D.C.~ダ・カーポ~神界からやって来た魔法使い   作:望夢

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夢の中で

 

 夕方の黄昏時。オレンジ色の夕焼けが照らし出すのは小さな公園。僕自身は公園にすら行ったことはない。この景色は彼女の記憶が作り出しているものなのだろう。

 

 彼女にとって大切な記憶の光景に足を踏み入れるというのは、それだけ自分が彼女に受け入れられているという嬉しさと安心を感じる。

 

 その公園のブランコにはひとりの女の子が座っていた。

 

 透き通る様な綺麗な声で、その子は歌っていた。優しくすべてを包み込んでくれるような、そんな聞き心地の良い、いつまでも聞いていたい歌。

 

「あ…………」

 

 その歌が途切れる。歌を聞くために閉じていた瞼を開けると、女の子が嬉しそうに微笑みながら手を振っていた。

 

 まだ耳に残る残響に誘われるように彼女のもとへと歩み寄る。

 

「おはよう、ユーくん」

 

 もう夕方だと言うのにおはようと言うのは少し不思議かもしれない。ただ、その挨拶はもう8年も続いているものだから今更変えようとは互いに思わないし、実際彼女と会うのは今日ははじめてになるのだから、その挨拶がおはようでも構わないと僕は思っている。

 

「おはよう、リコ」

 

 僕が眠っているときにだけ会える大切な友達。

 

 僕の命を繋いでくれた女の子――リコリス。だから「リコ」と、僕はそう呼んでいる。

 

 今はもういない彼女に会えるのはただの夢なのか。それに僕は異を唱える。彼女は確かに僕の中で生きていると思うから。

 

「よかったぁ。昨日は会えなかったからちょっと心配しちゃった」

 

「うん。僕も、ちょっと不安だった。でも今日会えてよかった」

 

 8年間ほぼ毎日会っている彼女と会えないときは僕の体調が悪いときだ。あるいは他の夢を見てしまう時や、夢を見ないほどの深い眠りに就いてしまった時。

 

 自分が物語の世界にやって来てしまったとしても変わらず彼女と会えるのなら、神界に必ず帰れると信じる事が出来る。

 

「なにかあったの?」

 

 リコリスと会えたことでほっと安堵していると、そう彼女は僕に問い掛けてくる。

 

「……こんなこと、信じられないかもしれないけど」

 

 それこそ自分がいつもと変わりなく彼女と会えているのだから、さくらとの出逢いの方が夢だと言われた方が納得出来る。

 

 けれど、小さな身体で僕を支えてくれたさくらの優しさや温かさを夢だと断じる事は出来なかった。それは彼女に対してとても失礼だ。

 

 僕はリコリスに今日の不思議な出逢いを話した。自分が今、一年中桜の咲く不思議な島がある物語の世界に居て、そこで出逢った魔法使いの女の子の話を。

 

「そうなんだ…。よかったね、優しい子に逢えて」

 

「うん。でも……」

 

 考えてしまうのは、これからさくらが辿るだろう悲しくて辛い未来。大好きな人への想いが、その人の大切なものを傷つけてしまう物語。

 

 知っているからと、それで彼女に干渉してしまうのは、彼女の人生を狂わせてしまう様で、僕はそんなことをしたくなかった。

 

「わたしに難しい事はわからないけれど、ユーくんはいつものユーくんのままで良いと思うな」

 

「いつもの、僕…?」

 

「温かくて、優しくて、誰かの事を想える。そんなユーくんが、わたしは好き。だからその子もきっと、ユーくんの事を好きになってくれるよ」

 

「別に、僕は…」

 

 他人に優しくするのは、自分が優しくされたくて、嫌われたくないからだ。

 

 本当に優しいのは、リコリスや、神王様や魔王様、シアやネリネみたいに打算なんてなく人の事を思いやれる人の事を言うのだと思う。優しくされたいからという理由を持って他人に優しくしている様な自分は、リコリスが思うような人間じゃない。

 

「ユーくんはもう少し自分の事を大切にしても良いと思うな」

 

「どういうこと?」

 

 リコリスの言葉に首を傾げる。これでも自分の身は大切にしている方だと思う。それこそ余計な負荷を掛けて、周りのみんなに心配をさせないために。

 

「せっかくの病室の外の世界なんだから、少しは楽しんでも誰も怒らないよ」

 

「それは……」

 

 確かにほとんど病室の中ばかりが自分の世界だった。でも、もし本当に初音島に居る事が夢でないのなら、外の世界を楽しむよりも早く神界に帰って、それから病室の外を楽しめば良い。みんなを心配させてまで楽しめる程、自分の神経は図太く出来てはいない。

 

「っと、今日はここまでかぁ……」

 

 夢から覚める時特有の意識の浮遊を感じて、もう少しリコリスと話をしていたかったのに残念に思う。いつもならまだ時間は長いものの、今日は昼寝であるから少し時間が短いのは仕方がない。

 

「また明日待ってるから」

 

「うん。また明日ね、リコ」

 

 リコリスに別れを告げると意識がフラッシュアウトする。

 

 リコリスと話せたから少し元気になれた気がする。起きたら早速動こうと決めて、意識の浮上に身を任せた。

 

 

 

 

to be continued…


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