天空(そら)の彼方に響く旋律 -穢れた七世界の中で生き抜く戦士達-   作:室谷 竜司

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Episode20. レンの奉仕タイム? 頭をなでるだけの簡単なお仕事

 未来の後ろに、冷ややかな視線が二人分……。言わずもがな、彼方と小雪の二人からのものだ。というか、起きていたのか、気づかなかった。っていうのも無理はないか。未来のあんな姿を見てしまえば、周りの状況なんて頭に入ってこなくなる。

 にしても、二人とも滅茶苦茶怖いんだが……。昨日、この二人が初めて対面したときに感じた冷たい雰囲気が、今は俺のところだけに伝わってくる。プレッシャーが半端じゃない。

「お、おはよう……ございまーす……、お二人さん……。」

 恐る恐る朝の挨拶をしてみる。しかし、彼女たちからの反応はない。それがまた怖くて、思わず身体が震え始める。

「お、お二人とも、起きていらしたんですか!?」

 未来も、二人の異様な雰囲気を感じたのか、若干腰が引けている。うん、そうなるのは必然だと思う。

 先ほどから、彼方も小雪も星座の状態から微動だにしていない。ただ静かに、俺たち二人の方へひたすら冷たい視線を注いできているだけなのだ。向けられている本人側からすれば、ホラーよりも怖いと感じさせるほどだ。

 そ、そろそろ何か話してほしい……。

 そんな俺の願いが届いたのか、ようやく彼方が口を開いた。

「えっと、何してたの? 二人とも。」

 抑揚のないただただ平坦な声。お、怒ってらっしゃる……。彼方って、こんな怖い子だったっけ……?

「え、ええっと……、事故と言いますか……、何といいますか……。」

「ふーん。 朝からイチャイチャしていたのは、事故なんだ……。」

 イチャイチャ?どういうことだ……?

 そもそも、俺と未来はそんな関係ではない。それは、彼方も小雪も知っているはずなのになぁ。でも、今はそんなこと言っても無駄なように感じる。

「そ、そうですよ、事故ですってば! 昨日、お二人には言ったじゃないですか。 私、寝相が悪いんです、って。 そ、それに、むしろ怒る権利は私の方にあると思うんです! 昨日お二人が帯をとってしまわれたからこんな状況になってしまったんですよ!?」」

「そ、それについては……、ごめんなさい……。 もともと、未来ちゃんは責めてないから、安心してね。」

 あ、思ったより素直に謝るんだな、そこは。って、おい待て……。未来はってことは、俺は何かしたってことなのかよ!?

「いやいや、俺も何もしてないだろ!?」

「でも、未来ちゃんを見て鼻の下伸ばしてた……。」

「えっ、嘘っ!? マジで!? そ、そんなにキモイ顔してたか、俺!?」

 思わず、両手で顔を覆ってしまう。た、確かに、未来の姿を見て理性の限界値突破寸前を経験したような感覚はあったが、そんなに変な顔をしていたとは……。何という恥さらしだろうか……。

「キ、キモくはないけど……。 でも、なんか複雑……。」

「へ? ど、どういうこと……なんでしょうか……?」

「女の子には、いろいろあるんですよ。」

「そ、そうなのか……、よくわからん……。」

 それからしばらく、ぶーたれる彼方と、しょぼんと落ち込む小雪をなだめ続けた。理由はわからずじまいだったので、どう慰めればよいのかわからなかったけど。

 その最中……

「うーん、お二人を抱きしめて差し上げる、というのはどうでしょうか?」

 などと、未来が宣うもんだから、思わず脳天チョップをかましてしまう。

「うっ、い、痛いですぅ……。」

「いや、なんでやねん! むしろ逆効果でしょ、それ……。」

 同世代の男に抱きしめられて喜ぶ女なんて、恋人、もしくはビッチくらいなものだぞ。と思って、彼方と小雪の方に視線を向けてみると、何か二人とも期待するような眼差しをこちらに向けてきていた……。おいおい、それマジデスカ……。まさかの、彼方と小雪はビッチ説浮上ですか!?いやいや、そんなバカな……。

 そう思って視線を外すと、「あ……」とか「え……」とか、そんな切なげな声を漏らすお二人さん。これ、どうするべきなのでしょうか……。

「君ら、本気か?」

「え、あっ、べ、別に……。」

「わたしなんて抱いても気持ちよくないよ……。」

 彼方はぷいっとそっぽを向き、小雪はさらにしょぼくれていく。てか小雪さん、その言い方は少し危ないからやめようか。

「はぁ、レン君は乙女心が分かっていないですね。 こういう時は、スキンシップですよ。」

「え、そうなの!? で、でもなぁ……。」

「ほら、つべこべ言わずに。」

「って、未来ちゃん!?」

 未来は、彼方をひょいと持ち上げて、俺の膝元に座らせた。な、なんて早業だ……。今、彼方を軽々と持ち上げたぞ、こいつ……。

 そして、俺の膝元まで運ばれてきた彼方は、顔を赤くしてあわあわしていた。これを俺にどうしろと?

 とりあえず、何も考えず頭を撫でてみる。

「はうぅ……。 恥ずかしい……。」

 やってるこっちも恥ずかしいです、はい。というか、こんなことされて、嫌じゃないのだろうか?本当に不思議なものだ。

 そして、撫でるたびにほんのりと甘い香りが尾行をくすぐる。

「恥ずかしいけど……、なんか気持ちいい……。」

 すると、彼方は俺の肩に頭を預けてくる。その仕草が、何故か異様に可愛く見えてしまった。これじゃまるで、恋人みたいだな……。出会って二日しかたっていないはずなのに、どうして彼方はここまで俺に心を許しているのだろうか。これでは、俺に好意があるんじゃないかと勘違いしてしまいかねないぞ。まぁ、そんなことないのはわかっているけどな。

 それからたっぷり10分ほど頭を撫で続けた。そして、お次は小雪の番だった。やっぱり、未来の早業によって彼方と小雪の位置が瞬時に好感された。小雪は、彼方以上に緊張で身体をガチガチに固めていた。少し、触れてしまうのが申し訳なくなって、しばらく様子をうかがっていると、

「わ、わたしには……同じようにしてくれないんだ……。 ま、まぁそうだよね……。 わたしなんて……」

 という感じで、面倒くさい女の子モードに入られてしまったので、俺はすぐに先ほどの彼方みたく頭を優しく撫でてやった。この子は、時々自分に自信がないというような反応をする。それが少し気になってしまう。そしてなんか、そんな小雪が放っておけない。俺って、こんなにお節介な人間だっただろうか?

「う、うぅ……、確かにこれは恥ずかしいね……。」

「嫌か?」

「ううん、嫌じゃないよ……。 むしろ、好きかも……、これ……。」

 彼方も小雪も、俺の心をかき乱してくる。いつか、この二人のせいで脳が狂いそうだ。というか、もはや手遅れなのかもしれないな。なんて考えながら、俺は心の中でため息をつき、気持ちよさそうに目を細めている小雪の頭を撫で続けていた。

 

「はい、おしまいだ。」

 10分くらいたったので、俺は小雪を膝元から降ろす。

「もう……、おしまい……?」

「えっ?」

 すると小雪は、またも切なげな表情でこちらを見上げてきていた。その頬は上気しており、なんというかこう……色気を感じてしまった。思わずうろたえる俺。相も変わらず、童貞臭いな。

「あ、う、ううん。 何でもないの! 気にしないで!」

「そ、そうですか……。」

 そう言うと小雪は、ゆっくりと俺から離れていく。膝元にあった柔らかな感触が離れた時、不覚にも名残惜しいとか考えてしまった。

「お疲れ様です、レン君。」

「なあ、ただからかっていたわけじゃないだろうな?」

 俺は未来を半眼でにらむ。なんか、この20分間ずっと未来に遊ばれていた感じがしていたのでな。恨みごとの一つでも行ってやらないと気が済まなかった。

「いえいえ、そんなこと……ないというわけではないですが……」

「やっぱりあったんじゃないか……。 ったく……、そろそろ俺をおもちゃにするのはやめてくれよ……。」

「嫌です。 レン君は反応が面白いですからね。 でも、今回のはただからかっていただけではありませんよ。 その証拠に、ほら。」

 未来が手で俺の視線を誘導する。そこには彼方と小雪が、何やら満足げな表情で座っていた。さっきまでの不機嫌オーラはどこに行ったといわんばかりの笑顔だ。もしかして、本当にあれが効果あったとでもいうのか!?

 俺は未来へと視線を戻す。すると、未来も満面の笑みだった。しかも、なんかどや顔混じりである。くそっ、なんか腹立つ。

「こういうことです。 言った通りでしょう?」

「くっ、反論できないのがまたさらにムカつく……。」

「まぁまぁ、ひとまず解決したのだからいいではありませんか。」

「はぁ、まぁそうだな。 悔しいが未来の言うとおりだ。」

 してやられた感はあったが、助かった面もある。だから、これ以上は何も言えない気がした。少なからず、感謝もしているわけだしな。

 でもやはり、何か腑に落ちないところがある。どうしてこの二人は、俺とのスキンシップを喜んだりするのだろうか。俺に気がある……とは、正直考えづらい。だって、彼方に関しては一昨日初めて会ったわけだし、小雪に関しても一昨日初めて話をしたようなものだからな。それでいて二人が俺に気があるとしたら、一目惚れくらいしかありえないわけで、容姿が特別優れているわけでもない俺に一目ぼれとは少々考えづらい。だからこそ、この二人が一体何を思って俺に近づくのかが本当にわからないのだ。

 うーむ、考えつかない。だってこの二人、打算的な考えで俺に近づいてくる沖月の連中とはまるで違うんだもんなぁ。何より、俺の嫌いな目をしていない。むしろ、真っすぐだ。……というか、時たま真っすぐ過ぎるところがあるくらいなわけだしな。

「レン君? どうかなさいましたか?」

「えっ? あ、いや、なんでもないんだ。 さっきは叩いて悪かったな。」

 未来の気遣うような声で俺は自分の世界から引き戻される。そして、先ほど勢いで脳天チョップを食らわせてしまったことへの罪悪感と、なんだかんだ助けてもらったことへの感謝を含めて、未来の頭を軽く一撫でする。

「えっ!? あ、これはどうも……。 まさか、私まで撫でていただけるとは……。 なんだか、嬉恥ずかしいですね。」

「さて、そろそろ本格的に起きよう。 時間は……、8時半か。」

「あら、もうそんなに経っていたんですね。 では、私は一度自分の部屋に戻りますね。 また午後、連絡をいただけると嬉しいです。」

 未来は立ち上がり、自分の使っていた布団を素早くたたんで一つにまとめてから、俺たちにペコリと一礼して、俺の部屋を後にした。

「うん、またあとでね、未来ちゃん。」

「また連絡する。」

「ええ、お願いします。 では、失礼します。 お世話になりました。」

 俺たちは未来を見送る。それから、俺も自分が使った布団をたたみ、未来のたたんでくれた布団の上に重ねて置く。

「小雪はどうする? 一旦部屋帰るか?」

「そ、そうだね。 ちょっと着替えてこようかな。 またこっち来てもいい?」

「ああ、それは構わないよ。 んじゃ、その布団も持っていこうか。」

「あ、それならワタシが一緒に運んでくよ。」

 彼方と小雪も、布団を一つにまとめて、持ち上げる。俺は部屋のドアを開け、二人が通りやすいようにしてやる。

「それじゃあ、またあとでね。」

「はいよ。」

「ワタシはすぐ戻るからね。」

「あいよ、わかってる。 鍵は開けておくから。」

 そうして、二人も一旦俺の部屋を離れる。

 一人になった部屋で、俺は一つため息を吐く。朝からここまで体力を消耗したのは初めてだ。でも、何故か充実感のようなものもあった。

 さてと、布団を片付けてしまおう。俺は、リビングに置かれたままだった布団をまとめて持ち上げると、それをそのまま寝室に運んでいくのだった。

 

 それからすぐに彼方が戻ってきた。先ほどのことを少し意識してか、若干頬が赤らんでいるように感じたが、気にしないようにしよう。気にし始めたら、俺まで意識してしまいそうだ。

「ちょっと待っててな。 簡単に朝飯作るから。」

「あ、ワタシ作ろうか?」

「いや、それは悪いって。 あ、でもやっぱり、手伝ってもらおうかな。」

 自分の腕前に自信がなかったので、結局彼方に手伝ってもらうことにした。メニューも決めていなかったしな。いろいろと、彼方を参考にさせてもらうとしよう。

「はーい。 もう、最初からそういえばいいのに。 えへへ。」

 頼られたことが嬉しいのか、彼方はこちらまで明るくなれそうなほどの眩しい笑顔を浮かべていた。そんな彼方の様子に、何故か俺も嬉しくなってくる。

 それから、少し遅めの朝食の準備をし、途中で小雪も戻ってきたので三人で朝食をとることになった。未来も、せめて朝食くらいは一緒に食べていけばよかったのに、とも思ったが、彼女には彼女のペースっていうのがあるのかもしれないな。それに、彼方と小雪と一緒の時間を過ごせるというだけでも、俺としては充分幸せなのだ。

 たった二日だというのに、彼方たちが俺の近くにいるということが何か自然なもののようにすら感じられてきてしまう。こうして一緒に食事をしていることも、何故か当たり前の日常の風景のような錯覚を覚えているのである。それだけ、彼方や小雪が俺にとって特別な存在に……、って、何だこれ……。よくわからないが、突然心臓の拍動が早くなったのを感じた。

 いや、考えるのはもう疲れた。とにかく今は、目の前のことを楽しもう。

 やがて俺たちは朝食をとり終え、出かける支度をする。とは言っても、小雪は既に身支度を整えてきていたので、俺と彼方の二人だけなのだが。

 俺たちが準備をしている間、小雪は洗い物を引き受けてくれた。相変わらず、なんていい子なのだろうか。

 なお、彼方は俺と同じところで着替えを始めようとしていたので、俺は慌てて脱衣所まで逃げるように駆けて行った。今、そういうことをされると、本当にまずいという危険信号が鳴らされたような感覚があった。

 その後、軽く説教をしてから、俺たち三人は寮を出て商店街に繰り出した。

「スマホはそれなりに高いけど、平気なのか?」

「うん、多分なんとかなるかな。」

「そうか? ならいいんだけど。 まぁ、困ったら俺も少し出すよ。」

「え、そんな、それは悪いよ!」

「でも、スマホって本当に高いよ? わたしも少しくらいならお金出すよ。」

 なんてやり取りをしつつ、俺たちは商店街のケータイショップを訪れる。

 俺の使っているスマホは少し古めの機種だが、今のスマホはどれも機能が充実しているようだ。そろそろ俺も買い替える必要あったりするのだろうか?でも、気は進まない。正直、連絡手段さえどうにかなれば、俺はそれでいいと思ってしまっている。というかぶっちゃけ、そんなに機能が多くても俺には使いこなせる気がしない。割と機械音痴なものでな。

 彼方と小雪が楽しそうにデザインを見て回っているのを、俺は後ろから眺めていた。確かに、機能も重要ではあるが、デザインも同じくらい重要な要素だろう。特に、女性的には機能以上にこだわりたいところなのかもしれない。

「うーん、どれがいいかなぁ。」

「結構いろいろあるもんね。 迷っちゃうよねぇ。」

「うん。 あ、でも、これにしようかな。」

 そう言って、彼方は見本のうちの一つを手に取る。それは、特に何の変哲もない黒い色のスマホだった。

「ありゃ? 黒? また意外なチョイスだね。」

「え、えへへ、まぁね。 ほら、カバーで好きなようにデザイン変えられるでしょ?」

「まぁ、それもそうだね。」

「そ、それにね……」

 彼方はこちらをチラ見してから、小雪に耳打ちする。俺には聞かれたくないことなのだろうか?まぁ、いいけど。

 でも、なんかモヤモヤする。この感覚は今までにはなかったものだ。急にどうしちまったんだろうか、俺は。

「っていうわけだから。」

「なるほどね。 いいなぁ、なんかそういうの。 今度買い替えるときは私もそうしちゃおっかなぁ。」

「うん、いいと思うよ。 じゃあ、カバーを見に行こ。」

「オッケー。 ほら、レンくんも行くよ。」

「あ、わかった。」

 二人に続いて、店の奥まで進んでいった。それから、彼方と小雪はまたもキャッキャとはしゃぎながらスマホケースを吟味する。時々、何やら下心をもって二人に近づこうとする輩がいたので、俺が睨みを利かせていた。何故かわからないけど、この二人には近づけさせたくなかった。

 そして、しばらくして彼方はようやく候補を二つに絞れたらしく、俺に見せてきた。

「どっちがいいかなぁ?」

 彼方が見せてきたのは、片方が深みのある青にところどころ銀色の粒子がちりばめられているもので、もう片方は黄色ベースのものだった。

 なんだか、一つ目のやつは月銀島の夜の海を彷彿とさせるな。もう片方は……、彼方の好きな色なのかな?

「うーん。 彼方って、黄色が好きなのか?」

「え、ワタシ? そんなことないよ。 好きなのは水色とかかなぁ。 この黄色はね、小雪ちゃんの瞳の色から選んだんだ。」

「あ、そうだったの? わたしも、てっきり黄色が好きなのかなぁって思ってた。」

 そんな意図があったとは、想像できなかった。けど、彼方にとって小雪がどれだけ大切な存在なのかがよく伝わってきた。だから俺は、迷わず黄色いスマホケースを指さした。

「なるほどな。 なら、黄色でいいんじゃないか? 二人とも、なんかいいパートナーみたいなところあるからな。」

「ホント? だってだって! 小雪ちゃん、ワタシたちってパートナーみたいだって!」

「うん、なんか照れるけど、嬉しいね! そしたら、わたしも青いスマホカバー買っちゃおうかな。 彼方ちゃんの瞳の色にちなんで、ね。」

「おっ、いいんじゃないか。 なんか、二人で一つ、みたいな感じだな。」

 俺の言葉を聞いた彼方と小雪は、顔を見合わせてにこりと微笑んだ。

「二人で一つ……、なんかそれいいかも。」

「だね。 じゃあ、さっそく会計してこようか。 彼方ちゃんはいろいろと契約とかもあるから時間かかるかも。」

「あ、そっか。 そういうのもしないといけないんだよね。」

「まぁそこは、俺も手伝うよ。」

「うん、ありがとうね、レンくん。」

 というわけで俺たちは、彼方のスマホを購入すべくレジに並んだ。幸い、ケータイショップ内はさほど混んではいなかったので、それなりにスムーズにスマホ購入の手続きを終えることができた。とは言っても、やはり手続きには時間がかかってしまった。

 それから、商品一式を片手に、俺たちはケータイショップを後にした。なお、俺はそこで何やら違和感を覚えていたが、二人は気づいていないようだった。

「ふぅ、二人とも、つき合わせちゃってごめんね。 あと、ありがとう。」

「いえいえ、気にしないでよ。 わたしも、おかげで新しいスマホカバーを買えたわけだし。 これから、大事に使うね。」

「うん。 ワタシも。」

 二人、顔を見合わせてはにかみあう。俺は、そんな二人を横目に、後ろから感じる嫌な気配に意識を向けていた。どうやら、間違いないようだ。面倒くさいなぁ……。でもまぁ、この二人の容姿なら仕方ないのかもしれない。

 俺、ストーカーへの対応とか知らないぞ……。って、待てよ?俺がいるのに、どうしてあきらめずついてくるのだろうか……?まさか、狙いは俺か?どちらにしても、ストーカーであることに変わりはないか。うーむ、どうしたものか。

「どうしたの? レンくん。」

「あ、いや、なんでもない。 あ、二人とも、そこを曲がってくれ。」

「え、ここを? あ、近道になるんだっけ。」

「そういうこと。」

 人気がないので、普段は女性を連れて通ろうとは思わない。けど、もしかしたら、ストーカーを誘き出すチャンスかもしれない。

 彼方と小雪は俺の言うとおり、その道に入ってくれた。俺の予想では、そのストーカーは俺をボコして彼方と小雪に近づくつもりだろう。もしくは、この二人を無理やり連れ去るつもりか。正直、後者だと厄介だ。だから、俺が後ろにいたほうが都合がいい。

「……。」

 よし、うまく誘導できたみたいだ。ストーカーも、こちらに曲がってきた。あとは、この直線状で相手が何を仕掛けてくるか、だな。能力によっては、少々荒業になりかねないが、そこは正当防衛として許してほしい。

 多分、向こうは俺が警戒していることには気づいていない。

 でも、一つ違和感があるとすれば、ストーカーからは一切の殺意を感じない、といったところか。まぁ、多少の距離があるのだから、そこまでは感じ取れないだけかもしれないが。

 というか、いつまで経っても、何も仕掛けてこない?どういうことだ?もしかして、俺の勘違い……だったりするのだろうか?だとしたら、結構恥ずかしいのだが……。

 と、その時、気配が接近してきた。どうやら、ようやく動いたみたいだ。

 不意打ちを狙おうとしている割にはかなり単調な動きのように感じられるが、まぁいいだろう。俺は相手に気付かれない程度に構える。

 そして、すぐ背後に来たところで、俺はバッと振り返る。

「ひゃっ……。」

「えっ……!?」

 そして、あろうことか、ストーカー……は俺が振り向いただけでしりもちをついてしまった。いや、本当にストーカーか?にわかには信じ難い。だって、目の前でしりもちをついているの、どう見ても女の子……なんですから……。


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