私の魔法界紀行(仮)   作:57人目のご飯党員

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三ヶ月も更新せず、まことに申し訳ありません…!
いや忘れてたとかそういうわけじゃないんですよ(震え声)

それもこれもコロナのせいだ…!


朝食事変

起きて、まずアルマの目に飛び込んできたのは紅い天蓋の裏側だった。もちろん天蓋付きのベッドなんてものがアルマの暮らす孤児院にあるはずもない。そんな豪華なベッドはアルマと無縁であるはずのものだ。

 

「…ああ、そうだ。ホグワーツ、か…」

 

呟いたアルマの声は掠れていた。

そう、ここはホグワーツ魔法魔術学校、魔法使いの卵たちの家。この部屋はグリフィンドール寮の部屋で、このベッドは塒である。天蓋と紅いカーテンの付いたベッドはアルマがこの身体になってから使ったことがないくらいにフカフカしていて、眠りに落ちるのに十秒とかからなかったのを覚えている。

 

瞼は重いし、時間はまだ早い。もう少し寝ていてもいい気がするが、ふくろう便のこともある。朝食の場に清潔とは言えないふくろうが舞い込んでくるのは避けたい。

 

仕方なく、布団から出たくない身体をどうにか起こし、授業の準備をさせていく。

 

広々とした5人用の部屋のなかには一人分の荷物と、一人分の家具しかない。

寝間着をグリフィンドールの象徴である赤色のあしらわれた制服に着替え、トランクから革製のショルダーを引っ張り出して、その中に荷物を放り込む。

 

部屋から談話室に降りると早い時間だからか、人っ子一人居らず、ただただ爽やかな朝日が降り注いでいた。談話室にこれと言った用はないので素通りしてアルマは大広間に向かう。

 

昨日監督生の先輩達が大広間からグリフィンドール寮までの行き方を丁寧に教えてくれたお陰で迷うこともなく、大広間に辿り着いた。まだ朝の早い時間だからか、人は疎らだ。頭上にふくろうが旋回している、なんてこともない。生徒が揃っている朝食の時間に郵便物を配達するのが効率的であることは理解できるが、納得は絶対に出来ない。不衛生だし、ふくろうが囓ったトーストなんてアルマは食べる気になれないのだ。

天井は白い雲だけがぽっかりと浮かぶ晴れ模様を写していた。勿論のこと時間が早すぎてふくろうは影も形も無い。

少し迷って、アルマはイチゴジャムをたっぷり塗りたくった焼きたてのトースト、中にチーズの入った三日月型のオムレツ、サクサクのクルトンが入ったシーザーサラダ、コップ一杯の牛乳を朝食に選んだ。因みに七年間のホグワーツでの学校生活において、アルマはほとんど同じ朝食を食べ続けた。後に前世、毎朝彼女の父親が作っていた朝食と献立が酷似している事に気付くのだがそれはまた後ほど。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

少し眩しいくらいの朝日でリリー・エバンズは目を覚ました。昨晩はあまりに疲れてしまい、ベッド周りのカーテンを閉めずにベッドの中に入ったのだ。同じ部屋の中ではモゾモゾと蠢くベッドの住人たちが4人、未だに微睡みの誘惑に勝てずにいた。

リリーはそれらを微睡みから、あるいはベッドから引き摺り出し、自分の身支度を整えてホグワーツで最初の友人と朝食を食べようとアルマの部屋に向かった。

 

 

しかし、部屋にアルマはいなかった。リリーが部屋を出た頃、アルマは既に朝食を食べ終わり、最初の授業、変身術の教室へと向かっていたのである。

 

 

部屋にアルマが居ないことを知り、リリーは少し落ち込みながらも朝食を採る為、大広間に向おうとグリフィンドール女子寮から談話室に降りた。

赤を基調とした、暖かげな談話室。リリーは昨夜寮にはじめて立ち入った時、一目でこの部屋を気に入った。大きな暖炉はとっても暖かいだろうし、もしかしたらマシュマロを串に刺して焼くことも出来るかもしれない。肘掛け椅子はふかふか、大きな机で友達と一緒に勉強も出来そうだ、と、これからのことが楽しみになった。

しかし。リリーはちょっとこの談話室が嫌いになりそうだと思った。

 

「やぁエバンズ!一緒に朝食を食べに行こう!大広間までエスコートするよ!」

 

この、鳥の巣頭のストーカーの所為で。

 

「ご遠慮するわ」

 

即答である。それもそうだ。リリーからすれば初対面で幼馴染のことを馬鹿にされ、昨夜の晩餐でもちょっかいを出してきた上に名乗っても居ないのに名前を呼ぶ気持ち悪い同級生である。好印象など持てる筈もない。

 

「そう言わずに!ホグワーツの校舎はとっても迷いやすいんだ!一人じゃ大広間にもいけない位にね」

 

普通、ホグワーツ初日の生徒は相部屋の生徒と一緒に行動する。このストーカーの言う通り、一人では到底目的地に辿り着けないほどホグワーツの構造は複雑だからだ。

 

「嫌よ。貴方とは行きたくないわ」

 

リリーは大袈裟な身振り手振りで話す横をすり抜け、スタスタ出口へと向かった。

 

「そう言わずに!」

「どいて頂戴。私は一人で行くわ」

 

それでも立ちふさがるジェームズをリリーはキッと睨めつけた。

 

ふと、扉の外で合言葉を唱える声がした。パッと扉が開くが、それに気付かなかったジェームズは扉にぴったり張り付いていたので、バランスを崩して背中から廊下に落ちた。

 

「えっ」

「わっ」

 

扉を開けたのはアルマだった。咄嗟にアルマがジェームズの身体を支えたので倒れることはなかったが、ジェームズの顔は羞恥で真っ赤になった。

 

「あ、危ないじゃないか!」

「じゃあそんなところに居ないでくれるかな、危ないから」

 

アルマはけろっとした顔で談話室に上がり、ジェームズを無視した。

 

「リリー、行こう」

「うん!」

 

アルマは扉を開ける少し前から二人の話を聞いていた。実は太った婦人が不在で、戻ってくるのを待っていたのだ。

忘れ物を取りにきたはずが、困っているリリーを放っておけず、自分の部屋に戻ることなく寮を出てしまった。

死んでもお人好しは治らないんだなと思いながら、アルマはリリーを連れて大広間に向かった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ジェームズは激怒した。必ず、己の恋路を阻む敵を除かねばならぬと決意した。

 

「いやお前、ただの逆恨みじゃねーか」

「違う!あれは絶対に僕を邪魔してる!」

 

今朝の話を聞いた友人のシリウスの言葉も聞く耳を持たず、ぶちぶちと毒づくジェームズ。

彼からすれば、ホグワーツ特急、昨夜の新入生歓迎会、そして今朝。二度ならず三度までもリリーへのアタックを邪魔されているのだ。…実際、客観的に見るとシリウスの言う通り、ただの逆恨みであるが。

 

しかし、これは聞き捨てならないとツカツカ歩いてくる人影があった。リリーだ。

 

「誰が貴方の邪魔をしたって言うのよ!?あれは貴方に困った私をアルマが助けてくれただけよ!」

「エバンズ!」

 

幼馴染を馬鹿にされ、ホグワーツで初めての友人をも侮辱されたリリーはジェームズに怒鳴った。あからさまに怒っているのに意中の女子に声を掛けられたと瞳を輝かせるジェームズはもうシリウスやそのほかの友人達にも呆れられていたが。

 

「アルマは廊下に倒れかけた貴方を支えてくれたって言うのに貴方って本当失礼な人ね!!」

「っ…!」

「私のお友達を侮辱するのがそんなに楽しいの!?」

 

失礼な人。その言葉はジェームズの心にそれはもうグッサリと刺さった。ジェームズは9と4/3番線で初めて出会った───正確にはその姿を見ただけなので出会っていない───リリーに一目惚れしたのだ。今まで同年代の子供達と接する機会が少なかったジェームズにとって女の子を好きになることも当然初めてのことであった。

そして、自分でも何もわからないまま、心の赴くままにリリーにアタックした結果がコレだ。

一目惚れした少女がジェームズに軽蔑の眼差しを向けている。そのことが何よりもジェームズの心を抉った。

 

「…済まなかった、エバンズ…」

「謝る相手は私じゃないわ。アルマよ」

 

ふん、とリリーが鼻を鳴らしたタイミングで、アルマが大広間へ戻ってきた。リリーが朝食を食べている間に忘れ物を取りに席を外していたのだ。

 

「済まなかった!ベネット!」

 

何故か嫌っている筈のジェームズと何やら話していたリリーに駆け寄ると、アルマはこれまた何故かジェームズに謝罪された。勢い良く下げられた頭はぶおんと音が聞こえそうで、腰は90度に曲がっていた。

 

___なんじゃこりゃあ。

 

アルマの知識において、ジェームズは高慢、悪戯好き、そして自己陶酔の激しいクソガキ、という認識である。原作においてハイティーンの頃には幾らかマシになっていた、と言い訳じみた説明をシリウスがハリーにしていた描写も勿論記憶にあるが、"生前"のアルマはそれをとにかく疑っていた。まあ、リリーの人となりをなんとなく掴めばそんな人間と彼女が結婚し、子どもまで儲けるとは思えない、と一応納得したのだが。

 

___更生したジェームズってこんな感じなのか。

 

なんとなく感動しつつも、アルマは戸惑っていた。

いくら脳内をスキャンしても、ジェームズに謝罪されるような事象が見当たらないからだ。

 

「…リリー、私はなんで謝られるのか皆目見当もつかないのだけれど…?」

「ジェームズが貴女のことを悪く言っていたから私が怒ったのよ」

 

___それはなんとなく、予想が付くような。

 

「あー、それじゃあ、私も。あの時、私は君が扉のすぐ側にいる事を知ってて、故意に扉を開けた。事故じゃないんだ。済まなかった。…これで手打ちっていうのは?」

 

アルマからすれば、やっつけ仕事もいいところの処理であり、何より周りの注目が痛いのでちゃっちゃと終わりにしてしまいたい、というのが隠さざる本心であったのだが、ジェームズからするとまた違ったらしい。

 

「ありがとう、ベネット」

 

顔を上げて、へらりと笑ったその顔には、リリーが落ちても仕方が無いと思わせる魅力があった。

このまま真っ当に成長してくれ…と祈ったのもつかの間。

 

リリーと仲良さげなセブルスに対しジェラシーをこれでもかと燃やし、悪戯という名の嫌がらせを始めたことにリリーと共に憤慨しつつ、やっぱりジェームズだとちょっぴり安心したのはリリーにも、誰にも言えない秘密だ。

 


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