遂にジェラールの元に辿り着いたエルザ。全てを消滅するエーテリオン発射まで残り時間が迫っていた。
「後7分だ。後7分でエーテリオンはここに落ちる。この7分間を楽しもう。」
「今の私に怖れるものは無い。たとえエーテリオンが落ちようと、貴様を道連れに出来れば本望!」
「行くぞ!!」
ジェラールの左腕から死霊如しの魔力弾を放つ。
飛び交う魔力弾を潜り抜けて死霊を刀で斬り裂いた。だが、その隙に右手から放った魔力弾に被弾して外壁を突き破って外に放り出される。このままだと間違いなく転落死。
しかし彼女は崩れ落ちる外壁を足場にして駆け上がった。
「せっかく建てた塔を自分の手で壊しては世話が無いな!」
「なに、柱の一本や二本、ただの飾りに過ぎんよ」
「その飾りを造る為にショウ達は8年もお前を信じていたんだ!!」
「一々言葉の揚げ足を取るなよ………。重要なのはRシステム。その為の8年なんだよ。そしてそれは完成したのだ!!」
再び死霊を作り出すと彼女を包むように拘束する。
だが、彼が想像していた以上にエルザは凄かった。完全に包まれる前に全ての死霊を薙ぎ払い。一瞬にして彼の懐に入って腹部を斬り裂いた。
(これが……あのエルザだと!?)
そしてその勢いのまま腹部に馬乗りして身動きを封じた。彼の喉元に刀を突き付けられる。
「くっ………」
「お前の本当の目的は何だ?」
「………何が言いたい?」
「本当はRシステムなど完成していないんだろう?」
「!!」
エルザの言う通り、8年の間Rシステムについて調べていたのだ。構造や原理は当時の設計図通りで間違いは無いが、それ以前に足りてないものがあった。
『魔力』
Rシステムを発動するには27億イデアもの魔力が必要になる。それは大陸中の魔導士を集めても足りるかどうかと言うほどの魔力だ。
それを知ってでの上でジェラールは評議院からのエーテリオンから逃げようとしない。
「お前は一体何を考えいるんだ?」
「………エーテリオンまで後3分だ………」
「ジェラール!お前の
彼の腕を掴んでいた左手に力が加わる。
「ならば共に逝くのみだ!私はこの手を最後の瞬間まで離さんぞ!!」
「……あ、ああ…………それも悪くない…………」
「……………」
「オレの体はゼレフに取り憑かれた。何も言う事を聞かない。ゼレフの肉体を蘇らす為の人形なんだ………」
「取り憑かれた………?」
「オレはオレを救えなかった………仲間も……誰もオレを救える者はいなかった………楽園など………自由など何処にもなかったんだよ………全ては始まる前に終わっていたんだ………」
「っ…………」
「Rシステムなど完成する筈がないとわかっていた。しかしゼレフの亡霊はオレをやめさせなかった………もう止まれないんだよ。オレは壊れた機関車なんだ………。
エルザ、お前の勝ちだ………オレを殺してくれ。その為に来たんだろ?」
「…………私が手を下すまでもない。この地鳴り、既に
掴んでた手を離し、刀も手から抜け落ちる。
「終わりだ………お前も………私もな」
「不器用な奴だな………」
部屋全体が揺れてパラパラと天井が崩れかける。外には巨大な魔法陣が現れ、光の大きな球体が出来ていた。
「お前もゼレフの被害者だったのだな………」
「………これは自分の弱さに負けたオレの罪さ。
「自分の中の弱さや足りないものを埋めてくれるのが、仲間という存在ではないのか?」
「エルザ……」
「私もお前を救えなかった罪を償おう………」
「いいや……オレは………救われたよ………」
互いに抱き合い、二人は最期の時を迎えようとしていた。光が二人を包み込み、エーテリオンは塔全体を覆った。
楽園の塔は完全に消滅した。
……………。
「…………え?」
エルザは辺りを見渡し、自身の両手を見つめる。透けてないし霊体になってなどはいない。
「生きてる?」
「…………くっくっ」
「ジェラール………?」
「はははははははははははは!!」
高々と狂笑するジェラールにエルザは呆然としていた。
「遂に……遂にこの時が来たのだ!!」
「お前………」
「くくく……驚いたかエルザ?これが楽園の塔の真の姿。巨大な
外装が無くなって、島の中心には巨大な水晶の塔がそびえ立っていた。
「だ………騙したのか!?」
「可愛かったぞエルザ」
「!?」
突如背後からの声に反応して振り返るとそこにはジェラールとそっくりの容姿を持つ男が現れた。
「ジェラールも本来の力を出せなかったんだよ。本気でやばかったから騙すしかなかった」
「ジークレイン!?何故貴様がここに!?」
評議員である青髪の青年、ジークレインが歩み寄りながら昔の事を語り始めた。
「初めて会った時の事を思い出すよエルザ。マカロフと共に始末書を提出しに来た時か?ジェラールと間違えてオレに襲い掛かって来た。まぁ………同じ顔だし無理もないか………。双子と聞いてやっと納得してくれたよな。しかしお前は敵意を剥き出しにしていたな………」
「当たり前だ!!貴様は兄の癖にジェラールのやろうとしている事を黙認していた!!いや、それどころか私を監視してした!!」
「そうだな………そこはオレのミスだった。あの時は『ジェラールを必ず見つけ出して殺す』とか言っておくべきだった。しかし、せっかく評議院に入れたのにお前に出会ってしまったのが一番の計算ミスだな………」
「とっさの言い訳程苦しいものはないよな」
「………やはり…………お前達は結託していたのだな………」
「結託?それは少し違うぞエルザ」
するとジークレインの体が映像を切るようにブツブツ切れ始める。
「オレ達は一人の人間だ。最初からな………」
やがてジークレインとジェラールは徐々に融合して一人の男の姿となった。
その光景に彼女は開いた方が塞がらない。
「そ………そんな……まさか………思念体!?」
かつてマスタージョゼも使った魔法である。自身を映像として作り出し、それを自在に操る魔法である。
「馬鹿な!ならばエーテリオンを落としたのも自分自身!!その為に評議院に潜り込んだと!?」
「かりそめの自由は楽しかったかエルザ?全てはゼレフを復活させる為のシナリオだった………」
「貴様は一体どれだけの者を欺いて生きているんだぁ!!」
ゆっくりと腕を持ち上げ、握りしめると不気味な魔力が溢れ出す。
「力が………魔力が戻って来たぞ………」
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魔法評議院『
そこではエーテリオンを発射した様子を伺っていたが、巨大な
その中の一人の評議院のヤジマはジークレインが消える瞬間を目撃していた。
「やられたっ!!くそぉ!!」
すると彼が掴んでいた手摺りに亀裂が走り、天井もパラパラと石粒が落ち始める。
「こ、これは!?建物が急速に老朽化してる!?」
「
「いかん!崩れて来てる!!みんな逃げろぉ!!」
他の神官達も大慌てで逃げ出そうとする。
そしてヤジマは見た。崩れ落ちる評議院の中心に立つ着物を着た女性、ウルティアの姿を。
「ウルティア………」
「全てはジーク様………いえ、ジェラール様の為。あの方の
その目映るのは悪魔に取り憑かれたかのような不気味な瞳をしていた。
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「ぐあっ!」
「さっきまでの威勢はどうした?斑鳩との戦いで魔力を使い果たしていたか?」
エルザは地面から大剣型の魔法剣を取り出してジェラールに向かって駆け出す。
「ジェラァアァアァァル!!」
振りかざすが片手で簡単に弾かれる。
「今頃評議院は完全に機能を停止している。ウルティアには感謝しなければな」
剣を増やして斬りかかるエルザに対して余裕で剣戟を避ける。
「あいつはよくやってくれたよ。楽園にて全ての人々が一つになれるのなら、死をも怖れぬと………全く、馬鹿な女である事に感謝せねばな………」
「貴様が利用してきた者達全てに、呪い殺されるがいい!!」
両方の剣を振りかぶった直後に背中に痛みが走った。よく見ると体に蛇のような模様が生きているかのように蠢いていた。
「
「か、体が!?」
蛇はやがて体中を巻きつくように動き、両手から剣が落ちる。
「Rシステム作動の為の魔力は手に入った。後は生贄があればゼレフは復活する。もうお前と遊んでる場合じゃないんだよエルザ。
この27億イデアの魔力を蓄積した
蛇が動いて背後の
「お前の事は愛していたよ、エルザ」
「くそっ!くそっ!!」
「偉大なるゼレフよ!今ここに!!この女の肉体を捧げる!!」
両手を大きく広げると塔全体が震え出して綻びが生まれる。
「ジェラール………ジェラァーーールゥゥーーーーーー!!!」
悔しさのあまり、涙を流して
すると誰かが呑まれる彼女を引っ張って出した。
ゆっくり上を見上げると、黒のツンツン頭がトレードマークの少年が立っていた。
「ビート………?」
「俺だけじゃない………」
「オレもいるぜ」
彼の背後に笑顔を見せる桜色の髪の少年、ナツがしゃがんで彼女の顔を覗いていた。
「ビート、ナツ………今すぐここから離れるんだ………」
「………………」
「相手が悪い………アイツはお前が戦ったバサーク以上の相手だ…………」
「エルザ………でも…………」
「…………頼む。…………言う事を聞いてくれ…………」
泣いて懇願する彼女を見ると、起き上がらせて優しく抱きしめた。彼の体温が伝わって暖かさに包まれる。
「ん…………」
「……………大丈夫だよエルザ」
「え?」
するとビートはあろうことかエルザの首筋に手刀を振り下ろした。
突然の不意打ちに彼女は気を失い、彼の腕の中で眠った。それを確認すると安全な場所まで抱き抱えて運んだ。
その時に流れていた涙を拭う。
「随分荒いな。身動き出来ない仲間を痛めて満足か?」
背後から語りかけるジェラールに、頭をポリポリ掻く。
「…………俺はさ………正直言ってゼレフとかそういうの云々はどうでもいいんだよ………多分俺が頭足りてないからこんなこと言えるんだけどさ………」
「…………?」
「けどな………俺がお前にぶん殴る事が一つある」
二人はジェラールの方へ振り向くと激しい怒りに包まれていた。
「エルザを泣かした。お前を殴る理由はそれだけで十分だ………」
「
そんな二人に対してジェラールは怯むどころか逆に笑っていた。
「面白い。見せてもらうぞ………ドラゴンとサイヤ人の力とやらを…………」
二人はほぼ同時にジェラールに向かって駆け出した。
今度こそ本当の最終決戦が始まろうとしていた。