天空(そら)の彼方に響く旋律 -穢れた七世界の中で生き抜く戦士達-   作:室谷 竜司

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Chapter1. 出会いとチーム結成 編
Episode1. 沖月の優等生と世話焼き幼馴染


「はぁ……、くっそ……、腹減ったなぁ……。」

 昼休み、学生たちでにぎわう廊下を細々と歩きながら、俺はため息交じりにそんなことをぼやく。あと、少し走ったせいで疲れた。

 なんで走ったのかって?

 そりゃまぁ、人から逃げるために決まっている。そうでなければ、態々空腹感を増大させるような真似はしない。

 今日は学食のうまい飯を食ってやろうと思っていたのになぁ。

 昼休み前最後の講義を終えて、意気揚々と学食に向かったらあら大変!俺を見つけた数人の学生たちが群がってきたではありませんか!それも、結構血走った目でな。

 いや、うん。マジで怖かった。あんな目で群がられたら、ある意味ホラーだわ。

 ちなみに、俺に群がってきた奴らは全員、全く同じ要件を持ち掛けてきた。

 それは、一緒にチームを組まないか、という要件だ。

 チームというのは、およそ2か月後くらいに催される学内イベント、チーム対抗戦のチームのことである。なんせあと2か月だもんな。躍起になる気持ちはわからなくもない。

 斯くいう俺も、対抗戦には出場したいと考えているが、未だにチームメイトを一人も見つけられていない。7人1チームという条件だが、悲しいことに俺には友人と呼べる存在があまりにも少ないものでな。

 じゃあ、勧誘してきた学生たちとチームを組めばいいじゃないか!

 うむ、その手があったか!って思っていた時期が俺にもあったのさ。

 でも残念ながら、俺を勧誘しようとしている奴らの目が俺は嫌いなんだ。僕(私)のためにチームになってよ、みたいな自己中心的な欲望を隠そうともしないあの目が……。

 対抗戦に出場してみたいから、って感じの思いがあるのなら、俺だって喜んで仲間になりたい。だが、奴らの目はそんな純粋なものじゃなかった。恐らく、俺と組んで好成績を残し、自分の成績を伸ばしたいとか、そんなことを考えている眼だ、あれは。

 そんな奴らに背中を任せるなんて、こっちからすればたまったもんじゃない。

 俺はお前らのために成績上位者になったわけじゃない、ってな。

 一応これでも俺こと神奈和(かなわ) レン(れん)は、この沖月リージェル保有者訓練専門学校の高等部第2学年内では「沖月の優等生」として名が知れ渡るほどには有名人であると自覚はしている。当然、うぬぼれているわけではない。この成績だって、これまで重ねてきた努力の賜物なわけであって、決して才能とかそういうものではない。

 むしろ、俺のもとのスペックは結構低いんじゃなかろうか。あまり努力をしていなかった中等部時代の俺の成績は、いい時ですら学年内の半分より下だったもんなぁ。今思い返しても、かなり恥ずかしい思い出だな。

 だが、()()()()()()()から、俺はさらなる高みを目指してみたいと考えるようになった。それから俺はそれまで以上に勉学に励み、訓練にも積極的に参加するようになった。

 おかげで今じゃ、沖月の優等生なんていうちょっと恥ずかしいあだ名をつけられてしまったわけだけど。というか、過去にしろ現在にしろ、恥ずかしいことに変わりはなかったな。

 まぁそれでも、努力を重ねてきたことに後悔はない。むしろ、今なら自信をもって胸を張ることができる。

 おっと、話が脱線したな。

 まぁ、そんなわけで俺は、ろくに努力もせず楽して好成績を残そうとする輩に貸すような力は持ち合わせていない。だから逃げてきた。結構しつこかったし。

 にしても、腹減ったなぁ……。

 誰か俺に飯を恵んでくれたりしないかなぁ……。なんて、あるわけないか。

 そんなありもしない奇跡的展開を期待し、自分自身でそれを否定してしまう。俺、やっぱり結構疲れてるなぁ……。

「これ、なんでしょう?」

 不意に声をかけられたような気がした。

 その声に反応して視線を挙げると、目の前で白い何かがプランプラント揺れていた。

 俺はそれを反射的に目で追う。

「購買の袋……?」

「正解。 では、ご褒美にこれを進呈するわ。」

 そして、袋が俺に押し付けられる。

 中にはいくつかパンが入っていた。購買の袋に入っているわけだし、恐らくうちの学内の購買で買ってきたのだろう。

「あなたは女神か……!?」

「残念だけど、女神じゃなくてアンタの幼馴染よ。」

「愛葉……、お前女神だったのか……!?」

「……相当疲れてるみたいね……。 とりあえず、場所変えましょ。 私もお腹空いてるしね。」

 そうして俺は、女神……じゃなくて、我が幼馴染の木乃瀬(きのせ) 愛葉(まなは)に促されるまま、後をついていくのであった。

 

 

「ここって……、執補会の会議室……だったっけか?」

「そうよ。 今は誰もいないから、ゆっくりしていきなさいな。」

「助かる。」

 幼馴染の優しさが胸にしみるなぁ。なんだかんだで、愛葉にはいつも助けられている。

 今日のこともそうだが、特に最近は何かと俺のことを機にかけてくれている。

 やっぱり、疲れてるのが面に出てるのかな。なんか心配させてしまって申し訳なく感じる半面、気遣ってくれるのは単純にうれしい。なんせ俺、クラス内に友人がいないからな。……言っててつらくなってきた……。

 っとと、念のため説明しておくが、執補会(しっぽかい)というのは、いわゆる生徒会みたいなもので、正式名称は訓練執行補佐委員会という。つっても、そんなに仕事はないみたいだけど。

 こちらにあらせられる幼馴染様、なんと執補会の委員長を務めていらっしゃるんです。

 よくやろうという気になったなぁ、といつも感心してしまう。

「ほら、時間なくなっちゃうから、さっさと選びなさいな。」

「全部くれるんじゃないのか?」

「ンなわけないでしょ。 そもそも、その量食べられんの?」

「無理だな。 ほんじゃ、選びますかね……と……。 ほう、これはなかなかの品ぞろえではありませんか。」

 愛葉から受け取った袋の中身を確認すると、コロッケパンや焼きそばパンといったいかにもな人気商品が詰められていた。

 ちなみに、この学校の購買で売られているパンはどれもかなりの大きさで、男の俺でも2~3個食べたら充分満腹になるくらいのボリュームはある。

 それが5つか……。

「愛葉、3つ食べるか?」

「そんなには無理よ。 食べれるなら、3つ食べちゃって。」

「了解。 んじゃ、これと……」

 そう言って俺は、今の気分で3つ選ぶことにした。

 俺は特に好き嫌いとかないので、どれもおいしそうに感じる。

「あと、これとこれを。」

 俺は袋の中から、コロッケパン・クロワッサン・BLTサンドを取り出して、袋を愛葉に返す。袋の中に残っているのは、焼きそばパンとたまごサンドだ。

「たまごサンドは、昔から好物だもんな。」

「まぁ、そうね。 ありがと。」

 短くそう言うと、愛葉は俺から袋を受け取った。

「こちらこそな。」

 俺も短く感謝の言葉を述べ、パンの包装を破る。そしてそのまま、躊躇いなくパンにかじりついた。

「んん。 やっぱりうまいな、ここのパン。 たまに食いたくなるんだよな。」

「そうね。 これ全部、レジェリザムを応用した調理法で作ってるのよね。 よくこんなクオリティに仕上げられるわね。」

「RSOは優秀な人材の巣窟だからな。」

 RSOとは、リージェル所持者の援助や保護を行う組織のことで、創立者はリージェル保有者として初めて世界に貢献した賀村 竜太郎である。それから何度か責任者の交代があり、現在の責任者は5代目だった気がする。

 この沖月は、RSO直下の訓練専門学校なので、学内の様々なところでRSOの組織員の方々が働かれている。学食や購買も当然RSOの管轄である。

「こういうことに使う分にはホント便利よねぇ。」

「だなぁ。 態々戦争のためには使いたくないけど。」

「でも何故か、うちの……というか、リージェリストって結構戦争に乗り気なのよね……。 もっと平和に暮らしたいものだわ。」

「全くもって同意見だよ。 血の気が多いというかなんというか……。」

 こうして専門学校を設立しリージェリストたちを集めて強化訓練を行っているのは、いつか来るであろうオーディナルとの戦争に備えるためである、と以前どこかで聞いた覚えがある。何故か知らんが、沖月の在籍者たちは皆結構やる気なんだよなぁ。

 俺や愛葉のような考えを持つリージェリストはここでは少数派らしく、俺たち少数派は沖月内では結構浮いている。

 まぁ、俺たち二人はRSOの責任者さんに多大な恩があるので、そう易々と突っぱねることもできず今に至るわけなんだがな。でもできれば、リージェリスト・オーディナル間のいざこざは、できるだけ穏便に解決させて、なるべく平和に暮らしたいものだ。もう、リージェリストとしてオーディナルから反感を買うのは懲り懲りだっての。

 もちろん俺だって、オーディナルたちに対して思うところがないと言ったらうそになる。昔、俺がリージェリストだと発覚したころに受けた屈辱は、当然今でも忘れやしない。忘れられるわけがないだろう。

 それまで俺を育ててくれていた両親に見限られ、友人たちも失って、行き場をなくしたあの時の絶望感は、一生俺の心の中に残るだろう。

 でも、復讐をしたいとは思わない。そんなことをしても、オーディナルと同じ道を辿るだけだとわかっているからな。

 でも……、もしあの時愛葉がいなかったとしたら、今頃俺がどうなっていたことか……。いや、やめておこう。想像すらしたくない。とにかくいえることは、愛葉がいてくれて本当によかった、という一言に尽きるだろう。

 ちなみに、俺が成績優秀者を目指すようになったのは、戦争がどうのこうのとは一切関係ない。ただ単純に、怠惰なままでいたくなかっただけだ。

「賀村竜太郎の時代は、それこそもう少し平和だったんでしょうね。」

「どうかなぁ。 遅かれ早かれ、すぐに爆発しちまっていたような気がするけど。」

「リージェルって、保有した人間を戦闘狂に変える効果でも持ってるのかしら?」

「それ、お前の研究テーマにでもしてみたらどうだ?」

「面白そうね。 アンタも付き合いなさいよ。」

「喜んで。」

 そんな感じでぼんやりと会話を交わしながら、ふと窓の外を見やる。

 そこには中庭が広がっており、ちらほらと学生の姿が視認できた。もう昼飯は食べ終わったのか、それぞれ自分の得意武器を片手に鍛錬に励んでいた。

「滅茶苦茶熱心だなぁ。」

「一時のアンタもあんな感じだったわよ?」

「まぁ、そうかもな。 でも、多分だけど心境は全く違うと思う。」

「ふーん。」

 そのまま中庭での光景を眺めながら、黙々と昼食のパンを平らげていく俺と愛葉。うん、すごく平和だ。こんな時間が続けばいいのにな。

 そして数分後、

「ごちそうさま。 ふぅ、うまかった。」

 俺は食べ終わって空になった包装用の袋を小さく一つにまとめながら、満足げな息を漏らしていた。いや、お世辞抜きでうまいんだよ、ここのパン。

「マジで助かった。 ありがとな、愛葉。」

「いいわよ、お礼なんて。 私もごちそうさま。」

 愛葉も食べ終わった袋を一つにまとめながら、そう言った。

「金勘定はどうする?」

「いらないわよ。 今日は私のおごり。」

「いいのか?」

「ええ。 だから、ありがたくおごられなさいな。」

「そんじゃ、お言葉に甘えて。 ごちになります。」

 そんな会話を交わした俺と愛葉は、再度窓越しの中庭に視線を戻す。

 あれ、さっきよりも少し増えてる?みんな、本当にやる気だなぁ。

「やっぱ、対抗戦前なのもあって、自己鍛錬する人多いわね。」

「だな。 俺も早くチームメイト見つけないとなぁ。」

「誘ってあげられなくてごめんなさいね。」

「気にすんな。 そっちにはそっちの付き合いがあるだろうしな。 そもそも、俺の人脈が乏しすぎるのが原因だからな。 というか、2年になって仲良くやっていた連中が全員別のクラスになっちまうんだもんなぁ。」」

 俺は昔から、人付き合いがあまり得意なほうではなかった。というか、ぶっちゃけ苦手だった。もちろん、コミュ障というわけではないぞ?ホントだぞ?

 でも、積極的に自分から誰かに話しかけに行くのは、どうにも面倒くさいと思ってしまう性分でしてな。困ったものだよ、トホホ……。

 だから俺は、2年に上がってクラスが変わってから、未だにクラスメイトと会話を交わしたことがほとんどない。あったとしても、せいぜい業務連絡的な感じの会話だけだろう。それか……、勧誘か、だな……。

「というか、そんなにチームメイトがほしいなら、いっそのこと勧誘してくる人たちと組んじゃえばいいのに。」

「いやいや、あれは論外。 あんな自分勝手な奴らとは組みたくない。」

 ここは絶対に譲れない。俺が求めるのは、一緒に気持ち良い勝利をつかめるような、そんな純粋な人たちだけだ。あんな性根の腐った連中とは、たとえ天地がひっくり返ろうとも組んでやるものか。

「ワガママねぇ……。」

「いやでも、お前も見たことあるだろ? あの眼はどうかしてるって。」

「まぁ、あれは確かにちょっと……。」

 思い当たる節があるのか、愛葉も顔を引きつらせる。

「だから、俺はギリギリまで粘るつもりだ。 それで見つからなかったら、残念だけど今年の対抗戦はあきらめることにする。」

「そう。 まぁ、レンがそれでいいのなら、私はこれ以上何も言わないけど。」

「はは、心配かけて悪いな。」

「気にしなくていいわよ。 幼馴染の好だもの。」

「そう言ってくれると助かる。」

 やっぱり、持つべきものは幼馴染だよなぁ。

「さてと、そろそろ教室に戻りましょう。 あと少しで予鈴鳴るだろうしね。」

「それもそうだな。 えっと、午後の講義って何だったっけ?」

「5限目は知らないわよ、クラス違うんだし。 6限は戦闘実習だったはずよ。」

「オーケー、了解。」

 一学年2クラスしかないので、講義はまとめて行ってもいいと思うんだけど、そういうことはせずそれぞれ別々の講義を行う。だが、戦闘実習のような実践系の講義は2クラスまとめて行う。

 よって俺は、戦闘実習では孤立状態にならない。それ以外は……、聞かないでくれるとありがたいですね……。

「それじゃ、また6限にね。」

「ほいほーい。」

 というわけで俺と愛葉はそれぞれ別の教室に戻るため、廊下で別れる。

 数少ない学校での安らぎの時間が終わってしまったことを若干嘆きつつ、俺は午後の講義に向けて気持ちを切り替えるのであった。


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