とある■■の幻想殺し   作:イニシエヲタクモドキ

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一方通行

翔馬視点

コンテナの間を抜け、比較的広いところに出た。

「…この場合、実験ってのはどォなっちまうンだ?」

俺の視界に映る一方通行は、ミサカの頭部を踏みつけにした状態で、ただ一言そう言った。

「……」

その光景は、俺をキレさせるのに充分だった。

「……離れろよ」

「あァ?」

「ミサカから離れろって言ってんだよ、一方通行」

声が震えるのも気にせずに、一方通行を睨みつけながら言う。

「……オイ、ミサカってのはテメェのオリジナルの名前だよなァ?なンでアイツが知ってンだ?まさか関係ねェ一般人に協力でも求めたってのかァ?冗ォ談じゃ」

「…離れろって言ってんだろうがこのセロリ野郎がッ!!」

俺から目を逸らし、ミサカを蹴りつけながら興ざめしたと言うように文句を垂れる一方通行に、俺の堪忍袋は破裂した。

一瞬で一方通行の眼前に迫り、防御の隙を与えずに右手で殴り飛ばす。

渾身のアッパーカットが炸裂し、一方通行をコンテナに叩きつけた。

「大丈夫か!?」

地面に倒れ伏しているミサカを起こし、肩をゆする。

最初は反応が無かったが、ゆっくりと目を開いて俺の顔を視認すると、瞳を驚愕の色に染めた。

「…な、ぜ…貴方がここにいるのですか、とミサカは…」

「お前を助けに来た。詳しい説明はまぁ…御坂にでも聞いてくれ」

お姫様抱っこでミサカを抱え、俺を追ってきた御坂に渡す。

「……い、今アンタ」

「そういうのは後だ。あの程度で一方通行が止まるわけがねぇ」

御坂の言葉を遮り、再び一方通行の方を向く。

もう一方通行は立ち上がっており、信じられないものを見た、という目でこちらを睨みつけていた。

「……なン、だ?どォして俺の反射が効かねェ?」

「いーや、確かに効いてたぜ。事実俺の攻撃力がかなり軽減されたらしいしな」

軽く返したが、その実内心ではかなり動揺していた。

…おかしい、幻想殺しで殴りつけたから、ダメージは全部通っていくはずなんだが…

自分の攻撃のダメージの一部を受けた右手を気にしつつ、余裕さを演じながら一方通行に近寄る。

「……それで?大体の事情は知っているが…お前から話を聞きてぇな」

「…まるで知り合いみてェな口ぶりだが…オマエ、ナニサマ?」

「お前の親友だ」

はっきりと言い切った俺に、一瞬呆けた顔をした一方通行は、高笑いし始めた。

「…面白ェ冗談だなァオイ。俺はオマエなんか知らねェぞ?」

「…だろうな。やっぱり二重人格か」

「チッ、そういう事かよ…()()()の方の…面倒くせェ」

続く俺の言葉に、一方通行は何かを理解したのか気だるげな表情を作った。

「……オイ、一回だけチャンスをやるよ。()()()の知り合いだってンなら少しは情けくらいかけてやる………失せろ、三下」

「……調子乗ってんじゃねぇよ。俺に殴られてビビってたくせに―――」

「死ね」

俺の挑発が言い終わる前に、一方通行は足元を蹴りつけた。

その次の瞬間、俺の足元が爆発した。

「ぐぁッ!?」

砂利が全身を叩き、肺の空気を体内から押し出した。

咳き込む俺に目をくれることなく、レールの前まで行った一方通行は、いつもの一方通行の物とは違う気色の悪い笑みを浮かべ、レールを足で小突いた。

甲高い音を響かせながら変形し、立ち上がっていくレール。

それは、一方通行が指を軽く俺の方に向けて動かしたと同時に俺に襲い掛かってきた。

「ぅ、あぁあああああああ!!」

声を張り上げて無理矢理体を動かし、レールを避け、叩き、逸らす。

避けきったと思えば、一方通行はコンテナをこちらに蹴り飛ばしてくる。

「シッ!!」

息を吐くのと同時にコンテナの面を殴りつける。

殴りつけたところを中心にして凹んだコンテナは、一方通行の真横を通り過ぎ、中身の小麦粉をばら撒いた。

「……身体能力強化系の能力者かァ?」

「まっさか、ただの筋トレだ」

「なンだそりゃ」

真面目に答えていないと受け取ったのか、軽く聞き流した一方通行は、視界を悪くさせている小麦粉を一瞥して笑った。

「なァ三下…さっきの死にぞこないも言ってたが、今日は風がねェよなァ…」

「……お前まさか」

「粉塵爆発、って知ってるかァ?」

愉快そうに放たれた一方通行の言葉に戦慄し、すぐさま小麦粉が浮遊している空間を離脱。

俺が小麦粉の漂う場所から離脱するのと同時に、一方通行がコンテナとコンテナをぶつけ、火花を散らせて発火させた。

「ッ!!」

咄嗟に顔を腕で庇ったが、全身を熱気が襲ってきた。

「…今のは火傷しちまったな…」

夏場だからと言って半袖でいたのが仇となったか。

爆炎の中からゆっくりとこちらに向かってきている一方通行を睥睨しつつ、拳を握って開く。

…試してみるか、対一方通行用の戦闘術。

「そォだった…俺だって酸素奪われるとキツいンだっつーの…こりゃ核を撃っても大丈夫ってキャッチコピーは訂正が必要かもなァ?」

「…」

世間話でもするように言ってきた一方通行を睨みつけながら、如何にして攻撃射程内に迫るかを考える。

いくら近づこうにも、俺が近くに行けば砂利が全身を襲ってくる…

だが、一応勝機はある。

アイツの口ぶりだと、俺の事を全く知らないらしい。

…この右手(イマジンブレイカー)の事も。

不用意にこちらに寄ってくるタイミングを、狙う。

「……もォいいや、オマエ…最初攻撃が入ったのは俺が慢心しすぎたってとこだろ…てなわけで終わらせてやるよォ!!」

そういうと、前屈姿勢を取り、右手と左手を開いた一方通行。

「好きな方を選べよ、どっちかに触れるだけで血流とか生体電気とかを滅茶苦茶にして死なせられるからよォ…オマエ、充分頑張ったから選ばせてやるよ……右か?左か?……両方かァ!?」

笑いながら俺のすぐそばまで手を伸ばして近づいてきた一方通行に、俺は…

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一方通行視点

…?

??

!!!??

おかしい、なンでだ!?

なンで俺は呑気に月なんか見てンだ!?

「どうした一方通行、二発ダウンなんてバカみてえなこと言わねぇよな?」

二発……ダウン!?

ダウンだと!?

この俺が、またやられたってのか!?

俺は学園都市第一位なンだぞ!?

「………オイ、何しやがった?」

「…どういうことだ?」

「…今俺に何したか聞いてんだよ答えやがれ三下ァ!!」

目の前の雑魚に迫る。

先程詰めたはずの距離が、戻されているという異常さを感じないように叫びながら。

「こうしたんだよ!!」

そう答えながらアイツが右手を振るうと、俺は顔面に痛みを感じると同時に後方へ吹き飛ばされた。

……攻撃が、当たった…?

ダメージが、入ったってのか?

この、俺に…?

「ふ…っざけてンじゃねェぞ!!三下がァアアアアア!!」

「ふざけてんのは……テメェだあああああああ!!」

俺の右手を掴み勢いを殺した三下は、無防備になった俺の鳩尾を勢いよく殴りつけた。

「ご、がァっ!?」

胃液を吐きながら、地面に叩きつけられる。

今まで感じたことのない感覚に、思考がぐちゃぐちゃになる。

アイツは、何者だ…?

「いい加減失せろ偽者、本当の…いつもの一方通行を返しやがれ」

「…俺が、偽者だァ…?」

疑問まみれで混乱しきっていた脳内が、目の前の三下(強敵)の言葉でクリアになる。

それと同時に、途切れ途切れの記憶がフラッシュバックした。

『この…ッ!化け物がァ!!』

無能力の不良は、捨て台詞を吐きながら俺にバールを振るって…反射の影響で、自分の脳天をつぶして死んだ。

『これより対象に攻撃を開始する!!』

軍隊みてェな奴等が、俺に銃弾を躊躇いなく撃ってきた。

戦車の大砲が俺を襲ってきた。

『ひ、ひぃッ…来ないでっ!!』

不良に絡まれていた女子生徒を、()()()()()()()()()()()()()助けてやったら、泣きながら礼も言わずに逃げていった。

『いい加減失せろ()()

目の前のアイツは、俺を偽物と呼んだ。

……どォしてだ?

俺が一体、何をした?

俺は俺だってのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

いや、もう一人の方が俺という存在を作った理由からして、こうなるのは仕方なかった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それが俺が生まれてすぐに求められた事だった。

俺はソレがわかっていたから、どンだけ辛くても耐えてきた。

()()()()()。アイツは偽者だと言って捨てやがった…!!

「吠えてンじゃねェぞ……三下ァ!!」

先程よりも速く、正確にアイツに迫る。

攻撃が当たっても大丈夫だって考えは捨てて、回避しつつ確実に殺す。

何発か当てなきゃ俺を倒せねぇアイツと違って、俺は一瞬でも触れれば十分なんだからよォ…!!

「ッラァ!!」

なのに…!

「フッッッ!!」

どォして…!

「終わりだぁああああ!!」

アイツに攻撃は当たらねェのに、こっちは全部当たってンだよ…!?

アイツの攻撃が再三俺の顔面を捉えたのを感じた次の瞬間には、地面に叩きつけられていた。

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美琴視点

「…すごい、アイツ…あの一方通行を、圧倒して…」

「しょ、翔馬って何者なワケ…?」

二人が戦っているところを遠巻きに眺める。

アイツは最初こそやられていたが、一方通行が迫った瞬間に鬼気迫る連撃を始め、一方通行を押し始めた。

「……これは一体どういう事なんですか、とミサカはお姉様に事情の説明を要求します」

「……ただアイツがこの実験について知って、いつも通りお節介してるだけよ」

実際はそういうわけではない。だが、正確に話そうにも、どうやって話せばいいのか分からなかった。

「……彼は、どうして私なんかのために…とミサカは」

「なぁ一方通行…どうしてこんな実験に参加した?」

私への質問を遮るように、アイツが口を開いた。

地面に倒れこんで動かない一方通行を気遣うような雰囲気を見せながら、アイツは淡々と聞いていた。

「ミサカだって、生きてんだよ。アイツらなりに、生きてた。一人一人違って……なんつーか、こういう言い方はアレだけど、確かに()って感じがした」

「……人、か…?あの、ただの出来損ないのクズ人形が…?」

「それは違う。出来損ないなんてあるはずがない………皆、生きてんだよ。……なぁ、俺が今までいろんな事件にかかわってきたことは知ってるよな?」

「……あァ、この実験を受けるって()()()()()()()のも、そういう事情があったからだなァ」

アイツは一方通行の言葉に少し顔を歪めて、すぐに話をつづけた。

「俺がかかわってきた事件の中にはさ、クローンの女の子が絡んでる事件があったんだ……才人工房(クローンドリー)って言ってな。元々違う目的があったんだが…まぁそれはいいか。とにかく俺が言いたいのは…なんだ、クローンだからって人じゃないって訳じゃなくて……あー…駄目だ。こういう時にすらすら言えねぇ」

困ったように笑ったアイツに、少し、ほんの少しドキッとした。

…アイツのあんな顔、見たことない…

「まぁ、なんだ?お前にだって何か理由があったんだってことはわかる。だからって、それで誰かが傷つくなんて…まして死ぬなんてあっちゃだめだ」

「…………」

「お前がまだ立ち上がれる程度のダメージしか受けてねぇってのはわかってる。そうなるように加減したからな。だが……もしまだ実験を続けるってんなら構えな。俺はお前が何かのためにミサカを犠牲にするように、俺はミサカのためにお前を犠牲にする……つっても、気絶させるだけだがな」

軽く、本当に軽く笑いながら、アイツは言い切った。

…駄目だ。私じゃなくてこの子に言ってるはずなのに…ミサカって言ってるはずなのに、御坂って言われてるみたいで……

「顔が、真っ赤ですよ?とミサカはお姉様にブーメラン発言をします」

「……アンタも、真っ赤じゃない」

緊迫した状況だというのに、緩んだ雰囲気の空間を作ってしまっている私たちをアイテム(確かあの金髪の奴がそう言ってたはず)のメンバーが睨んでくる。

…なんか、嫉妬心が混ざっている気もする。

「………なァ、天城」

「なんだ?一方通行」

三下、と言う呼称ではなく、アイツの名前で呼んだ一方通行に驚愕する。

…本当に、親友だったんだ…

いや、ただの知り合いかもしれないけど。

「……俺がこの実験を受けたのは…オマエ等のためだったンだ」

「……どういうことだ?」

「…最近、変なやつに絡まれることとか、不良に襲われることとか…増えてきてなかったか?」

「…まぁ、な」

思い当たる節があるのか、途切れながらも返答したアイツに、一方通行は申し訳なさそうに続けた。

「アレはよォ……俺を倒して自分が最強だって示したがるバカどもが俺の親友を襲ってマウントをとろォとしたからなンだ」

「…なるほど。俺達を人質にすれば、お前が手出しできないと踏んだわけだ」

「そォ言うことだよ……だから俺は、最強から無敵になろうと思ったンだ。無敵になって、オマエ等を人質に取ってでも勝とうと思えなくなるくらいの絶対的な力を手に入れて…そうして、また心からお前らと笑いたかったんだ」

……り、理由が意外過ぎる……

あの一方通行が、私を嗜虐的な笑みを浮かべながら圧倒してたアイツが、友達のために…?

「……ありがとう。そうやって思ってもらえて…嬉しい。…でもそれだったらなおさらこんなやり方駄目だ」

「……わかってる、わかってンだよ……最近、俺が俺じゃなくなるのが増えてきたンだ。戦ってる時でもねェのに、アイツが()()()()

そう言いながら、一方通行は一人で立ち上がった。

本当に加減してたのね…アイツ。

「…なァ、天城。助けてくれ……俺と、アイツを……止めてくれ」

「…、初めてだな。お前が俺に頼るの………いいぜ。相手してやる…全力で来い、止めて見せる」

「……任せたぜ、三下ァアアアアアアアアアア!!」

アイツに…しょ…翔馬を名前で呼んでいた時の声色と、あの子たちを殺していた時の声色が混ざった叫びをあげて、一方通行は…しょ、翔馬に襲い掛かった。

それに対してアイツは…翔馬は、右手を思い切り振りかぶって…

一方通行の顔を、全力で殴りつけた。

一方通行は成すすべなく地面に叩きつけられ、ここから見てもわかるレベルで意識を手放して…

そして次の瞬間、一方通行が飛び跳ねるように起き上がり、背中から何か黒い物を放出させ、翔馬に黒い翼のような物を叩きつけた。




【あとがき】
思ったこと全部書こうにも、力量不足で不出来。
いつか直しましょう、いつか、ね。

禁書と言えば願いの力、ということで、一方通行その2は一方通行の強い願いが生んだという設定にしました。
まぁありがちなものなのでそんないいものではないのですが。

戦闘描写を書こうにも、そのままじゃ一方通行さん翔馬に馬鹿力でボコされるだけだったので、反射の出力が強すぎて、イノケンティウスのように処理しきれなかったのでダメージが完全に入ったわけではないという無理矢理設定を用意させていただきました。

話の中で軽く触れたクローンドリーについてですが、主人公の過去が関わってくる事件なので、大覇星祭編の回想シーンかどこか(←ここ大事)で話させていただきます。
まぁ強いて言うなら、主人公さんやらかしすぎて、その時に警策看取とも食蜂操祈ともフラグたてて(操祈とはデッドロックの一件でもちゃっかりフラグをたててます)、ドリー生存させて(フラグも立てて)妹もちゃっかり救出してます。
その他の事はいつもの黒い何かが一晩でやってくれました。
…やらかしすぎじゃない?

どうでもいい話ですが、翔馬は上条さんと違ってかっこいいセリフがうまく言えません。許してやってください。

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