ヨクバリス! ダイエット大作戦!   作:雪化粧

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第三十一話『ポケモン博士のイバラ登場!』

 ポケモンリーグ!

 それは最強のポケモントレーナーを目指す者達の到達点である。

 その頂に君臨する者を人々はチャンピオンと讃え、彼に匹敵する四人の実力者を四天王と呼んでいる。

 

「……グスン」

 

 そんな四天王の一人であるレヴィは机を涙で濡らしていた。

 

「……アンタ、今年で二十六歳でしょ?」

「リ、リリアン!? ちょっと、ノックして下さいよ!」

「したわよ!」

 

 彼の私室に入ってきたのは同じく四天王のリリアン。

 この地方におけるNo.2とNo.3である。

 

「そろそろシャキッとしなさい!」

「だ、だって、レイヴン様が行方知らずになってしまったんですよ!? リリアンは心配じゃないんですか!?」

「…………」

 

 リリアンは別に心配していなかった。何故なら、彼はチャンピオンの居所を把握しているからだ。

 

「リリアンの薄情者!!」

「薄情者とは何よ!? まだ何も言ってないでしょ!」

「うわぁぁぁぁん! レイヴン様、いずこにぃぃぃぃ!?」

 

 泣きじゃくるレヴィにリリアンはやれやれと溜息を零した。

 真面目で堅物な上にレイヴンを神聖視している彼に今の変態仮面姿を見せるわけにもいかない。

 とは言え、このままだとレヴィがダメになってしまう。

 

「……仕方ないわね」

 

 リリアンはこっそりと部屋を出てレイヴンに電話を掛けた。

 何回目かのコールで通話に応答した彼は妙にそわそわした声色だった。

 

『リリアン、何か用か!?』

「何か用かって、随分な言い草ね」

『す、すまん。だが、今は少し立て込んでいてな……』

 

 その言葉にリリアンの目が据わる。

 

「……また、フェアリーテイル?」

『いや、違う。アリスくんがジムバトルで負けて落ち込んでしまっているんだ! 今は傍にいてあげたいんだ!』

 

 リリアンは深く溜息を零した。

 どいつもこいつも……。

 

「ジムバトルは負けるのも経験の内でしょ! アリスちゃんの方はポケモン達に任せときなさいよ。護衛はつけてるんでしょ?」

『あ、ああ。グソクムシャとカラマネロとピカチュウに警戒させている』

 

 十分過ぎる……。

 一匹だけでも街一つを容易く制圧出来る猛者達だ。

 

「だったら、ちょっと時間をちょうだい」

『……わ、わかった。火急の要件なんだな?』

「そうよ。レヴィを慰めてちょうだい」

『レヴィ?』

「そうよ! アンタ、電話の一本くらいしときなさいよ! あの子ったら、毎日ベソかいてんのよ!」

『ぐっ……。けど……、その……』

「なによ?」

『正直……、ちょっと苦手で……』

 

 リリアンは眉間に青筋を浮かべた。

 

「苦手で、じゃないわよ! アンタの補佐として長年頑張ってくれてるパートナーでしょ!」

『そ、そうなんだが……、なんというか……、その……、下手に連絡を入れると連れ戻される気がするし……』

 

 情けない声で情けない事を言い出すレイヴンにリリアンは何度目かの溜息を零す。

 

「……アンタ、今年で何歳?」

『ぐっ……』

「三十歳よね? だったら、筋を通すくらいは出来るわよね?」

『……ぅぅ』

「アンタの事情も理解はしてるわよ? アリスちゃんの事も。でも、通すべき筋がある事を忘れるんじゃないわよ! あんまり美しくない事続けるなら、アタシ本気でキレるわよ?」

『わ、わかりました! すぐに連絡を入れます!』

「結構! 言ったからには行動しなさいよ? アタシ、ダブスタ野郎は嫌いなの。知ってるわよね?」

『サーイエッサー!』

 

 やれやれと肩を竦めながらリリアンは電話を切った。

 すると直ぐにレヴィの部屋から「レ、レイウン様!?」という叫び声が聞こえてきた。

 有言実行は実に美しい。リリアンはホッと笑みを浮かべた。

 

「まったく、世話のかかる子達なんだから」

 

 第三十一話『ポケモン博士のイバラ登場!』

 

 レヴィに謝り倒し、なんとか連れ戻されないように言い訳を重ね、自分の居場所がバレないように誤魔化して電話を切ると、ポケナー仮面はヨクバリスとギルガルドが眠っている病室へ戻って行った。

 すると、そこには見覚えのある女性の姿と彼女に縋り付くように眠るアリスの姿があった。

 

「イバラ博士!」

「シー。静かに」

 

 ポケナー仮面は慌てて口を閉じた。

 

「……この子、かなり参ってるわね」

「ええ、ジムバトルの敗北が堪えているようで……」

 

 ポケナー仮面が言うと、イバラはやれやれと首を横に振った。

 

「違うわ、レイヴン。この子はずっと前から心労を重ねていたの」

 

 イバラはアリスの頭を撫でながら言った。

 

「保護者を気取るなら、もっと良く見てあげなさい。私、ガイから連絡を受けたのよ。この子、まるで何かに追い詰められているように焦っているって……。それに、ポケモンが大好きな筈なのに、ポケモンよりも勝利に目がいってしまっているって」

「アリスくん……」

 

 ポケナー仮面は寝息を立てているアリスを見つめた。

 ヨクバリスやギルガルドも彼女を心配そうに見つめている。

 

「話を聞いたわ。フェアリーテイルに追われたり、色々な人に無遠慮な言葉を浴びせられたみたいね……」

「……わ、私は」

「別に自分を責めろとは言ってないわ」

 

 自責の念に駆られるポケナー仮面にイバラはにべもなく言った。

 

「反省しなさいと言っているのよ。それと、もっと早くにここへ来るべきだったわ」

「……それはどういう意味ですか?」

 

 イバラは言った。

 

「このヨクバリスは太り過ぎているわけじゃないのよ。こういう個体なの」

「太り過ぎているわけじゃない……? いや、しかし……」

「レイヴン」

 

 イバラは厳しい表情を浮かべて言った。

 

「大事な話よ。このヨクバリスは『ぬしポケモン』なの」

「ぬしポケモン!? それはアローラの……」

「そうよ。アローラ地方に存在する特別個体。他の地方では確認されていない種よ」

「……ヨクバリスはアローラに生息していない筈です。それに、ぬしポケモンがどうしてルイス地方に……」

「ヨクバリスだけじゃないのよ」

 

 イバラはスマホを操作して幾つかの写真をポケナー仮面に見せた。

 

「確認されているポケモンは他に二体。一体はアンデル渓谷に生息しているバンギラスの群れと共に行動しているジャラランガ。もう一体はエルマの湖で最近発見されたミロカロス。どちらも通常個体と比べて明らかに巨大なの」

 

 それからイバラはジャラランガとミロカロスの詳細なデータをスマホに表示させた。

 

「この二体からウルトラホールのエネルギー波が検出されているわ。そして……」

 

 イバラはスマホをヨクバリスに向けた。

 

「このヨクバリスからも」

 

 そう言うと、ヨクバリスのデータをイバラはポケナー仮面に見せた。

 

「……なんと」

 

 大き過ぎるヨクバリス。

 ポケナー仮面も太り過ぎが原因だと思いこんでいた。

 

「この子の巨体は彼女のせいばかりじゃない。まあ、一度倒れたのは食べ過ぎが原因で、彼女に全く非が無いわけじゃないけど……。でも、その為にいろんな人からいろんな事を言われたみたいね。不憫だわ……」

 

 ポケナー仮面は唇を噛み締めた。

 たしかに、旅の中でアリスはジョーイさんやコンテストのコーディネーターから厳しい事を言われていた。

 けれど、アリスは常に前を向いていた。

 

「……彼女の強さに甘えていた」

 

 辛くなかった筈がない。

 その事をもっと考えてあげるべきだった。

 

「色々と抱えている中でコンテストの一次予選敗退。そして、フェアリーテイルの襲撃。一度は捕まって、痛い目にもあわされたんですって? あなた、そんなの大人だってキツイって分からなかった?」

 

 ポケナー仮面は何も言い返す事が出来なかった。

 

「彼女は戦いに勝たなきゃいけないって脅迫観念じみた思いを抱いていたわ。コンテストで負けて、バトルでも負けたらって……。ヨクバリスがバトルで活躍する姿を見て、バトルでならヨクバリスを輝かせられると考えたのよ。だから、勝利が欲しかったみたいね。そして、そればかりに目がいって、ヨクバリスとギルガルドに無茶をさせた。そんな自分から目をそらす狡さも愚かさも無かったから、余計に背負い込んでしまっていたわ……」

「アリスくん……」

 

 ポケナー仮面は哀しそうにアリスを見つめた。

 何度目だろう。守ると誓ったのに、身も心も守れていない。

 最強のチャンピオンが聞いて呆れる。

 

「……私の研究所にいらっしゃい」

 

 イバラは言った。

 

「この子には休養が必要よ。それに、この子達やあなたにも」

 

 イバラはアリスの頭を優しく撫でた。

 

「可愛いポケモン達に囲まれて、いっぱい遊びなさい。それが今のあなた達に必要な特効薬よ」

「博士……、ありがとうございます」

 

 ポケナー仮面が頭を下げるとイバラは優しく微笑んだ。


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