ヨクバリス! ダイエット大作戦!   作:雪化粧

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第二十四話『邪悪』

「何をやってるんだ、オレは!!」

 

 ポケナー仮面は己の不甲斐なさを呪いながらアリスの下へ駆けていく。

 グソクムシャが放った殺気は建物の中にいても伝わって来た。

 宿内のポケモン達は恐怖のあまり狂乱し、トレーナー達も得体の知れない恐怖に身を竦ませていた。

 ポケナー仮面のグソクムシャはその身に纏う覇気だけで大抵の相手を戦闘不能にする事が出来る。

 それ故に普段は己の力を抑え込んでいる。その力の一端を解放する程の事態が起きた。

 

「無事でいてくれ、アリスくん!」

 

 戦闘音が聞こえてくる。

 遠目にヨクバリスが戦っている姿が見えた。

 

「ヨクバリス!!」

 

 ヨクバリスの必死な叫び声が聞こえてくる。

 甘えん坊でのんきな性格のヨクバリスが必死になる事態。

 シンが傍にいるからと油断し、誘拐未遂が起きたばかりだというのに一時(いっとき)でも離れてしまった事を後悔した。

 

「アリスくん!!」

 

 辿り着いた時には戦闘が終わっていた。

 ヨクバリスと、何故かギルガルドがアリスに抱きついている。

 一人と二匹は泣いていた。

 

「……アリスくん」

 

 ポケナー仮面は拳を強く握りしめた。

 怖い思いをした。もしかしたら、痛い思いをしたかも知れない。

 そんな時に浮かべる表情が怒りや悔しさなどであっていい筈がない。

 

 ―――― 笑え、ポケナー仮面!

 

 己の不安など表に出すな。

 ポケナー仮面は深く息を吸い込んだ。

 

「アリスくん!!」

「ポケナー仮面様!!」

 

 ポケナー仮面は安心させる為に笑顔を浮かべた。

 

「もう大丈夫だ! すまなかったね、怖い思いをさせてしまった!」

「……ポケナー仮面様」

 

 アリスは鼻を啜った。

 涙を零しながらヨクバリスと抱きしめ合っている。

 そんな彼女の頭を撫でながら、ポケナー仮面は「よく頑張ったね」と言った。

 

「ヨ、ヨクバリスちゃんと……、グス、ギルガルドちゃんが助けてくれたの……」

「バリス……」

「ギル……」

 

 ポケナー仮面はヨクバリスとギルガルドを見た。

 何が起きたのか詳しい事は分からない。

 けれど、一つだけハッキリしている。

 

「ヨクバリス。ギルガルド。よく主人を守ったな。凄いじゃないか!」

「バリス!」

「ギル!」

 

 ヨクバリスとギルガルドは微笑んだ。

 その笑顔がアリスにも元気を与える。

 

「本当にありがとう、ヨクバリスちゃん。ギルガルドちゃん。大好き」

「バリスゥ!」

「ギルゥ!」

 

 アリスの事は二匹に任せる事が最善だろう。

 ポケナー仮面は二匹の頭と柄を撫でると、グソクムシャの方へ向かった。

 グソクムシャはアリス達を怖がらせない為に殺意を抑えているようだ。

 けれど、拘束されている男にはグソクムシャの漏れ出す憤怒の感情が伝わっていたらしい。

 全身を小刻みに震わせている。

 

「グソクムシャ、ご苦労だったな」

「……シャァァァァ」

 

 グソクムシャは顔を背けた。

 労われる事を望んでいないのだ。

 アリスを守れと言われたのに守り切るどころか敵の罠に嵌ってしまった。

 己の不甲斐なさにグソクムシャは怒っている。

 

「……そうだよな。オレも自分の愚かさに腸が煮えくり返ってるよ」

「シャァァァァ……」

 

 グソクムシャはポケナー仮面に視線を向けると、小さく頷いた。

 

「ああ、三度目はない。次は絶対に守るぞ」

「グシャッ!」

 

 決意を新たに固めると、ポケナー仮面はグソクムシャが拘束している男に視線を向けた。

 そして、大きく目を見開いた。

 

「なっ!? 何故、お前が!?」

 

 その男をポケナー仮面は知っていた。

 彼だけではない。このシティの人間ならば誰もが知っている。

 

「シド!!」

 

 その男の名はシド。

 このラルフシティのジムリーダーだ。

 

 第二十四話『邪悪』

 

「……そ、その声! や、やっぱりだ! あの異常な規模のサイコフィールドといい! この化け物といい! アンタが例の変態仮面の正体だったわけだ! チャンピオン!」

 

 震えながらシドが叫んだ。

 

「シド……。そうか、そういう事だったんだな。モンスターボール工場の襲撃犯達の中に幹部の姿を見つける事が出来なかった。だが、確かに幹部はそこにいたわけだ」

 

 襲撃されたモンスターボール工場奪還の為に立ち上がった男こそ、他ならぬ襲撃の主犯だったわけだ。

 近くにグソクムシャが倒したのだろうピジョットがのびている。

 普段は移動にエアームドを使っている癖にピジョットを使って小賢しくも司法の目を欺こうとしたようだ。

 

「猪突猛進。そう言われるほど一本気で真っ直ぐだった筈のお前が……、何故だ?」

 

 ジムリーダーとしてもライザほどではないが優秀だった。

 シティの人々からも慕われている。

 

「……ウゼェ」

「なに?」

 

 シドは拘束されたままポケナー仮面の足元にツバを吐いた。

 

「始めは良かったさ。周りが認めてくれる事が嬉しかったし、モチベーションにも繋がった。けどよ、猪突猛進? 一本気? まっすぐ? ウザッてーんだよ、そういう押しつけが!」

「シ、シド!?」

 

 まるで鬼のような形相を浮かべるシドにポケナー仮面は目を見開いた。

 

「オレの事を知った風な口で語りやがって! オレの事が分かるのはオレだけなんだよ!」

「シド……、お前!」

 

 

 ポケナー仮面は腰のハイパーボールを掴んだ。

 

「そういう事か! カラマネロ!」

「ネーロ!」

 

 ポケナー仮面はカラマネロを繰り出した!

 カラマネロはサイコパワーによって見えないモノを見破った。

 

「サイコキネシス!」

「ネーロ!」

 

 カラマネロのサイコパワーがシドの頭の上に寄生していたポケモンを炙り出した!

 

「こいつは!?」

 

 ポケナー仮面はスマホのポケモン図鑑アプリを起動した。

 

『ウツロイド。きせいポケモン。ウルトラホールと呼ばれる空間の穴の先から現れたウルトラビーストの一体。理性を失わせる神経毒を持ち、人やポケモンに寄生して操る事が出来る』

 

 ウルトラビースト。アローラ地方で存在が確認された異世界のポケモンだ。

 ポケナー仮面にとっても初めて遭遇する相手だった。

 

「フェアリーテイルはウルトラビーストを使役しているのか……!」

 

 これまでフェアリーテイルの情報が謎に包まれていた理由も分かった。

 何も知らない人間がウツロイドに寄生されて操られていたのだ。

 もしかするとモンスターボール工場の襲撃犯達も操られていたのかも知れない。

 だから、自分は悪くないと無罪を主張しているのかもしれない。

 

「……カラマネロ、ウツロイドを支配しろ」

「ネーロ」

 

 ポケナー仮面の命令にカラマネロは邪悪な笑みを浮かべる。

 ウツロイドは逃げ出そうとしたけれど、カラマネロは回り込んだ。

 

「ネーロ」

 

 カラマネロのさいみんじゅつ!

 ウツロイドの精神がカラマネロによって侵食されていく。

 またたく間にウツロイドは自分の意思で動く事が出来なくなった。

 己以外の意思によって触手が動かされる。その恐怖にウツロイドは震えている。

 

「ネーロネロネロ!」

 

 カラマネロはウツロイドの恐怖する姿を見るのが楽しいようだ。

 もっと怖がらせたい。もっと震えさせたい。

 

「カラマネロ。それ以上はやらなくていい」

「ネーロ」

 

 カラマネロは不満そうだ。

 

「……そんなに満足したいのか?」

「ネ、ネロ!?」

 

 ポケナー仮面が手をわきわきさせるとカラマネロは首を横にぶんぶん振って大人しくなった。

 

「ウルトラビーストを使役するなど……、フェアリーテイルとは一体……」

 

 謎に包まれたウルトラビーストを使役するフェアリーテイル。

 その実体がますます分からなくなった。

 

「……あれ? オレ、一体……」

 

 ウツロイドが倒れたカラマネロに支配された事でシドも正気に戻ったようだ。

 

「いや、覚えてる……。オ、オレ、なんて事を……!」

 

 シドは青ざめた表情を浮かべている。

 

「落ち着け、シド」

「……チャ、チャンピオン。オ、オレ! とんでもない事しちまった!」

「お前はウツロイドに操られていただけだ」

「そんなの言い訳になるか!! あ、あの女の子の髪を引っ張ったり、く、首を締めようとしたり……、オ、オレ……」

 

 シドは罪悪感のあまり自分の胸を掻きむしり始めた。

 

「カラマネロ! シドを眠らせろ!」

「ネーロ」

 

 カラマネロはシドにさいみんじゅつをかけた。

 またたく間に眠りに落ちるシド。

 

「……なんという事だ」

 

 人を操り、罪を犯させる。

 あまりにも残酷な仕打ちだ。

 

「アリスくん……」

 

 フェアリーテイルの悪意がこれほどとは考えていなかった。

 今回の事で旅を続ける事が怖くなったかも知れない。それに、ヨクバリスは順調に痩せてきている。

 聞いてみよう。旅を続けるかどうか。

 もし、彼女が望むなら、ここで旅は終わりにしよう。

 ポケナー仮面は悲しげな表情を浮かべながら決意した。


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