みたいなことがあったので、彼方を長い時間一人にしておくことに不安を感じてしまっていたからだ。多分、今日一日で小雪や未来といった友人ができたことによって、昨日よりも大分心が安定してきてはいるだろうけど。それでも、昨日の彼方の涙を見てしまうと、どうしても気になってしまう。俺もなかなか心配性だよな。

「あ、ホントに早いね。」

「だろ? これくらいなら、彼方の手を煩わせるまでもないって。 んで、今日も風炉先いいよ。 俺は後から入るからさ。」

 寝室の扉を開けて中の様子を覗き、彼方が沈んでしまっていないことを確認し、ほっと胸をなでおろす。それから、今日の風炉の順番について話を持ち掛けた。

「え、それは流石に悪いよ。 ワタシのことは気にせず、今日はレンくんが先に入ってよ。 そんなにワタシに気を使わないで。」

「そうか? まぁ、そういうことならお言葉に甘えて。 つっても、まだ風呂が沸けるまで10分近くかかるんだけどな。 それまではひとまず待機ということで。」

 俺はベッドに腰を下ろす。ホテル級のふかふかベッドではないが、それでもなかなか気持ちいい、と思えるくらいには気に入っているベッドだ。

「ワタシも隣、いいかな?」

「ああ、いいぞ。」

 俺は、自分の隣のスペースを掌でポンとたたいてみせる。彼方はゆっくりとこちらに近づき、そして俺の示した場所より少し俺に近いところに腰を落ち着ける。

 今の俺たちは、かなり至近距離だ。少し身動ぎしただけで、お互いの肩と肩が触れ合ってしまいそうなほどである。隣からは、ふんわりといい香りが漂ってくる。昨日も嗅いだ甘い香りだ。女性特有のフェロモンみたいなものなのだろう。

「ねえねえ、レンくん。 今日も一緒に寝ちゃダメかな?」

「ダメだな。 異性としての距離感はちゃんと保ってくれ。 昨日みたいなことになりかねないから。」

「言ったはずだよ。 ワタシはそれでもいいって。」

「よくないです。 最終的に傷つくのは彼方なんだからな。」

 俺はため息交じりにそう返す。やっぱり、危機意識はまだあんまりないみたいだ。というか、どうしてか彼方は俺を拒絶しようとしない。むしろ、いつでも受け入れてしまいそうなほどオープンなように感じる。

「ワタシなら平気なのになぁ。 でも、レンくんがそこまで言うのなら、なるべく気を付けるよ。 でも、同じ部屋で寝るのは、いいでしょ?」

「うーん、ホントはよくないけど、まぁ仕方ないか。 あんまり変なことはするなよ。」

「わかってる。」

 そこから少しの静寂。なんか、やけに彼方を意識してしまっている気がする。何か話すことはないかと頭を回転させようとしても、うまく回ってくれない。二人きりの空間ということと、彼方が妙に思わせぶりな態度をとってくるせいだろうな、きっと。

 しかし、横目で彼方の様子を確認してみると、俺とは違ってなんか楽しそうである。にこにこと笑顔を浮かべてくれているおかげで、この沈黙の時間は気まずい雰囲気はまるでない。退屈させていないか心配ではあったが、この様子なら問題ないのかな。

 と、そこで、風呂が沸けたことを知らせる機械音声が耳に届く。

「あ、お風呂沸けたみたいだね。」

「そうみたいだな。 んじゃ、俺は入ってくるよ。」

「うん、いってらっしゃい。」

 俺は箪笥から着替えを取り出して、風呂場へ向かうことにした。ふぅ、今日は落ち着いて入浴ができそうだ。昨日は、浴室内に彼方の甘いような香りが充満していたため、落ち着いて入浴はできていなかったものでな。

 ゆっくり身体を伸ばすことに使用。

 

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 レンくんがお部屋から出て行ってすぐ、ワタシはベッドから腰を上げて玄関へと向かう。レンくんに内緒っていうのはちょっと心苦しくもあるけど、これも一つのサプライズと思うことにする。

 ワタシは玄関で自分の靴を履き、外に出た。そして、103号室、つまり小雪ちゃんの部屋だね。そこのドアをノックする。ワタシたちのサプライズ作戦、ここから開始だよ。

「はいはーい。 もう行っていいのかな?」

 ドアから小雪ちゃんが顔を覗かせて、ワタシに確認をとってくる。

「うん、大丈夫だと思うよ。 まぁ、少しだけ怒られちゃうかもだけどね。」

「え、それっていいの!?」

「うん、平気平気。 ほらほら、行こうよ、小雪ちゃん。」

「わ、わかった。」

 というわけでワタシは、小雪ちゃんの腕を引っ張ってレンくんのお部屋に戻っていく。今日は、小雪ちゃんも混ぜて3人でお泊り会がしたかったからね。本当は、未来ちゃんも誘ってみたかったけど、なんというかこう、雰囲気的にそういうのはあんまり好きじゃなさそうな感じがして……、躊躇しちゃった。まぁでも、小雪ちゃんだけでも誘うことができたのは嬉しい。

 きっと、レンくんならなんだかんだで許してくれると思うし。って、なんかレンくんの優しさに付け込んでいるような感じがするね、これ。そ、そんなつもりはないんだよ?

「お、お邪魔しまーす……。」

「今、レンくんはお風呂に入ってるところだよ。 そういえば、小雪ちゃんはもうお風呂入った? もしまだなら、後で一緒に入らない?」

「あ、うん。 いいよ。 って、わたしまでお風呂借りちゃっていいのかな?」

「どうだろう……。 まぁ、その辺はレンくんと相談してみてかな。」

 ひとまずワタシは、小雪ちゃんを連れてさっきまでいた寝室に戻る。きっと、悪戯をする子供ってこんな気分なのかな。ちょっとドキドキしてるよ。でも、ワクワクもしてる。

「こ、ここがレンくんのお部屋……。」

「あ、小雪ちゃん緊張してる?」

「そりゃするよぉ……! そ、その……、思いを寄せてる男の子のお部屋なんだから……、緊張くらいするにきまってるよぉ……。」

「あはは、小雪ちゃんってば、可愛いなぁ。」

 ワタシは、所在なさげに立ったまま視線を彷徨わせている小雪ちゃんの手を取って、お部屋の中へと引き入れる。ごめんね、レンくん。ワタシの部屋でもないのに好き勝手にしちゃって。後でちゃんと謝ります。

「それじゃあ、レンくんがお風呂から上がるまでここで待機だよ。」

「今更だけど、本当にいいのかなぁ……。 嫌われちゃったりしないかなぁ。」

「それは流石に心配しすぎだよ、小雪ちゃん。 きっと大丈夫だから。」

 不安げに顔をうつ向かせる小雪ちゃんをワタシはなだめる。

 もし大丈夫じゃなかったとしても、その時はちゃんとワタシが責任を持つつもりだし。

「こうして誰かとお泊り会みたいなことをするの、憧れだったんだよね。」

「そうなんだ。 でも、どうしてレンくんには内緒にして他の?」

「うーん、なんでだろう? やっぱり、びっくりさせたいから? ちょっと悪戯がしてみたくなっちゃって。」

 そう言ってワタシはクスリと笑ってみせる。

「なんか、好きな人に意地悪したくなる子みたいだね、それ。」

「そうかもね、えへへ。 小雪ちゃんはそういうのないの?」

「わたしは、むしろ臆病になっちゃって、何もできなくなっちゃうタイプだよ。 もっと積極的にならなきゃだめだっていうのはわかってるつもりなんだけど、それでも行動に移すより、迷惑じゃないかなっていう気持ちの方が先に来ちゃうんだよね。 だから、彼方ちゃんがうらやましいよ。」

「そうなんだ。 でも、嫌われちゃうのは嫌だもんね。 慎重になっちゃうのも仕方ないと思うよ。 ワタシはむしろ、小雪ちゃんがうらやましいかな。 後先考えないのが、ワタシの悪い癖だし。」

 はぁ、と小さくため息を吐く。お互いが持っていないものを持っているっていうこと、結構あるよね。結局、そういうのってないものねだりになっちゃうんだけど。

「とにかく、今はレンくんにちゃんと振り向いtモラル用に頑張らないとね。」

「それもそうだね。 あっ、浴室の扉が開く音がしたよ。」

「おっ、レンくんがお風呂から出たみたいだね。 ふふ、どんな反応をするのか、すっごく楽しみだよ。」

「彼方ちゃん、本当に楽しそうな顔してるね。」

 小雪ちゃんはワタシの顔をじっと見つめながら、にこりと笑顔を浮かべてそう言った。そういう小雪ちゃんからも、どこかウキウキしたような気持ちが伝わってくる。なんだかんだで、小雪ちゃんにも小さな悪戯心はあるのかもね。

 ワタシたち二人は息をひそめて、レンくんが戻ってくるのを静かに待っていた。今、ワタシ最高に楽しい気分だよ。どんな反応をしてくれるのかな?それを考えるだけで、顔のニヤつきが抑えられないよ。

 それから少しして、足音が聞こえた。

「来たね、レンくん。」

「そうだね。」

 小声で情報を共有しあうワタシたち。

 そして間もなく、お部屋の扉が開け放たれた。ワタシには、その瞬間がゆっくりに感じられた。まるで、本当にスローモーションがかけられているんじゃないかってくらいにね。ああ、どうしよう。そわそわしてるよ、ワタシ……。なんか、今のワタシってすっごく子供っぽいよね。まぁ、楽しいことがある戸自然とはしゃぎたくなっちゃうのは、人間として仕方のないことだよね。

 そしてついに、レンくんが顔を覗かせた。サプライズ、うまくいってほしいな。ワタシは一途にそう思うのだった。


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