もうそろそろお気に入り件数9000件も目前という事で、拙作を気に入ってくださり本当にありがとうございます。完結に向けて頑張っていきますので何卒よろしくお願いいたします。
感想と誤字報告助かってます。ありがとうございます。
それでは、原作主人公との邂逅()編、どうぞ。
火花が散る。
甲高い金属音が、耳障りな咆哮が絶えず響き、僕の耳元を掠めていく。
迷宮都市オラリオの地下に広がる
周囲に分からないように匿っていたはずのウィーネの事をいつの間にか把握していたギルドから下された
『シャアアアアアアッ!!!』
「ぐっ、このぉッ!?」
神様のナイフと
ギリリッ、という金属が擦れる嫌な音を響かせて、鍔迫り合いは終了した。
僕の力負けという結果で。
(このモンスター達……やっぱり、強い……!)
首筋を刺すような悪寒に襲われながらも、僕は《牛若丸弐式》で側面を叩き、どうにか直剣の一撃を逸らすことに成功する。
側頭部を掠め、髪の毛を数本切り裂いたその剣を振るうのは、赤緋の鱗にその身を包み雄黄の眼を血走らせる
直剣と
銀の閃光が視界を切り裂き、時折瞬く火花が残像を残す。
ビリビリと電流のように手に流れる痺れが敵の
恐らく相手は同族の魔石を食らった《強化種》。
レベルで換算すれば、自分よりも─────
「ッッッ!!」
『ッ!?……ルォォッ!!』
そんな事関係ない!!
レベル差は言い訳にならない。相手が自分よりもレベルが高いから諦めていいなど世迷い言も良い所だ。
レベル差があるからなんだ、だったら全力を出し切るまで。
何より、武装したモンスター達は執拗にウィーネの事を狙っている。
何故か
「リリ助ェ!!魔剣を使えッ!!」
「で、でも……!」
「いいからやれぇッ!!!」
離れた場所からヴェルフとリリの声が聞こえる。魔剣を使えというヴェルフの叫び声の後、覚悟を決めたリリの「撃ちます!」という合図が聞こえた。
そして、その合図が聞こえた瞬間、僕はナイフを持った手を閃かせて相手に斬りかかった。
当然リザードマンも反応して剣で防御してくるが、構わずに剣の横腹に神様のナイフを叩きつける。
「吹き、飛べッ!!」
『グ、ルァッ!?』
そして、相手の体勢がほんの僅かに
接触している互いの武器を軸にして全力の蹴りを放った。
突撃の勢いを全て乗せた
リザードマンの顔面に直撃した僕の蹴りは、狙い通りに相手を後ろへと吹き飛ばした。
魔剣を振り上げる、リリの射線上へと。
『グッ、オ、ォォォォオオオオオッ!!!』
「なっ、くッ!!」
しかし、ヴェルフの打った魔剣がその力を開放する直前。
リザードマンは自らの長い尾を地面に叩きつけ、吹き飛ばされた方向へと自ら
モンスターに、利用された……!!
その時の僕の驚きは、なんと言ったら良いのだろうか。
未だに地面を燃やす炎の膜を突っ切ってこちらへと突撃してくるリザードマンに、僕は頬から冷や汗が滴り落ちるのを感じた。
完全に格上の存在であるリザードマンに、しかし僕は諦める事なく突撃する。
もはや魔法の使用を躊躇ってはいられない。ヴェルフ達との距離は開いているから、巻き込む恐れは無い!!
砲身の様に神様のナイフを持った右手を突き出し、咆哮する。
「【ファイアボルト】ォ!!」
『……ッ!!』
速攻。
炎雷の魔法を連発する。こちらへと突撃していたリザードマンは己の勢いも相まって回避する事は不可能。
決まった。
そう思い込んだ僕の目は、次の瞬間見開かれる事になる。
『グゥオオオァッ!!!』
「な……がっっっ!!?」
なんと、回避が不可能と悟ったリザードマンは両手に携えた剣で
本来なら魔法の威力にやられて使い物にならなくなるはずの武器は、相手の技量によるものなのか、相手の武器が特殊なのか見事なまでに原型を保ったまま僕へと襲いかかる。
驚愕で出遅れた初動を咄嗟に2本のナイフで庇ったものの、2連続で叩き込まれた剣のものとは別種の衝撃が体勢を崩した僕の胸を貫いた。
見れば、リザードマンの腰あたりから赤緋の槍が、リザードマンの特徴である長い尾が僕の装備していた
衝撃で肺から酸素が無くなる。
息が一瞬止まる。
動きが止まる。その一瞬が、勝負の明暗を分けた。
『シャアアアアッ!!ガァッ!!!』
「がっ、はっ!!?」
リザードマンは尾を打ち出した勢いのまま、その凶悪なまでに発達した足で回し蹴りを放った。追い打ちをかけるように胸鎧に吸い込まれたその一撃に、僕の肋骨から嫌な音を立てて軋むのを感じた。
轟音。
人の体から出てはいけないような音と共に僕は面白いほど吹き飛ばされた。地面に叩きつけられ、バウンドし、バシャンと水飛沫を立ててようやく止まる。
……水飛沫?
リリが撒き散らしたアカリゴケが付着しなかったのか、主戦場から離れた薄暗い周囲を良く見ると、未開拓領域の奥側は薄い沼地の様になっていた。膝が埋まるくらいの深さの泥に、数
僕が吹き飛ばされた跡がくっきりと残った沼地の奥では、何故かリザードマンが目を見開いたままあんぐりと口を開けていた。
見れば、他の武装したモンスター達もそのリザードマンの事を見ていて、その……こんな事を言うのはおかしいけど、どこかリザードマンの事を責めているような視線を向けていた。
「や、やべ……グ、ォ、オォォォォオオオオッ!!!!』
「なっ……、不味い、ウィーネッ!!!」
まるで何かを取り繕う様に咆哮を上げるリザードマン。周囲のモンスターの視線を追い払うように大げさな動作で剣を振り払うと、一直線にリリと春姫さんに庇われていたウィーネの下へと突撃した。
僕も背筋が凍る様な気持ちになりつつも必死に足を動かすけど、沼地に足を取られた僕の身体は思う様に前に進まない。
『シャアアアアアアッ!!!』
「駄目っ!!」
「っっ!!」
ウィーネに斬りかかるリザードマン。
燐光を反射して光るその凶刃の前に、躊躇うことなく春姫さんが身を投げだした。
リリはウィーネを抱き締め、自分が盾になるように彼女に覆いかぶさった。
ウィーネを守る、ただその為に。
計2枚の肉壁。
怪物を救う為に命すらも投げ出した愚者たち。
けれど、その二人の行動を見た瞬間、周囲の武装したモンスターたちから驚いたようなざわめきが聞こえた気がした。
「やらすかぁッ!!」
「させない!!」
そのまま二人を切裂こうとした長剣を、命さんとヴェルフが二人がかりで止めに入る。
最初にぶつかった時は力の差から生まれた衝撃でガクンと下がった二人の得物だったけど……気合で持ちこたえ、なんとか春姫さんの眼前でその刃の進行を食い止めていた。
そして。
鐘の音が鳴る。
「ぅ、お……ッ」
鐘の音がなる。
「お、お………ッ!」
僕の全力の踏み込みに、沼地が爆発したように周囲に泥を撒き散らし、その泥波を突き破って最短を駆け抜ける。
思い描く憧憬は、英雄リオン。
白光の拳弾。
5秒分のチャージ。
「おおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおッ!!!!!!」
『ゴオォッ!?』
リザードマンの頬骨を抉る一撃。
直撃だ。
ウィーネの、そして仲間の危機により激発した感情と意志が全力疾走中での【
先程のお返しとばかりに吹き飛び、地面にぶつかり跳ねては転がったリザードマンは遥か後方の土を盛って作った山の様な物に頭から突っ込んだ。
他のモンスター達は完全に動きを止め、僕たちの方を見つめている。……いや、半分くらいは吹き飛んだリザードマンの方を見てる?
満身創痍、体力も
ヴェルフ達も隠しきれない疲れを顔に出しつつも、毅然とした表情で己の武器を構え、武装したモンスター達に相対した。
『ゲェ─────』
爪の生えた手を地面につき、上体を起こしたリザードマンは土の山に寄りかかる。……何というか、その姿はまるで
そして喉を震わせたかと思うと─────顔を振り上げて、鳴いた。
『ゲギャギャギャギャギャギャギャギャ!!』
鳴いて。
『ギャギャギャギャ!!ゲギャ、ギ、ギャギャ─────』
鳴いて。
『ギャギャギャギャギャ─────』
鳴き続けた怪物の鳴き声は、
「─────ァははははははははは!!!……やべぇこれどうしよう」
人の言葉を話す笑声へと成り変わった。
……いや、笑声、なのかな……?
ヘルンは困惑していた。
今は奇人と称される神代の建築家ダイダロス。
冒険者の一人としても名高かった彼の最高傑作とも言われる
迷宮都市の中で最も実力のある派閥、その主神のみが住まうことのできるこの部屋の主は
そして、そのフレイヤが座るのは、ここ迷宮都市の最上級職人が丹精込めて作り上げた上等な椅子。
余計な装飾を省き、素材の美しさと必要最低限の彫刻、そして最上級との印を押された革と綿を用いて作られたその椅子の美しさは、しかし彼女の前では引き立て役にもならない。
そんなこの世の美を体現したようなフレイヤの膝の上に座っているのは。
「─────で、リドはお酒が好き」
「うふふ、そう。素敵な仲間たちね」
我らが
いつも以上にぼーっとしたようなその表情は、完全にフレイヤに魅了されていることの証左。対するフレイヤの表情は、ようやくお気に入りの玩具を手に入れた幼児のような笑顔であった。
「うふふ、うふふふふ。ようやく見つけたわ。ここ最近姿を見ないんだから心配しちゃった」
「リド達のとこにいたよ」
「ええ、ええ。仕方のない子ね、許すわ」
サラサラとリリアの蒼銀の髪を梳くフレイヤは慈愛に満ちた笑みを浮かべ、リリアも満更ではないように目を細め笑顔を浮かべる。
そんな二人の後ろでは、まるで女王に付き従う騎士のように
ヘルンがその小さなエルフを初めて目にしたのはつい先程。珍しくオラリオへと繰り出していたフレイヤが上機嫌で帰ってきたと思ったら、彼女の腕の中に
もしこの光景をフェルズが目にしたら「悪いことは言わないからすぐに捨ててきなさい!早く!ハリィ!!」と叫ぶこと間違いなしである。
腕の中に核爆弾よりも酷い爆弾娘(米狂い)を抱えているとは思いもしていないフレイヤは、ニコニコ笑顔でリリアの頭を撫で続ける。
エルフの性として、また元日本人として風呂とは行かずもと水浴びだけは欠かさずに行っているリリアの髪は、汗や埃に汚れることも無く完璧な色艶を保っていた。
もちろん、その後の精霊のケアがあってこそではあるのだが。
「あのぉ、フレイヤ様、そちらのエルフは……」
「ああ、ヘルン。この子は結構前に見つけて目をつけていた子なんだけれど、暫く姿が見えなかったの。今日ようやく見つけたから
連れてきちゃった、じゃねぇよ。ヘルンはいつも通りの魅了拉致を披露した主神に思わずチベットスナギツネのような顔を向ける。
一歩間違えばオラリオ壊滅の憂き目に会いつつも、そんな事を知る由もないフレイヤは上機嫌である。
彼女がリリアに目をつけたのは、なんとリリアがオラリオに到着した日である。無色透明、無垢の光を放つ
見た目も及第点以上、性格はまだ分からないが、あの魂の光だ。きっと悪い子ではないのだろう。
その様に考えたフレイヤは、早速彼女を
ベル・クラネルのときに続き、また出遅れた。その事実に悔しそうな様子を見せたフレイヤだったが、他の神の眷属になってしまったことは仕方がないので静観の構えとなった。
乙女心としては自分から来てほしいのだ。その為にチラチラとアピールはするが。
そんなこんなで、
主に、一緒にいれば退屈する事がなさそうなそのトラブル体質に。
そして今日、暫く姿が見えずにフラストレーションが溜まっていたフレイヤが偶々バベルの塔を移動していたリリアを見つけ、連れてきたと言う訳である。
「あーん、ほっぺたもモチモチ。可愛いわ、愛らしいわ。このままうちの子にしちゃいたいくらい」
「あ、それは勘弁で」
「……あら、それはなんでかしら?」
「女神さまのとこだと、お米作れないから」
「お米……ああ、あの妙な畑でとれる作物ね……いいわ、それくらいなら作っても。許可しましょう」
「ううん、お米はみんなで協力して作るものだもの」
「なら、私が団員達に言ってあげるわ。協力しなさいって」
「駄目。それは
「……どういうことかしら」
フレイヤの勧誘に、すげなく断りを入れるリリア。まさか魅了した
その後も次々と待遇を列挙していくものの、リリアは中々首を縦に振らない。
その強情さに少し苛立った様子のフレイヤが尋ねると、リリアはしっかりとした意思を湛えた瑠璃色の瞳で、彼女の顔を見た。
そして、語る。
「お米は、みんなで作るもの。……みんなで、力を合わせて作るもの。私だって、田んぼを作ることはできるけど、苗をうえたり、育てたりするのは一人じゃむり。どうしてもみんなの力がいる。お米でみんなは一つになれる。だから私はお米が好きなの」
米への愛を。
彼女の根源、その一欠片を。
「だから私は、私は……あ、あれ?」
「……そう」
「私は……なにをしようとしたんだっけ」
ザザッ、と思考ノイズが走る。
思わず額に手を当てるリリアを、フレイヤは抱きしめた。
フレイヤはもう、リリアに無理強いをする気にはならなかった。彼女の思いを、愛を聞いた今、それを頭ごなしに否定する事は自らが司る「愛」を否定することと一緒。
ならば自分は見守ろう。
彼女の愛の行く末が、どのような結末を迎えるのかを。
「……なら仕方がないわね。貴方は愛しているもの、そのお米を作る人たちとやらを。ええ、ええ。仕方が無いわ。少し妬けちゃうけど」
「……うにゅ、ぬん……」
「うーん、もう用事は済んだし、
ぎゅっ、と抱きしめれば、彼女の完成された肉体が作り上げる峡谷にリリアの顔が埋まった。前世であれば泣いて喜んだであろうその天上の感触に、リリアは変な声を漏らし、オッタルは目を見開き、ヘルンは硬直した。
「そうね、じゃあ、私にもそのお米の美味しさを教えてくれないかしら。おにぎり、だったかし」
「がってんしょうち」
「……本当に好きなのね、貴方……」
「いっしょにおにぎりを作りましょう!女神さま!」
ブルン、と凄まじい速度で首を回し、フレイヤの目を覗き込みながら
しゅたっ、とフレイヤの膝から飛び降り、側に控えていたヘルンに調理場の場所を聞いたリリアは、一緒に行こうとフレイヤの手を不遜にも引っ張った。
恐れ知らずの蛮行にヘルンは心の中で絶叫を上げるも、なんとか気絶だけは耐えた。耐えてみせた。が、キリキリと胃が痛む音がした。
てくてくと高級な絨毯を踏みしめ、自分の手を引く幼女を見つめながら、フレイヤは思わず笑みを浮かべる。
ああ、やはり彼女といると退屈しなさそうだ、と。
それと同時に、そんな彼女を自分よりも早く眷属にしたニニギという神に若干の苛立ちを覚える。少し、いやかなり理不尽な怒りだが、神というものは往々にしてそういうものだ。
「オッタル、悪いけれど、街でオコメ?米?を買って来てくれないかしら。多分、デメテルの所で買えるわ」
「……承知いたしました」
「ヘルン、豊穣の酒場に行って
「え゛っ……その、ミア様にはなんと……?」
「後で私から言っておくわ。お願いね、ヘルン」
「……うう、はい……」
背後に控えていた二人にテキパキと指示を出しながら、フレイヤは笑顔で部屋を後にする。
そして従者たちも指示を完遂するために姿を消し、人の消えた女神の部屋は、しかしいつもとは違って未だ暖かさを保っている、そんな気がした。
やめて!怒りに任せて振るった雷霆の剣で辺り一面を焼き払われたら、リドの魔石まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでリド!あんたが今ここで倒れたら、レイやグロスとの約束はどうなっちゃうの?希望はたぶん残ってる。ここを凌ぎきれば、人間との友好に一歩近づくんだから!
次回、「