神様のお気に入り   作:きし川

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船を探せ

釧路にあるとある港に某、雪花の二人はやって来ていた。(室府は留守番)

 

「よーし!それじゃ始めようか!」

「ねぇ某さん、本当にやるの?」

「もちろん!そのためにわざわざこ ん な と こ ろにやってきたんですから!」

「でも、ほんとにうまくいくの?“船で北海道から脱出するなんて”こと」

 

雪花が不安そうに言った。それもそのはず某達が本拠地としている旭川から今いる釧路はかなり距離がある。そのため、雪花は釧路に着くまでの道中で化け物に襲われるのではと思った。

 

「大丈夫、大丈夫!へーきへーき、平気だから!」

 

某は雪花の方を向いて笑って言った。某は以前、諏訪にいた際に諏訪から神戸までの道を(物理的に)切り開き住民を全員四国へと送り届けた実績がある。

 

そのため、今回も某は道を切り開いてここに住民城を連れていき船での四国入りをしようと考えている。

 

「さてと、んじゃ手分けして使えそうな船でも探そっか」

「まだ、壊されずに残ってたらいいけどね」

 

二人は手分けをして使用に耐えられそうな船を探す。特に大型クルーズ船(贅沢)のようなもの又はそれに近いものを二人は探していく。

 

「あったよ!船が!」

「でかした!」

 

雪花の吉報を聞いて、某は雪花にお礼を言いながら雪花の元へと駆け寄る。

 

「船はどこ…ここ?」

「あっちだよ」

 

雪花の元へと来たものの船が見当たらずキョロキョロと辺りを見回す某。すると、雪花は指をさして船の場所を某に教える。

 

「はえ~スッゴい遠い…」

 

雪花が指さした先に確かに船はあった。しかし、そこは港から10キロ離れた沖の方であった。

 

「どうする、某さん?」

「ウーン…」

 

雪花が某に聞いた。某は首をひねりながら考える。どうやって沖にある船をここに持ってこようか?と

 

「…ちょっと、良い案が浮かばないから。とりあえず、船のところに行ってつかえる見に行こうか?」

 

考えること数分、良い考えが浮かばなかったので某は一旦考えるのを止め船の様子を見に行く事を雪花に提案した。

 

「いいけど、見に行くってどうやってさ?私、某さんみたいに飛べないよ?」

「そこは大丈夫こいつに乗って行くから」

 

そう言って某は鏡を二人の乗っても十分なスペースができるぐらいの大きさにして浮かべる。

 

「わっ!?すごっ!これこんなことできたの!?」

「そうわよ(肯定)じゃ、行こうか…(せっかち)」

「わかったよ、…よっこいしょ…あっ、以外と安定してる」

 

某が鏡に飛び乗ると雪花も続いて恐る恐る乗る。そして、鏡の安定感に少し驚く。

 

「それじゃ、出発~」

 

某は雪花が乗ったのを確認した後、鏡を動かす。すると、鏡はスィーと滑るように動いた。

 

「わぁ、スッゴい静か…後、なんか慣性が働いてなくない?」

「あっホントだ。言われて気づいたよ…慣性がないや」

 

雪花の言葉に某は気づいた。鏡で移動中、慣性が働いていなかった。おかげで鏡に乗っての戦闘でも振り落とされることはない。原因は不明。

 

「…おっ、近くで見るとでかいねー」

「ホントだね。これなら旭川の住人全員が乗っても余裕ありそう」

 

船の近くまで来て見ると船の全容を確認できた。船はかなり大型のフェリー船だった。おそらく、あの日から放置されていたのだろう船体は錆び付き所々ボロボロになっていた。

 

「まるで、現代版の幽霊船みたいだぁ…」

「いやいや、某さん。今からこの船の中に入ろうって時にそんなこと言わないでよ」

「えっなに怖いの?あんな化け物と戦ってるのに?」

「あれはまだ倒せるからいいけど幽霊は倒せないでしょうよ」

 

船の周りをぐるりと回って船の状態を見た某が素直な感想を言った。その言葉に雪花は怪訝な表情を浮かべ某に言った。

 

「大丈夫だって幽霊なんていないよ」

 

雪花にそう言いながら某は鏡を船に近づけ、乗船する。

続いて雪花も降りると鏡を元の大きさに戻して自分の近くに浮遊させておく。

 

「さってと…次は中の確認だね…ん?」

 

フェリーの内部に入るため、ホントだ扉を開けようとする某。しかし、なぜか扉は開かなかった。押しても引いても、スライドさせようともびくともしない。

 

「カギがかかってるんじゃない?」

「かもしれないね…しゃーないあんまり壊したりとかしたくないけど…やるか」

 

そう言うと某は雪花を扉から離れさせると自分も少し離れクラウチングスタートの体勢になる。

 

「位置についてー…はーい、よいスタート(棒)」

 

なんとも気の抜ける掛け声と共に駆け出し

 

「オリャーッ!!」

 

扉に向かって飛び蹴りを放って扉を蹴破り中に侵入する。

 

「…うわ、くっさ…何この臭い」

 

浸入した某は室内に充満する何とも言えない嫌な臭いに顔をしかめ鼻を摘まむ。

 

「某さんどうかし……臭ッ!」

 

外にいた雪花が中に入ろうとして室内の臭いに悲鳴をあげる。

 

「…!、これはひどい…」

 

室内には腐敗あるいは白骨化した死体が大量にあった。さらに、良く見れば床や壁に血のようなものも付いていた。

 

「…まるで、殺し合いでもしたみたいだぁ…ん?」

 

某は室内の惨状から人同士で争ったと予想した。そして、詳しく死体を調べるとくしゃくしゃのメモ用紙を見つけた。

 

某はそれを拾いメモを調べた。すると、メモには書きなぐったような文字が書かれていた。

 

“こわいたすけてみんなころされるなんでおなじひとなのにころすのだれかたすけて”

 

と、読みづらいがそうメモには書かれていた。

 

「…なんてことを」

 

某の予想は当たっていた。ここにある死体は人同士の争いで亡くなった人たちのものだった。

 

「…某さん、これは一体?」

 

雪花が周囲に転がる死体を見ながら某の側に来た。某は雪花にメモを渡した。

 

「…あ~なるほど、そういうことですかそうですか……なんで、こんな大変な時だってのに下らないことやってんだろうね?」

 

雪花はメモを読んだ後、どこか呆れたように呟いた。

 

「本当にそうだよね…まぁ私たちのところもそろそろヤバイけどね」

「…あ~そういえば、そうでしたね…」

 

この船で起こったことは某達にとっても他人事ではなかった。似たような事をやらかしそうな人が一人旭川にいるからだ。

 

「カムイの力を高めるための生け贄を用意しようとしたり、勇者の力を解析して子供に与え戦わせようとしたり、病人や老人を囮にして自分達の盾にしようとしたり…あげていけばキリがないねあの人の過激な提案は…」

「これは及川さん、いつか街の人達を殺すかもしれないね…」

「いや、逆に殺されるかもしれないよ?」

 

最近の及川の発言を思い出しながら二人は危機感を募らせる。何かしらの対策を打たなければ、いずれここと同じことが旭川で起こるだろう。

 

「及川さん関連はまた今度考えるとして、とりあえず船の中をよく調べますか…」

「…まさか、某さん。この船を使うつもり?」

「使いたくはないけれど…もし、この船以外に使えそうなのが無かったら…使うことになるかもね」

「うわぁ…どうか、そんなことになりませんように」

 

死体が乗っていた船なんぞ誰も使いたくないだろうがそんなこと言ってられる状況ではないので某は使わざるおえなければ住民に内緒で使うだろう。そして、某の言葉を聞き雪花はそうならないよう祈るのであった。

 

「う…ここも随分と匂うな…」

 

死体の転がっていた広間からさらに奥に行くと強烈な悪臭が某達に襲いかかる。某は近くにある扉を開けるとすぐに閉じた。

 

「何があったの?某さん?」

「…死体があった。けど…さっき見た死体よりなんか酷いことになってた…見ない方がいい」

「…わかった」

 

先程見た死体よりひどいとはどういうことか?と雪花は疑問に思ったが若干顔色が悪い某の表情を見て精神衛生上よろしくないと判断、見ないようにした。

 

「…さて、次はどこを見ようかな」

 

どうせ、どこもあんな感じなんだろうなぁーと諦め混じりに考えながら探索を続けようとしていると

 

─ガタンッ

 

「「!?」」

 

突如、どこからか物音がした。二人は一斉に音のした方を見て各々の武器を構える。

 

「…せっさん、聞こえた今の?」

「聞こえたねぇ…はっきりと…」

「なんだと思う?」

「ネズミとかじゃない?」

「…だといいんだけどね」

 

そんなこと言いながら二人は音のした部屋へと近づく。そして、某はドアノブに手をかけると深呼吸をした。

 

「開けるよ…イイネ?」

「アッハイ…いつでもどうぞ」

 

某はドアノブひねりドアを開け放つ。同時に、二人は飛び退き様子を伺う。

 

「…中に入るよ」

「気を付けてね…」

 

某は中を覗きこみ確認した後、恐る恐る部屋の中に入る。しかし、部屋の中には特に変わったものはなかった。某はあれーおかしいね、何もないね?と疑問に思いつつもホッと安堵した。

 

しかし、次の瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

腐敗した死体が背後から某を抱き締めた。

 

「□%‡♯#◇#▲〒△〒■§△%▲♯▲¶▲♯▽ッッッ!!??」

 

某はもはや人のものとは思えない叫び声をあげながら抱きついてきた死体を掴むと全力で壁に投げつけた。そして、すぐさま部屋から飛び出し雪花に抱きついた。

 

「某さん!?大丈夫!?」

「……!!」

 

しかし、雪花の言葉に某は答えない。いや、答えられない。突然のことにビックリして声がでないのだ。顔面蒼白でガタガタ震えながら雪花に抱きつく某の様子も見て雪花は一旦外に出ようと考えた。

 

「某さん…外に出よう!ここは…なんかヤバイ!」

「あああ、当たり前だのクラッカー…早く出ようや…!」

 

二人は来た道を引き返そうした。しかし、廊下の向こう側からぞろぞろとまるでゾンビのように腐敗した死体がこちらにやって来ていた。

 

「何がどうなってんの…!?」

「これがバイオハザードの新作ですか?リアリティーありますねぇ!(レビュー)」

「某さん!しっかりして!現実逃避してないで正気を保って!」

「なに言ってんのよ~私は正気だよ、せっさん。いやー最近のVRはすごいよね、ホント」

「…ダメだこりゃ」

 

某は先程の不意打ちで精神的にやられていた。ハイライトのない目でなにもないところを見ながらメニュー画面はどこ…ここ…?とうわ言を言っている。雪花はそんな某の手を引いて逆方向に走り出す。

 

「なっ!?…こっちからも!?」

 

しかし、そちらからもゾンビのような動きで腐敗した死体が近づいていた。

 

「ッ…こうなったら、強行突破しかない!某さん、ほら武器持って!戦うよ!」

「ちょっと待ってせっさん。武器の装備の仕方がわからないの」

「だから、これはゲームじゃないってばしっかりしてよぉ!!」

 

ポンコツ以下と化した某はいまだにこの状況をゲームと勘違いしている。仕方なく雪花は一人で応戦することにした。

 

「せいッ!」

 

雪花は槍を死体達に投げた。すると、後方にいる死体を巻き込んで串刺しにしていく。

 

「次はこっち!やぁーッ!」

 

今度は逆方向に槍を投げ同じように串刺しにする。

 

「よし、このまま数を減らしていけば…!?」

 

突破できると思ったときだった。突如、雪花の腰に雪花より年齢が低いだろう子供の死体が抱きついた。

 

「この…!離し…!」

 

雪花はすぐさま子供の死体を引き剥がす。しかし、その隙に他の死体が雪花に襲いかかった。

 

「キャ…!」

 

槍を振るおうにも廊下では狭すぎて出来ず、雪花は死体達に押し倒される。なんとか押し退けようとするが手足を押さえつけられ、身動きとれない。

 

「イヤ…離して…!」

 

雪花が死体に襲われている間に某にも死体の魔の手が迫る。しかし、某はいまだに正気に戻らない。

 

─ガリッ

 

「!?…イッテェェェェェェェェェ!?」

 

すると、牛鬼が某の近くに現れると某の手を噛んだ。瞬間、某は痛みのあまり絶叫し噛みついた牛鬼を投げ飛ばした。投げ飛ばした牛鬼がたまたま雪花を襲っていた死体に当たりボウリングのピンのように吹き飛ばした。

 

「あー痛かった。ん?せっさんどうしたのそんなとこに寝転がって?」

 

某が噛まれた手をぶらぶらさせながら雪花に聞いた。すると、雪花は立ち上がって某に近づくと某の両肩をつかみ。

 

「フンッ!」

「ゴフッ!?」

 

膝蹴りを某の腹に繰り出した。蹴りを食らった某は腹を押さえてうずくまり痛みに震える。

 

「せ、せっさん。どうして…?」

「どうしたもこうしたもないよ某さん!あんたが役立たずの池沼になったせいで18禁展開になりそうだったんだよ!」

「えぇ…」

 

かつてないほどに怒っている雪花に困惑する某。よろよろと立ち上がりながら雪花に事情を聞こうとして雪花の後ろの動く死体を見た。

 

「…これがバイオハザードの新作ですか?リアリ─」

「フンッ!」

「ゴフッ!?」

「同じネタを繰り返さないでくれるかな某さん?」

「アッハイ、ごめんなさいです、はい…」

 

同じボケを繰り返そうとした某に雪花の回し蹴りが放たれる。そして、崩れ落ちる某をゴミを見る目で見下ろしながらツッコミを入れる。そんな雪花の様子を見て某はふざけたら殺されると思った。

 

「…はぁ、某さんあれどうにかできる?」

 

気を取り直して雪花は死体を指差しながら某に聞いた。某は少し考えたあと何か思い付いたのかポンと左の掌を右の拳で叩いた。

 

「辰、融合!」

 

某がそう言うと某の頭上に光が落ちる。まばゆい光が周囲に放たれ雪花は眩しさのあまり目をつむる。やがて、光が止み目を開けると

 

「じゃじゃーん!と融合形態・辰ってね!」

 

そこには、金属でできた竜のような尻尾と角が生えた某がいた。

 

「んじゃ、パパパっと終わらせますか!」

 

そう言うと某は手を死体に向ける。すると、死体がから突然発火する。火は瞬く間に死体の体全体に燃え広がり一分足らずで灰にする。

 

「あはは!もっと燃えるがいいさ!」

 

なぜかハイテンションになっている某はさらに能力を発動し視界に映るすべての死体を燃やしていく。

 

「すごい…」

「終わったよーせっさん」

 

その光景に雪花は圧倒されていた。そして、気づけば廊下には灰だけが残った。

 

「某さん…」

「ん?」

「そう言うこと出来るならもっと早くやってくれない?」

「…ごめんね、まだ融合した時の能力を把握してる訳じゃないからおいそれと使えないんだ…ごめん」

 

雪花の不満の言葉に某は頭を下げた。無理もないそんな力があるなら出し惜しみせず使えと言いたくなるだろう。しかし、融合の能力は確かに強力だか使いこなせるかどうかは別の話だ。プトティラとかハザードみたいに暴走して味方を攻撃してしまうかもしれない。だから、某はあまり新しい融合を使いたがらないのだ。

 

「まぁ…お互い無事だったからいいけどさ…」

 

雪花はなんとなく某の考えを察してそれ以上はなにも言わなかった。

 

「さて、某さん。この後どうする?」

「もうこの船には用はないね…他の船を探そうか」

「はぁ…また、振り出しかぁ…」

「ははは…まぁ、頑張っていこう」

 

雪花はため息を吐いてげんなりとして某はそれを見て苦笑いを浮かべた。

 

その後、二人は船から脱出すると再び船の捜索を再会し今度は死体のない使えそうな船を見つけるのだった。

 

そして、その事を旭川で待っている室府に伝えるため旭川に帰ることにした。

 

その道中で某はふと考える。

 

(あの死体はなんで動いていたんだろう?)

 

しかし、その疑問も疲労からきた眠気に塗りつぶされ某は考える止めてしまったのだった。


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