天空(そら)の彼方に響く旋律 -穢れた七世界の中で生き抜く戦士達-   作:室谷 竜司

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Episode3. 戦闘実習開始! ペアでも楽しいよ。

「よーし、それじゃあ今日の訓練を始めるぞ。 まずは出血をとる。」

 訓練室内に入ってきた訓練担当教員は、さっそく出血をとり始める。雑談とかなしにスムーズに授業を始めてくれるのはとてもありがたい。

 やがて出血をとり終えた訓練担当教員は、名簿を閉じて俺たち学生のほうへと向き直り、本題を切り出した。

 頼む……、ペア訓練だけはどうかご勘弁を……。

 俺は心の中でそう祈りつつ、担当教員の言葉を待った。

「よし、今日はペアでの訓練を行おうと思う。」

 な……、なんてことだ……!!俺の懸命な祈りは届かなかったのか……!!

 俺はその場に崩れ落ちそうになるのを必死にこらえながらも、深い嘆息までは抑えきれなかった。まぁ、担当教員には聞こえなかっただろうけど。

 でも、近くにいた友人たちには気づかれていたみたいだ。

「ドンマイ、レン。 せめて知ってるやつだったらいいな。」

「というか、なんて顔してんのよ……。 かなり怖いんだけど……。」

「絶望感がよく伝わってくるね……。」

 3人それぞれから言葉をいただく。空の言うとおり、願わくば顔見知りの奴とペアであることを願うまでだ。

「ペアの割り振りを言うから、聞き逃すなよ。 えーと……」

 そうして担当教員から、次々とペアが告げられる。その中には俺の知っている名前もあったが、どれも俺とペアではなかった。現実はいつも残酷である。

「次、神奈和。 それから、天留。」

「……ん?」

 思わず声が漏れる。

 全く期待していなかったが、俺とともに名前を呼ばれたのは天留さんだった。聞き間違いでなければ、だが。

 天留さんなら、幾分かやりやすいかもしれない。話したことはなくとも、一応2年連続で同じクラスなわけだしな。

 その後も淡々と読み上げられていくペア割り振り。

「私は……、坂上って人とペアね。」

「空君とペアだ! よろしくね。」

「おう! よろしく、ミア。」

 3人もそれぞれペアを告げられる。てか、空とミアがペアかよ。

「よし、以上だ。 それぞれペアを見つけて散らばれ。 あとは自由にいろいろやってくれ。 んじゃ、始め!」

 最後若干雑になっていた気がしたが、ひとまず教員からの号令を受け、俺は天留さんを探す。が、見当たらなく根?

「神奈和君、ですよね。」

「おっと、後ろにいたのか。 えっと、今日はよろしく。」

「ええ、よろしくお願いしますね。」

 ひとまず挨拶を交わしあう。見た目通り温和な雰囲気をまとっているな、この人。

 それに、一つ一つの所作が整っていて、なんというかとても綺麗だ。

「それで、どうしますか? 今日はどうやら自由みたいなので。」

「あ、ああ、そうだな……。 天留さんって、使用武器とかあったりする? ちなみに俺は特になし。」

「ええ、私は基本的に日本刀を扱っています。」

 ほう、日本刀か。戦闘スタイルは愛葉に似ているのだろうか?愛葉も基本的に剣や刀を扱っている。でもまぁ、あいつは能力によるところが大きいけどな。

 となると……、

「じゃあ、俺と手合わせでもしてみるか? これでも、友人の鍛錬に付き合ったことあるから、それなりにはできるし。」

「いいんですか? それだと、神奈和君の鍛錬にはならないと思うんですが……。」

「いいっていいって。 結局、特にやりたいこともないし。」

 天留さんはしばし思案するような表情を浮かべていたが、どうやら決断はできたようだった。

「それでは、お手合わせお願いします。」

「オッケー、それじゃあ木刀でいいよな? 取ってくるな。」

 俺は急いで訓練室内の倉庫に走り、二人分の木刀を手にして天留さんのもとへと戻る。

 そして、持ってきた木刀のうち1本を天留さんに手渡した。

「ありがとうございます。」

「はいよ。 つっても、いつぶりかなぁ。 なんか懐かしい。」

 俺は感触を確かめるように数回素振りをする。

 うん、木刀が空を切り裂くいい音だ。これなら、特に腕が鈍っているなんて言うこともなく、問題なく天留さんの相手ができるだろう。

 そして俺は、準備万端とばかりに天留さんのほうへと向き直った。

「よし、こっちは準備オーケーだ。 いつでもいいよ。」

「わかりました。 それでは……、いきますっ!!」

 天留さんのそんな掛け声とともに、俺たち二人は駆け出した。

 っと、思っていた以上に動きが早いな、天留さん。それに、踏み込みにも思い切りがある。温和な雰囲気とは裏腹に、結構大胆な動き方をするんだな。

 これはなかなか燃えるなぁ。あの愛葉にも引きをとらないだろう。

「はっ!!」

「よっと!」

 互いの木刀が眼前で交差する。これは……、かなり重い一撃だな……。しっかり踏ん張っておいてよかった。踏ん張りが甘かったら危うく吹っ飛ばされていたかもしれない。それくらい強烈な一撃だった。

 天留さんは一度俺から距離をとり、体勢を立て直す。引き際もわきまえているようだな。これはこれは、全く隙がないではありませんか。

 俺も木刀を構えなおし、受け身の態勢に入る。恐らく、天留さん相手だと攻めるよりも守備を固めたほうがいいような気がする。

「ふっ……!」

 小さく息を吐くと、天留さんは再び一歩を踏み出した。そして次の瞬間には、もう既に俺の目の前まで天留さんが迫っていた。

「危なっ……!」

 あまりにも早い動きだったので見逃しかけてしまい、ギリギリのところで天留さんの一撃を受け止めることになってしまった。

 あと一瞬遅かったら、完全に一本取られていたな。

「っ!!」

 天留さんはまたも後方へと下がる。

 だが、それを狙っていたぜ!唯一の隙がそこだ。

「そいやっ!」

 俺は天留さんとの間合いを一気に詰め、守りから攻めへと転じる。

 超近距離での打ち合いは、天留さんの感覚からすれば互角に感じると思う。

 だが、外から見れば一目瞭然で、天留さんが追い詰められているように映るだろう。

 そう、俺は攻撃をしつつ天留さんを壁際へと追い詰めようとしている。誘導作戦だ。勢いを載せて突っ込むと、咄嗟に後方へ飛び退こうとする。俺はそれを逆手にとって、有利な状況を作った。だれでもおもいつくような、簡単な作戦だろ?でもな、こういう初歩的な作戦が、たまに相手の不意を衝く一撃につながるんだよな。

「なっ……!?」

 気づくと、天留さんは訓練室の壁に背をぶつけてしまっていた。やはり、俺の攻撃を裁くことに夢中になっていて、壁の存在には気づけていなかったみたいだ。

「勝負あり、かな。」

「ええ、そうですね。 まいりました……。」

 とりあえず、まず一本取ることができた。偶然とはいえ、結構うまくいったものだ。

「すっかり神奈和君の攻撃に集中してしまい、周りの状況に意識を向けるということを失念していました。 お見事です。」

「いや、今のはたまたまうまくいっただけかな。 正直、少し反応が遅れていたら、負けていたのは俺の方だったし。 結構冷や冷やする場面多かったからなぁ。」

「それでも、反応できたのですから、やはり流石ですよ。 私も、もう少しいろいろな点に意識を向けることができればいいんですけどね。 昔からずっと治らないままで。」

「そうなんだ。 まぁ、複数のことに集中するのって結構難しいよな。 戦闘以外でもたまに思うよ。 ノートテイクしながら教員の話も聞きつつ、テキストも読まないといけないっていうね。」

 天留さんの言葉に、俺はついうんうんと頷いてしまう。実を言うと、俺も複数のことに意識を向けるのはあまり得意ではないのでな。

 だから、天留さんの気持ちがよくわかるような気がした。

「そうですよね! 難しいですよね! 私も、常日頃から思ってます。」

 あ、あれ?なんか、天留さんがやけに食い気味なような……。まぁ、いいか。

「えっと、どうする? もう何本かやる?」

「お願いできますか?」

「もちろんだとも。 うまく複数に意識を向けるいい方法、見つけてみよう。」

「ありがとうございますっ!!」

 そんなわけで俺と天留さんは、このあともひたすら打ち合った。時間が許す限り何度でも、って感じだったので、もう何本やったかは数えていなかった。

 勝敗は、大体五分五分といったところかな。普段刀は扱わない俺だけど、非常に充実した訓練だったことは間違いない。

「ふぅ、今日は付き合っていただき、ありがとうございました。」

「こっちも楽しかったから、気にしないでいいよ。」

「にしても、やはり難しいですね。 少しずつ感覚はつかめてきましたけど、まだまだ道のりは遠そうです。」

「でも、大きな一歩前進になったかもな。 力になれたみたいならよかったよ。」

 というわけで、俺は天留さんから木刀を受け取り、もとあった倉庫へと戻しに行った。

 そして、元の場所へと戻る。

「あの、神奈和君。」

「ん? どうした?」

「また機会があったら、訓練にお付き合いいただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ、それなら喜んで。 ペア訓練でこんなに充実していたのは、天留さんが初めてだと思うしね。 こちらこそ、またよろしく頼むよ。」

 お世辞抜きで本当に楽しかった。今回のペアが天留さんでよかった。

 そんなこんなで授業終了の時間になり、教員の号令で解散となった。

 願わくば、次のペア訓練もこれだけ充実したものになってほしいものである。更衣室で着替えを済ませながら、そんなことを考える俺なのであった。

 

 

 訓練室を後にし、俺は教室に戻ってきた。

 今の戦闘実習で今日の講義はすべて終わりだ。これ以上学校にいても、特にやることもないからさっさと帰ってしまおう。

「あ、神奈和君。 先ほどはありがとうございました。」

「ん? ああ、お疲れさま。 こちらこそありがとな。」

 背後から天留さんが声をかけてきた。ちょうどいま、教室に戻ってきたようだ。

「これからお帰りですか?」

「ああ。 もう授業は終わったからね。」

「寮はどちらで?」

 沖月敷地内には学生寮があり、沖月の学生の大多数は子の学生寮に入寮している。寮は東棟と西棟に分かれており、それぞれ9部屋のアパートがいくつも連なっている創りになっている。

 先ほど、学生の大多数といったが、寮に入っていない人もいる。全寮制というわけではないから、月銀島内に実家がある人は、そこから直接沖月に通っていたりする。

 まぁ、俺は入寮しているわけだけれども。

「えっと、西棟7番寮だよ。 俺一人しかいないんだよね、あそこ。」

 入寮当時からずっとそうなのだ。4年もの間、寮内で他の学生の顔を見かけたことがない。というか、うちのところには入寮者リストとかも配られたことがない。他の寮の学生には配られているようだけど。

 だから、恐らく俺一人なのだろう。

「えっ……。」

 天留さんが絶句してる……。何故だろう?

「西棟……7番ですか……? 言い間違いでなく……。」

「えっと、うん。 そうだけど……。 どうして……?」

 なんかまた俺、フラグ建築やらかしていたのか?いやいや、まさかな。だって、物音ひとつ聞こえてこないんだぜ?そんなバカな話、あるわけないだろう。

「えっとですね……、いないと思っていたはずの同寮生がすぐ目の前にいたことに、私今ものすごく驚いてます……。」

「……マジデスカ……。」

 やっぱりフラグ縦まくっていたらしい。なんてこったい。

「あ、天留さんも、西7? それホント!?」

「え、ええ。 間違いありません……。 い、いつから西7に?」

「入学当時から、です……。 中等部の。 そっちは?」

「お、同じく……。」

 いや、マジでどういうことだよっ!!ずっといないものだと思い込んでいた同寮者が、本当は存在していただと!?にわかには信じ難い……。

 けど、天留さんが嘘を吐くような人には見えない。きっと紛れもない真実なのだろう。いやぁ、そんなことがあり得るものなんだなぁ……。

「と、とにかく、同じく西棟7番寮に住んでます、天留未来です。 今後とも、よろしくお願いします?」

「う、うん。 よ、よろし……く……?」

 なんとも微妙な挨拶となってしまった。でも、そっか。一人ではなかったんだな、俺。

 って、いやいやいやっ!!ちょっと待てよっ!!

「同寮者がいたんなら、何故うちのところにリストが配られなかったんだよ!?」

 思わずツッコミを入れてしまう。

「あ、確かにそうですよね。 他のところにはちゃんと配られているのに、私たちのところにはありませんよね。 ひとりしかいないから……、と思ってましたけど、神奈和君もいるなら、配られるのがふつうなはずなのに……。」

「これは……、言っておいたほうがよさそうだなぁ……。 今度、学長にはちゃんと伝えておくよ。」

「わ、わかりました。」

 うむ、これでひとまずは解決……ということでいいのだろうか?

「天留さーん!!」

 と、そこで、天留さんを呼ぶ声が聞こえた。そちらのほうへと振り向いてみる。

「今日の日誌、どっちが書く……、って、か、神奈和くんっ!?」

 小瀬戸さんだった。てか、俺を見て驚いてらっしゃる。

 やはり、そんなに怖いのだろうか……。それとも、男子恐怖症?

「あ、お疲れさま、小瀬戸さん。」

 とりあえず、簡単な挨拶だけしておくことにした。なるべく優しい声を心掛けたぞ。

「ひゃうっ……。 お、お疲れ様です……。」

 小瀬戸さんはうつむきながら、今にも消え入りそうなか細い声で返事をした。ちゃんと返事はしてくれるあたり、律儀なのだろう。

「今日は私が書きますね。 昨日は小瀬戸さんに書いてもらったわけですし。」

「あ、うん。 それじゃあ、お願いできるかな。」

「はい。」

 天留さんが小瀬戸さんから日誌を受け取る。つくづく一般校みたいだなぁ、日誌とか。

「二人はクラス委員何だっけ?」

「ええ、そうですよ。 とは言っても、やることなんてほとんどないんですけどね。」

「え、えっと、でも、今日は金曜日だから、最後に教室の掃除とか……しないといけないんだよね。」

「掃除もやるの? 知らんかった。」

 そうだったのか、もう少し興味を持つべきだな、これは。

「「時間あるし、俺も手伝おうか?」

 ちょっとした後ろめたさを感じた俺は、そんな提案をしてみる。

「そ、そんな、悪いよ! クラス委員も、好きでやってるだけなんだし。 そ、それに……」

「それに……、どうしたの?」

「えっ!? あっ、う、ううん!! なんでもないのっ!! き、気にしないで……。」

 小瀬戸さんがわたわたしながら首をぶんぶんと横に振る。なんか可愛い。

「はい、日誌書き終わりました。」

「は、早かったね……。」

「そこまで書くこと多くないので。 それで神奈和君、お手伝いの件なのですが、もしよろしければお手伝いしていただけないでしょうか? 気持ち的には、私も小瀬戸さんと同じなのですが、何分今日はこの後執補会の集まりが入っていまして……。」

「そうなんだ。 もちろんいいよ。 言い出したのは俺だし、結局帰っても特にやることないから。」

「本当、いろいろとありがとうございます。」

 天留さんがペコリと頭を下げてくる。俺は、気にしなくていいとばかりに手を横に振ってみせる。

「というか、天留さんって執補会だったんだ。」

「はい、そうなんです。 以前から、神奈和君のお話は木乃瀬さんたちから伺ってます。」

「あはは、そうなんだ。 ろくなこと喋ってなさそうだ。」

「そんなことありませんよ。 それに木乃瀬さん、神奈和君のことを話す時が一番楽しそうですしね。」

 フフッと笑って見せる天留さん。

 話してみて思ったけど、天留さんって結構話しやすい。

「っと、そろそろ掃除、始めてしまいましょうか。」

「そ、そうだね。 ご、ごめんね、神奈和くん、手伝わせちゃって。」

「本当にすみません。 時間になるまでは私も責務を果たしますので。」

「いやホント、気にしなくていいから。」

 まぁ、こういうのも悪くないだろ。友人たちが見たら、俺らしくないとか言い出しそうだけどな。

 というわけで、俺たち3人は誰もいなくなった教室内の掃除に取り掛かるのであった。


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