星が綺麗ですね   作:ニホニウム

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極東経済新聞

■月面居住区放棄

サンドスター否定論との関わりは?

 

 第二次日中戦争より20年以上の月日が経過した現在、風化しつつある「月面居住区放棄」についての記録を収集しようとする動きが国内に広まっている。

【日本通信社】

「月面居住区放棄」の直接的な原因は206█/08/15、第二実験棟より流失したサンドスターにより当初多国籍により構成されたおおよそ300人程のコミュニティーが一夜にして壊滅した「SS流失事件」にあると言うのが現在の定説だ。

しかしながら当初終戦記念日に合わせて発生した「第五次台湾海峡危機」によるマスメディアの煽りから、日本国内でこの出来事が話題となる事は終始無かった。

 

NASAが全月面居住区放棄の放棄を決定したのは、その翌年の事である。

 

果たして、何故彼らは期待の新星である月面事業から撤退したのだろうか。

例の異変当初の混乱により発生した大断絶時代により、今となっては全ての真相を解明する事は叶わないが、サンドスター否定論よりその情勢を垣間見る事が可能だ。

 

That is not a miracle.

It is a forbidden fruit that leads us to decline.

(サンドスター否定論より引用)

 

彼らによればサンドスターは地球外来の彗星により齎された「奇跡」などではなく物理法則を一掃する可能性を持ちうる「禁断の果実」であると言う。

当時、現在では当たり前である「アニマルガール」が発生する現象が物理法則に反する、謂わば「異常」であるとされていた。これは「サンドスター」原子による性質の解明時期と予想、発見時期が大きくかけ離れていた為だ。

 

……(中略)……

 

気になるには、この当時議論されていた「セルリアン」と言う生命体である。

彼らは理想生命体であり、高エネルギー状態であるサンドスターからロウへと移行する際、何故ロウが安定的で無いのにも関わらずそちらへと発熱反応が起こり得るのか――と言った思考実験より生じたと考えられている。

 

謂わば、マクスウェルの悪魔に近いだろう。

 

サンドスター肯定論が主流であった頃、このような思考実験が真剣に議論されるような出来事は無かった——少なくとも、SS流失事件までは。

SS流失事件以降、量子理論を交えて説明したとしても、これらが否定出来ない事が判明した。しかし、何故科学者達は心変わりをしたのだろうか。

 

我々がマクスウェルの悪魔と喩えたように、彼らもそう考えたはずだ。

 

……(中略)……

 

サンドスターが未発見であった2000年代初期、帝都大学にて「情報をエネルギーに変換する」と言った実験が行われた事がある。

公式な記録ではエネルギー変換効率は僅か30%であったものの、自律的に動くナノデバイスが理論上製造可能であると言う事実を世界へと公表した。

「情報-熱機関」と言う新たなナノデバイスの可能性を示すだけでなく、マクスウェルの悪魔が未だ()()()()実在しうる事を公表したのだ。

 

マスメディアはマクスウェルの悪魔が実現したと世間を煽ったが、当然ながら悪魔やその周りを含めた系全体では獲得した自由エネルギー以上にエントロピーは増えているはずであり、熱力学第二法則は破れていない。しかしミクロな系に注目すると、情報と自由エネルギーが交換されているように見えるわけである。彼らはサンドスター自体も「奇跡」などでは無く、ミクロな系に注目しているだけであると社会に大きく訴えたものの、それらの出来事が実を結ぶ事は無かった。

 

そこで「セルリアン」議論が過熱したのではないかと我々は考察をしている。

 

議論のすり替えにしか過ぎぬものの、これが功を成す。2068年「地方自治法の一部を改正する法律」により政令指定都市が廃止、政府指定都市へと移行したが、この時期はサンドスターによる汚染が多発していた。

パークセントラル旧試験解放区内にて運用されていた技術を導入した事が現在の特区へと繋がるものの、この際にとある不都合が生じる。

 

人類の「フレンズ」化現象である。

 

この際に「サンドスター」の性質が人類の「イメージ」へと大きく依存する事が判明。実際、JAXAが主導する月面再植民計画にてプロセラルム盆地より白兎が保護される事例が確認されている。

驚く事なかれ、「SS流失事件」の影響は未だ健在なのだ。

 

……(中略)……

 

政府は20██/04/21、「サンドスター」の完全なる制御を30年以内に達成するとの声明を発表。

現時点で行われている月面再植民計画は国家再繁栄の象徴となり、日本各都市で鈍化しつつあった経済成長を押し上げた。██ミクスの再来とも呼ばれているこの現象は、民衆の宇宙開発への期待が謙虚に表れている。

 

しかしながら、サンドスターの制御技術が確立されようとももはやこの星の生態系は回復しないだろう。19世紀の終わりより排出された二酸化炭素は許容濃度を超え、本来守るべきであるはずのオゾンを破壊し、多くの生命を死へと追いやった。

 

サンドスターには「再現」能力が存在している。

人類が地球環境を意のままに変化させようとも、同じ道を辿るだけであろう。

 

結果、これらの問題を根本的に解決せぬ場合、我々は決してHomo deus()とは成りえないのかもしれない。

 

参考文献

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%86%B1%E5%8A%9B%E5%AD%A6%E7%AC%AC%E4%BA%8C%E6%B3%95%E5%89%87

『熱力学第二法則』

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%81%AE%E6%82%AA%E9%AD%94

『マクスウェルの悪魔』

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/52/3/52_136/_pdf

『熱ゆらぎを利用する―情報熱機関の実現―』




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