第二の美少女開発者(♂)は孤独な世界でただ崩れゆく   作:Natrium

3 / 10
茶番その2
(正直読み飛ばしても全然問題)ないです

まさかたった一行のプロローグのプロットが、ここまで増殖してしまうとはこのリハクの目を以ってしても(ry
茶番はあと一話だけ続くんじゃ……書き貯めしてて即刻更新もできるから愉悦部のみんな許して?


光明、あるいは底なしの闇 Checkmate_the...

    1

 

 そこから先は早かった。

 ヒースクリフが強固な防御で敵を阻み、アスナが高機動戦を展開し、キリトが己の戦闘技能を頼りに敵を切り裂いていく。その他の攻略組もボス討伐に大きく貢献してついにはHPゲージを残り数ミリメートルまで削り切った。

 そうして、

 

「おおアッ‼‼」

 

 十撃目の重突進攻撃が炸裂し、ノックバックにより鈍銀の巨躯が大地に倒れ伏す。

 ノヴァアセンション。数多く存在する片手直剣技の中でも最高位とされるソードスキルであり、

 

 いいや違った。

 直後に、咆龍の身体が砕け散って無数のポリゴン片へ姿を変えたのだ。

 

「ッ……終わった、のか?」

 

 総計一時間にも及ぶ死闘であった。

 喜びよりも先に疲弊による影響が強く出てしまったのも仕方がないと言えよう。

 

 だが、そんな困惑の表情も現実にCongratulation‼と深青色のホログラムで祝されれば、完全に吹き飛ばされてしまう訳で。

 

 

 後年記されたSAO事件記録全集に曰く。

 その数秒後。守護者が討伐された五十番目の迷宮に、歓喜と怒号の声が轟いた、と。

 

 

 

    2

 

「先ほどは済まなかった。最高指揮官という事にはなっているが、私の余計な指揮で部隊を混乱させてしまったな……。本当に、申し訳なく思っている」

 

 強敵だったドラゴンに最期の一撃を叩き付けた黒の剣士は、そんな団長の第一声を見事に聞き流しながら物思いに耽っていた。

 

「私としては、咄嗟の行動はその場の人間に指示させるつもりだったのだが……」

「そんな、団長は悪くありませんよ! あの指示が無ければ最悪、部隊が全滅していた可能性まであったのですから……」

「気づけなかったのはこちらの落ち度です。……混乱を招いてしまったのは、誤った命令を出した私の責任だ」

 

 横目でチラリと壁面の傷を眺め見て、確かにダメージが通っているのを確認した。

 どうやら他にも複数の痕跡が残っているようだった。それは後で見直すとしても……

 

(ドラゴンの火焔がぶつかった箇所には損傷が見えない……。単純に物理攻撃以外を無効にしているのか、それとも何か別の要因が? そう言えば、勢い余って壁に爪を突き立てていた場面があったが―――傷にはなっていないようだな)

 

 ブレスの威力が剣よりも弱かったという可能性ゼロではないが、九割九分あり得ない事だ。

 しかも攻撃したのではなく、吹き飛ばされてただ当たっただけ。本来の大理石が持つ耐久値程度しか残っていないようにも感じられる。

 

「……それでは、今後はもう少しボスの動きに注視するという方針で手を打とうか。幸い死者はいなかったんだ。危険な授業料だったという事にしても問題はないだろう?」

「それもそうですね。責任の押し付け合い、じゃなくて、えぇと……こういうのは何と言えば良いのでしょうか。まぁ、こんな事を続けていても不毛でしかありませんからね。そうするべきでしょう」

「キリト君!」

 

 キリトは団長たちの会話を右から左に受け流し、余剰した思考領域のすべてを考察に割り振った。

 こればかりは決して見逃してはならない取っ掛かりだ。MMORPGと同じく、余計な物にリソースを割く余裕はない。

 脳内を整理して思考を続ける。

 

(プレイヤーの攻撃のみを通す防壁……いや違うな。意図が見えない上に、他にも壁に叩きつけられたプレイヤーは大勢いた筈だ。……それなら、この部分だけにしか適応されていない、という事か?)

「……キリト君?」

(違うな。流石に不自然が過ぎる。いや、そもそもあの部分はモンスターの攻撃も通してしまうのか? それなら破壊不能オブジェクト設定が例外的に外れているとも取れるが……。……設定忘れであるとは考えにくいから、何らかの問題点があって改善したまではいいがその後にさらに設定ミスがあった、とか。―――でもそれならデバッグの検証で気づきそうなものだし、となると他に思い当たる原因としては

 

「キリト君ッッ‼‼」

 

 軽いながらも明白に存在感を示す肩への衝撃とともに、意識の外から強烈な叫び声が割り込んで来た。

 

「へっ?あ、アスナ⁉ スマン、ちょっと考え事をしてて……」

「考え事? それってLAボーナスのこと?」

「え、ぁあっ。そう、そんな感じだ! ラストアタックボーナスの事を考えててな!」

 

 不意を突かれて咄嗟に誤魔化してしまうキリト。

 特に秘密にしなければならない理由はなかったのだが……この場合は、思わず(無自覚に垂れ流されていた)エサに食いついてしまったというのが正しい。

 そんな様子に疑問符を浮かべながらもアスナは、 

 

「そっか。五十層はクォーターポイントだからかなり良い物が落ちたものだと思っていたのだけど……。もしかして違ったの?」

「ええっと、あの。その、だな……」

「?」

「……その。まだ、見てないから分かりません……」

 

 ラストアタックボーナスの件で悩んでいると言っておきながら、まだその装備品の詳細データは見ていないという。

 もはや怪しさ全開であった。全身の毛穴の一粒一粒からそういった悪臭が溢れ出していると言い換えてもいい。

 

「……怪しい。何か隠してるでしょキリト君」

「い、いや。別に隠すつもりは無かったんだがな……?」

  

 案の定半眼ジト目のアスナに詰め寄られてしどろもどろになる黒づくめ。

 しかし、救いの手は思いもよらぬような角度から差し伸べられた。

 

「アスナ君、それにキリト君も」

 

 先の戦闘で無言のままに前線を支え続けた守護の英雄、血盟騎士団団長のヒースクリフであった。

 ヒースクリフはそのまま黒の剣士の方へと目線を向けて、

 

「君のおかげで、うちの団員にも死亡者を出さずにこの戦いを切り抜ける事が出来た。君には本当に感謝しているよ」

「いえ、別に俺はそんな。彼らには下層のボス攻略でも世話になりましたし、お互いさまだ」

「それでもだ。君が命を懸けて彼らの命を救ったの事実は変わりはない。謙遜する必要は無いさ」

 

 それで、と一拍の間を開けて団長は話を切り出した。

 

「これから私たちは転移門のアクティベートに向かうが、どうかね。今回のMVPは間違いなく君だ。記念すべき五十層攻略の証として開放する気はないかね?」

「いや、俺はいい。……流石に疲れた。五十一層には少し休んでから行くことにするよ」

「そうか。ではしっかりと身体を休めたまえ。私たちは先に向かわせてもらおう」

 

 紅く染色された十字の紋章のサーコートを翻して彼は上層へと繋がる階段へ足を進めた。

 その際思考に何かがよぎったのか、ヒースクリフは思わずといった調子でぽつりと言葉を溢す。

 

「(……ふっ、まさかあり得ない。被害妄想が過ぎるのも良くはない、か)」

「団長? 今、なにか仰いましたか?」

「なんでもないさ。気にするな。……そんなことより先を急ぐぞ。これでようやく折り返し地点だ。下層で私たちを支えてくれるプレイヤー達のためにも早くこの戦果を伝えなければな」

 

 数名の部下と話しながら台風の目は去っていった。

 そうなると、これからどうなるかは自明の理でもあり、

 

 

「それで、キリト君はわざわざ何を隠そうとしたのかしら?」

「わかったわかった、降参だ。素直に話すよ」

 

 

 

    3

 

「で、それがこの壁だって話か……。特に変わった風には見えねぇけどなァ?」

 

 野次馬的に話しに加わった赤いバンダナの野武士面は開幕早々にそう話した。

 美人で有名などこぞの副団長との会話でデレデレしていた非常に気持ち悪い様子は影すら無くなっている。ふざけてやっていたのかも知れないが、あれは恐らく素でしかないのだろう。そんな気がする。

 

「これって、さっきのドラゴンの攻撃を誘導するようなイベントか何かだったのかな?」

「一応、その可能性も考えはしたんだけど……」

 

 アスナの言葉に対して黒の剣士は己の愛剣で実際に壁を削りながら、

 

「それにしては壁が脆すぎる。普通そういった類のクエストはプレイヤーだけじゃ壊せないものに適用されるはずだし、何か違う原因があるはずなんだ」

「……っつっても、流石に突飛すぎねーか?」

 

 キリトの話では、茅場晶彦が何かを隠すために仕掛けたものであるらしい。

 SAOの世界を完成させ発売前の最終的なデバッグを済ませたうえで、わざわざゲームに手を加える動機を持つ人物には一人しか心当たりがないのは確かだが……あの傲岸不遜な赤ローブが破壊不能オブジェクト化の指定忘れなどという初歩的なミスを犯すとは到底思えない。あると仮定しても余程切羽詰まって焦っていたか、何かに悩んで作業に集中することが出来なかったなどのかなり特殊なケースでしか考えられない。

 

「……可能性はゼロじゃないとは思うんだけどなぁ。たとえば竜の涙みたいな名前の、黒鉄宮に戻らずに現地復活できるオート蘇生系のアイテムの隠蔽とかさ」

「本来の仕様では実装されるはずだった、でもデスゲームでは問題になるような万能アイテムねぇ。普通ならそのまま茅場晶彦がデリートしそうなものだけど?」

「まぁ、そこを言われるとちょっと痛いけど……」

 

 なんにせよ、とキリトは右手を振り下げてメニューから旧式の装備を呼び出しながら言う。

 

「確かめてみればいいだけの話だ。この先になにがあるのかは知らないが、運が良ければこのデスゲームからの解放が一歩進むかもしれないんだ。ま、当たる当たらぬも八卦の運試しって奴だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その推理は、ある意味では間違ってはいなかったのであろう。

 だがその結果を受け止めて、素直に喜ぶという選択肢は後のキリトには残されていなかった。

 

 何が八卦だ。そんなくだらないもののために、ひとりの少女の人生を狂わせたのか。

 あれだけ心優しい人を、あそこまで追い詰め壊し尽くしてしまったのか、と。

 

 だから。

 なのに。

 

 

 

 直後に、無慈悲にも赤光を放つソードスキルがその猛威を迸らせた。

 そうして仮初めの防壁がボロボロと崩れ去り、底なしの闇の一端がついに姿を現した。




正直早くSAO関係者全員の心を根こそぎ曇らせたい一心です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。