「おっとっと!?いや、ほんとにっ、暴力的だね!」
鬼の少女が腕を振るい始めたと同時に、轟音と共に再び抉れ始める地面に
威力も速度も先程と全く変わった様子はない。
この威力で至近距離から受けたのならば、
この威力をまともに受けたのなら、五体満足でいられるとも思えないが、少なくともこの場から見る限り、
(あー!もう!診にいきたいけど、この攻撃がほんとに邪魔!もはやうざいわ!?)
頭もよく、理解出来ない複雑な血鬼術、そして地面を陥没させるほどの攻撃力の高さ。
これで本人は未だに遊んでいるつもり、あの様子ではまだ全く、あの鬼の少女は本気を出していない。幼い容姿をしていようとも、さすがに
これまで倒してきた鬼などこの鬼の少女の前では赤子同然。
まさしく格が違い過ぎる。
だが、これでも
信乃逗が強いとそう認識している目の前の彼女ですら
なら自分が殺そうとしている鬼は一体どれほど強いのだろうか。
(……俺は殺すと決めた。あの夜に鬼を消すと、そう決めた筈だ)
ならばこの程度の相手に一体自分は何をもたついているのか。
(考えろ。必ず何か秘密がある……)
あの鬼の能力は幻覚だとしても、この地面を抉る攻撃やさっき真菰を吹き飛ばした衝撃は明らかに幻などではない。実態をともなったなんらかの攻撃が幻で隠されていると見るのが妥当だが、その正体がなんなのかが今の信乃逗にはまるで掴めていない。
そして信乃逗にとってなによりも不可解なのがこの霧だ。どれだけ巧妙で実物そっくりに作り出そうとも幻は幻だ。幻覚で霧を生み出したところで、本当に陽の光を霧で覆えているわけではないはずなのだ。
だから最初霧が出てきた時に、
だが、実際に鬼は出てきた。
陽光に照らし出されることを恐れるわけでもなく。自信たっぷり
鬼が出てきている以上少なくともこの濃霧は本物の霧だ。瞬時に陽光を遮る程の濃霧を作り上げ、幻覚を生み出す力があり、さらには地面を陥没させるほどの衝撃波のような攻撃が可能な血鬼術。
(多才過ぎるだろ!?そんな才能羨ましいわ!?)
考えれば考えるほど絶望的な気がしてくる。
これで
ただの幻覚なら、
だがその
(なら何故、さっき真菰の刃はすり抜けた!?)
幻覚で認識させられた少女ではない。あの空間には間違いなく少女がいる。にも関わらずまるで幻覚であるかのようにあの少女の首元を真菰の刃は通り抜けた。その事実がより一層
「さっきから避けるばかりでつまらないよ、お兄さん。もう、せっかく久しぶりに人と遊べると思ったのにもっと楽しませてよ!」
少女のその言葉に
(子供や隊士が行方不明になっているのはこの鬼が原因じゃないのか?)
別段、少女の腕を振るう速度が早まったわけではない、だというのに地面の抉れる範囲が広がった。突然に拡がった攻撃範囲に
「がぁぁっ!?」
足に激痛が走り、次いで地面を抉る衝撃の余波を受けて、信乃逗はゴロゴロと地面を転がっていく。
回転する身体で、なんとか受け身を取りながらフラフラと立ち上がろうとする
「あれー?それで終わり?それじゃあつまらない、つまらないよお兄さん。
つまらないなら死んっ!?」
よろよろと立ち上がる
「水の呼吸
(また、上!?)
突如響くその声に、鬼の少女が上を見上げれば今まさに刀を振り抜こうとする鬼狩りの少女の姿。
それを認識した瞬間、再び水の刃が彼女の頭上から襲いかかる。
「あがっ!?」
「あたった!」
今度こそ得られたその手応えに真菰《まこも》は驚愕の声を上げる。彼女が鬼の頭上から地面に向けて放ったその技は確かに鬼の少女の両手を確かに切断していた。
その様子を下から見ていた
(あぁ、そういうことかクソ鬼め)
自らの振るう刃があの鬼の首をはねる場面を想像して
一方の鬼の少女は、両腕に走るその衝撃に目を見開いて驚愕していた。
鬼になって数十年、幾度となく鬼狩り達に襲われてきた。だが鬼になってこれまで1度としてここまでの傷を負ったことはない。
(斬られた?私が?誰に?)
斬られて飛んでいく両腕を横目に自身の腕を始めて切断した相手を見やる。
(あぁ、この女かぁ、こいつはまだ動けたのか、こいつは私が斬れるのか?私のおもちゃの癖に、私を傷つけるのか)
「痛いなぁ、痛いなぁ!!おもちゃの癖に!人間の癖にぃ!!血鬼術!
瞬時に再生を終えた鬼の少女がその手に握るのは、自身の血で染め上げて強度を上げたいくつもの小さな鉄の玉。その鉄の玉を渾身の力で投げつけ幻で隠す。そうすればこの鉄の玉は人間にとっては不可視の攻撃となる。
先程まで信乃逗達を翻弄していたのはまさしくこの異能によるもの。
鬼の持つ能力の中でも、最も近距離において高い威力を誇るその技を鬼の少女は
(今度こそ殺した!この女を殺した!)
完全に避けることの不可能なそのタイミングに、真菰の死を確信した鬼の少女は次に聞こえた声に驚愕することになる。
「おいおい、俺を忘れてるぞっ!鬼っころ!」
声のする方向に再び意識を向ければ、先程自身が間違いなく壊しかけた筈のもう一つの玩具が真下にいた。
「なっ!?」
(あいつは片足を壊したはず!何故立っていられる!?)
鬼の少女の真下から蒸気のような息を吐きながら、
「
漆黒の稲妻が空へと立ち昇っていくように大きく跳躍した信乃逗がその勢いを一切殺すことなく、下から宙に浮かぶ鬼の少女を斬りあげる。少女の放った数多の鉄の玉すらも含めて少女の身体は縦に斬り裂かれる。
「なぁぁ!?」
その強烈な痛みに少女の身体には似つかわしくない呻き声を上げながら、斬られた衝撃で脚を踏み外したように鬼の少女は地面へと落ちていく。
それと殆ど同時に少女がただ浮かんでいるように見えたその空間に亀裂が走り、ぼろぼろと剥がれ落ちていく。隠された空間に出てきたのは木と木の間に結ばれた一本の太い締め縄のようなもの。鬼の少女がまるで浮いているように見えたその仕掛けは、実に単純なものだった。
幻術で隠した締め縄の上に彼女はただ立っていただけだったのだ。
「やっとわかったよ、お嬢さんの異能のからくりが。……どうだい今まで見下ろしてた人間に見下ろされる気分は?」
「くぅっ!」
地面へと落ちた鬼の少女は苦痛に顔を歪めながら数歩先に立つ
はい!今回も御一読頂きましてありがとうございます!
御意見・御感想頂けますと幸いで御座います!
毎回の如くいいますが真菰ちゃんは神です。
次回も宜しくお願い致します!