天空(そら)の彼方に響く旋律 -穢れた七世界の中で生き抜く戦士達-   作:室谷 竜司

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Episode2. クラス内では、基本一人です。 ボッチとか言うなっ!

 愛葉と別れ自分の教室に戻ってきた俺は、特に誰かと挨拶を交わすでもなく自分の荷物が置いてある席に戻り、静かに着席した。

 教室内での俺は基本的にこんな感じだ。

「時間割は……っと……。」

 俺はメモ帳を鞄から取り出し、次の講義の確認をする。

 長期休暇を挟んで後期になり時間割が多少変動してしまい、まだ前期の時間割の感覚が抜けていない俺は後期の時間割を未だに把握しきれていないのである。

 時間割とか予定を覚えておくの、俺苦手なんだよなぁ。

「えっと……、金曜5限は……。」

 メモ帳をペラペラとめくりながら、目的のページを探す。

 そして、後期金曜日時間割と書かれたページを見つける。

「英語基礎、か……。」

 訓練専門学校とはいえ、俺たちも年齢的には学生である。

 そのため、リージェルに関する専門知識だけでなく、英語などの一般教養もともに学ばなければならない。リージェルという専門的分野がなければ、沖月も普通の中学や高校と何ら変わらないわけである。

 俺はメモ帳を鞄に戻すと、そのまま英語のテキストを取り出す。どうやら、朝のうちにちゃんと用意は済ませていたみたいで、忘れてきたなんて言う落ちはなかった。というか、どんだけ忘れっぽいんだ、俺は……。

 なんてことを思いつつ、俺は苦笑を浮かべざるを得なかった。

 その時、ふと背中に視線を感じた。最近、たまにあるんだよなぁ……。

 でも、いつもほんの一瞬のことなので、気になりつつも視線の方に振り向いたりはしない。……んだけどなぁ……。

 どうしたんだろう、今日はやけに長いこと背中に視線を向けてきている。しかも、呼吸音……というかもはや深呼吸っぽい呼吸が聞こえてくるんだが……。

 これ、振り向いたほうがいいのか?

 というわけで、俺は恐る恐る背後へと視線を向けてみることにした。

「わっ!? き、気づかれてたっ!?」

「いや、うん。 視線は感じてた……かな。 んで、どうしたの?」

 見ると、すぐ後ろに一人の女学生が立っていた。胸に手を当てて、「すーはーすーはー……」とやや大げさ気味に深呼吸をしていた。ってか、深呼吸で合ってたんだ……。

 もう片方の手には、プリントの束を抱えている。

「え、えっとね、こ、これ……、今日の英語の課題だって。 あ、あのね、今日の英語、先生の急用で休講になったみたいでね……。」

 大分説明がたどたどしかったけど、そうか……。今日の英語は自習ってことか。

 俺はその子からプリントを受け取る。

「了解、ありがとな。」

「う、うん。 ど、どういたしまして。」

 というかこの子、緊張してる?俺、そんなに怖い顔していただろうか?それとも、まとうオーラが怖かったのか……。どっちにせよ、そんなつもりはないんだけどなぁ。結構小柄で気弱そうだから、余計に怖がらせてしまったのだろうか?

「そ、それじゃあわたし、他の人にも渡してくるからっ!!」

「お、おう……。」

 うん、よくわからん。速足で俺の席から遠ざかっていく小柄な女学生を見つめながら、俺は首をかしげてしまっていた。

「小瀬戸さん、そちらは配り終えましたか?」

「あ、えっと、ううん。 まだあと少し残ってる。 天留さんは?」

「私は終わりました。 おそらく、まだ窓際の席の人たちには配り切れていないと思いますので、任せてもよろしいですか?」

「うん、わかった。」

 小瀬戸さん……って、ああ……。去年のこの時期に転入してきた小瀬戸(こせど) 小雪(さゆき)さんか。いまいち顔と名前が一致しないんだよなぁ。

 もう一人は……、天留(あまどめ) 未来(みらい)さん、だったかな……。天留さんはかろうじて覚えていた。1年の時から一応同じクラスだったからな。全くと言っていいほど交流はなかったけど。

 プリント配布の仕事を任されているってことは、あの二人クラス委員だったりするのかな?やばい、これではクラス内に興味関心がないことが露見してしまう……。

 せめて、クラスメイトの顔と名前くらいは覚えないとなぁ……。時間割同様、人の名前を覚えるのも苦手なんだよなぁ……。

 まぁ、あの二人なら容姿も印象的だし、覚えやすいかもな。

 天留さんは結構背が高くスタイルもいい。顔はおっとり系で、髪は白髪ストレート。

 小瀬戸さんは対照的に全体的に小柄な印象。顔も幼げな感じで、髪は白銀ポニテ。

 マイ幼馴染こと愛葉さんもそうだけど、この学校の女学生たちって結構整った容姿を持つ人多いな。ちなみに愛葉は、天留さん以上に背が高く、髪は黒髪ストレート。

 と、そこで、俺はもう一つ気になったことがある。

 毛髪の色素が薄いってことは、あの二人は先天性のリージェリストなのかな。というのも、現段階での研究結果では、先天性リージェリストは毛髪色素が薄くなりやすく、反対に後天性リージェリストはオーディナルと毛髪色素が変わらない。

 俺や愛葉は後天性である。互いに黒髪だし。

 この理論で行くと、天留さんと小瀬戸さんはおそらく先天性なのだろう。まぁ、先天性・後天性で何か違うことがあるかって言われると、そういうわけではないのだが。髪の色が俺と違っていたりすると、気になってしまう。

 案外、違和感ないんだよなぁ、日本人だけど。やはり、容姿が優れている人は、人種とか関係なく何でも似合うんだろうなぁ。

 と、まぁ、そんなことはさておき、ひとまず先ほど配られた自習課題のプリントを済ませますかね。

 そうして俺は、プリントに視線を落とす。

 そこに書いてある内容は、基本的にこれまで学習してきたことの復讐ばかりで、何の面白みもないものだった。復讐ならいつもやってるし、もう少し応用的な課題を出してほしかった。ま、いいんだけどね。何度も繰り返し復讐を行うことは決して悪いことでもないし、それに何より、課題がすぐに終わりそうだ。

 なんてことを考えながら、俺はプリントにペンを走らせる。態々テキストを見返すまでもなく、スラスラと問題を解くことができる。うん、真面目でよかった。そうでなければ、今頃周りの連中のように、うなりながらいちいちテキストを読み返して問題を解く、なんてことをせざるを得なかっただろうなぁ。

 そして俺は、ものの10分ほどでその課題を終える。思った以上に簡単なプリントだった。これなら、俺以外にも終わっている人はいるんじゃなかろうか。

 そう思って、俺は教室内を見回す。……が、みんなまだのようだ。

 っと、前の方の席に一人、終わっていそうな人がいた。あれは……、天留さんか?あの白髪は恐らく彼女で間違いないだろう。

 天留さんは筆記用具等を自分の鞄にしまい込むと、鞄から1冊の本を取り出した。

 そして、その本を何やら熱心に読み始めた。一体、何の本なのだろう……。そんなに面白いのだろうか?ちょっと気になるな。今度機会があったら、聞いてみてもよさそうだな。もっとも、そんな機会があるのかという話なのだけれども。

 俺も何か読むかな。確か、まだ読み終えていない文庫本が鞄の中に入れっぱなしになっていたはず。暇つぶしにはちょうどいいだろうしな。

 俺は鞄をガサゴソとあさって目当ての本を見つけると、自習時間が終わるまでの間その本に没頭していた。

 

 

「ふぅ……。」

 息を吐いて本から顔を挙げる。体感的にはまだ20分くらいしか経っていないような気がする。と思って時計を確認してみると、体感時間のおおよそ2倍くらいの時間がたっていたことに気付いてしまった。

 てか、もうそろそろ自習時間終わりじゃんか……。大分集中していたみたいだな、俺。

 周りを見ると、大半の学生たちが既に課題を終わらせていたらしく、俺と同じように本を読んだり、近くにいる友人たちと静かに会話を交わしていたりと、空き時間を思い思いに満喫しているようだった。

 俺は読み終えた文庫本を閉じて鞄にしまい、大きく伸びをする。

 さてと、次の時間は戦闘実習か……。ものによってはかなり憂鬱なんだよなぁ……。

 そんな感じで6限の実習に思いを馳せていると、5限の終了を知らせる予鈴が教室中に鳴り響く。その瞬間、教室内が喧騒に包まれる。切り替えが早いことで……。

 でもまぁ、なかなか充実した自習時間だったように思う。

 俺は席から立ちあがり、荷物をもって教室から出ることにした。戦闘実習は、この学内の別棟にある訓練室、もしくは外にある訓練用コートで行われる。まぁ、ほとんどの場合は訓練室での実習なんだけどな。

「おっ、そこにいるのはレンじゃないか。 よっす!」

「ん? ああ、空か。 お疲れさん。」

 廊下を一人で歩いていると、後ろから声がかけられた。

 その声の主は、高塚(たかつか) (そら)。俺の数少ない友人の一人だ。愛葉同様、高等部第2学年に上がって別クラスになってしまい、以前に比べて会話する機会が減ってしまった。寂しいものだな。

「そっちは5限、何だったんだ?」

「英語基礎。 でも、教員が急用でこれなくなったみたいで、課題プリントだけ渡されてあとは自習だった。」

「マジかよ、いいなぁ。」

「はは、結構有意義だったよ。」

 空と肩を並べて歩く。特になんて事もないような会話でも、クラス内に話し相手のいない俺にとっては安息時間だったりする。

「んで、そっちは?」

「こっちはリージェル史学だったよ。 あれって、意外と学ぶこと多いのな。」

「それは確かに。 200年とは言えど、その200年の間にいろいろあったみたいだからな。 学習量が多くなるのもわかる。 っと、訓練室に着いたな。」

 俺と空は厚手の扉を開き、訓練室の中に入る。

 そして、備え付けの更衣室に向かった。まずは実習用の服に着替えないといけないからな。とは言っても、別に学校指定の訓練服があるというわけではなく、ただ単に動きやすい服に着替えるというだけだ。

 ささっとジャージに着替えて更衣室から出ると、次々と学生たちが訓練室の中に入ってくるところだった。うむ、早めに来ておいて正解だったな。

 訓練室内はそれなりに広めに設計されているが、流石に一学年分の男子が一斉に更衣室に入るのは結構厳しいものがある。というか、単純に絵面があまりよろしくないというか……、暑苦しいというか……。

「今日の実習は何をやんのかね。」

「どうだろうな。 昨日は個人技を磨くための一対一ランダムマッチだったから、それ以外の可能性が高そうだけど……。 ペア訓練だけは嫌だなぁ……。」

「それ、毎回聞いてる気がするぞ?」

 正直、ほとんど話したこともない人と50分もの間付きっ切りの状態になる、というのは、俺からすると地獄に近い……。ペアの割り当ては基本的に教員の方で行うので、知っている奴とペアを組むことができる確率は非常に低いのである。まぁ、時々自由に組むこともできるのだが、それがあるのは2限続きの時だけで、今日みたいな1限のみの時は教員指定のペアになる。

「まだペア訓練って決まったわけでもないのに、そんな絶望したような顔しなくても……。 本当に嫌なんだな。」

「あ、ああ、すまん。 そうだよな、まだペア訓練って決まったわけじゃないもんな。」

 何やら今、フラグが立ったような音が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだろう。

「てかさ、レンってコミュ障だよな。」

「何を言うか、俺はコミュ障なんかじゃないぞ? 顔見知りの人以外と話すのがちょっとだけ怖いっていうだけでコミュ障扱いとはいかがなものか。」

「それがコミュ障って言うんだぜ、レンくん。」

「そ、そんなバカな……!?」

 衝撃の新事実に、俺はその場に崩れ落ちる。

 そうか……、俺はコミュ障患いだったのか……。なんということだ……。

「えー……、そんな驚くことかよ……。」

 我が友人があきれ顔で俺を見下ろしてくる。

「わ、笑いたければ笑えばいい……。 こんな惨めな俺を……。」

「テンション高くね? 今日のレン。」

「そうでもないだろ、いつも通りだ。」

「何の話?」

 唐突に後ろから声をかけられる。

 そちらに振り向くと、次なる友人(女性陣)が集まっていた。

「ああ、愛葉にミアか。 お疲れさん。」

「お疲れー、レン君。」

 そう元気に返事をしたのは、水樹(みなぎ) ミア(みあ)。空同様、去年同じクラスだった中の一人だ。

 ミアと愛葉は親友と呼べるほどの仲で、ミアを見つければ基本的に愛葉も一緒に見つけられる。しかもこの二人、執補会でも一緒なんだよなぁ。

 ルックスは、愛葉に比べて身長はかなり低く、愛葉とセットでデコボコンビなんて呼ばれたりもする。髪はオレンジっぽい色で、先天性リージェリストである。

 ちなみに空は俺や愛葉と同じ、後天性リージェリストである。身長は175くらいでそれなりに高く、顔も同性の俺から見ても整っていることがよくわかる。噂になるほどではないが、それなりに人気はあるみたいだ。

「んでんで、何の話して他の?」

「レンがコミュ障って話だよ。」

「レンがコミュ障なのは、とっくの昔から分かり切ってることじゃないの。」

「え、そうだったの?」

 愛葉のストレートな一言に、ミアが首をかしげて返す。

「そうよ、昔から人と話すの苦手だったものね。」

「そ、そんなにか……?」

「自覚なかったの?」

「し、辛らつだなぁ……、今日の愛葉。」

 既に俺のメンタルライフは0に近い。これ以上傷を抉られると、本気でダウンしてしまいそうだ。

「でも、私たちと話すときのレン君は、そうは見えないよ。」

「そりゃあねぇ。 ある程度話せば成れてくるものだから。」

「そうなの?」

「ま、まぁな。 このメンバーの仲だったら、結構離しやすいかな。」

 愛葉の言葉を受けたミアが俺へと視線を向けてきたので、俺は頷いて見せた。

「そっか。 そうなんだね。 よかった、話しづらいって思われてたらどうしようかなって思ったけど、それなら安心だね。」

「おっと、先生が来たな。 もう実習が始まるみたいだ。」

 空の言葉を聞いて訓練室の入り口に視線をやると、ちょうどいま教員が訓練室に入ってきたところだった。

 俺たちは姿勢を正し、教員へと向き直る。

 実習は、座学とは異なり危険を伴うからな。気を引き締めて臨まなければ。


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