アクセル・ワールド クロム・ディザスター(チェリー・ルーク)撃破RTA オリジナル主人公チャート 作:透明紋白蝶
評価を入れてくれたりブクマしてくれた方はありがとうございます
一巻分はあと二、三話で終わると思います
勝った。守った。
シアン・パイルから四十ポイントも奪い取った。
そのポイントは、決して少ないものでは無い。
ならば、焦って何度も乱入し、そして黒の王の存在を報告するのではなく、溜め込んだポイントを簒奪しようとすらしていたことからポイント残高が危機的状況にある事が予想されるシアン・パイルでは払いきれない額だったと言えるだろう。
幼馴染からブレインバーストを奪った。拓武くんにもブレインバーストによる他者との繋がりはあったはずだ。それを奪ったことに微塵も罪悪感がないと言ったら嘘になる。
それでも、自分が自分であるために、ブレインバーストを解析して完全なる視覚補完プログラムを完成させるために、それは必要なことだったのだ。
罪悪感を噛み砕き、それを飲み込んでいく。その上で活動していかなければならない。
そもそも、千由里ちゃんの時にそうすると決めていたのだから、今更それを貫き通せないというのはその時の気持ちが嘘になってしまう。
「隣いいかな?」
心の整理をしていると、今聞きたくない声ランキングを断トツで駆け抜ける声が聞こえた。
それも仕方が無いだろう。なぜならば、加速世界との接点がなくなったとしても黛拓武という少年は現実世界ではこの病院に居るのだから。
返事をする前に座った拓武くんとの間にわずかな沈黙が流れた。
「まずは、おめでとう。かな? 跳躍の枠から外れた飛行アビリティは初めて見つかったはずだよ」
「それが全損させられた相手への最初の言葉でいいのか?」
恨み言とかそういうのがあるだろうに。ブレインバーストに対する思いが軽かったのならばその言葉が出るかもしれないが、バックドアに加えて事故翌日に学校を休んでまで来るくらいなのだからそれに対する思いは相当のはずだっただろうに。
「…………どうしてそんな結論に至ったのかに興味はあるけど、僕はまだ二百ポイント以上保有しているよ」
まだ、全損していない? シアン・パイルは生きている? ならば、先輩は? ブラック・ロータスは? 対戦終了からは軽く三十秒は経過している。対戦の一度や二度程度なら余裕で済ませられる時間だ。
「ユキの先輩には乱入してないよ。僕が今日ここに来た理由はユキと話したかったからだしね。事故があったって聞いてこれ以上遅らせると悪いことになると思ったからなんだ」
……どういうことだ? こちら側の想定していたシアン・パイル像と、その目的からはかけ離れている。
「僕がユキの先輩に何度も乱入してきた理由は分かるかい?」
「先輩の溜め込んだポイントを奪うためじゃないの? 報告報酬だけじゃなく、先輩の保有しているポイントすら独り占めしようとした」
「なるほどね。僕はポイント全損の危機に陥ってたと予想されていたわけか……」
確かに、客観視すればそう考えるのが一番自然だと拓武くんは呟いた。
「結論から言うと、それは間違いだ。僕の目的は君の先輩との対談だったからね。ちーちゃんを《子》にしようと思ったらローカルネットに同業者が、それも指名手配中のユキの先輩がいるものだからね。直接話して信用できると思うか、なんらかの契約が結ばれればコピーインストールを試そうと思ってたんだ」
そもそもポイント残高が不安なら何度も何度も乱入しないよ。と拓武くん。
ドローで終わった試合でも加速のために使ったポイントが返還されることは無いため、二十ポイント弱を捨てたことになるという。
「バックドアは?」
「《親》に渡されたんだよ。使えってね。剣道部の先輩が親だから距離感的に従わない訳にもいかなくてね。毎朝報告をさせられるから大変だったよ」
バレてしまったし、今度ちーちゃんに謝ってしっかり削除しておくと拓武くん。
ついでにギャラリーなどを通じてバックドアの存在を広めるという。
そうすることでバグや不具合などはいつの間にか修正されるのだとか。
逆に言えば、少数で秘匿しているバグは修正されないのだろうか?
「つまり、僕達の勘違いだったってこと? 拓武くんは千由里ちゃんの安全が確保されれば他人に先輩のことを話すつもりもなかったし、今日来た理由も先輩が意識不明でローカルネットに接続されているのを知ったからでもなんでもなく。ただ千由里ちゃんを子にしたかったから行動していただけと?」
「そういうことになるね。でも、ユキたちの行動も当然だよ。自己防衛は基本だからね。だから、勝ち取った四十ポイントのことは全く気にする必要は無いよ」
「それは全く気にしてない。幼馴染を全損させたってなると流石に罪悪感が刺激されてただけだから。余裕があるなら気にならない」
二年で図太くなったねと呆れたように笑う拓武くんをみて、昔とは少し形が変わったものの良い関係を築けそうだと感じ、それを少し嬉しく思った。拓武くんが千由里ちゃんを子にできたならば、昔のように三人で活動する時間も増えるかもしれない。
そうして事故から張りつめていた糸が僅かに緩んだ瞬間、世界が青く染まった。
さらに地面に近い位置から変化は始まり病院はわたあめのように輪郭をたもてなくなり膨張し、自分の体は世界が青く染まった瞬間に意識が移った鳥人のアバターの足元から黒く薄い剣へと作り替えられていく。
乱入された? 一体誰に? 一番疑わしいのは拓武くんだが、隣を見ると拓武くんは未だに青く固まったままだ。
乱入者が拓武くんならば今頃シアン・パイルが隣に立っているはずだ。
ならば、気を抜いている間に第三者のバーストリンカーが病院に来て加速をした?
シャドウ・オウルを対戦相手に選んだのはなぜだ? 最初に選ぶのは加速世界に飛び込んだ直後の世間知らずでもなければ最も目を引かれるだろうブラック・ロータスのはずだ。
しかし、シャドウ・オウルを対戦相手に選んだということは……既にブラック・ロータスには乱入したあとだということか?
解決したと思った問題が、最悪の結末に着地したことを覚悟しつつ、シャドウ・オウルにアバターが作り替えられ、そして対戦が始まって相手の名前を確認できるようになるのを待つ。
FIGHTを象った炎が浮かび上がり、弾けるとその炎が視界上部に集まってステータスバーとその下部の名前が表示される。
誰だ。と、睨みつけるようにして名前を読み上げた瞬間、胸に衝撃を受けて後ろにスライドする。
「先輩。目が覚めたんですね……」
乱入者はブラック・ロータス――先輩だった。
それはつまり、意識不明だった先輩が復活したということであり、先輩が全損する可能性が無くなったということでもあった。
先輩は学内ローカルネットのアバターのまま首元に抱きついてきていて、頭を何度か撫でるとふわふわした地面に降りて話し始めた。
「キミが大空に飛び立って直ぐに目が覚めたよ。キミは、やはり素晴らしいな。誰よりも自由に、この加速世界で活動出来る。その翼は、加速世界で初めて確認されたものだ。気高く地上を見下ろし、そして何者にも縛られないそのあり方は王に相応しい……」
「みたいですね。今までのアビリティはどこまで行っても跳躍の枠から外れなかったとか。王ってのはやっぱりよく分かりませんけど、そう評価してくれる先輩の顔に泥を塗らないように、自分に誇れるように、最後の瞬間まで諦めないようにしようとは思いました」
「む、ユニークアビリティだというのに驚かないのだな?」
「さっき聞きましたから。実は……」
シアン・パイル、つまり拓武くんから聞いたことをそのまま先輩に伝えた。
先輩は何回かツッコミを入れてきたが、本人から聞いた僕同様に納得したようだった。
「なるほどな。ならば取り敢えずはシアン・パイルくんに伝えておいてくれ。私は倉嶋くんがバーストリンカーとなっても襲うことはないとな。本人との対談は私の面会が可能になってからだろうな。対戦フィールドではギャラリーの目が……いや、違うな」
先輩はそろそろ私も逃げるのを辞めるべきだろうと言った。
「子であるキミが気高く在るとして、私に泥を塗らないようにとしてくれているのならば、私が自ら泥に潜んでいるのは間違いだろう。本来のアバターを封印から解き放ち、加速世界にその存在を示そう」
先輩がコンソールを操作すると、足元からそのアバターが作り替えられる。
スリットの入ったロングスカートが一気に短くなり、刀剣のようにギザギザに分割される。
露出したタイツに包まれた脚とグローブに包まれていた腕は柔らかな曲線からぴしっとした直線へと変化し、先端は針のように鋭くなる。
濡れ羽色の長い髪は光に溶けて消え、代わりに翼をはためかせた猛禽のような形のフェイスマスクが出現し、そして弾けるようなエフェクトが一瞬その姿を覆い隠すと、次の瞬間には完全にデュエルアバターへと変化を完了した先輩の姿があった。
それは、黒曜石のように美しいアバターだった。
全体的なデザインはシャドウ・オウルに似ている。むしろ、肘や膝の関節のない素人クオリティのシャドウ・オウルをプロのデザイナーとモデラーがリメイクして作り出したかのようなアバターだ。
もしくは、ブラック・ロータスを見て憧れた素人が作り出したのがシャドウ・オウルだろうか?
特に機能面での差がありそうなのはブラック・ロータスも四肢は刀剣であるが、その位置は肘・膝より先に限定されており、振るうのは容易そうな所だろうか。
先輩がシャドウ・オウルに的確なアドバイスを出来たのも納得出来るアバターだった。
「……綺麗だ」
「ん、そうかな? キミの趣味にこの黒は合わないと思うが……それに、誰かと繋ぐ手すら私には無い」
「手が無いのは同じじゃないですか」
「私の場合は静止状態でも破壊力があるのだよ。それこそ、投げ技を基本とするアバターが棒立ちの私を掴もうとすればその手指が欠損するほどのな。誰かに握ってもらえるキミとは違い、私は差し伸べられる手すらも跳ね除けてしまう。ブラック・ロータスはその色といい四肢といい、全てを拒絶する私の心が作り上げた醜悪なアバターだよ」
デュエルアバターを理解するということはその者の心の傷を理解するということだ。
それは、自分のデュエルアバターを知るということは蓋をして隠しておきたいものだけを的確に映し出す鏡を見るようなものだというわけか。
「黒は全ての色を内包する色です。何者にも染まることを拒む拒絶の色ではありません」
「いい。無理に褒める必要は無い。キミが自分の色を気に入らないのならば、私の色だって同じはずだろう?」
「違います。僕が嫌いなのはシャドウ――影色です。自分の色を持たず、ほかの色とは違い
デュエルアバターは本当に自分の心を映し出す鏡なのだ。自分の四肢が刀剣である理由や飛行できる理由は分からないが、シャドウ・オウルに設定された色やアビリティというのはわかりやすい。
黒にデバフを与えるのは手元から離れさせないため。白にダメージを与えるのはきっと心のどこかで白を憎悪しているためだろう。
とてもわかりやすく、自分のあり方を指摘している。
「全てを切断する四肢は足を引っ張ろうとするような、それこそ六王たちの停戦協定のようなものに縛られない美しいあり方を反映したのかもしれませんね」
「もういい。キミがそう思ってくれているのはよく分かった。恥ずかしいからやめてくれ」
表情の見えないデュエルアバターではあるが、確かに照れている声色であったので褒めるのをやめることにした。
「これからはどうしますか?」
「ギャラリーたちの前で復活の宣言をする。シャドウ・オウルひとりのギャラリーだけではなく、対戦相手のギャラリーを巻き込んで多くのバーストリンカーに知ってもらいたい。レオニーズの幹部候補として知られているらしいシアン・パイルに協力してもらえればそれでいいのだが……」
「じゃあ戻ったら聞いてみますね。……そういえばこの対戦のギャラリーは? シャドウ・オウルは飛行アビリティを披露したこともあってシアン・パイル側からこちらにも登録してきた人数はそこそこだと思いますけど」
「そこは裏技というやつだ。直結対戦以外にもギャラリーを排除する手段はあるのだよ」
先輩はひとつ咳払いすると、さて。と話題を切りかえた。
「良かったら残る時間、私を抱えて飛んでもらえないか? キミの見る景色を体験してみたい」
「いいですけど、どうやって飛びますか? 互いに手のひらがないと掴まることもできませんよ」
「私が君の腕に座るようにするというのはどうだ? キミの剣は振るわなければ破壊力は生まれないからな」
私が白系統のアバターならアビリティでダメージが発生していただろうが、黒に与えられるデバフは飛行には関係しないだろうと先輩。
「なるほど。それじゃあ必殺技ゲージを稼いできますね」
その後、残った二千カウントほどを白く染まった《雲海》ステージの飛行に費やした。
先輩は飛行の感覚を絶賛し、毎日でも飛びたいと言う程だった。
鬼に笑われそうですが三巻以降を書くことになった時は改めてRTAパートも書いた方がいいのだろうか
ちょっと悩んでいます
その時はチェリールーク撃破後のセーブデータを利用した白の王撃破チャートのエピソード別参考記録とかそんな感じになりますかね
用心棒(アクア・カレント)エピソード
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やってほしい(一巻と二巻の間に投稿)
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やらんでいい(一巻終わり次第即二巻)
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ダイジェスト(対戦シーンのみ)
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ダイジェスト(対戦シーンカット)