「それで、
しのぶの治療を終えたらしい
「しのぶさんの話だと二週間くらいは安静にしとくようにって話だから、まあ復帰も考えると三週間ってところかな?」
「……あばら三本も折れてたって聞いたけど二週間で良くなるんだ。信乃逗って身体が丈夫なんだね」
「いや、毒を食らったのに平然と起きてるお前には言われたくねーよ」
自分が人外じみた回復力を見せていることはなんとなく分かっているが、毒を受けたと言うのに治療を終えた次の日にはピンピンしてるような奴に言われるのは少々、というよりかなり癪である。
昔から傷の治りは早い方だったが、いくらなんでも骨折が二週間で治る程ではなかったと思う。これほど治りが早くなっていることに心当たりがあるとすれば、しのぶさんの用意する薬くらいのものだ。 彼女の用意する薬は相変わらずまずいが、それでも一番最初に飲んだ時よりは随分とマシな味になったと思う。あるいは単に俺が味に慣れてしまっただけなのかもしれないが。
「ていうか、なんでお前は固定されてないわけ?俺、起き上がることすらできないんだけど?」
「…日頃の行いの差じゃないかな?」
なるほどいつも通りと言えばいつも通りだ。だが納得出来ている訳では当然ない。というか普通に容赦がない、俺を縛りつけたあの女の子達は普段とても優しいのだ。何かと体調を気遣ってくれるし、食事も薬も笑顔で運んでくれる。
だがしのぶに指示された拘束だけは何を言っても外してくれないし、それどころか夜中に監視されているような気配すら感じる。
おおよその検討はつくが、恐らく俺がこれまで何度も寝台を抜け出してきた常習犯だとでも言い含められているのだろう。俺を寝台に縛りつけていく様子など、そこらの隊士にも負けないような見事な捕縛術を披露して下さったわけだから、やはり見た目通りのただの子供ではないのだろうということはよく分かった。
「それで、そっちはどうだったの?応援で向かったんでしょ?」
「まぁな、鬼は狩れたけど、結局要請を入れた隊士の救援は間に合わなかった。…着いた時には手遅れで、虫の息だった。どう足掻いてもあの傷じゃ救えなかったよ」
きっと彼もまた、鬼に大切な何かを奪われてしまった者の1人だったのだろう。
今際の際で、鬼に誰も喰われないことを祈るほど、彼には鬼に対する執念があった。必死に生きてきたはずだ、最期のその瞬間まで、手から日輪刀を手放すことなく握り続けていた彼のその手は、硬く、よく鍛えられていた。
しかしその最期は、彼の努力に報いるものではなかった。生者が死に行く者にしてやれることなどあまりにも少ない。だからその少ない何かを生者は必死にやり遂げなければならない。彼が生きていたことを忘れない。彼の最期を忘れない。彼の抱いた想いを、背負って生きていく、そして最期にその想いを繋げるのだ。
「…そっか。ねぇ
日々失っていく仲間たちと背中に増えていく彼等の想いに一層の覚悟を決める
「うん?」
「
この少女に驚かされるのは一体何度目だろうか。そうだ、自分は1人で戦っているのではない。鬼殺隊という集団で多くの仲間達と共に戦っているのだ。何より死んでいった彼がいたことを他の人にも話して行かなければ、自分が死んでしまった時に、彼が確かにここで生きていたのだということを、誰にも伝えられなくなってしまう。それでは彼が生きていたという事実すらも消えてしまうことになるのではないか。
「……あぁ」
自分も繋いでいかなければならない、想いも思い出も、それがきっと生きている自分にできる数少ないことなのだろうから。
—例えそれが誰であっても—
◆
「カァー!緊急!緊急!北西!北西の街にいけ!
朝早く、空気の入れ替えの為に開かれた窓から、ばさばさと翼をはためかせながら勢い良く室内に入ってきた
「え、でも、まだ
「…きよちゃん、俺なら大丈夫だよ。鬼殺の剣士なら、怪我している状況でも戦うことなんてしょっちゅうあることだから。それに比べれば、俺の傷はもう治っている訳だから…全然問題ないさ。それにどうやら緊急事態みたいだから」
初めてあってから僅か二週間程度しか経っていないというのに、こんなにも自分を心配してくれるとは、やはり優しい娘だ。
だが、だからこそ、こんなにも優しいこの娘が家族を失うようなことがあってはいけなかった。この娘のような優しい娘が家族を失う前に鬼から守ってあげなければいけなかった。それが鬼殺の剣士が帯びる責務の一つなのだ。彼女達のような娘が涙を流さないで済むように、自分は刀を振るわなければいけない。
「うぅ、
「…君もしのぶさんに似て大分、毒を吐くようになったよね」
こんなに優しい娘なのに将来が不安でしょうがない。しかもこの娘の場合、しのぶさんとは違って悪意がまるでないのがたちの悪さに拍車を掛けている。そんなやり取りをしながら出発の為の支度を急いでいると、既に準備を終えたらしい
「
「あぁ、内容は分からんけど緊急で北西の街に向かうように、今鴉から聞いたところだ…よし、悪い待たせたな、行くか、
「うん、急ごう、内容は救援の要請みたいだから」
「……
「すみちゃん、治療ありがとう。また怪我したら宜しくね。なほちゃんときよちゃんにもよろしく伝えて」
そう言って2人は足早に屋敷を出て行く。遠ざかって行く2人のその背中が見えなくなるまで、きよは深々と頭を下げ続けた。
—どうかお二人が御無事でありますように—
そう願いを込めて。
◆
頭上を飛ぶ
「…救援っていっても、半日もかかるんじゃ間に合うか分からんぞ」
「今は可能性を信じて走るしかない、けど今日は陽がさしてないから、条件はあまり良くないね」
どんよりとした分厚い雲に覆われたこの空では陽の光が地上に指すことはないだろう。陽が照っていてくれさえすれば、鬼は外で活動することはできない。だがそうでないなら、本来活動制限となる夜以外の時間にも鬼が動き回ることができてしまう。
救援の要請は通常、最も近くにいる隊士へと届くものだ。最短でも半日もかかる場所にしか他の隊士がいないというのは珍しい。
「というか、
「ただの救援じゃないみたいだよ、北西の街の近くにいた隊士達には手当たり次第に連絡が送られてるみたいだから、相当強力な鬼なのかもしれない。この前の合同任務で一緒だった柱の人がまだ近くにいてくれれば、救援に向かってくれてるかもしれない」
この情報量の違いは一体なんなのだろうか。今まで結構な頻度で情報不足な任務が多かった気がするが、ひょっとして全て自分の
(俺も優秀な
もういっそのこと
「…ってかこの前の任務、柱と一緒だったのか?」
「うん。岩柱の
一緒に戦った時のことを思い出したのか、
信乃逗は未だ、花柱のカナエ以外の柱とはあったこともない。普段冷静な真菰をしてあの様子では、岩柱の
当然自分はまだ柱よりも弱いし、岩柱というと入れ替わりの多い柱の方の中でも長い間勤められている鬼殺隊の中でも相当の古参だったはずだ。そんな方と自分を比べるのもおかしな事なのだが、信乃逗も1人の男として目の前で親しい女性に別の男を褒められてしまうと少々心苦しいものがある。
(はぁ、せっかく久しぶりに
「はぁー」
心の内に溜まって行く些細な不満の数々を思い出して
「…
「はいっ!?なに、顔!?」
急に心の内を言い当てられた信乃逗は思わず顔を抑えるという実に分かり易い反応をしてしまう。そんな
「ふふ、
しまった、鎌をかけられた訳だ。油断してしまった、この少女は観察力が非常に高いのだ。目の前であからさまに溜息など付けば不満でもあるのかと気づくに決まってる。
「…今のはさすがにずるくないか?」
「ごめんごめん。それで、なにが不満だったの?」
まんまと罠にかかった
「…別に、不満というか、その、……せっかく久しぶりに
「……へ?」
言いづらそうに顔を俯けて、辿々しい口調で耳を真っ赤に染め上げながら素直に本音を語る
ずるいのは彼も一緒ではないだろうか、これはかなりの不意打ちだ。なんだかんだ言っても、意外と素直な
「…私も、
「っ!………じゃあ、この任務の後、また一緒に出かけないか?」
「…いいよ。任務がなければだけどね」
「…あぁ……ないといいなぁ」
「ふふふ、あ、そういえば、私今、
「…そうか、いや、俺は何も「
余程楽しみなのか、「もし機会があったら一緒に行こうね」と満面の笑みで微笑む
今度連れてきなさいというのは、果たしてどういう意味で捉えるべきなのだろうか。
(えっなに?挨拶なの?いろいろ段階吹っ飛ばして御実家にご挨拶な訳?)
いや、そんな馬鹿な、いくらなんでもいきなり手紙に書かれただけの同僚をそんな風には考えまい。そう自分に言い聞かせる
「なんだかお父さんは
(いやそこが重要!!話したいって何!?試したいって何を!?どんな手紙書いたのこの娘!)
普通まだお付き合いにも発展してない男女の仲に、父親が出張ってくるものだろうか。村で育った
今まで
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真菰ちゃんは神ですので宜しくお願いします(≧∇≦)