鬼狩りは嗤う   作:夜野 桜

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二次初めて書きます!
笑って泣ける作品!鬼滅様!!
御一読頂けると嬉しいです!

主人公の名前は
雨笠 信乃逗(アマガサ シノズ)と読みます!


第1幕
懐かしい夢


 

 

 その日は、起きた時から何かがおかしかった。

 

 俺の家は両親と姉と妹の5人家族、父は猟師でよくみんなにお肉をとってきてくれる。

 

 母は口うるさいけど優しくて、姉は妙に歳上ぶっていろいろ言ってくるけど頭をよく撫でてくれる。妹はわがままだし、よく泣くけど俺の後ろをチョコチョコついてきて可愛い。

 

 大好きだった。

 当たり前にあった日常で、これからもずっと当たり前に続いていくんだとそう思っていた。

 

 当たり前なんて言葉がどれだけ愚かで、簡単に崩れるまやかしのようなものなのか、この時の俺は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

信乃逗(しのず)、ほら今日はおじさんのところに薪を持っていくんだから早く支度をしなさい」

 

 

 紅葉が色づいて綺麗な色をつけ始めた秋の朝に、今日も母は口うるさく注意してくる。

 

 

(今やろうと思ったのに……)

 

 

 そんな文句を言えば火に油であることは、勿論信乃逗(しのず)も学習している。

 

 

「はいはい、今からするよー」

 

「返事は一度でいいの!二回もはいって言わない!」

 

 

 しかしこちらは予想外。

 

 

 最近、今までよりも更に面倒くささに拍車をかけてきた姉がまるで母のように口うるさく注意を促してくる。正直なところ最近は母よりもこちらの方がやかましいというのが信乃逗の認識だ。

 

 

「お兄ちゃん、また怒られてるー」

 

 

 一体何がおかしいのか、妹は信乃逗が怒られるのを見るとキャッキャと笑い声を上げて楽しげに信乃逗に指を差す。

 

 

 絶対、将来いい女にはなれないと信乃逗は確信している。

 

 

「はぁー、2人ともうるさいなー」

 

 

 若干の苛つきを感じながらも、信乃逗は早く用事を済ませようと出かける身支度を急ぐ。この時期は徐々に日が暮れるのが早くなっていく。最近はなにかと物騒な事件が多いと村でも噂になっているし、急ぐに越したことはない。

 

 

 

「じゃあ、行ってくるから」

 

 

「ああ、信乃逗(しのず)!これ!お父さんがお寺の飛野瑞(ひのず)さんに渡してって」

 

 

 口うるさい姉と妹から逃れるために信乃逗が急いで出かけようとしたところを今度は母に捕まってしまう。

 

 振り向いた信乃逗に母が手渡してきたのは何やら古びた手紙だった。

 

 

「えぇー、お寺は村の外れじゃないか、今から薪を届けてからお寺に行ったんじゃ日が暮れちゃうよ」

 

 

 母のこと付けてきた用事は今の信乃逗にとっては非常に面倒だ。なにしろお寺は村の外れにある上、おじさんの家からはちょうど真反対に位置しているのだ。往復するだけでもかなり時間がかかる。

 

 日が暮れる前に帰ってこようと急いでいるのに、これでは確実に日が暮れてまう。

 

 

「あんたが動き出すのが遅いからでしょう!それに父さんは必ず今日届けてくれって言ってたんだから」

 

 

 なら自分で行けばいいのにと、信乃逗は内心で思いもしたが此処でこれ以上反論すると後が怖いことは明白だ。

 

 

「わ、分かったよ!じゃあ行ってくるから!」

 

 

 これ以上怒られないようにと信乃逗は慌てて母の手から手紙を奪いとって家を出た。

 

 

 その瞬間だった。

 

 

 信乃逗の胸に何かゾワゾワするような嫌な感覚が走って飛び出てきた家を思わず振り返る。ただこの時の信乃逗は母にまたガミガミとしつこく言われるのが嫌でその妙な違和感を捨て首を傾げるだけで、そのまま家を離れてしまった。

 

 

 

 もしもの話、例えこの時家に信乃逗が戻っていてもきっと何かが変わったわけではない。

 

 

 だが、後になって信乃逗は思うのだ。

 

 

 母の顔も姉の顔も妹の顔ももっとみておけばよかったんだと。

 

 もっともっと話しをしておけばよかったと。

 

 あの日常を少しでも、ほんの僅かでも長く続けていたかったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 首がかくんと傾いた衝撃で信乃逗は目が醒める。眠りへと誘われていた意識は急激に浮上し、視界に映る光景に自らの置かれた状況を思い出す。

 

 

(……懐かしい夢だったな)

 

 

 暖かくて、心が休まるような、あの懐かしい日々を思い出して、信乃逗の心にどうしようもない喪失感が訪れる。

 

 あの日、信乃逗は全てを喪った。

 

 日が暮れた時間、家に帰った信乃逗を待っていたのは暖かく口うるさい家族ではなく、物言わない静かな肉の残骸と真っ赤に染まった血臭に塗れた惨劇だった。

 

 脳裏に浮かび上がるあの時の光景と共に湧き上がる憎しみと怒り、そしてとてつもない後悔(・・)に、信乃逗はゆっくりと深呼吸をする。

 

 

 この藤の牢獄に入って既に5日。蓄積された疲労が信乃逗の鍛え上げてきた精神を阻害しているのだろう。雑念を振り払い、すっと彼はいつものように自身に湧き上がる全ての心情に蓋をする。

 

 

(これでよし……)

 

 

 あの日から3年、自分は今、新しい道への入り口にたどり着こうとしている。

 

 

 

 ——— 鬼殺隊

 

 

 

 鬼を殺す、ただそのためだけに存在する政府非公認の謎に包まれた組織。

 

 

 その組織に入隊するために信乃逗は今、藤襲山(ふじかさねやま)と呼ばれる一年中藤の花が咲き狂う不思議な山の中で5日目の夜を迎えていた。

 

 

 この山に入ってからというもの、久しく人肉を喰らっていない理性のない鬼共にすでに幾度となく襲撃を受けている。

 

 

 家族を喪ってから3年の間、信乃逗はただ鬼を殺すためだけにひたすらに地獄のような鍛錬で体と心を鍛えてきた。だがこの山での度重なる襲撃と、日が出ている時以外はまるで気の休まる時間のない切迫した状況にさすがの心身も限界が迫ってきている。

 

 

(あと二日、あと二日生き延びることができれば、俺は鬼殺隊に入隊することができる)

 

 

 ようやくここまできたのだ。

 

 やっとここまで来れたのだ。

 

 絶対に失敗する訳にはいかない。

 

 

 家族の仇をうつために、ようやくこの復讐心を果たすために、自身の心に決着を付ける為に、最初の一歩を踏み出せる。

 

 

 

 ——— ぱきっ

 

 

 再度、身の内から湧き上がる自らの中の想いにその身を浸していると、その小高い音が信乃逗の耳に入る。

 

 

 地面に落ちた枝を踏みおるような、自然には起こらない音。

 

 

「……本当に、キリがないなぁ」

 

 

 音の聞こえた方向に信乃逗が体を向ければ、そこにいるのは涎まみれのみっともない顔を晒す一匹の鬼。

 

 

「肉っ、久しぶりの人肉!喰わせろぉ!」

 

 

 理性を失い、人を喰らうという欲望だけにその身を任せてただまっすぐと、しかし高速で近づいてくるその鬼の姿を見て信乃逗はニタリとその口を歪めて嗤う。

 

 

 

「やっぱり、お前たちはそうじゃないとね」

 

 

 

 

 

 

 

 鬼にとってこの選別の7日間は数少ない食事にありつけるチャンスである。あと少し、あと少しで久しぶりの食事にありつける。鬼がその手を信乃逗に届かせようとしたその時、鬼の視界がぐわんと不自然に揺れる。

 

 地面へと勝手に落ちていく鬼の視界に映ったのは、いつの間にか手に刀を握った人間と自分の体が人間の男に手を伸ばした姿勢のままボロボロと崩れていく様子だった。

 

 

 (斬られたのか?一体いつ? )

 

 

 その疑問の答えを出すこともなく鬼の意識は静かにそこで途切れた。

 

 

 

 




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