鋼鉄乙女フォビドゥンフルート   作:小金井はらから

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師匠と一緒!~ブライダルベール組+佐久間陽夏編~

★鋼鉄乙女フォビドゥンフルート 第二話『恋敵・ビバーチェ』その9 師匠と一緒!~ブライダルベール組+佐久間陽夏編~

 

「……んで、ここが資料室な」

 

「資料室?」

 

 食堂の傍の通路を歩いた先にある部屋の前で、八尋が足を止めた。

それに倣って、裕太も立ち止まる。

 

「学校でいう図書室みたいなもん。スタッフがLOVEの研究に使うことがほとんどだけど……オレ達パイロットって学生がほとんどだろ。だから、ここで勉強してもいいらしい。……オレは、あんま使ったことねーけど」

 

「あー、師匠はそっすよね。付きっ切りで教えてくれる専属家庭教師いますもんねー」

 

「は? 家庭教師?」

 

 裕太の揶揄を含んだ発言に、八尋は眉を顰め怪訝そうな顔をする。

対する裕太は、にまにまと口元をそれはもう緩ませていた。

それから、裕太は肘で八尋の肩をつんつんと小突きながら弾む声を上げる。

 

「だーって、師匠には佐久間さんいるじゃないっすかー。お部屋でドキドキ! いけない個人授業! とかいっぱいしたんでしょー? ねえねえー?」

 

 にやにやと裕太がからかえば、八尋の顔が見る見る内に真っ赤になった。

それから、八尋は勢い良く裕太に掴みかかる。

それでも裕太は、そんな照れなくてもいいのになあ、と笑うばかりだ。

 

「な……ななな何言ってやがんだてめえ!! そ、そそそそんなわけねえだろ!? お、オレらは別に、そんな、えっと……!」

 

 完全に気が動転しているのか、八尋が盛大にどもる。

そんな八尋を見て、裕太はますます笑みを深めた。

 

「そんなって、どんなっすかー? オレは授業したんでしょって言っただけっすよー? 何想像してるんすかー?」

 

「へ!? あ、う……と、とにかく! お前にそういうこと教えてやる義理は……!」

 

「……うるさいぞ」

 

 ふと。

ぼそり、と第三者の声が聴こえた。

 裕太と八尋は、揃って声のした方を見る。

いつの間にか資料室の扉が開いていて、二人より10センチ程下に、頭が見えた。

 でも、何よりも目を引いたのは。

その人物のブレザーの制服にべっとりと付着した鮮やかな血の色で。

 裕太と八尋は同じタイミングで震え上がって。

次の瞬間、思わず裕太は震えた声を洩らした。

 

「さ……殺人鬼……!」

 

「……馬鹿か。……美術の時間に赤い絵の具が跳ねただけだ。……帰ったら洗う」

 

 僅かに怒気を含んだ声でぼそりと呟いてから、その少年は呆れたように溜息を吐き出した。

黒髪に眼鏡、鋭い目つき。

裕太は確かに彼に見覚えがあるのだが、なかなか名前が出て来ない。

 

「……案内か」

 

「ああ、そっすよ」

 

 眼鏡の少年が、八尋に声をかける。

それから彼は、裕太を無表情で見上げた。

 

「……天内、だったか」

 

「え、はい」

 

「……駿河奈緒。……ブライダルベールの、アダム」

 

 それだけ。

それだけ訥々と告げると、駿河奈緒は裕太達の横をすたすたと通り過ぎていって。

そのまま、去って行ってしまった。

 

「……へ? マジで挨拶あれだけ?」

 

 裕太があまりに淡泊な反応に呆気に取られていると、八尋も肩透かしを食らったような顔をしてから、んん、と唸った。

 

「駿河さん、すっげー無口なんだよ。オレも未だにあの人が何考えてんのか全然わかんねー。けど裕太、気を付けろよ。桧垣さんの前で――」

 

「あれ、八尋くんじゃん」

 

 八尋の台詞を遮るように、裕太にとっては聞き覚えのあるアルトが聴こえた。

その瞬間、八尋の顔が僅かに赤みを帯びる。

見れば資料室の入り口から、ひょこっと黒髪ロングの美人こと八尋の恋人・佐久間陽夏が顔を出していた。

 

「……よっす」

 

 八尋が雑に片手を挙げる。

それに対して陽夏は人懐っこく笑いかけた。

 

「お疲れっ。そっか、今日一緒に帰ってくんねーんだなって思ったら、天内くんの案内してたんだな」

 

「それは……その、悪かった。陽夏は、勉強か?」

 

「おう。一応受験生だしな」

 

 気安く明け透けに言葉を交わす恋人達。

その仲睦まじさに裕太がわかりやすくニヤニヤしていると、それに気付いた八尋がばつが悪そうに裕太を睨んだ。

しかし、裕太からしてみれば八尋に睨まれても怖くも何ともない。

 そこで、裕太は自分が陽夏に未だ挨拶をしていないことを思い出し、慌てて頭を下げた。

 

「どーも。オレ、天内裕太っす。この度北海道部隊に配属になりました。どーぞよろしく」

 

「ん。八尋くんから聞いてるかもしれねーけど、私は佐久間陽夏。ファレノプシスのイヴだ。そんでもって、なんつーか、私は……八尋くんの物だよ。よろしくな」

 

「お! 言ったっすね! 師匠の物っすかー! へー! つまりどういうことっすか!? アレっすか!? ぶっちゃけ師匠とはどこまでの関係? 大人の階段登っちゃったり――」

 

 陽夏の照れを含んだ発言に裕太が食いつく。

その勢いで陽夏に詰め寄る裕太の側頭部を、八尋はフルパワーで殴り飛ばした。

今日の裕太は噛まれたり足を踏まれたり殴られたり散々である。

ほとんどが自業自得なのだが。

 頭を押さえた裕太が八尋を見れば、八尋は茹蛸のように顔を真っ赤にいていた。

陽夏も微妙に顔を赤らめ数秒視線を彷徨わせていたが、やがて誤魔化すように資料室の奥に声をかけた。

 

「あ、あー……雲雀ちゃん! 新入りの天内くん来てるぜ! 挨拶しとけ!」

 

「え、天内くん?」

 

 可愛らしい澄んだソプラノが聴こえたかと思えば、今度は三つ編み眼鏡の少女がひょっこりと顔を出す。

少女を見て、裕太は彼女が以前の戦闘でLOVEのハートを一瞬で発見していたことを思い出し、やや首を傾げる。

だが裕太が情報を整理するより前に、眼鏡の少女が裕太に会釈をしてきた。

 

「こんにちは。お見舞いに行けなくてごめんなさい。私は桧垣雲雀。ブライダルベールのイヴよ。何か困ったことがあったら、遠慮せず聞いてね」

 

 優しく微笑む雲雀。

それに裕太は確かな好印象を覚える。

子どもっぽい身長の割に、雲雀はしっかりした人物のようだった。

気を良くした裕太が、ここぞとばかりに質問をぶつけてみる。

 

「あ、はい。じゃあ質問! 情報量少なすぎるから聞きたいんすけど、桧垣さんのパートナーの駿河さんってどんな人っすか? なんか、あんま喋んなくて地味で目立たないって印象しか今のところないんすけど――」

 

「あ、バカ、裕太!」

 

「地雷踏んだ! 今、君地雷踏んだ!」

 

 唐突に、裕太の台詞を遮って八尋と陽夏が焦ったように騒ぎ出す。

思わず裕太が固まる。

何かまずいことを言ってしまっただろうか。

 裕太が自分の発言を復習する前に、目の前の雲雀が黙り込んでしまっていることに気付く。

雲雀は、唇をきゅっと固く結んで、俯いて、それからばっと顔を上げて。

 

「――そんなことない」

 

 はっきりと。

 

「へ?」

 

 裕太を見据えて。

 

「駿河くんは、宇宙で一番かっこいい」

 

 凛とした声で。

 

「……はい?」

 

「まあまず見た目が明らかに王子様なのは周知の事実なのは置いておくとして、いや、ここは置いておかない方がいいよね。まずあのきりっとした目つき。私は緊張してなかなか視線を合わせられないけど、いつも真っ直ぐに目の前の物を見据えていて、捉えていてとてもかっこいいよね。あと眼鏡越しの瞳がまるで宝石みたいに輝いていて凄く綺麗。もうそれこそ直視できないくらい。存在が宝石って言えばいいのかな。勿論駿河くんの一番かっこいい要素は外見じゃなくてその内面。一見クールで物静かで落ち着きがある感じの人に見えるでしょ? それはそれでかっこいいんだけど、駿河くんの場合はちょっと違って、ああ見えて熱いハートを秘めていて」

 

 ――駿河奈緒へのはち切れんばかりの愛情を、滾々と語り始めた。

裕太の時が一瞬にして止まる。

 何だ、これは。

確かに情報量が少ないとは言った。

しかし、ここまで重量オーバーな愛情たっぷり惚気話は望んではいなかった。

 これはいつ語り終わるのだろうか。

愛の言葉の数々に押し潰されそうだ。

 裕太は理解した。

桧垣雲雀は、真面目そうに見えてとんでもない『乙女』だと。

 

「くそっ! 逃げろ八尋くん! こうなった雲雀ちゃんは最低一時間はかかる! ここは私が食い止めるから!」

 

「バカ! お前を置いて行けるわけねえだろ!」

 

 気がつけば八尋と陽夏も裕太からしてみれば勝手に愛の劇場を展開している。

そんなことをしている暇があったら自分を助けてほしかった。

 結局、裕太は。

雲雀から逃げ切れず、奈緒へのありがたい愛の言葉を拝聴し。

一時間半くらいは、資料室の前から身動き一つ取れずにいたのだった。

 とりあえず、雲雀が奈緒にとんでもなくベタ惚れだということ。

それだけは、嫌と言う程わかってしまった。


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