モブ厳な恋愛ゲームの世界らしい   作:飯食ってソシャゲして寝る人

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大体みんな生きてる幸せな世界

 

立花響は年齢=彼氏無しの明るく元気な少女である。好きなものはご飯&ご飯。

彼女は様々な戦いの末、其処らの成人男性より強くなっているが、そこは彼女の師匠である風鳴弦十郎のお陰。

 

「届いたッ」

 

人助けが趣味な彼女は今も元気に人助け中。

 

「はい、これ!」

 

「ありがとうお姉ちゃん!」

 

木の上に引っかかってしまったラジコンを泣きそうな顔で見ている少年を見た彼女は慣れた手つきで木に登り、ラジコンを救出する事に成功した。

 

その後もお婆さんの荷物を持ってあげたり、迷子の世話をしていたりと、色々あったあと彼女は自宅へと帰宅した。

 

「ただいまーッ!」

 

「おかえり響。また人助けしていたの?」

 

リビングから親友の小日向未来が顔を見せる。

 

「遅れてごめん〜未来ぅ〜!」

 

「まぁ響の人助けは今始まったわけじゃないし、もう慣れてるけどね」

 

やれやれと溜め息を吐きそうな未来の雰囲気に響は謝るしかなかった。

 

「それで、ちゃんと材料は買ってきたの?」

 

「うん! 未来のメモ通りちゃーんと買ってきたよッ」

 

ジャジャーン! と誇らしげに差し出されたエコバッグにはキチンと渡したメモに書かれている材料が入っていた。

 

「うん、ちゃんと入ってるね。……でも響、これは何?」

 

未来が笑顔で取り出したのは全く関係の無い菓子の袋。響は「しまった、分けるのを忘れてた!」と今にも言いそうな顔になる。

 

「えっ〜と……美味しそうだったからつい……」

 

「もう。ダイエットするんだ〜って言って、暫く間食はやめるって先日言ったばかりじゃない」

 

「返す言葉もございません……」

 

響は装者として給料も貰っており、其処らで働くサラリーマンの何倍もの金額になる。そのほとんどを食費に費やす彼女のお財布係も未来がしていたりする。

 

叱られてちょっぴり落ち込んでいる響を見て未来はクスリと微笑み、響の頭にポンと手を置く。

 

「全くもう……ほら、急がないと折角のプレゼントが作れないよ?」

 

「うぅ……そうだね」

 

未来の言葉に響は顔を上げる。

 

「じゃあ作ろっか、ケーキ」

 

「うん! 美味しいのいっぱい作ろうッ!」

 

響は気合いを入れてエプロンを握りしめる。買ってきた材料とは、誰かに贈るためのケーキの材料だったのだ。

 

そのケーキを贈る相手とは、勿論例の人物である。響は日頃の感謝の印として、自分で作ったケーキを贈りたいと未来に相談した。そう入れ知恵したのは響の母親だったりする。未来としてもお世話になっている人に感謝を伝える良いチャンスだと思い、こうして一緒に作ろうという話になったのだ。

 

カチャカチャと、テーブルに使う器材が並べられる。

 

「ねぇ響。あの人って、どんなケーキが好きだっけ?」

 

「うーん……確かチョコ? あれ、抹茶だっけ?」

 

響は首を左右に揺らしながら思い出そうとしているが、どうにも思い出せない様子だった。

 

「じゃあ、色んな味のを少しずつ作ろっか」

 

「おぉー! いいねそれ! 流石未来ッ」

 

二人は鼻歌を歌いながらケーキを作っていく。

 

「喜んでくれるかなぁ……?」

 

「喜んでくれるよ、絶対」

 

二人の愛情を込めたケーキは完成し、後は連絡を取って贈るだけとなった。

 

「えーっと……『今週、空いてる日はありますか?』っと……」

 

メッセージを打つ指は心なしか震えていた。胸に手を当てると、いつもより鼓動が早いような感じがする。

 

「えいッ!」

 

深呼吸をした後、送信ボタンを押した響は一仕事終えたように椅子に座り込んだ。

 

「毎回毎回大袈裟なんだから……」

 

「あはは……何でだろう、前まではそんな事無かったのにな〜」

 

響も未来も、まともな青春を送ってきたとは言い難い。普通の人を好きになって、告白して、付き合って……そんな事を経験する機会なんて無く、胸に抱く感情が何なのか未だに分かっていない様だった。互いに。

 

あれから30分以上経ち、響はメッセージアプリを起動する。

 

「あれー? まだ既読がついてないや」

 

「そうなの?」

 

「いつもならすぐに返信来るんだけどなぁ」

 

ゲームの仕様状、すぐに既読がついて返信が来るのは当然なのだが、ここはゲームでない上、怯えた相手側が見ないよう、来ないようにしているのだからどうしようもない。

 

そんなこんなで返信を待っていると、マリアから着信が掛かる。

 

「もしもしマリアさん? どうしたんです?」

 

『この後、時間はあるかしら? 少しみんなを集めて話したいことがあるの』

 

「話したいこと?」

 

『彼についてよ』

 

彼というのは響の思い浮かべる人物で相違ないだろう。しかし、みんなを集めてまで話すような事があっただろうか?

 

「わかりました! 何処に向かえばいいですか?」

 

『クリスの家よ。今、他のみんなにも連絡を回してるから、出来るだけ早く来てくれると助かるわ』

 

「了解ですッ」

 

響がマリアとの通話を切ると、未来が話しかける。

 

「何かあったの? 任務?」

 

「ううん。マリアさんがあの人について話したいことがあるからクリスちゃんの家に集まって、って」

 

「マリアさんがあの人の事……?」

 

マリアがみんなを集める→恐らく喜ばしい発表→まさか婚約!? あの人と!?

 

未来は身体中に電撃が走ったかのように驚き、思考が加速する。

 

「それ、私も行ってもいいのかな!?」

 

「うぇ? 多分いいと思うけど……?」

 

「響、早く片付けてクリスの家に行こう!」

 

未来が突然急ぎだし、響も慌てて片付けに参加する。少々勘違いは起きているが、これでクリスの家に全員が集まることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらおかえりなさいマスター、どうでした? 上手く誘えましたぁ?」

 

キャロルが帰るや否やくるくると回りながらオートスコアラーの一人、精根の腐ったガリィが声を掛けた。

 

「1時間後に会う様には言った」

 

自分の中では上手く誘えた方だと思っているキャロルは何処か自慢気に言い返す。

 

「ふぅん……そうですか」

 

「なんだ、その含んだ言い方は」

 

「べっつにー? あ、ガリィちゃんは忙しいのでこれにて失礼しまーす」

 

ガリィの意味深な言葉に疑問を持ったが、まぁいつものことかとキャロルは考えないようにした。

 

キャロルが自室の前に着くと、若干ドアが開いている事に気づく。

 

「……おい、勝手に部屋に入るなと言っただろう」

 

「はわわ! ご、ごめんキャロル」

 

部屋の中にはキャロルととても似た容姿の少女?が一人。何やら紙の束を持っていたようだが、キャロルが入ってきた事に驚き、バサバサと落としてしまう。

 

「何をしているんだお前は……」

 

「うぅ……キャロルがデートに行くって聞いたからボクなりに色々と調べてみたんだけど……」

 

彼女?の名はエルフナイン。キャロルが作り出したホムンクルスの一体であったが、なんやかんや合って今はこうして互いの家に行ったり、泊まったりしていたりする。

 

性別はなく、ゲームでは元々攻略キャラクターでは無かったが、「なぜ彼女はヒロインじゃないんだい?」「エルフナインちゃんを1人ぼっちにさせるなッ!」「プチョヘンザだッ!」等のクレームが入り、DLCで攻略キャラクター入りを果たした。(シナリオ付980円)

ちなみに彼女は課金用アイテムショップに設置されていたキャラクターだったため、買わせタインちゃんとかいう不名誉な渾名を付けられている。

 

「……『はじめてのでーと』に『はじめてのふぁっしょん』、『はじめてのぐるめ』……お前、オレを舐めてるのか?」

 

小馬鹿にしたようなタイトルばかりが並んだ紙の束をグシャリと握りしめるキャロルを見てエルフナインは慌てて弁解し始める。

 

「ち、違うんだキャロル! これは上手く題名が思いつかなかっただけで、決して悪意があるわけでは……」

 

幼児向けの題名が悪意がないなどと、笑わせてくれるなエルフナイン! と、普段ならそう怒鳴っていた筈だが、今日のキャロルは彼をデートにうまく誘えた(と思っている)ので、機嫌がとても良い。

 

「……まぁ、参考にだけはしてやる」

 

「本当!? 良かったぁ……」

 

キャロルが怒っていないと分かったエルフナインはホッとしている。

 

「それでねキャロル、まずはこれなんだけど━━」

 

「……成る程な━━」

 

それから約束の1時間まで、キャロルとエルフナインはデートの戦略を練った。最初はここへ行き、次はあそこだの、若干開いたドアからはその声が漏れている。

 

「姉妹みたいだゾ〜!」

 

「なんだかんだ言って仲が良いんでしょう」

 

「派手なデートになりそうだな」

 

「楽しみですねぇデート……」

 

4体のオートスコアラーはそんな二人を影から見つめ

 

「キャロルの初デート……ゔぅ……大人になったんだなぁ……」

 

父親は一人ハンカチで涙を拭っていた。


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