妖精の尻尾のサイヤ人   作:ノーザ

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其の31 希望の星

エルザの過去に触れたビート達は黙っていた。

いつもは風紀委員と言った感じでみんなを引っ張っているイメージだが、壮絶な過去を持っているなんて知りもしなかった。

 

 

「畜生!ジェラール奴め………ぶっ飛ばしてやる!!」

 

 

「落ち着けビート!……いいんだ。私がジェラールを倒せば全てが終わる…………」

 

 

だがその中でグレイは疑問に思うことがあった。

『この戦い………勝とうが負けようが私は表の世界から姿を消す事になる』

先程の会話にあった言葉が妙に引っかかった。

 

 

「姉さん……その話ど、どういう事だよ………?」

 

 

「ショウ………」

 

 

気絶から目覚め、後を追って来たショウが驚愕の眼差しで彼女に歩み寄った。

 

 

「そんな与太話で仲間の同情をひくつもりか!?ふざけるな!!真実は全然違う!

8年前姉さんは脱出船に爆弾を仕掛け、一人で逃げた!ジェラールが姉さんの裏切りに気づかなかったら全員が死んでいた!!

ジェラールは言った!これが『魔法』を正しい形で習得出来なかった者の末路だと!!姉さんは魔法の力に酔ってしまってオレ達のような過去を全て捨て去ろうとしたんだ!!」

 

 

「ちょっと待て……ジェラールが()()()?」

 

 

「…………あ」

 

 

「お前の知ってるエルザはそんな事をするのか?」

 

 

「〜〜〜っ!お、お前達に何がわかる!?オレ達の事を何も知らない癖に!オレにはジェラールの言葉だけが救いだったんだ!だから8年も掛けてこの塔を完成させた!!ジェラールの為に!!

それなのにその全てが嘘だって………?正しいのは姉さんで、間違ってるのはジェラールだと言うのか!?」

 

 

「…………」

 

 

「そうだ」

 

 

ショウの背後からターバンの男のシモンがやって来た。グレイはすぐに身構えるが、ジュビアが止まる。

彼はカジノの時身代わりの氷を知ってて攻撃したのだ。暗闇の術者が辺りを見えてない訳がないのだ。

 

 

「ジュビアがここに来たのはその真意を確かめる為でもあったんです」

 

 

「流石は噂に名高いファントムのエレメント4だな………。実際にオレは誰も殺す気はなかった。ショウ達の目を欺く為に気絶させるつもりだったが、氷ならもっと派手に死体を演出出来ると思ったんだ」

 

 

「オ、オレ達の目を欺くだと!?」

 

 

「お前も、ウォーリーも、ミリアーナもみんなジェラールに騙されているんだ。機が熟すまでオレも騙されてるフリをしていた………」

 

 

「シモン………お前………」

 

 

「オレは初めからエルザを信じてる。8年間ずっとな」

 

 

彼の言葉に再び涙するエルザ。そんな彼女を優しく抱きしめた。

 

 

「会えて嬉しいよエルザ、心から」

 

 

「シモン………」

 

 

周りが暖かい空気に包まれる中、ショウは未だに信じられないでいた。

 

 

「なんでみんなそこまで姉さんを信じられる………何で………何でオレは姉さんを信じられなかったんだ………くそぉおおおおお!!何が真実なんだ!?オレは一体何を信じればいいんだ!!」

 

 

遂には彼は膝をついて泣き叫んだ。

ジェラールを信じるかエルザを信じるかでここまで大きく真実が違っているのだ。こうなってしまうのも無理もない。

 

 

「今すぐに全てを受け入れるのは難しいだろう。だが、これだけは言わせてくれ。私は8年間お前達の事を忘れた事は一度もない」

 

 

エルザ歩み寄って泣く彼を抱きしめてあやす。

 

 

「何も出来なかった………私はとても弱くて………すまなかった」

 

 

「だが、今なら出来る。そうだろ?」

 

 

「………」コクッ

 

 

「ずっとこの時を待っていたんだ………強大な魔導士がここに集うこの時を………」

 

 

「強大な魔導士?」

 

 

「俺一応武道家なんすけど………」

 

 

「ジェラールと戦うんだ。オレ達の力を合わせて………。まずは火竜(サラマンダー)とウォーリー達が激突するのを防がねば………。ジェラールと戦うにはあの男の力が絶対に必要なのだ。『火竜(サラマンダー)のナツ』。そして………」

 

 

シモンがある者を見ると皆もそれに釣られて注目する。その者とは………。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

一方一人突っ走ったナツはとある部屋に潜り込んでいた。そこは猫のぬいぐるみが沢山ある猫だらけの部屋だった。

そこでナツは猫の被り物を被って遊んでいた。その被り物が外れないと知ったが開き直っていた。

 

 

「うひひ、ハッピー驚くだろうなコレ。ついでにエルザも脅かしてやっかな………いや待てよルーシィの方がリアクション面白そうだな………」

 

 

などと悪戯を考えているナツ。背後にウォーリーが拳銃を構えてるとも知らずに…………。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

場面は移って再びエルザ達へ。

一同はナツの方へ向かっていた。

 

 

「くそっ!ウォーリーもミリアも通信を遮断してやがる!これじゃ何処にいるのかわからねえ!」

 

 

「思念伝達魔法ですね」

 

 

カジノの時に指を頭に添えていた魔法の事だ。

エルザは一番後ろについて来てるショウを一瞥した。

 

 

「大丈夫かショウ?」

 

 

「………うん。姉さんがいてくれるから………」

 

 

「………」

 

 

信じてくれた彼に微笑むエルザ。そんな中、グレイはまだシモンを半信半疑でいた。

 

 

「なぁ、あいつ本当に信用していいのか?確かにオレ達を殺そうとしなかったのは認めるが、あの時ナツとビート、ルーシィは死んでもおかしくねえ状況だった………」

 

 

「言い訳をするつもりはない」

 

 

「聞いてやがったか………」

 

 

「あの程度で死んでしまうような魔導士ならば到底ジェラールとは戦えない。それにオレには確信があった。ナツとビートは死なない」

 

 

「あの………私は?」

 

 

「お前達はナツの本当の力に気付いてないんだ」

 

 

ナツに真のドラゴンの力が宿る時、邪悪は滅びゆく。

 

 

「そしてビート。お前もだ………ってあれ?」

 

 

シモンが後ろにいたビートを向くが何処にも居なかった。

 

 

「おいビートは!?」

 

 

「ビートさんなら『わっはー!見つけたぞ!!』と言いながら丸太を投げて飛んで行きました」

 

 

「「「「「ダニィっ!?」」」」」

 

 

「ていうかまだ使ってんの簡単飛行方法(アレ)!?」

 

 

そこで一同の声が初めてハモった。簡単飛行方法が知りたい方は其の27の終盤をチェック。

 

 

「さらっと宣伝すな!!」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「へっくし!うわっ口のまわりが拭けねぇ!気持ち悪ィ!!くそ!やっぱ取った方がいいかコレ?ていうか取れねえ………」

 

 

「終わりだボーイ。死n「ダメーーー!!」ミ、ミリアーナ!?」

 

 

突然ミリアーナがウォーリーに飛びついて来たので弾丸はナツの真横を通り過ぎた。

それで背後にいたウォーリー達にナツは初めて気付いた。

 

 

「あ!四角テメェ!!」

 

 

「見ろ!折角のチャンスが………」

 

 

「ネコネコはいじめちゃダメなのーー」

 

 

「よく見ろ!アイツはネコじゃないゼ!」

 

 

「…………にゃー」

 

 

「ホラー(⌒▽⌒)!」

 

 

「テメェコラ!!」

 

 

「あ!そうだ!あん時はよくもやってくれたな四角野郎!!」

 

 

「どけミリア!奴は敵だゼ!!」

 

 

「みゃあ!」

 

 

ウォーリーは彼女を押し退けて自身の体を分解し始める。

 

 

「喰らえポリゴンアタック!!」

 

 

ポリゴン体の彼特有の技で自身の体をナツにぶつけさせる。

なんとか躱し、時には猫のぬいぐるみを盾にして防いでいた。

 

 

「てき?ネコネコじゃなくて?」

 

 

「だからネコじゃねぇって言ってるだろ!中に人が入ってんだゼ!」

 

 

「みゃっ!?」

 

 

そこでようやく気付いたミリアーナが怒りを露わにナツにぶつける。

 

 

「みゃあ!人なのにネコネコのフリするなんて元気最悪ーーー!!」

 

 

「………そういうお前はどーなのよ?」

 

 

「ネ拘束チューブ!!」

 

 

腕から黒い縄を放つとナツの腕に巻きついて纏っていた炎が消えた。

 

 

「秒間32フレームアタック!!」

 

 

「ぐおおっ!?」

 

 

横から流れるポリゴン体にナツは吹っ飛ばされる。

 

 

「な、何だコレ!?急に魔法が………!?こいつの所為か!!」

 

 

巻き付いた縄を剥がそうとすると別の方向から縄が飛び出て足に巻き付き、遂には身体全体を縛られる。

 

 

「しまった!?」

 

 

「終わったな。パリレンダリングポリゴンショットでも喰らいやがれ」

 

 

「ウォーリー!早くやっつけて!!」

 

 

「おっとダンディな決めゼリフを忘れてたゼ。お前の運命はオレと出会った時に終わっぶべら!?」

 

 

「にゃああああああああ!?!?」

 

 

突如一本の丸太が彼を吹き飛ばした。丸太はそのまま壁に突き刺さる。

 

 

「お待たせ致しました猫の間〜。猫の間でございます〜」

 

 

丸太の上で寝転んで漫画を読んでいたビートが駅員のような声で言う。それによく見ると隣にはハッピーが居た。

 

 

「ビート!ハッピー!来てくれたんか!!」

 

 

「ナツーーー!ていうかその被り物何?」

 

 

「新しい遊び?」

 

 

「な訳あるか!取れねえんだよコレ!外すの……あ、いやまず縄を解いてくれ!」

 

 

「不味い!ミリア、あの黒髪のガキの相手をしてくれ!」

 

 

「みゃあ!」

 

 

「うお!?」

 

 

標的をビートに変えた彼女が拘束しようと縄を飛ばす。

ミリアーナの放つチューブは魔力を奪う性質を持っている。捕まったら気功弾は勿論、最悪の場合縛られて動きが封じてしまう。

躱しながらないか打開策が無いか思考するビート。その時エルザの発言が脳裏に浮かんだ。

 

 

『ミリアーナは無類の愛猫家だ』

 

 

「愛猫家………猫好き………そうか!」

 

 

くるりと彼女とは逆に向いて部屋の隅に逃げ出した。

 

 

「逃がさないにゃー!」

 

 

すぐに追い掛けてあっという間に追い詰められる。

それでもビートはミリアーナの方へと向かずに立ち止まる。

 

 

「ふっふっふっ。これぞまさしく袋のネズミだにゃー!」

 

 

「…………ううううう」

 

 

「にゃ?」

 

 

突然プルプルと震え出して喉を鳴らし始めるビート。小首を傾げるミリアーナだが、ゆっくりとこちらに振り向いた。

 

 

「がるるるるるるるるる………」

 

 

「ふぇ!?」

 

 

するとどうだろうか。ビート白目に歯を剥き出し、四足歩行となった。口から若干ヨダレが出ている。

 

 

「も、もしかして………イヌイヌ?」

 

 

涙目になりながら恐る恐る尋ねるも大口を開けて飛び掛かって来た。

 

 

「ぅぉワぁン!!!」

 

 

「みゃあああああああああああああ!?!?!?」

 

 

泣きながら彼女は遠く離れたウォーリーに向かって抱き着いた。

 

 

「うお!?なんだよミリア!」

 

 

「ウォーリーウォーリー!!イヌイヌがー!イヌイヌがー(T△T)!」

 

 

「は?犬?」

 

 

「お(アタ)ああああああ!!!」

 

 

「ぶべ!?」

 

 

掌底打ちに近いお手を彼の顔面に放った。

そしてこの隙にハッピーによって縄から解放されたナツが両手に炎を纏って二人に駆け出す。

 

 

「火竜の翼撃!!」

 

 

「イエーース!?」

 

 

「みゃあああ!?」

 

 

彼の攻撃によって二人を同時に倒した。

 

 

 

「ふいーーー!四角へのリベンジ完了したぞー!」

 

 

「ソレ被って決めポーズしてもねぇ……」

 

 

「あ、そうだった!!早くコレを!」

 

 

「しょうがねえなぁ。どれどれ……」

 

 

「ふぎぎぎぎぎぎ!?」

 

 

ビートが被り物に手をつけると思い切り引っ張るも中々外れない。仕方なくドアの淵に捕まって外す事に。

 

 

「イクゾォ。ぬおおおおおおおおおお!!」

 

 

「あああああああああああ!?もげるもげる!!」

 

 

首が伸びかけるがなんとか抜け出すことが出来た。そして被り物はそのままウォーリーの頭に入った。

しかし自身の体がポリゴン体になっているのは魔法の為、頭の形を変えてすぐに外した。

 

 

「ま、まだ勝負はついてない………ぐっ」

 

 

立ち上がろうとするも、ダメージが深かったのか膝をついてしまうウォーリー。

 

 

「もう諦めろよ。エルザもハッピーも無事ってんならこれ以上戦う意味はねえ」

 

 

「うんうん」

 

 

「オ、オレ達は楽園へ行くんだ……ジェラールの言う真の自由。人々を支配出来る楽園へ………」

 

 

「………そのことなんだがもうアイツについて行かない方がいい」

 

 

「な、何!?それはどう言うことだ!?」

 

 

ビートが説明しようとした瞬間、壁や天井に口が生えてきた。そしてそこから男の声が発せられた。

 

 

『ようこそ皆さん。楽園の塔へ』

 

 

「ジェラール………?」

 

 

『知ってるだろうがオレはジェラール。この塔の支配者だ。互いの駒は揃った。そろそろ始めようじゃないか。』

 

 

楽園ゲームを。

 

 

「ゲームだぁ?」

 

 

『ルールはいたって簡単。オレはエルザを生贄とし、ゼレフ復活の儀を行いたい。即ち楽園の扉が開けばオレの勝ち。もし、それをお前達が阻止出来ればそちらの勝ち。

………ただ、それだけでは面白くないと思ってな。こちらは3人の戦士を配置する。そこを突破出来なければオレには辿り着けん。つまり3対8のバトルロワイアルさ。

………それと最後に一つ、評議院が衛星魔法陣(サテライトスクエア)でここを攻撃してくる可能性がある。全てを消滅させる究極の破壊魔法『エーテリオン』だ」

 

 

「何だと!?煉獄砕破(アビスブレイク)の何倍をも超える魔法じゃないか!!」

 

 

「何っ!?」

 

 

『残り時間は不明。しかしエーテリオンが落ちる時。それは全員の死。勝者なきゲームオーバーを意味する』

 

 

さあ………ゲームを楽しもう…………。

 

 

そう言い残した途端、口は消えた。

 

 

「何が何だがわからねえが、ジェラールって奴倒せばこのケンカは終わりか………おし!燃えて来たぞ!!」

 

 

「やっぱり一番上にいるのかな………」

 

 

「な、何なんだよジェラール。エーテリオンって………そんなの喰らったらみんな死んじまうんだゼ?オレ達は真の自由が欲しいだけなのに………」

 

 

「…………ウォーリーとか言ったな」

 

 

「う?」

 

 

ビートが彼の前に立って倒れている彼と話しやすいようにしゃがむ。

 

 

「俺頭足りてないからあまり難しい事は言わないけど………真の自由ってより魔導士ギルドにいた方がそれよりも良いと思う」

 

 

「!」

 

 

「そうそう!妖精の尻尾(フェアリーテイル)も良いところだぜ!」

 

 

「あい!」

 

 

「そんな訳で俺は先に行かせてもらう。片っ端から倒さねえとみんなが危ない」

 

 

そう言って壁に突き刺さった丸太は抜いて投擲のモーションに入る。

 

 

「よし!じゃあオレとハッピーは一気に上に行くからな!気を付けろよビート!」

 

 

「おう!そっちもな!」

 

 

ビートは丸太を思い切り投げてそれに乗って移動し始めた。

 

 

 


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