ヨクバリス! ダイエット大作戦!   作:雪化粧

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第三十話『かつて王と呼ばれていた甘えん坊』

 むかしむかしの話である。アンデルシティの西に聳えるアンデル・ベルク。その中腹に不思議な光景が広がっていた。

 たくさんのポケモンのたまごが並んでいる。どれ一つとして同じものはなく、親であるポケモンの姿もない。

 おまけにたまごの近くには奇妙な亀裂があった。

 虚空に浮かぶ奇妙な亀裂。そこから青白い光がたまごへ注がれていく。

 

「どうかね?」

「まだ時間が掛かるみたいですね」

 

 一組の男女が近くで話している。

 白衣の女性は書類を捲りながら男性に報告しているようだ。

 

「エーテル財団のDr.ザオボーの研究レポートを参考に作成したウルトラホール発生装置は順調に稼働しています。後はウルトラホールから注がれるエネルギーを受け続けた卵が孵化するのを待つだけです」

「そうか……」

 

 男の方は所狭しと並べられている卵を見回していく。

 すると、一つの卵がピクピクと動き出した。

 ピシピシと音を立てて割れていく。

 不思議な事に、卵の中から卵よりも大きなポケモンが這い出てきた。

 

「グルル……」

 

 ヘルガーだ。けれど、生まれたばかりにしては……いや、他の成熟した同族と比べても明らかに体が大きい。

 

「素晴らしい!」

 

 女は歓声を上げた。

 

「大成功です! 生まれた時から最終進化形態! 通常個体より二回り以上も大きな体躯! 間違いなく『ぬしポケモン』と呼ばれる特別個体と同等の存在です!」

 

 上気した顔でヘルガーに近づいていく女。

 ヘルガーは吠えた。

 生まれ落ちてからの数分のヘルガーの心は怒りで染め上げられていた。

 エネルギー波の影響なのか、ヘルガーは卵の状態から既に意識を持っていた。

 自分の肉体をいたずらに弄ばれた事を理解していた。

 

「グオォォォォン!!!」

 

 一切の容赦なく、ヘルガーはれんごくを女に向けて放った。

 

「あらあら」

 

 けれど、獄炎は女に届く事なく鎮火した。

 

「カメックス、ハイドロカノン」

 

 男はハイパーボールからカメックスを繰り出していた。

 れんごくをかき消したカメックスはそのまま砲身をヘルガーに向けている。

 放たれる究極奥義。

 こうかはばつぐんだ。ヘルガーは吹き飛ばされ、地面を転がった。

 

「次からは孵化直後にダメージを与えて暴れる前に収穫しましょう」

 

 女は困ったように手元の書類へ記述を追加する。

 そして、男はモンスターボールを構えた。

 それが何なのか、ヘルガーには分からなかった。

 けれど、カメックスがハイパーボールから飛び出してくる光景は見た。

 

「グルルルル……」

 

 今の状態では避けられない。

 あの中に閉じ込められたら終わりだ。

 次に生まれてくるポケモンは反抗すら許されないだろう。

 

「アオォォォォン!!!」

 

 ヘルガーはスモッグを周囲に撒き散らした。

 

「……逃がすな、カメックス」

「ガメェ!!」

 

 カメックスがヘルガーに迫る。

 けれど、その前にヘルガーの姿はスモッグに紛れた。

 そして、ヘルガーは最後の力を振り絞り、歩いていく。

 

「グォォォォン!!!」

 

 スモッグが晴れる寸前、ヘルガーは最大威力のれんごくを発動した。

 

「いかん!? カメックス、ハイドロカノン!!!」

 

 男はカメックスに迎撃を命じる。

 

「ガメェ!!!」

 

 迫り来るハイドロカノンにヘルガーは嗤う。

 そして、最後の瞬間までれんごくを発動し続け、ハイドロカノンの威力を下げ続けた。

 

「いけない! 卵が!」

 

 女が焦ったように叫ぶ。

 スモッグが晴れたのだ。ヘルガーは卵の山の前にいた。

 威力が落ちたハイドロカノンが卵の山を押し流していく。

 

「……狙ったのか」

 

 男は慄くように呟いた。

 ヘルガーは再び男に向かってれんごくを放とうとしたが、その前に気を失った。

 

「すぐに回収します!」

 

 女が走り去っていく。

 彼女は有能だ。すぐに全ての卵を回収するだろう。

 男はヘルガーに憐れみの眼差しを向けた。

 

「可哀想に……」

 

 そう呟くと、男はヘルガーにモンスターボールを投げた。

 

 第三十話『かつて王と呼ばれていた甘えん坊』

 

 ハイドロカノンによって押し流された卵の内、大半は白衣の女に回収された。

 けれど、幾つかの卵は奇跡的に魔の手を逃れていた。

 ある卵は付近を根城にしていたバンギラスの群れの庇護下に入り、ある卵は『じわれ』によって発生した断層の底へ落ち、ある卵は偶然通りかかったペリッパーに運ばれていった。

 

「バリス?」

 

 ヨクバリスはペリッパーの口の中で生まれた。

 

「ペリ!?」

 

 ペリッパーの口の中は大変な事になっていた。

 なにしろ、生まれたヨクバリスは通常個体よりもずっと大きい。

 慌てて吐き出したペリッパー。

 

「バリスゥゥゥゥゥゥ……」

 

 落ちていくヨクバリス。

 

「ペリ!? ペリィィィィ!!!」

 

 大慌てで追いかけるペリッパー。

 

「バリスゥ」

「ペ、ペリ……」

 

 間一髪!

 ペリッパー、ヨクバリスの救出に成功。

 口を傷めて産んだ子を危うく死なせる所だった。

 

「ペ、ペリィ……」

 

 けれど、あまり長くは飛べなかった。

 なにしろ、ヨクバリスは大き過ぎる。重さも見た目相応だ。

 よろよろと落下した先はアンデルシティの南に広がる森。

 背の高い木が空を隙間なく埋めている。

 暗闇を照らしているのは不思議なキノコだ。色とりどりの光を放っている。

 

「バリス!」

「ペリィ!?」

 

 ヨクバリス、初めて見る光景に興味津々の様子。

 勝手にとことこ走り出してしまった。

 ペリッパー、いつの間にやらお母さん気取り! 

 ちょっとお待ちよと慌ててヨクバリスを追いかける。

 

「バリバリス!」

「ペリィィィ!」

 

 一羽と一匹の旅は今始まった。

 

「バリス?」

「ガリス!」

「バリス!」

「ホシー!」

「バリバリス!」

 

 そして、一分後に終わった。

 

「バリス!?」

「ペリィ!?」

 

 なんと、そこはホシガリスとヨクバリスの生息域だったのだ。

 

「バリス……」

「ペリィ……」

 

 見つめ合うヨクバリスとペリッパー。

 一羽と二匹の間に数々の思い出が流れる。

 一緒に食事をした。一緒に眠った。一緒に……、一緒に……、

 

「バリスー!」

「ペリィ!」

 

 そんな事は無かったと思いだして、一匹と一羽はあっさりとお別れした。

 

「ガリス!」

「バリス!」

「バリバリス!」

 

 群れはヨクバリスを歓迎した。

 野生では強いモノが偉いのだ。通常個体よりも遥かに大きな体躯を持つヨクバリスはまたたく間に群れのリーダーになった。

 

「バリス!」

 

 ヨクバリスは甘い木の実が大好きだった。

 仲間と一緒に木の実を探して、見つけた木から根こそぎ木の実を奪っていく。

 時には他のポケモンの群れと戦う事もあった。けれど、ヨクバリスは誰にも負けなかった。

 森にはヨクバリスよりも強いポケモンがいなかった。

 だから、やりたい放題だった。

 

「バリス! バリバリス!」

「ガリス!」

「バリスゥ!」

「バリス!?」

「ホッシー!」

「バリバリ!」

「バリス?」

「バリバリバリスゥ!」

 

 お腹いっぱい食べて、眠りたいだけ寝て、追いかけっこをしたり、木登りをしたり、毎日が楽しさでいっぱいだった。

 けれど、終わりの日がやって来た。

 群れの中に見知らぬヨクバリスが紛れ込んだのだ。

 

「バリス?」

 

 新たな仲間を歓迎しようとしたヨクバリス。

 けれど、ヨクバリスはその手を払い除けた。

 固唾をのむ周囲のヨクバリスとホシガリス。

 

「バリス……」

 

 ヨクバリス、同族につれない態度を取られたのは初めてだった。

 ショック! お目々がうるうるしている。

 

「バリス!」

 

 ヨクバリス、なんと決闘を申し込んできた!

 

「バ、バリス!?」

 

 突然の事に動揺するヨクバリス。

 けれど、ヨクバリスには容赦がなかった。

 

「バリス!」

 

 そのヨクバリスはトレーナーに鍛えられた個体だった。

 そして、トレーナーに捨てられた個体だった。

 野生のままでは身につかない力と技でヨクバリスを攻め立てる。

 対するヨクバリスは同族を攻撃する事など出来なかった。

 我儘でやりたい放題だけど、仲間の事は大切だったのだ。

 気づけばヨクバリスはボロボロだった。

 仲間達が庇おうとしたり、助太刀しようとしたけれど、その仲間達が傷つく姿を見ると、ヨクバリスは泣きながら群れを去って行った。

 

「バリ……、スゥ」

 

 楽しい日々が壊れてしまった。

 瀕死寸前までダメージを受けていて全身が砕けそうなほど痛い。

 ヨクバリスは泣き叫んだ。

 

「まあ、大変!」

 

 そして、ヨクバリスは一人の女の子と出会った。

 傷を癒やしてもらって、食べたいだけの木の実を食べさせてもらえた。

 楽しい日々は再び戻って来た。

 仲間の事が恋しくなる事もある。だけど、ヨクバリスは新しい群れを手に入れた。

 

 ◆

 

「……バリス?」

「ヨクバリスちゃん!!」

「バリス!?」

 

 懐かしい光景が終わりを迎え、ヨクバリスは現実へ戻って来た。

 泣きじゃくるアリスにヨクバリスもぐずり始める。

 

「ギルゥ!!」

 

 その隣で寝ていたギルガルドも目を覚まして一緒に泣き始める。

 一人と二匹がわんわん泣くと、近くにいたカイリキーまで泣き始めた。

 護衛の為にいたグソクムシャとカラマネロは困り果て、ピカチュウが電話中のポケナー仮面を呼びに行く。

 

「あらあら、大丈夫?」

 

 そんな中、一人の女性が病室に入って来た。

 白衣を纏った綺麗な女性だ。

 

「……グス、あなたは?」

 

 アリスが涙を拭いながら問いかける。

 

「イバラ。ポケモン博士よ、お嬢さん」

 

 ポケモン博士のイバラ。

 数年前にアローラ地方から移ってきた研究者だ。


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