ヨクバリス! ダイエット大作戦!   作:雪化粧

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第三章『征け、勇者ヨクバリス!』
第二十一話『到着、ラルフシティ!』


 グリムシティからラルフシティに向かうルートは三つある。

 一つ目はハンスシティまで戻ってから8番道路を北上するルート。はがねタイプのポケモンが生息している地帯で少なからず危険が伴う上に若干の遠回りになってしまう。

 二つ目は12番道路を北上してルイス地方の中心都市であるキャロルシティに向かい、そこから更に2番道路を南下して向かうルート。途中に危険を伴う場所はなく、最も安全なルートだ。ただし、一番遠回りなルートでもある。

 三つ目はヤーコブ鉱山を通るルートだ。ヤーコブ鉱山の出口はラルフシティの目の前にあり、一番距離が短くて済む。ただし、鉱山だけあって他のルートとは比べ物にならないほど危険だ。

 

「キャーン! とっても綺麗!」

「バリスゥ!」

 

 アリス達はヤーコブ鉱山を通るルートを選んだ。単純にアリスが鉱山を見てみたいと言ったからだ。

 三つのルートを提示したポケナー仮面としても止める理由はない。

 危険と言っても、それは並のトレーナーにとっての話だ。

 今でこそ珍妙な格好でアリスの同行者を担っているが、彼はルイス地方のチャンピオンだ。

 護衛としてグソクムシャを出しているだけで鉱山内のポケモン達は自分から身を隠す。

 ポケモン達をいたずらに怖がらせたくはないが、こういう場所には群れで動くポケモンもいる。

 群れに囲まれた状態ではアリスを護る為にポケナー仮面も本気の一端を見せなければならなくなる。

 避けられるリスクは避けるべきだろう。

 

「ポケナー仮面様! こっちの石、翠に光っています!」

「それはリーフの石になるものだよ」

「これが!?」

 

 アリスはまじまじとリーフの石の原石を見つめている。

 

「リーフの石はくさタイプのエネルギーが特定の石に集まって出来るものなんだ」

「じゃあ、この光が?」

「そうだよ。それがくさタイプのエネルギーなんだ」

「では、あの青い光の石はみずの石になるのですか?」

「そうだよ。あっちの赤い石はほのおの石だね」

 

 アリスが鉱山を見てみたいと言い出したのは、そもそもポケナー仮面が「少し危ないけど、ヤーコブ鉱山は一見の価値があるよ」とさりげなく誘導した為だ。

 その一見の価値の正体こそ、この進化の石の原石達だ。

 

「地下に行くほど石の純度は上がっていく。残念ながら、一般に開放されている区画の石は綺麗なだけで完全な進化の石になる事は滅多にないんだ」

 

 ポケナー仮面の解説を聞きながらアリスは色とりどりに輝く石をヨクバリスと共に見回している。

 連れて来て良かったとポケナー仮面は思った。

 グリムシティを出る時の暗い表情は完全に払拭されている。

 

「シャァァ」

 

 グソクムシャが何かを拾って来た。

 

「なんですの?」

 

 アリスが駆け寄ってくると、グソクムシャは体を屈めて彼女に持っていたものを手渡した。

 

「これって……」

 

 それは闇を閉じ込めたような黒い輝きを放つ石だった。

 

「『やみのいし』のようだね。グソクムシャがアリスくんにプレゼントだそうだよ」

「いいのですか!?」

 

 アリスが目を見開くと、グソクムシャはコクリと頷いた。

 

「ありがとうございます!」

「シャァ」

 

 グソクムシャは一鳴きすると持ち場に戻って行った。

 

「綺麗ね、ヨクバリスちゃん」

「バリス!」

 

 暗黒の光に見惚れるアリス。

 すると、彼女の前にふわふわと一振りの剣が飛んで来た。

 

 第二十一話『到着、ラルフシティ!』

 

「バリス!?」

 

 慌ててヨクバリスがアリスを庇う。

 グソクムシャも既に戦闘態勢に入っていた。

 

「ヒトツキだ。やみのいしに惹かれて来たのかもしれないな」

 

 ヨクバリスが威嚇しても鞘に刃を収めたまま襲いかかって来ない。

 

「バ、バリス……?」

 

 ヒトツキはヨクバリスを見つめている。

 

「ポ、ポケナー仮面様……?」

 

 アリスは困惑しながらポケナー仮面を見つめた。

 

「ヨクバリスが目的なのか……?」

「シャァァァァ!」

 

 グソクムシャは目にも留まらぬスピードでヨクバリスの背後に回るとアリスの下へ連れ戻した。

 ヒトツキはヨクバリスを追いかけるが、その間にグソクムシャが割り込む。

 

「シャァァァァ!」

 

 グソクムシャが威嚇するがヒトツキは気にした様子も見せず、真っ直ぐヨクバリスの下へ向かっていく。

 

「シャァ!」

 

 グソクムシャは判断を仰ぐかのようにポケナー仮面を見た。

 

「……襲いかかってくるわけでもない相手を攻撃するわけにはいかん。ここは逃げるぞ!」

「シャァ!」

「キャッ」

「バリス!?」

 

 ポケナー仮面はアリスを抱き上げ、グソクムシャはヨクバリスを持ち上げた。

 そのままスタコラサッサと逃げ出す。

 

「ツッキー!」

 

 当然のように追いかけてくるヒトツキ。

 

「こっちだ、グソクムシャ!」

「シャァァ!」

 

 アリスやヨクバリスを抱えていながら、ポケナー仮面とグソクムシャは実に速かった。

 

「ディグダグディグダグダグダグ!」

 

 ディグダの群れの頭上を飛び越え、

 

「サン!」

「パーン!」

「ンドンド!」

 

 サンドやサンドパンの集会を横目に見て、

 

「イワークッ!」

 

 イワークの背中を駆け抜け、

 

「キザン!」

「キリキリキリキリ!」

 

 キリキザン同士の決闘の間を抜け、

 

「ズバッ!」

「ゴルバッ!」

「コロロロロ!」

 

 ズバットやゴルバット、コロモリの襲撃を華麗に避け、

 

「アドス!」

「イトマ!」

 

 イトマルやアリアドスが張り巡らせている糸の結界の隙間を超えて、

 

「ま、まだ追ってくるのか!?」

「シャァァァァ!」

 

 それでもヒトツキは追ってくる。

 しかも、その後ろからディグダの群れやサンドの群れ、イワーク、キリキザン、ズバット、ゴルバット、コロモリ、イトマル、アリアドスまで追い掛けて来ている。

 

「何故!?」

「シャァァ!?」

「わかりましたわ!」

 

 アリスが叫んだ。なんと、彼女はポケナー仮面に抱っこされた状態で本を読んでいた!

 それはキャロルシティに研究所を構えるポケモン博士のイバラが書いたものだ。

 

「ヒトツキの進化系であるギルガルドはその霊力で人やポケモンを操る事が出来るそうです。嘗て、その力で王国を築き上げたギルガルドも居たそうです!」

「な、なるほどな! つまり、あのポケモン達はヒトツキに操られているというわけか! あれだけの数を……、とんでもない霊力だ!」

「シャァァァ!」

 

 迎撃するべきではないかとグソクムシャがポケナー仮面に問う。

 

「いや、出口は近い! 開けた場所に出たらアーマーガアで離脱する!」

「シャッ!」

 

 最短距離で出口に向かっていく。

 

「見えた! 外だ! アリスくん、すまないが落ちないように私にしがみついていてくれ!」

「はい!」

 

 アリスがしがみつくと、ポケナー仮面は右手をアリスから離してアーマーガアのボールを取った。

 

「出ろ! アーマーガア!」

「ガァァァァ!」

 

 ボールから飛び出したアーマーガアは宙返りする。

 

「アリスくん、ヨクバリスをボールに!」

「は、はい!」

「戻れ、グソクムシャ!」

「戻って、ヨクバリスちゃん!」

 

 二体をモンスターボールに戻すと同時にポケナー仮面は跳び上がった。

 すると足元にアーマーガアが体を滑り込ませ、二人を背中に乗せるとそのまま天高く舞い上がっていく。

 

「この高度まで上がればさすがに追ってこれないだろう」

「あのヒトツキ、何だったのでしょうか?」

「分からないが、ヒトツキは人に取り付き命を吸い取る。出来れば刀身を磨いてみたかったが……」

 

 アリスはヤーコブ鉱山の方角を見た。もう、かなり距離が離れている。

 アーマーガアの移動速度はとても速く、すでにラルフシティ上空まで来ていた。

 

「とりあえず、シティに降りよう。アーマーガア!」

「ガァァァァ!」

 

 アーマーガアが高度を落としていく。

 

「あっ!」

 

 アリスが声をあげた。

 

「どうしたんだい?」

「あそこ! シンがバトルしてます!」

 

 ポケナー仮面はアリスが指差した方向を見た。

 すると、そこには確かにシンがいた。

 

「どこでバトルをしているんだ!?」

 

 ポケナー仮面は思わず叫んだ。

 シンがバトルをしているのは一般人の立ち入りが固く禁じられている『モンスターボール工場』のパイプラインの上だった。

 

「い、今にも落ちそうですわ!?」

 

 あんな足場の不安定な場所でどうしてバトルをしているのかアリスには理解不能だった。

 

「状況はよく分からんが放っておけん! カラマネロ、サイコキネシス!!」

「ネーロ!」

 

 ポケナー仮面がハイパーボールからカラマネロを繰り出した。

 カラマネロはサイコキネシスを使ってシンとグラエナ、そして相手のトレーナーとサワムラーを空中に持ち上げた。

 

「シン!」

「なっ!? って、アリス!? それに、ポケナー仮面!」

 

 いきなり空中に持ち上げられたシンはパニックを起こしかけたけれど、すぐにアリス達に気づいた。

 

「シン! いくらバトルが好きでもそんな所で戦うのは危ないと思います!」

「えっ!? あっ、いや、オレだって好きでこんな所でバトルしてるわけじゃないぞ!」

「え? では、どうしてこんな所に?」

「あいつらがモンスターボール工場を占拠してるんだ! 報せが入ったのが丁度ジムバトルの真っ最中だったからジムリーダーのシドに協力を申し出たんだ!」

「工場を占拠だと!? まさか、お前はフェアリーテイルか!?」

 

 ポケナー仮面はカラマネロが浮かせているシンと戦っていたトレーナーを睨みつけた。

 

「クッ、離せ! この変態仮面!」

「だ、誰が変態仮面だ!」

「クソォ、これしきの拘束なんぞ……、サワムラー!!」

「ムラァァァァ!」

 

 サワムラーがサイコキネシスによる拘束を破ろうともがいている。

 けれど、カラマネロは余裕の表情だ。

 

「ネーロ」

 

 サワムラーを見下しながら嗤っている。

 ぐぬぬと悔しげな表情を浮かべるサワムラー。

 

「とりあえず地上に降りよう。カラマネロ、さいみんじゅつだ!」

「ネーロ」

 

 カラマネロのさいみんじゅつ!

 サワムラーとフェアリーテイルの下っ端は眠りに落ちた。

 

「……オレがすっごい苦戦した相手なのに」

 

 シンはちょっと悔しそうだ。

 

「さて、シドが潜入しているそうだが……、心配だな」

「お知り合いなのですか?」

「え? あっ、いや、そういうわけではないのだが……、彼は猪突猛進な性格だと聞いた事があるんだよ」

 

 ポケナー仮面は少し慌てた様子で言った。

 

「猪突猛進ですか?」

「ああ、とにかく馬鹿正直な男でね。工場を占拠するような相手だ。罠を仕掛けている可能性もある。彼の場合、その罠に真正面から飛び込みかねないんだ……」

 

 ポケナー仮面はかなり不安そうだ。

 

「た、大変です! 助けに参りましょう!」

「し、しかしな……」

 

 チャンピオンのレイヴンとしては悪の組織の蛮行を放置など出来ない。

 けれど、今の彼はアリスの同行者であるポケナー仮面だ。

 アリスを一人にする事も出来ないが、だからと言って、彼女を悪の組織が占拠している所につれていく事も出来ない。

 

「仕方がない! カラマネロ! サイコフィールド展開だ!! 工場全てを支配しろ!!」

「ネーロ!!!」

「工場全て!?」

「まあ!」

 

 カラマネロのサイコフィールド!

 アリスの前であまり本気を出す姿は見せたくないが、アリスを一人にせず、シドを救う方法は他にない。

 この場所から動かず、フェアリーテイルをすべて倒し、シドとモンスターボール工場を奪還する!

 カラマネロから放たれた紫の光が工場の敷地全体を覆い尽くした!

 

「や、やっぱ、スゲェ! ポケナー仮面、スゲェ!」

「さすがですわ、ポケナー仮面様! カラマネロちゃん!」

「そ、そうかい?」

 

 子供達に称賛され、ポケナー仮面はちょっとニヤついた。

 

「ネーロ!」

 

 さっさと次の指示を出せとカラマネロの叱責が飛ぶ。

 

「す、すまん! カラマネロ、サイコフィールドを介して、工場内のすべてのトレーナーとポケモンにさいみんじゅつ!」

「ネーロ!」

 

 カラマネロは邪悪に嗤う。

 嘗てカラマネロは、一つの都市を支配して、多くのトレーナーとポケモン達を隷属させていた。

 当時十歳だったポケナー仮面とグソクムシャによって討伐され、その実力に惚れ込んで彼の手持ちとなった。

 人もポケモンも己の掌中で踊る事しか出来ない。その久方振りの感覚にカラマネロは酔い痴れた。

 

「ネーロ!!」

 

 カラマネロのサイコキネシス。

 工場からさいみんじゅつによって意識を支配された人とポケモンが飛び出してくる。

 

「ネーロッロッロ!」

 

 地面に降ろすと、カラマネロはそのまま彼らを跪かせた。

 

「ネーロ」

 

 その様にシンはちょっと引いていた。

 これではどっちが悪党だか分からない。

 

「そこまでだ、カラマネロ。あんまり悪い顔してると……、分かるな?」

「ネロ!?」

 

 カラマネロはビクッとした。

 そして、残念そうにサイコキネシスとサイコフィールドを解除した。

 

「後はシドやジュンサーさんに任せよう」

 

 ポケナー仮面は眠っているシドを起こしに向かった。

 その間にアリスはつまらなそうにしているカラマネロの下へ向かう。

 

「お疲れさまです! すごくかっこよかったですわ、カラマネロちゃん!」

「ネロ? ネーロ!」

 

 カラマネロはドヤ顔を浮かべた。

 まあ? 当然ですけど? そんな表情だ!

 

「アリスもアリスでよくさっきの見て近づけるな……」

 

 シンはアリスの恐れ知らずなところを見て呟いた。

 正直、人間やポケモンを完全に見下していたさっきのカラマネロにはゾッとした。

 ポケナー仮面が止めなかったら、カラマネロは彼らに何をしていただろう?

 

「……やめやめ」

 

 シンは怖くなって考える事を放棄した。


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