天空(そら)の彼方に響く旋律 -穢れた七世界の中で生き抜く戦士達-   作:室谷 竜司

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Episode7. やめてっ!! レンくんのマインドライフはもう0よ!

 ワタシが脱衣所を出てリビングに戻ると、レンくんはソファに座りながら自分のスマホを捜査していた。

「お風呂、いただきました。」

「ん、あがったか。 って……、それは……。」

ワタシの声に、レンくんが振り向く。その瞬間、レンくんの視線が泳ぐのが分かった。心無し、顔も赤い気がする。

「や、やっぱりでかすぎたか……。 それと、ズボンは……?」

「ちょっとおっきかったから、下にタオル巻いて、その上からシャツを着ることにしたよ。 せっかく貸してくれたのに、ごめんね。」

「そ、それは気にしなくていいんだが……、うーむ、ま、まあいいか。」

 レンくんはワタシから目線を外したまま何やら頷いていた。も、もしかして、照れてくれてるのかな?だとしたら、なんか嬉しいな。

 それに、ちょっとした悪戯心が顔を覗かせる。は、恥ずかしくはあるけど、ちょっとからかってみようかな。

 ワタシはレンくんのもとに近づき、前かがみになって下からレンくんの顔を見上げる。

「どうして目線外すの?」

「ちょっ……、おまっ……。 近っ……!?」

「顔、真っ赤だよ?」

 照れてるレンくん、すっごく可愛いなぁ。でもこれ、結構恥ずかしい。自分からやっていて言うのも変な話かもだけど、レンくんに負けないくらいワタシの顔も真っ赤になってる気がするよ。

 で、でも、ここまでやったんだから、後には引けないよね。

「もしかして、ワタシの格好を、い、意識しちゃってたり?」

 思わずどもっちゃった……。やっぱり、恥ずかしさには抗えないかな。

「か、彼方だって……、赤面してんじゃねえか……。 は、恥ずかしいならやめとけよ……。」

「は、恥ずかしくなんてないもん。」

 バレバレだとは思うけど、それでも強がってしまう。こ、ここでひいたら、負けを認めたも同然。ワ、ワタシは負けないもんっ!

 数秒間、ワタシたちは見つめあう。

 けど、やがて耐え切れなくなったレンくんが、唐突にソファから立ち上がる。

「お、俺、風呂入ってくるわっ!!」

 それだけ言い残して、レンくんはドタバタとリビングから出て行ってしまった。

 やった、ワタシの勝ちだね、なんて思ったのも束の間、ワタシは先ほどの自分の行動の痴女っぷりに一人で身もだえしてしまう。

 うぅ、慣れないことはやるもんじゃないね……。後になって、異様なまでの恥ずかしさがこみ上げてくる。というか、さっきもこんなことやって自己嫌悪に陥ったばっかりだよね……?ワタシ、学習能力なさすぎだよ……。

 数度、ワタシは深呼吸をして、高鳴る鼓動を落ち着ける。

「はぁ、うん、落ち着いたかな。」

 というわけで、ワタシは改めてリビングを一瞥してみた。あんまり褒められる行動でないことは百も承知だけど、ほら……ね?気になる人のお部屋って、妙に気になってしまうものみたいだし。

「ふわぁ……。」

 つい、そんな感嘆の声が漏れてしまう。それほど、リビングの仲は綺麗だった。きっと、こまめにお掃除とかしてるんだろうなぁ。

 ワタシの中で、レンくんの株がさらに上がってしまう。これ、限界値とかあるのかな?ううん、きっとないよ。そんな気がする。

「あっ……。」

 と、そこでワタシは、ソファの上に置きっぱなしになっているスマホの存在に気付く。これがレンくんがいつも使っているスマホなんだね。

 シンプルな黒のカバーに収められているそのスマホは、先ほどまでいじっていたのか、画面がつけっぱなしになっていた。

「だ、誰かとやり取りしてたのかなぁ……?」

 どうしても、それが気になってしまう。お友達かな?それともご家族?って、レンくんにはご家族いらっしゃるのかな?ワタシと同じって言っていたけど、その辺りは違うのかな?で、でも、流石にこれはそう易々と聞いていい内容じゃないもんね。

 で、でも、気になる……。も、もしレンくんに、その……こ、恋人……とか……、いたらどうしよう……。やっぱり、レンくんくらい優しくてカッコいい人だったら、彼女さんくらいいそう……だよね……。ワタシが入り込む隙間なんてきっとないんだよね……。

 それでも……、ううん……。自分の心に嘘を吐くのはやめよう。

 正直、恋人なんていてほしくないよ。この気持ちをすぐに捨てないといけない、なんてのは嫌だよ……。ワタシの胸がきゅっと締め付けられる。

「ごめんね……、レンくん……。」

 ワタシは、ここにはいないレンくんに謝罪の言葉を言ってから、レンくんのスマホを手に取る。そ、そもそも、点けっぱなしにしていたのはレ、レンくんだもんね。

 そして、恐る恐る画面に視線を向けてみる。

 すると、そこにはトークルーム一覧が表示されていた。その一番上には、女の子と思しき名前が表示されており、ワタシの心がドクンと跳ねる。

 え、う、嘘……だよね……。これ、もしかして、レンくんの彼女さん……、だったりするのかな……?

「うわぁんっ!! き、気になるよぉっ!!」

 ワタシは頭を抱えてしまう。

 それから、レンくんがお風呂から上がってくるまでの間、ワタシはモヤモヤした気持ちを抱えたまま、気が気でない時間を過ごしていた。

 

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 俺はソファから立ち上がり、颯爽とリビングから逃げ出した。ま、まずい……、なんか変な雰囲気になってきてしまった……。あ、あのままあそこにいたら、俺の頭がどうにかなっちまいそうだった。

「彼方……、あいつよくわからん……。」

 何故、あんなに赤面しているのに、あそこまで頑なに俺に色仕掛け的なことをしてくるんだろう……。あの子にとっては、あれでも普通のやり取り……だったのか?いやいや、そんなバカな……。そしたら、あんな恥ずかしいっていう感情は出てこないはずだ……。……考えても答えは出なさそうだな。あー、止めだ、止め。

 とりあえず、今はこの磯臭い身体をどうにかしたい。

 そんなわけで俺は、寝室から寝間着一式を持ち、風呂場に直行した。

 って、彼方をリビングに一人にさせてしまっていいのだろうか……。まぁ、俺がすぐ風呂から上がればいいだけの話か。んじゃ、ちゃっちゃと入ってしまいますかね。

「よっと……。 って、あー……。 洗濯物、どうしようか……。 流石に彼方のと俺のを一緒に洗うのはなぁ……。」

 いつもの癖で、俺は脱いだ服を洗濯機の中に突っ込もうとして、寸でのところでその手を止める。そして、数秒の思案の後、俺は洗濯機のわきに自分の脱いだ服一式をまとめた。やっぱり、見ず知らずの男の服とと一緒に現れるのは嫌だろうしな

「さてと……。」

 浴室に足を踏み入れ、俺は思わず硬直。あれ……、俺の部屋の風炉……、こんなにいい匂いしたっけか?彼方……というか、女ってすごいなぁ……。

 ふと俺は、先ほどの光景を思い出してしまう……。

 海から引き揚げた時の彼方のフルオープン、タオルを置きに脱衣所にやってきたときの彼方との遭遇……というか飛び出してきたやつ、それから今さっきの至近距離での下から覗き込み……。って……、俺は何を思い出してるんだよっ!?

 抱き着かれる前、一瞬だけどいろいろと見えてしまった……。それに、柔らかかった……。理性を保ち続けるのが辛かった……。あれだよな……、彼方って身長のわりにでかい……よな……。って、何考えてんだよ、俺は……。

「はぁ……、これだから男は……。」

 チラリと視線を下に落としながら、俺は深く嘆息した。

 あと、これは単純に驚いた話なのだが、先天性リージェリストの色素変動は身体全体に及んでいるらしかった。詳しく話はしないけど。頭だけじゃない、ってことだけ伝わればいいかな。

 いかんいかん、さっきから施行がそっち方面ばかりだ。きっと、この匂いが原因だろう。早く風呂から上がってしまわねばな。

 俺は急いで前進を洗体し、少し湯船につかってからすぐに浴室を出た。

 そして、身体をタオルで拭い、服を着てリビングへと戻る。っとと、その前に、洗濯機を回しておかなければな。

「これでよし。 ポチっとな。」

 洗剤を適量入れ、洗濯機の設定ボタンをいじってからスタートボタンを押す。

 ふぅ、ようやくこの空間から解放される……。

 というわけで俺は、彼方の松リビングへと戻っていった。

 

 リビングの扉を開けると、そこには何やら神妙な面持ちの彼方がいた。さっきとテンションが全く違う……。やはり、少しの時間でも心細くなってしまったのだろうか……?心のケアって難しいなぁ……。

 ひとまず俺は、彼方に近づいてみることにした。

「おーい、どうした、彼方?」

 声をかけると、彼方は俺をじっと見つめてくる。な、何だろう……。すごくむず痒い。至近距離で異性に見つめられた経験なんて皆無なので、どうしても緊張するなぁ。いや、ピュアで悪かったな……。

「ど、どうした……?」

「レンくん、一つ、お聞きしたいことがあります。」

「は、はい、何でしょう?」

 彼方が改まった口調で話を切り出してきた。俺もつられて改まってしまった。

「その……、あの……。」

 と思ったら、急にどもり始めた……。一体何があったのだろうか?

 とりあえず俺は、彼方を急かすことはせず、ゆっくりと彼方が落ち着いて話を切り出すのを待った。

「えっとね、か、彼女……って、い、いるのかなって……、思っちゃって……。」

「……はい?」

 思わず間抜けな声が漏れる。彼女がいるかどうか……、ですか……。

 何というか、肩透かしを食らった感じだ。改まって言うのもなんか違う気がしたが、まぁ聞かれたことに答えるのは常識化。

「い、いないです。 万年彼女無しです……。」

「そ、そうなのっ!?」

 あれ、なんかものすごく驚かれてる?驚くほどのことでもないと思うんだけど……。

「は、はい。 いたことは愚か、告白すらされたことない民ですが……。」

 うん、これ改めて言うと悲しくなってくるやつだ。くっ、お、俺だって……、恋愛経験とかしてみたいんだよぉっ!!だ、だけど、周りにいい感じの異性なんてほとんどいないんだよぉっ!!

 愛葉?ミア?……ちょっと、何言ってるかわからないですね。あの二人は、異性としてもはや意識すらしていないです、はい。

「そ、そっかそっか、そうなんだ。 ふぅん。」

 彼方が「なるほど」とでも言うようにふむふむと頷いていらっしゃる。こんなことを知って、一体何になるのかはわからないけど、彼方の様子が元に戻ったようだったので、まぁいっか。でもまぁ、一応聞いてみるか。

「えっと、ちなみにどうしてそれを聞いたの?」

「ふえっ!? あ、え、えっと、その……、そ、そうそう、彼女さんがいるのにワタシがレンくんの部屋に上がっていいのかなって気になって……。」

「ああ、そういうことね。 平気平気。 もし仮に、俺に恋人がいたとしても、それはそれとして彼方は助けていたと思うよ。 大丈夫、追い出したりなんてしないから。」

「レンくん……、うん。 ありがとう。」

 なんか、妙に嬉しそう?よくわからないです。女の子の心はミステリーって、ホントよく言ったものだよ。今なら、この言葉に納得できてしまえそうだ。

 と、その瞬間、俺のスマホが通知恩を発した。おっと、誰かから連絡かな?

 俺はソファに近づき、スマホを手に取る。って、つけっぱなしだったのか。消すのを忘れてしまったか。まぁ、いいんだけど。別に見られて困るものもないし。

「って、あれ? 小瀬戸さんからだ。 どうしたんだろ。」

 連絡の相手は小瀬戸さんだった。てっきり、さっきまで会話していた愛葉かと思ったんだが、そうじゃなかったみたいだ。

 俺は小瀬戸さんとのトークルームを開いて、中身を確認してみた。

ー夜分遅くにごめんなさい。小雪です。

 そんな前置きから始まっていた。やっぱり律儀だな。

ー連絡するか迷っちゃったんだけど、一応しておくね。 今日、お父さんとお母さんから許可もらえたから、明日には西7寮に移れそう。 荷物もあらかたまとまったし。 だから、明日からよろしくね。 えっと、以上です、おやすみなさい。

 ふむ、なるほど。小瀬戸さんが明日からここに来るわけだな。

 俺は「了解。」と一言送った後、ふと思いついたので、小瀬戸さんに確認してみることにした。

ー荷物多そうだし、迎えに行こうか? 荷物持ちくらいならできるよ。

 すると、既読がすぐに付いた。そして、返信も早かった。

ーそ、そんな、それは悪いよ!! ケース一つにまとめられたし、わたし一人で平気だと思う。 実はね、もうほとんどの家具は寮の部屋に置いてあるんだ。

ーそうなんだ。 いらない世話だったね。 ごめん。

ーそんなことないよっ!! 気遣ってくれて嬉しかったよ!! 神奈和くんって優しいんだね。

ーいやいや、そんなことないって。 じゃあ、また何かあったら連絡して。 いつでも力になるから。

ーうん。 それじゃあそうするね。

ーはいよ。 んじゃ、改めておやすみなさい。

ーおやすみー!

 一連のやり取りが終わり、俺はスマホを閉じる。所要時間は5分ほど。結構早かった。

「って、ごめんな、彼方。 友人から連絡あって。」

「そ、そうなんだ。 ワタシのことは気にしなくていいからね。」

「そういうわけにもいかないだろ。 それに、流石に腹減ったよな。 そろそろ飯にしよう。」

 そうして俺は、冷蔵庫に入れておいたコンビニの袋を取り出し、中身をテーブルに広げる。まぁ、弁当とかサラダとか、そんなありきたりなものしかないけどな。けど、まぁうまいからいいだろう。

「ちょっと待ってて。 これ、温めてくるから。」

「うん、お願いします。 なんか、レンくんに任せっきりだなぁ。」

「いいのいいの。 それに……」

「それに?」

「い、いや、ごめん。 何でもないんだ。 気にしないでくれ。」

「そう? わかった。」

 いかんいかん、さっき変な思考は取っ払ったはずなのにな……。煩悩退散だ。

 はは……、忘れられるわけないか……。男の宿命だな……。

 そんなわけで、俺と彼方は大分遅めの夕食タイムに興じるのであった。

 

 

「さてと……、寝る場所はどうしようか……。」

 飯を食い終わってある程度の時間が経った後、俺はそう呟いた。予備の布団はあるので、あとは寝る場所の確保だけなんだがな……。

 リビングで寝させた場合、また先ほどみたいに心細さから彼方が泣いてしまわないか、少し不安だった。だからといって、同じ部屋で寝るのはなぁ……。

 天留さんを頼る……というのも、時間帯的にしづらい。それをやるなら、最初からそうしておけよっていう話だしな。うーむ、どうしたものか……。

「え、えっと、レンくん……。」

「ん? どうした?」

 俺の呟きが聞こえていたのか、彼方がおずおずと俺の顔を覗き込んでくる。うーん、なんでだろう。そこはかとなく嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

 俺は内心冷や冷やしながら彼方の言葉を待つ。

「い、一緒に寝てもいい?」

 ほら、やっぱりな。そんなことなんじゃないかと思ったさ。

「それ、本気で言ってる? 一緒の部屋で……、とかそういうことじゃなくて?」

「うん、一緒のお布団で……。 ダメ……かな……?」

「あのな、彼方。 流石に無防備すぎないか? ここ、一応男の部屋なんだよ? 少しは警戒心を持った方がいいと思う。」

「そ、そうかもだけど……、さっきレンくん、今日はワタシのそばにいてくれるって言ってくれたし……。 そ、それに、レ、レンくんだし……、変なことはしないと思う……。 も、もしされて……って、ひゃっ!?」

 流石に彼方は俺を買いかぶりすぎている。俺だって、これでも男なんだ。

 だから、それを思い知らせるために、俺はソファに彼方を押し倒す。そして、あくまで真似事の範疇で、俺は彼方の上に覆いかぶさる。これは、彼方への脅しであって、実際に彼方を襲うつもりはない。というか、そんな度胸、俺にはない。

「流石にナメすぎだよ、彼方……。 そんなだと、ホントに襲われるよ。」

「ワ、ワタシは……レンくんを信じていただけ……だよ……。 そ、それに……、レンくんなら……ワタシは……。」

 あ、あれ……?おかしいな……。思っていた反応と違うんだけど……?なんか、このまま押しきれてしまえそうな雰囲気……。えっ、えっ!?これ、どうすればいいんでしょうか!?経験ゼロの俺にはわからないですよっ!?

 か、神様仏様プレイボーイ様……、何卒俺に……何かご教授を!!

 って、そんな願い、届くわけないだろうがっ!!

 や、やばい……。どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……。頭の仲がどんどん白くなっていく……。

 二人の小さな吐息だけが聞こえる。そ、そして……、何やら風炉でも嗅いだようないい匂いが……。まずい、このままだとマジで理性が崩壊する……。

 くっそ、ホントやらかした……。こんなことするんじゃなかった……。俺の身体は、金縛りでも受けたかのように、硬直し動かなくなってしまっていた。

 彼方も、何も言わずただ俺の瞳をじっと覗き込んでくる。その瞳は潤んでいた。

「「あっ……。」」

 次の瞬間、「ピーっ」という、洗濯物の乾燥が終わったことを知らせる機械音が脱衣所の方から聞こえてきた。あ、危ねぇ……。マジで助かったわぁ……。

「か、乾燥、終わったみたいだな。」

「え、えっと、うん。 そうみたいだね。」

「じゃあ、取ってくる……、って、いや、下着とかもあるだろうから、自分で取ってもらった方がいいかも。」

「ワ、ワタシは気にしないけどなぁ。」

「俺が気にするんだってば。」

「わかったよ。 それじゃあ、取ってくるね。」

 そう言い残し、彼方はすたすたと脱衣所の方へと歩いて行った。

 彼方がリビングから出ていくや否や、俺は心臓のあたりを抑えて蹲る。

「はぁ……、はぁ……。」

 よ、よかったぁ……。あのまま流れに任せていたら……、どうなっていたことだろう……。確かに、彼方みたいな美少女となら、俺としては喜ばしいことかもしれない。だが、そこに「愛」なんてものはないだろう。それは俺としても、彼方だって嫌なはずだ。彼方には、ちゃんと自分がいいなと思えるような相手と結ばれてほしい。そして、幸せになってほしい。きっと、俺なんかよりずっといい。

「俺も、ちゃんと相手を見つけないとなぁ……。」

 しみじみと思う俺だった。

 

「取ってきたよー。 うん、ちゃんと綺麗になってる。 ありがとね、レンくん。」

「あいよ。 って……、せっかく洗濯終わったんだし、それ着なよ……。」

「えー、レンくんのこの服、楽なんだもん。」

「だからさぁ……、そういうのが無防備なんだってば……。」

 大きなため息をつきながら、俺は彼方にそう指摘する。

「レ、レンくん以外の人の前じゃ、こんなことしないもん……。」

「はい? それってどういう……」

「な、何でもないのっ!! き、気にしないでっ!!」

「は、はい……。」

 そういわれてしまっては、それ以上追及するわけにもいかない。俺は押し黙る。

「そ、それで、寝る場所だったよね……。 えっと、やっぱりレンくんと一緒がいい、かな……。 やっぱり寂しいし。」

「はぁ、約束だもんな……。 しゃーない、今日だけだぞ。」

「うん!」

 ったく、俺の気持ちも知らないで……。とは思いつつも、俺は決して怒ったりはしていない。なんだかんだ、彼方と入れるのは楽しいからな。

 まぁ、一つ問題点があるといえば、明日寝不足になってそうだということくらいなものか。

 というわけで、俺たち二人は寝る支度を済ませて、俺の寝室へと向かった。

 彼方は、自分の服に着替えることなく……。

 

「よいせっと。 ほら、こっち来な。」

 俺はベッドに潜り、彼方をその隣に促す。彼方は、やけに嬉しそうにしながら、俺の隣に寝転がる。くそっ、可愛いな、此畜生……。

 なんというか、小動物みたいだな。

 と言いますか……、近くないですかね?彼方さん。

 ここだけ見たら、きっと恋人みたいなんだろうなぁ……。それか、兄妹か。

「えいっ……!」

「ちょっ、何を!?」

 彼方が俺にしがみついてくる。

「えへへ、レンくんあったかーい。」

「ったく……、ほら、もう寝るぞ。」

 俺は彼方に背を向ける。それでも彼方は、俺から離れなかった。やっぱり、不安なんだろうな。彼方の心が少しでも安らぐのならまぁこれでいいか。理性的には、ちょっと危ないけどな。

 だ、だって、背中にその……、柔らかい何かが……。うん、気にしないようにしよう。煩悩退散、煩悩退散だっ!!!

「おやすみなさい、レンくん。 今日はホントにありがとう。」

「いいよ。 じゃ、おやすみ。」

 俺は目を閉じて、眠りについた。

 えっ?いやまぁ、結局寝不足にはなったんですけどね。


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