影の薄い少年は認識されたい   作:キンキン

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テストが始まって執筆時間が足りないです。


第13話

 春との通話が影響してこころたちのライブを最初から楽しめた訳ではなかった。しかし、周囲の人たちの盛り上がりが白を嫌でも興奮させた。

 

「いいな」

 

 そんな面白味のない感想しか白には言えないが、それは言葉で表せないくらいには感動しているからだった。

 

「春さんと聴きたいなぁ」

 

 なぜかそう思った。こころたちの演奏はそういった力を持っているのかもしれない。彼女たちの演奏を聴くと誰かと話したくなる。誰かに笑いかけたくなる。

 そう感じているのは白だけではなかったようだ。ライブに来ていた人たちのほとんどが近くの人と笑顔を向け合っている。

 

「いいなぁ」

 

 しかし、白にはこの感動を、この感情を共有できる人が今この場にはいなかった。だから、白は大きな感動を味わった後に巨大な虚無感に襲われた。

 

「……早く終わらないかな」

 

 口にしてからその言葉がどれだけいけないことかわかった。こころたち、それに観客たちはは白を除いて全ての人がこの空間でのできごとを楽しんでいる。それはこころたちの努力の賜物だ。それを自分の勝手な感情でそんな風に思ってしまったことが恥ずかしい。

そんなことを考えながらライブ終了までを過ごした。

 

「終わったか………」

「白くんは確か、この後別の友達に会いに行くのよね?」

「あ、はい。誘われたので。弦巻にも知らせはしました」

「わかったわ。じゃあ、今日はこれでお別れね。私たちはまた仕事があるから今日も家に帰れないのよ」

「そうですか…。残念です」

「ふふ、上手ね」

 

 本心だった。今の気持ちの中、家に帰ってこころと会うと少し気まずくなる気がした。

 

「それじゃあ」

「あ、待ってくれる?」

「はい?」

 

 白は会場に背を向けて、たえのライブに向かおうとしたところ、呼び止められた。

 

「いつでもいいから、家に帰ったら庭の中央辺りを掘ってみてくれないかしら。その時にこころは同席していなくてもいいわ」

「えっと……」

「きっとそうすればあなたの謎が少し分かると思うの」

「は、はあ」

 

 京子の顔は真剣そのものだった。なぜ彼女がそんなことを言うのか、知っているのかはわからなかったが、嘘をついているようには見えない。だから返事にもなっていない曖昧な言葉を返した。

 

「引き止めて悪かったわね。白くん、気をつけてね」

「は、はい。そちらもお気をつけて」

 

 頭の中を整理する前に京子は白を送り出した。時間も迫って来ていたこともあって白は特に言及せずに急いでたえのライブ会場へと向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、着いた。はぁ、はぁっ」

 

白は二十分近く走り続け、何とか開始前に会場となるライブハウスに滑り込んだ。

 

「……多すぎ」

 

 白が開始ギリギリに来たこともあってライブハウスの中には人がパンパンだった。よく見れば前の方も空いているが観客のほとんどが女子高生でその中に入る勇気はなかった。

 

「まぁ、こっからでいいか」

 

 観客の中に極端に背の高い人はいなかったので後方からでも十分にステージは見える。白は無理に前に出ず、後方のスタッフたちが作業している傍のスペースに位置どった。

 それから始まるまではじっとその場に立っていた。と言っても数分もすれば開始時間になり、ライブが始まった。

 

「Poppin'Partyです!」

『キャーッ‼︎』

 

 バンド名を言っただけでライブハウスは歓声に包まれる。こんなこと本人たちの前では絶対に言えないが、女子の甲高い声はは耳が痛くなる。

 しかし落ち着きのないように思えた観客も演奏が始まる頃には示し合わせたかのように静かになった。そこまで広くないライブハウスだからか声がよく響く。

 

「………やっぱわかんねーや」

 

 演奏が始まって、歌声が響く中、白が見た限りやはり観客はハロハピの観客と同じだった。全員が演奏に聴き入って、感動を共有し合う。白の隣で作業をしていたスタッフですらそうだ。

 

「俺、来た意味あったのかな」

 

 ハロハピのライブでの虚無感が尾を引いて、純粋に楽しむことができない。白を招待した彼女は何を考えていたのだろうか。体育の時間に少し話しただけの関係でこれと言って有益な話ができた訳でも、気が合ったと感じた訳でもない。それにどうせ今の彼女の瞳の中に白は映っていない。

 

「おたえ〜。今日の演奏乗ってるね〜!」

「そうでしょ。私もそう思ってた」

「何かあったのか?」

「んー」

 

 一曲目が終わって小休止なのかメンバー同士の会話が始まった。素人にはわからないがたえの演奏は普段よりも冴えていたらしい。

 

「やっぱり聴かせたい人がいたからかな」

「おー。それって?」

「私の友達だよ〜」

 

練習をしたからできたみたいな技術的な話ではなく、精神的なものであったようだ。

 

「この前誘ったんだけど、まだ見つかんない。こころんたちのライブに行ってから来るって言ってたからまだ来てないのかもしれない」

 

 どうやら白の話をしているらしかった。

 

「俺に聴かせたいって、何だよそれ。俺を見つけてなくてまだいるかもわかってねーのに何でそんなやる気なんだ?」

「それって今いなかったらその気持ち無駄じゃね?」

「そうだそうだ」

 

 キーボードの子がそうツッコミを入れた。それに白も同調して答えを待つ。

 

「そんなこと無いよ。来なかったとしても、私の演奏はすごいものになるし、他のみんなを楽しくできるでしょ?」

 

 確かに観客全員は楽しんでいた。ただ残念なことに白自身は上手く楽しめていない。

 

「それに、もし来てたとしたら絶対に楽しくなるようにお膳立ては済ませておいたよ」

「お膳立て?」

 

 何のことを言っていたのだろう。白には少なくともそのたえの気遣いは形となって現れていない。

 

「白は楽しくなかったのかしら?あたしはとっても楽しかったわ」

「いや、別に。まだ一曲目だけど、多分楽しかったよ」

「そうかしら?あたしたちのライブでは白は全然笑っていなかったわ」

「それにはちょっと事情があってだな……って何でここにいんだよっ⁉︎」

「おたえに呼ばれていたからよ!」

 

 いつの間にか見慣れた金髪がが白の側に立っていた。たえに呼ばれたということはこれが彼女の言うお膳立てなのかもしれない。

 

「楽しかったのなら笑顔になりましょう!」

「笑顔って……」

「あたしは白が笑っている方が幸せだわ!」

「うっ……」

「それにあたしのお願いを断ったんだから、少しくらいわがままを聞いてほしいわ」

「お願い?あぁ、名前の件か。……それでわがままを聞けって少しわがまま過ぎるんじゃ…」

「ダメかしら?」

「……と言っても笑顔になる理由がない」

「それなら大丈夫よ」

 

 何が大丈夫なのかわからない。

 

「はいはい。一旦ここで話は終わるぞ。まだまだやる曲はあるんだからな」

 

 今度はキーボードの子の合図で二曲目が始まった。

 

「♪〜」

 

 演奏の開始と共に白は先程とは何かが違うという違和感を感じた。それはたえのお膳立てが正常に機能したことを意図していた。

 

「あれ?おかしいな。さっきまでとは全く違う演奏だ」

「そうかしら?あたしにはそんなに変わった感じはしないわ」

「そんな訳ないだろ。だってさ。おかしいんだよ。何か耳に音がすんなり入っていって胸が苦しくなってくる」

 

 この感覚は知っている。だが先程まで何も感じていなかったと言ってもいいくらいだったものがこんなにすぐに変わるのも信じられない。

 

「それは白が楽しくて笑顔になっているからよ!」

「笑顔か?」

「そうよ。やっぱり笑顔になればみんな楽しくなってしまうもの!」

「そうか」 

 

 白は確かに自分の口角が上がっているのを感じた。本当に笑顔になっているようだ。

 

「お前のおかげだよ」

 

 誰にも届かないほどの声でそう呟いた。こころの、友達が側にいてくれただけで白はこの会場にいる他の観客と同じようにライブを楽しむことができた。

 

「なぁ、弦巻」

「何かしら?」

「家に帰ったらさ。庭を掘ってみたいんだ。そこに俺の謎が隠されてるかもって、お前のお母さんに言われたんだ」

「わかったわ!それじゃあどれくらい掘るのかしら。美咲たちも呼んだ方がいいかしら?」

「そんなにはいいよ。大体の目星もついてる」

 

 春のことや、自分の謎が気になってはいたが今はただ友達で、側にいて自分を見つけてくれるこころの一緒に何かをしたかった。

 

 

 


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