天空(そら)の彼方に響く旋律 -穢れた七世界の中で生き抜く戦士達-   作:室谷 竜司

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Episode25. 新たな仲間、アリス! ウェストセブンは誰にも負けない!

 それからしばらくして全員落ち着いたので、俺たちは特訓を再開する。ったく、原因が自分だったとはいえ、ここまで話がややこしくなるとは思わなかったぞ。今度、寺に修行にでも行くかな。煩悩退散のために……。とにかく、今の一件だけでかなり体力を消耗してしまった。だが、特訓は実際まだ始まったばかりなので、気を抜くことはできないよな。そんなわけで、俺は空気を戻すために一度パンと手をたたく。それから、メンバーたちへと向き直る。

「んじゃ、特訓を再開するぞ。 えっと、どこまで行ったんだっけ。 ああ、そうだ。 彼方が一発で魔法攻撃を完成させたんだったな。」

「やっぱりバグなんじゃ……。」

「バ、バグって……、なんかひどくない?」

「あっはは、ゴメンゴメン。 でも、単純にすごいと思うよ。 魔法にしろそれ以外の能力にしろ、初めて使ってあのクオリティっていうのは見たことないかも。 つっても、アタシはリージェリストとしての暦が浅いから何とも言えないけど。 でも、みんなの反応を見る限り、やっぱり普通じゃないんじゃないかな。」

「そうですね。 早い人でも二日か三日はかかるはずです。 彼方さん、本当に初めてお使いになられたんですか? 以前に何らかの形で使ったことがあったりしませんか?」

「うーん、多分ないと思うけど……。」

 彼方が首をひねりながら考える。しかし、やはり心当たりはないのか、首を横に振る。となると、本当にあのクオリティで初めて使ったものだということになる。これはもしかしなくても、天才という奴が現れたんじゃなかろうか。

「ちなみに、みんなは使えるようになるまでどれくらいかかったの?」

 反対に、彼方の方から質問が飛ばされてきた。

「私は……、確か一週間ほどでした。 とは言っても、先ほどの彼方さんのような高レベルのものが使えたわけではなく、本当に微量な力しか出せなかったと思います。 まぁ、能力の種類によって発動までの感覚は異なりますからね。 基準が違うといえばそれまでなんですが。 でも、魔法能力は総じて、レジェリザムの中でも高難易度能力ではありますから、やはり彼方さんは天性の才能の持ち主なのでしょうね。 憧れてしまいます。」

「そ、そうなのかなぁ? でも、なんか嬉しい。」

 未来に褒められて照れ笑いを浮かべる彼方。

「わたしも、一週間か二週間くらいかかっちゃったかも。 今でもそんなに上手には使えないんだけどね。 だから、彼方ちゃんの呑み込みの早さ、すっごくうらやましい。」

「はい。 私も彼方せんぱいに憧れちゃいます。 もっと頑張らないと……。」

「そ、そんな。 みんなして……。 照れちゃうよぉ。」

 さらに頬を上気させて恥ずかしそうに身体をもじらせる彼方。だが、やはり嬉しそうである。

「能力の扱いには自信があったのになぁ。 上には上がいるのかぁ。 悔しいなぁ。 ねぇカナタ、あとでまたアタシとバトルしようよ!」

 もしかして、アリスって負けず嫌いだったりするのかな?確かに、先ほど星永さんの魔法を往なした時の一連の動作は無駄なくキレのあるものだったように思う。なんていうのかな、手練れ感っていうのを感じたような気がする。だからこそのプライドみたいなものがあったのかもしれない。その負けず嫌い精神、俺は好きだぞ。

「あ、うん。 いいよ。 けど、さっきみたいにうまくいくかはわからないから、お手柔らかにね。」

「あいよ! でも、普通に使えてたらアタシも本気でやるからね。」

 能力の系統は違えど、この二人はいいライバルになりそうだな。どうやら同学年みたいだし、今後の戦闘実習はこれまでより楽しくなりそうだ。

「あ、そういえば、レンのコピー能力だっけ? それってどういうのなの?」

「そのままの意味。 対象者の動作やリージェルをコピーする能力。 例えば、こんなのがあるよ。」

 せっかく中庭にいるので、俺は複製能力のうちの一つを披露することにした。一番手っ取り早いテレポート能力だ。

「わっ!? レンが消えた!?」

「後ろにいるよ。」

「ええっ!? すごっ!! 瞬間移動だぁ!! そんなのが使えるなんてカッコいいなぁ!! もしかして、アタシの能力もコピーして使えるの?」

「まぁね。 面倒な工程をくぐる必要があるから、あんまりやろうとは思わないけど。」

「面倒な工程?」

 俺はアリスにも、このコピー能力で対象者のリージェルをコピーするのに必要な手順を説明する。本当は実践して見せるのが一番いいのだろうけど……、なんか嫌な予感があったので口頭で説明することにした。

「なるほどねぇ。 ちなみに、他のみんなのはコピーしたの?」

「いや、してないよ。 最初はしようかって話にはなってたんだけどな。」

「え、どうしてしなかったの?」

「まぁ……、それは察してくれ……。」

 俺は彼方と小雪を交互に見やりながらそう言った。未来に関しては一般的な部位、つまり前腕部に存在していたのでコピーを実行することはできたのだが、未来一人だけのを複製するのもなんか気が引けたので、コピーはあきらめることとなった。

「ん? カナタとサユキがどうかしたの?」

 あ、察してはくれないのね。

 彼方はそこまで気にした様子はないが、小雪の方はかなり恥ずかしそうである。それもそうだろう。友人止まりの男に、安易にプライベートゾーンなんて触らせるわけにはいかないからな。というか、彼方はその辺り恥ずかしくないのか?やはり、時々彼方の感性はわからない。

「うーん、まぁいっか。 んで、他にはどんな能力があるの? さっき、なんか石っぽいのを飛ばしてたように見えたけど。 あれも能力?」

 あ、考えることを放棄した。

 というか、あの時から見ていたのか。

「そうだよ。 あれは鉱石弾丸魔法。 あんまり魔法っぽくはないんだけどな。 一応、詠唱が必要だから魔法っていうカテゴリーに分類されているみたいだ。 属性もあるしな。 ほとんど土属性ばっかだけど。」

「へぇ、レンのメインウェポンってとこかな?」

「そうなるな。 もう一つ攻撃ができる能力もあるけど、あっちは精神攻撃が主流だからな。 基本的にこっちの弾丸魔法を使うかな。」

 霊魂操作能力にも、攻撃できるものはある。むしろ、補助や精神攻撃などと使い分けができる分、鉱石弾丸魔法よりも汎用性は高いように感じられる。だが、攻撃に必要なのはやはり速度だと俺は思っている。霊魂能力は不意の一撃には適しているが、弾丸魔法は遠距離で使うことができる、且つ効果力と速度を兼ね備えている能力である。だから、俺はこの能力を愛用している。

「そのもう一つっていうのは?」

「霊魂操作能力。」

「霊魂操作? お化けみたいな?」

「そんな感じ。 あと使えるのは、透心能力だな。 これは、簡単に言えば心を読む能力。 相手の次の行動とかを見切るときには便利だけど、日常生活で使ったらただのプライバシー侵害行為だから、俺はあんまり使わないな。」

「レンって、紳士だね。 人によっては、そういうの気にせずところかまわず使ってそうだけど。」

 いや、まさかな……。流石に誰でも考えるだろ。というか、むやみやたらに他人の心なんて読んでいたら、見たくないものまで見えてきて逆にこっちの精神が参ってしまいかねないからな。他社への配慮とともに、自己防衛のためにも誰かの心を覗くなんてしないはずである。だが、そうじゃないのか?世の中には物好きな人間もいるものなのか。俺にはよくわからんし、理解しようとも思わないけど。

「俺は紳士なんかじゃないさ。」

「そうだよねぇ。 エッチな紳士様だもんねぇ。」

「うるせぇ! それを言うなら、君らはもっと恥じらいを持ちなさい! 男は危険なんだぞ? 襲われる可能性だってあるんだぞ?」

「なんか、お母さんみたいなこと言うんだね、レンくんって。」

「あっ、確かに!」

 ぐっ、お母さんみたいと言われてしまったか……。なんだろう、遠回しに口うるさい奴とか思われてるような、そんな気がしてならない。この子たちはそんなこと言わないんだろうけど。

「そ、そうじゃなくてさ……。 ちゃんと自分を大切にしろってことで合って……。」

「わかってるわかってる。 レンくんがわたしたちのことを気遣ってくれているのはちゃんと伝わってるよ。」

「大丈夫だって。 他の男の人の前でそんなヘマはしないから。 レンなら大丈夫かなって思ってるだけだよ。」

「だね。 レンくん相手なら、恥ずかしいけど別にいいかな……、なんて……。」

 ダメだ……。全く伝わらない……。というか、この子らは俺のことを何だと思っているのだろうか。まさか、男として認識されていないんじゃなかろうな……。それは聊か屈辱的だ……。俺だって、人並み程度には性欲も持ち合わせているし、現にこの子らのせいで何度か理性の限界を見させられた。これ以上のことがあったら、流石の俺でも理性が持たないと思う。恐らく……。きっと……。

 いやでも、自分でいうのもおかしな話ではあるかもだが、俺は臆病でありピュアハートでありチキンだ。仮に理性が限界突破するような事態に陥ったとしても、異性に手を出す度胸は持ち合わせていないのではなかろうか。くっ、自覚しているという事実が何とも腹立たしい。

「とにかくだ。 君らは俺のことを男として認識していないのかもしれないが、ちゃんと女性としての意識は持ってくれ。 恥じらいを持つことは大切なことだ。」

「う、うん……。 若干否定したい部分もあったけど……。」

「否定は許さん。」

「は、はい……。 気を付けます……。」

「ご、ごめんなさい……。」

 とりあえず、これでいいかな。まぁ、果たしてこれだけで効果があるかは怪しいところだが。なんせ、彼方なんて一昨日冗談とはいえ一度押し倒して見せたのに、全く効果があるように感じられなかったんだもんなぁ。

「すまん。 話が横道にそれたな。 そんじゃ、特訓を続けよう。 星永さんはひとまず、俺と一緒に魔法の特訓をしよう。 とは言っても、基本的に反復練習をするだけになるとは思うけど。」

「あ、はい。 よろしくお願いします!」

 いい返事だ。もしかすると、この中で一番まともと言えるのは星永さんなのかもしれないな。別に、他を異常者呼ばわりするつもりなど毛頭ないのだが、他四人に比べておとなしくて常識人的な感じがする。小雪もそんな雰囲気はあるのだが、時々おかしな感性を見せてくるからな。

「んで、他の四人は対人での戦い方を模索してくれ。 特に、彼方は対人戦経験なんてないからな。 他三人の動きを見ながらいろいろと実践してみてくれ。」

「はーい。」

「それでは、こちらの方でやりましょうか。」

「そうだね。 えっと、結界とかも使っていいんだよね?」

「もちろんだ。 活用できるものはどんどん使っていこう。」

「へぇ、この寮には結界機能も備わってるんだ。 流石はRSO直下の訓練学校だけはあるね。 うん、テンション上がってきたぁ!」

 そう言って四人は中庭内の開けたスペースに移動を始めた。

「よし、それじゃあこっちも始めようか。 さっきみたいに、慌てず落ち着いて詠唱式を翻訳するんだ。 最初は時間制限に引っかかるかもしれないけど、徐々に早く翻訳できるようになってくるから。 頑張ってみよう。」

「はい! 頑張ります!」

 そうして俺たちも、今日の特訓のメインに興じるのであった。星永さんのやる気と集中力は相当なもので、今日一日だというのに見る見るうちに魔法の詠唱が様になってきていた。これは、完全に練習不足だったな。普通に容量もよく、このペースなら無属性魔法という難関魔法をマスターするのにもそう時間はかからないように感じる。彼方と言い星永さんと言い、俺の周りの人たちはどうしてこうも優秀な人材ぞろいなのだろうか。もしかしなくても、俺はとんでもない人たちとチームを組むことになってしまったのではなかろうか。これは、俺も負けてはいられないな。沖月の優等生としての意地を見せてやろうじゃないか。そんなこんなで、今日の特訓は思った以上に有意義に過ぎていったのだった。

 

 

「ふぅ、みんなお疲れさま。 今日はもう切り上げようか。」

「あ、わかった。 お疲れ様!」

 俺は、中庭内に散らばっていたチームメイト&アリスを集めて、今日の特訓を終わらせる。今日はまだ活動を始めて初日なのだ。無理をする必要もないだろう。それに見たところ、たった数時間の特訓ではあったが得る者は多かったのではないだろうか。この調子なら、対抗戦での優勝も夢ではないかもしれない。まぁ、あと二人ほどチームメイトを集めないといけないという課題は残っているのだけど。

 って、待てよ……?今、もしかしてチャンスなのではないか?なんて思いつつ、俺はアリスの方へと視線を向ける。

「ん? どうかしたの? レン。 あ、もしかして、またスケベな展開を狙ってる? 残念ながら、そんなハプニングはないよ。 それに、さっき注意してきたのはレンだしね。 もしかして、後悔してる?」

「そうじゃねえよ……。 何、拡大解釈してるんだよ……。 そうじゃなくてな、アリスよ、ちょいと俺から提案があるのだが、いいか?」

「提案? どうしたのさ、改まって。」

 アリスは、不思議そうに俺の表情をうかがってくる。

「明日から、沖月に通うんだよな。 沖月の学生になるんだよな。」

「うん、そうだけど……。」

「んでもって、俺たちと同学年なんだよな?」

「そうなるね。 えっと、それがどうかした?」

 徐々にアリスが怪訝な目をし始める。ごめん、これはあくまで確認事項なんだ、許してくれ。

「あのさ、対抗戦には興味あるか?」

 その言葉に、彼方・小雪・未来・星永さんの四人がピンと来たというように目を見開いた。多分、君らの想像通りだよ。

「対抗戦? あー、ビッグイベントだっけ? うん、戦うのは好きだよ。 自分の今まで積み上げてきた努力を発揮できるからね。 あ、もしかしてさ、アタシを勧誘?」

「ご名答! どうだ? 俺たちのチームに入らないか?」

 不思議と断られるかもという不安はない。アリスの目を見て、俺はそんな確信めいた気持になっていた。

「わぁい! 入る入る! 誘ってくれないかなぁ、なんて思ってたところなんだよね! やったね、これでみんなともっと特訓ができるよ! これからよろしくね、みんな!」

 よし、案の定アリスは乗り気だったみたいだ。またしても勧誘が成功したな。思わず、俺もガッツポーズしてしまう。現状、俺たちのチームには前衛として突撃できる主戦力が欠けていた。しかしながら、アリスという強力な前衛をチームに引き込んだことにより、チーム内バランスをとることができる。それと、単純にアリスの性格的に、チームを盛り上げるムードメーカー的な役割も果たしてくれそうだしな。アリスをチームメイトとして迎え入れないという選択肢など、ないに等しい。

「よろしくね、アリスちゃん。」

「よろしく!」

「よろしくお願いしますね、アリスさん。」

「よ、よろしくお願いします! って、私以外、全員ここの寮生ってことになるんですよね。 どうしよう、私も移動しようかな……。」

 星永さんは何やら頭を抱えて悩んでいるようだ。彼方はまだ入寮しているわけではないが、手続き書は既に書き終わっている。あとは俺がこれを提出しに行くだけだから、実質ここの寮生と言っても差し違えはないだろう。となると確かに、星永さん一人だけ別のところというのは、なんだか仲間外れみたいな感じがするな。

「なら、星永さんもこっちおいでよ。 移動の理由として、対抗戦を挙げる人とか結構多いからね。 学校側もそこらへんは配慮してくれるよ。」

「そうなんですね。 じゃあ、そうすることにします。 というわけで皆さん、改めてよろしくお願いします! 足を引っ張らないよう、頑張りたいです!」

「ははっ、そんなに気を張る必要はないからね。 それに、星永さんは普通に呑み込みが早くて、俺も驚いてる。 すぐに魔法もマスターできるようになるよ。 頑張ろうな。」

「はい!」

 うん。初めての練習としては上出来だろう。それに、アリスという新たな戦力をチームに迎えることもできた。対抗戦への大きな希望が見えてきたな。

「ところで、チームメイトかあるの?」

「まぁな。 俺たちは、ウェストセブンだ。」

「ウェストセブン? 西棟7番寮だから、ウェストセブンってことですか?」

「そういうことになるかな。 命名者は小雪だ。」

 びくっと肩を震わせる小雪。

 アリスと星永さんの視線が小雪に向く。なんとなく嫌な予感を肌で感じているのか、その表情はかなりひきつっている。

「ま、まぁ、わかりやすいんじゃないですか? 私はいいと思いますよ、はい……。」

「うっ……。」

 後輩に気を使われて身もだえる小雪先輩。そういう反応になるのも仕方ないよな。なんせ、俺たちですらちょっと微妙だと思ってしまったのだから。

「えっ、ダサくない!?」

「うぅ……、センスなくてごめんなさいね……。」

 アリスに関してはかなりストレートだった。

「改名はしないの?」

「まぁ、面倒だから。」

「えー。 アタシ、チーム変えようかな。」

「それはやめてくれよ!?」

「ウソウソ、そんなことしないから安心して。 まっ、覚えやすい名前ってのもアリなんじゃないの? そのセンス、割と嫌いじゃないしね。」

「むぅ、センスなくてごめんなさいね!」

「ゴメンゴメン、そんなにむくれないでってば!」

 アリスが加わったことによって、西7寮はさらに騒がしくなりそうだな。退屈はしなさそうだし、俺は全然かまわないのだけど。

「とにかく、これからよろしくな、アリス。 それと、星永さん。 よし、この調子であと一人も見つけよう。 そして、絶対に対抗戦に出て優勝しよう!」

「「「「「はいっ!」」」」」

 夕方の西7寮中庭内に、彼女たちの声が空高く響き渡っていた。これは、俺たちの戦いの始まりを空に告げる声だ。俺は、このメンバーたちとともに、次こそあの高みを目指したい。いや、絶対に高みに上ってやる。彼女たちの声とともに、俺の決意はさらに強くなった。


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