TSロリエルフの稲作事情   作:タヌキ(福岡県産)

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いやクソ長いなッ!!!!


どうも皆さん。
アステリオスとフレイヤ様の怒りが思った以上に凄いことになってて今回の話が過去最長の長さになった福岡の深い闇です。

補足としましては、相変わらず原作とあまり変わらない場面に関しましてはいつも通りバッサリとカットしてますので、そこはご了承ください。
原作と外伝、双方10巻にあたるお話ですので、詳しいことの経緯が知りたい人はGA文庫「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」・「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア」を買って読もう!!!(ダイマ)
面白いし泣けるのでぜひ読んでダンまちをすこれ、よ!!


あっ、この二次創作もすこってくれたらうれしいな。


シリアス……君はいい奴だったよ。
それじゃあこれからよろしくね、シリアル君!!(手の平ドリル)


感想・誤字報告ありがとうございます!!
そろそろ放置してたGGOも書く予定なのでソチラモ……ソチラモ……


それでは、過去最長の第23話を、どうぞ!




猛牛、斯く怒れり

 アステリオスは、狭い通路の中を驀進していた。

 巌のような巨体を誇る彼が一歩足を踏み出すたびに、《オブシディアン・ソルジャーの体石》で作られた石畳は砕け、ズシンと通路を振動させる。

 鼻息も荒く加速し続ける彼が追っているのは、一人の矮小な存在であった。

 

「ふざけんなッ!!ふざけんなふざけんなふざけんなァッ!!?」

 

 醜くも辺りに叫び散らしながら逃げるのは、片腕を失くしたディックス・ペルディクス。リリア達を襲った【イケロス・ファミリア】の団長であり、つい先程まで異端児たちと愚者(フェルズ)、そして【リトル・ルーキー】ことベル・クラネルと激しい戦闘を繰り広げていた男であった。

 顔を腫らした彼の全身には傷跡が刻まれ、そこからはとめどなく血が流れ落ちている。ベルと蜥蜴人(リド)のコンビに負わされた傷跡だ。

 たかが怪物とレベル3と侮った代償は大きく、微精霊たちに片腕を持っていかれていた事も災いし、手酷く痛めつけられた彼の体はボロボロになった。今も動く度に彼の全身に激痛が走るが、そんなことは背後から迫りくる《死》の前には些事だ。

 ディックスはもう確定した死の運命を前に、1秒でも長く生存するために足掻いている最中であった。

 ダイダロスの系譜として受け継がされ、完成を強いられてきた人造迷宮クノッソスの内部を出鱈目に走り回り、どうにかしてあの牛人(ミノタウロス)を振り切ろうと躍起になるディックス。

 

『ヴァァァァァアアアアアアアッ!!!!』

「ぎっ、いぃッ!!?」

 

 しかし、彼の血の匂いを覚え、尚且つ仲間から人造迷宮の鍵(ダイダロス・オーブ)を受け取っているアステリオスから逃れる術はない。

 もともとそこまで離れていなかった距離はすぐに零になり、文字通り牛人に轢かれたディックスは行き止まりとなっていた道の壁に叩きつけられる。

 何とか立ち上がるものの、紅の双角に残された左腕を強打され骨をへし折られたディックスの姿は、奇しくも彼に重傷を負わされる前のリリアの姿に酷似していた。

 しかしそんなことなど知る由もないアステリオスは、憤怒の炎を瞳に宿し、背中に懸架していた大剣を断頭台(ギロチン)のように掲げた。

 数えきれないほどの獲物の返り血を浴びてすっかり紅に染まってしまった白銀の大剣は、それを作り上げた精霊の怒りを共有しているかの如く凛と音を鳴らし、自分を握る主の号令を今か今かと待つ。

 瞳を焼く刃の反射光を涙でぼやけさせながら、ディックスは目を見開きながら不満を叫ぶ。

 

「きっ、聞いてねえぞ、こんな化け物ぉぉぉぉおおおおおおッ!!!!!?」

 

 絶叫じみた罵声をかけられても表情を一切変えることはなく、アステリオスは大剣を彼に向かって振り下ろした。

 空気を切り裂きながら発進した最硬精製金属(アダマンタイト)製の刃は、恐怖と怒りでぐちゃぐちゃに顔を歪ませているディックスの体を綺麗に両断した。

 頭から股座まで唐竹割りにされたディックスは、切り口から夥しい量の血を吹き出しながらどちゃりと湿った音を立てて床に崩れ落ちる。

 

『ヴァァァァアアアアアアアアアアッ!!オォォォォオオオオオオッ!!!!』

 

 しかし、アステリオスはそれだけでは止まらない。

 一度振り下ろした大剣を再び振り上げると、2度、3度と何度も何度もディックスだったものに向かって振り下ろしていく。

 大剣が肉塊を両断する度に血飛沫が上がり、アステリオスの顔を、体を、腕を、角を、紅に染め上げていく。石畳はとうの昔に砕け散り、露出したアダマンタイトの床は、大剣の一撃に耐え切れずに大きく陥没してしまっていた。

 大きなくぼみに、大きな挽き肉と血だまりが溜まっていく。

 やがてアステリオスが動きを止めた頃には、ディックスだった残骸が惨たらしい末路を見せていた。

 初見殺しの『呪詛(カース)』の使用など許されるはずもなく、一矢報いることもなくただ無様に蹂躙された男の、無様な末路であった。

 抵抗など許さぬ圧倒的な蹂躙。

 それを見せつけたアステリオスは、しかし満足した様子を見せる事無く、その瞳から憤怒の炎を消すことはなかった。

 アステリオスは怒っていた。

 生まれてからこの方感じたことがないほどの激情に全身を支配されていた。

 その矛先は今しがた叩き潰した、彼の大切な存在を傷つけた冒険者でもあったし、彼女(リリア)を守り切ることが出来なかった不甲斐ない自分自身でもあった。

 

「修行にかまけ、彼女を守れなかったこの惰弱……許されるものか……!」

 

 そう呟き、ギチギチと音を立てて大剣の柄を握りしめるアステリオスの姿は、迷宮都市最強の名を冠する猪人(ボアズ)に似ていた。

 そして、しばらくその場に佇んでいたアステリオスは、鼻息も荒く同胞たちの匂いを追い、走り始めた。

 彼らの手を取ったという冒険者、それを助けるために地上へと向かった彼らの下へと馳せ参じるために。

 その先に待つ闘争。それにより自らを更に高め、二度と彼女に傷を負わせぬために。

 

 

 

 

 

「……なんだ、この感覚は……」

 

【ロキ・ファミリア】団長、フィン・ディムナは先ほどから自分を襲う悪寒に眉をひそめていた。

 ダイダロス通りに出現した《有翼のモンスター(ヴィーヴル)》の情報。

 それを受けて急行した先で見たベル・クラネルの奇行。

 そして極めつけは、逃げ出したヴィーヴルを追って駆け出したベル・クラネルを庇うように、ダイダロス通りに姿を現した《武装したモンスター》。

 ヴィーヴルとベル・クラネルは見失ってしまったものの、目の前では団員たちの手によって武装したモンスターたちが次々に制圧されている。

 気になることがあり、なるべく生け捕りにするように指示していたため、制圧された《武装したモンスター》にはまだ息が残っているが、戦闘続行が出来る者はいないだろう。

 終結しつつある戦場。

 だというのに、フィンの背筋は凍えるような悪寒に襲われており、なおかつそれを裏付けるかのように親指が引きつるほどに疼いている。

 フィンの直感は親指に直結している。

 この直感によって幾度もの危機を乗り越えてきたフィンにとって、今の状態は歓迎できるものではなかった。

 周囲を見渡すものの、特に彼に危機感を覚えさせるようなものは存在しない。

 強いて言えば《武装したモンスター》を使役する何者かが潜んでいるであろう場所に出撃させたガレスの帰りが遅いことくらいだが、もし彼がやられるような存在が出現していればこれ以上の騒ぎになっていることは想像に難くない。

 それでは、この悪寒はなんだ?

 泰然とした態度を崩さないまま、しかし内心では冷や汗を流すフィン。彼のその様子に気がついたのは、彼の近くで待機していたアイズと、付き合いの長いリヴェリアだけであった。

 嫌な予感がする、一度戦線を引き下げるか?

 フィンの脳裏にそのような選択肢が浮かぶ。守るべき民衆を背後に背負っている今、この戦況がひっくり返されるようなイレギュラーは歓迎できない。

 ならば、多少の非難を浴びようとも最善の策を使う。

 そこまで考え、最前線で戦うヒリュテ姉妹やベート達に合図を送ろうとしたフィン。

 

 だが、その判断の遅さは致命的であった。

 

 

 

「─────ォ!!!!!」

 

 

 

 雄叫びが轟いた。

 

 アイズ、フィン、リヴェリア、ティオナ、ティオネ、そしてベート。この戦闘域にいた全ての第一級冒険者がそれぞれの行動を中止し、同じ方角を見やった。

 確かに震えた空に、血を流し地面に倒れ伏す異端児たちを助けようと行動していたリリルカ、ヴェルフ、命や春姫たちも同様に動きを止める。

 

「今の、は……?」

 

 地上に現れた恐ろしい《武装したモンスター》。それを鎮圧する冒険者たちに歓声を上げていた民衆たちも、ぴたりとその動きを止めていた。

 交戦中の【ロキ・ファミリア】の団員たちも静止する他方、戦闘における機微など分からないはずの非戦闘員の春姫でさえ立ち尽くし、まるで本能そのものが怯えるかのように獣の尾が絶えず微動している。女神であるヘスティアも、その瞳を見張っていた。

 やがて……どんっ……どんっ……と。

 自己の存在を主張するように、地を揺らし、不穏な重音が響き渡ってくる。

 確かめずとも分かる何かの足音。徐々に近づいてくる音響が聞こえてくるのは、竜女(ヴィーヴル)が現れる際に破壊した壁面跡、その先からだ。

 今もまだ煙が立ち上るそこへ、全ての者の視線が集まる。

 多くの異端児たちが倒れ伏し、通りから一切の音が消えた。

 間もなく。

 煙の奥に浮かんだ影は、瓦礫を踏み砕く音を放ち、とうとうその姿を表した。

 

「─────なっ」

 

 呟きを漏らしたのは、冒険者の一人だった。

 

 迷宮の闇の奥から生まれたかのような漆黒の体皮。これまでに屠った獲物の返り血だろうか、所々を紅く染め鉄の匂いを身に纏うその姿は、正しく人々が想像する「死神」そのもの。

 2M(メドル)を上回る巨躯は岩のような筋肉で覆われており、更にその上から纏うのは無骨な鈍い銀色の鎧だ。

 重厚で威圧感のある胸鎧(ブレストアーマー)、肩当て、手甲、腰具、脚装。

 そのはち切れんばかりの巨体を覆うのは、重戦士と呼ぶに相応しい巨大な全身型鎧(フルプレート)だ。返り血を浴びて鈍い紅色に染まるそれに包まれた片手は、巨大な両刃斧(ラビュリス)を提げており、逆の手には大地から直接削り出したのかと思わせる程に武骨な大剣が。やはりどちらの武器も返り血に紅く染まっている。

 それに加えて腰具に異なった大斧を懸架するその姿は、周囲にいた冒険者たちに歴戦の戦士を思わせる。

 その想像(イメージ)を覆すのは、頭部から生えた双角。まるで吹き荒れる炎の様に鮮やかな紅色を宿すその角は、装飾なのだろうか、片方が深緑の布に包まれていた。

 強靭な四肢と、頭に生える角。

 その威容から連想される単語は、猛牛。

 ギルドの資料に載ってもいなければ、あの【ロキ・ファミリア】でさえ遭遇したことのない『未知』の『怪物』がそこにはいた。

 常に泰然としていたフィンは、この時ばかりは被っていた化けの皮を脱ぎ捨て、顔色を変えて身を乗り出す。

 彼の親指は、既に引き攣り痙攣を起こしていた。

 

『─────ォ』

 

 フッ、フッ、と荒い鼻息を吐き出す『怪物』─────アステリオスは、ぐるりとその太い首を巡らせる。

 赤緋の鱗を砕かれ、力無く横たわる蜥蜴人(リド)

 口から血を流しながら、陥没した地面に倒れ伏す歌人鳥(レイ)

 石の翼を半ば砕かれ、全身に罅を入れて気絶している石竜(グロス)

 他にも、彼の周囲には倒れる異端児(モンスター)と、彼らに武器と敵意を向ける冒険者の姿があった。

 

 

 

 ─────沸騰する。

 

 

 

 今、アステリオスの視界には、既に倒すべき《敵》しか映っていなかった。

 血を流し、地に伏せる仲間たち。それは、彼の最新の心傷(トラウマ)にして怒りの源泉である傷付いたリリアを彼に思い出させた。

 幸いにして、仲間は一応死んではいない。

 ……なら、こちらも()()()()()()

 だが、手加減はしない。

 勝手に生きろ。

 

『─────』

 

 口を開く。

 怒りという炎に傷付いた仲間という薪を焚べ、全身に力を送り出す。

 

 

 

 

 

『ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 雄叫びを上げる。

 静寂をぶち破る、弩級の咆哮。

 砂塵を舞い上げるほどの音塊が響き渡った直後、『ダイダロス通り』の住民たちは白目を剥き、一斉にばたばたと倒れ込んだ。

 

「─────ぁ」

「サポーター君、春姫君!?」

 

 民衆に続いてレベル1であるリリルカ、そして春姫までもが両膝を折り、蒼白となって地に座り込んでしまう。

 自らの眷属を襲った異変にヘスティアが叫ぶ中、春姫の妖術の恩恵を受けたヴェルフと命、更には【ロキ・ファミリア】の団員たちもその身を一杯にのけぞらせる。

 尋常ではない『咆哮(ハウル)』。

 生物の心身を原始的恐怖で縛り上げる怪物の恐嚇(うた)

 己と戦う資格のない者を行動不能─────強制停止(リストレイト)に追い込む雄叫びだ。

 ヴェルフと命が片膝をつく。彼らが見下ろす自身の手の平は震え、階位(レベル)を1段階昇華させた身であっても満足に動けない。【ロキ・ファミリア】でも戦意が折れかける者が続出し、咄嗟に得物を地面に突き立てる事で踏み止まった。

 

『ッッッ!!』

 

 資格ある者だけが戦場に残る中、『怪物』は発走する。

 アステリオスが驀進する先にいるのは─────ティオネ。

 

「なっ、この─────」

 

 波濤の如く押し寄せる怪物に、ティオネは眦を吊り上げる。

 二刀の湾短刀(ククリナイフ)を構え、迎撃の構えを取った。

 それが、致命的に間違っているとも気が付かずに。

 

「避けろ、ティオネッ!!」

 

 フィンの激声は空を切り裂く大剣にかき消され、銀の大刃はそのまま─────ティオネの僅か1M手前、地面へと振り下ろされる。

 爆砕と衝撃、そして浮遊感。

 ティオネの双眸が驚愕に染まった。

 舞い上がる石と土砂で視界が塞がれる中、地から足が離れ一切の回避行動を奪われる。すかさず彼女の下へ、狙い澄ましていたかのように左腕に握られた両刃斧の剛撃が繰り出された。

 咄嗟に湾短刀を交差させ防御するが、圧倒的質量の前にはそんな華奢な武器など紙切れ同然。

 

 破砕される。

 

「─────がっっっっ」

 

 武器による防御を貫通した両刃斧の一撃は、ティオネの身体を()()。夥しい量の血飛沫を撒き散らしながらティオネは民家の一角を吹き飛ばした。

 

「…………ぇ?」

 

 この間、僅か数瞬。

 圧倒的戦力を持つ筈の第一級冒険者が、()()

 その衝撃的事実は、他の冒険者たちに致命的なまでの隙を生み出した。

 大双刃(ウルガ)を構える事も出来ず、ただ呆けた顔で姉が吹き飛んだ方向を見つめるティオナの前で、アステリオスは同じように棒立ちとなっている他団員に向けて猛威を振るう。

 

『ゥオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 地を圧砕する踏み込みと同時に、縦に握られた大剣の腹が他の冒険者たちを面白いほどに薙ぎ払う。

 圧倒的質量に轢かれた彼らは、例外なく骨を砕かれ、血を吐き、範囲外にいた他団員たちとも衝突し、絶叫する。

 

「うぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!?」

 

 男性団員の叫びが空に木霊し、そのまま蹂躙される【ロキ・ファミリア】の大半が戦場から一掃された。

 そして、そこまでの被害を経て、ようやくアマゾネスが再起動を果たす。胸の内に憤怒を燃やし、大双刃を構えて猛牛へと吶喊する。それに続く(ベート)が、被害を受ける弱者を減らす為に全力で罵声を浴びせ、周囲へと避難させる。

 

「にゃろぉぉぉおおおおおおおッ!!!」

「クルス、退け!!てめえ等は邪魔だッ!!!!」

 

咆哮(ハウル)』の影響下から脱せない冒険者ともども怪我人を引きずり他団員たちが退避していく中、荒ぶる猛牛と第一級冒険者たちは衝突した。

 全力で打ち込まれる大双刃。両刃斧に負けず劣らずの唸りを上げながら自らへと襲い掛かる刃を見つめるアステリオスは、次の瞬間、右手に握っていた大剣を閃かせて大双刃の刃へと沿うように動かした。そして、そのまま絡みつくような動きで大剣を振り上げる。

 

 大双刃が跳ね上げられた。

 

 超質量を持つ武装を扱う者として絶対に避けられない大きな隙。

 重心が崩れ、常人とは比べ物にならないほどに強靭なはずの第一級冒険者の体幹が揺るがされる。目を見開くティオナに向かってニィ、と凄絶な笑みを見せたアステリオスは、そのまま地面を割る強烈な踏み込みと共に、彼女に向かって回し蹴りを放った。

 アマゾネスの十八番である体術を、他でもないアマゾネスに向けて振るう。

 意図されたことではなかったとはいえ、それは彼女たちにとってとてつもなく侮辱的な行為であった。想定外の攻撃に驚くも、怒りに歯を食いしばるティオナは防御のために大双刃を捨て、同じく蹴りで迎撃することでなんとか猛牛の一撃を防ごうと藻掻く。

 

『オォォッ!!!』

「ぎぃっ!!?」

 

 骨の砕け散る音が響いた。

 ティオナが苦し紛れに打ち出した蹴り。体勢が崩れていたとはいえ、生半可な怪物であれば吹き飛んでも可笑しくはない威力を内包したその全力の蹴りを、アステリオスはあざ笑うかのように()()()()()()()()()()

 衝突したティオナの足に()()()()()。関節を無視してへし折れる自らの足を唖然とした表情で見つめたティオナは、一瞬遅れて脳へと到達した激痛に悲鳴を上げる暇もないままにあばらを強かに打ち付けられ、姉と同じように民家を爆散させた。

 肋骨全損。

 肺も半ば潰れ、地上にいるはずなのに水中で溺れているかのような窒息感に襲われる。

 たった一撃で大熱闘(インテンスヒート)が起動するまでに追い詰められたティオナは、一度に負った損傷(ダメージ)の凄まじさに戦場に復帰することが出来ずただ血を吐き出すことしかできない。

 一方、その一瞬の攻防と決着を見たベートは、戦慄で顔を歪めた。

 

(こい、つ─────)

 

 圧倒的なまでの技術(わざ)

 両手に大型の武器を持ち、それによって先鋒を倒すことによって注意を武器へと向けさせ、本命の蹴りを選択肢から外させる駆け引き。

 そして、第一級冒険者の肉体を真正面から破壊できるだけの図抜けた潜在能力(ちから)

 間違いない、目の前の『怪物』は紛れもなく強者だ。

 それも、ベートよりも遥かに格上の。

 

「─────怖気付いてたまるかァッ!!行くぞ、化け物ォッ!!!!!」

『ヴオオオォォォォォォォオオオッ!!!!!!!』

「るぅぅぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁああああああああッ!!!!!」

 

 しかし、ベートは吠えた。

 己を待ち受ける強者に、久しく立たされることのなかった「弱者」の立場に、彼は凄絶な笑みを浮かべて「強者」の咆哮を放つ。恐れを見せる事無く自分に立ち向かってきた敵に、アステリオスはこの時ばかりは怒りを忘れ、歓迎の笑みを浮かべた。

 両刃斧の剛撃と、狼の蹴りが交錯する。

 結果は狼の敗北。人の身ではどう足掻いても身に着けることのできない埒外の肉体強度に、ベートの体が押し負けたのだ。

 たった一回の衝突で、彼の足を守る銀靴(フロスヴィルト)に罅が入る。

 自らの骨にも軽い罅を入れられながらも、ベートはその程度の損傷は問題ではないと吠え、自らに猛牛の注目が集まるように全力で攻め立てる。

 加減は出来ない。

 したらこちらが死ぬ。

 ベートは腰に装着していた短剣型の魔剣すらも駆使して、猛牛相手に一歩も引かずに暴れ回る。

 そんなベートの狙いを理解したフィンは、彼の稼ぐ時間を一秒たりとも無駄にしてはいけないと退却してきた団員たちに指示を下す。

 

「エルフィ、倒れた住民たちを全員避難させろ!急げ!!」

「は、はいっ!?」

 

 魔導士たち後衛に声を放ち、立ち竦むだけであった彼らに行動の指針を与える。首領の指示に肩を跳ね上げる少女たちは気絶した住民を抱え、避難行動を加速させた。

 

「フィン、『魔法』の援護は!?」

「駄目だ、詠唱の時点で敵の注意が住民側(こちら)に向く。君の結界でもあれの突撃は防げない」

 

 地上から振り仰いでくるリヴェリアに、少なくとも避難が終わるまでは待機しろ、とフィンは告げる。

 魔法円(マジックサークル)を広げ、既に完成させた『魔法』を待機状態に移行させているハイエルフは、今にも舌打ちをつきそうな表情で前方の戦場を睨みつけた。

 規格外の化け物と一人渡り合うベートの体には、既に無数の傷跡が刻まれていた。対する猛牛の体はほぼ無傷。ベートが長年の経験を総動員してようやく貫いた防御の先に待っていたのは、無尽蔵ともいえる化け物の強靭(タフネス)であった。

 巌のような筋肉がベートの蹴り(きば)を弾き、お返しと言わんばかりに繰り出される斧と大剣の一撃が、彼の体を掠めるだけで血飛沫を飛ばす。

 フロスヴィルトの出力も全開で戦うベートは、着実に劣勢に立たされていた。

 それでも、傷だらけの狼は吠えるのを止めない。

 戦えない弱者が、強者(じぶん)が倒れることで蹂躙されるのを防ぐためだ。

 狙い通りに相手の注目を一手に引き受けたベートは、その身と引き換えに住民の避難を完了させる時間を稼いでいた。

 

「黒い、ミノタウロス……?」

「いや……深層種(ブラックライノス)の亜種だろう」

 

 ベートの攻撃など意にも介さずに暴れ続ける『怪物』を、アイズはじっと注視する。

 今にも飛び出していきそうな彼女を視線で制しながら、フィンは『深層』から発生した『異常事態(イレギュラー)』だと考察した。

 あれも、他の武装したモンスターと同じ『強化種』でもあると。

 

「……ア、アステリオス……」

 

 地面に倒れている異端児(ゼノス)たちが、漆黒の影に顔を上げる。

 傷ついたリドは、その最後の同胞の名を呟いた。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおッ!!!!!」

『ヴァァァァァアアアアアアアアアアッ!!!!!』

 

 零距離からの超接近戦(インファイト)

 肉と肉がぶつかり合う壮絶な大音声が通りを席巻し、同時にベートの体が崩壊を始める。一撃を相手に打ち込めば、損傷を負うのはベート(こちら)側。その上相手の一撃が直撃すれば即死ときた。

 神に言わせれば「オワタ式」。

「ハイクソゲー」の声と共に操作用子機(コントローラー)を投げ捨てる絶望的状況に、しかしベートは歯を食いしばって食らいつく。

 諦める様子を見せない狼に、猛牛は猛々しく笑い、攻撃の勢いを強める。さらに密度を増した剣劇の嵐に、ベートの体が体裁をかなぐり捨てた悲鳴を上げる。

 それでも、その悲鳴を彼は気合で捻じ伏せ、体を動かす原動力へと変える。

 それと同時に、唸る狼の咆哮に刺激された姉妹(アマゾネス)が、再起の炎を燃やす。

 

「……ふざけやがって」

「……まだ、まだ……っ!!」

 

 立ち上がる。

 激痛に顔を顰め、体から血を流し、血塊を口から吐き出しながらも、二人の女戦士は立ち上がった。

 一人で絶望へと立ち向かう、憎たらしい(ベート)に負けないように。

 

「調子に乗ってんじゃねえぞッ、牛野郎ッッ!!」

「ッ、らぁぁぁああああああああああッッ!!」

 

 半断された肉体にも構わず、莫大な怒声が放たれる。

 およそ人の肉声とは思えない大音声に、アステリオスは思わず注意を引き付けられた。

 

 そして出来上がった、一瞬の隙。

 

 それは、彼らが己の牙を相手に叩き込むには十分すぎる時間であった。

 地面を割り発進した二人のアマゾネスは、赤く染まる気炎を上げ、再び猛牛へと突貫する。

 その身に纏うは陽炎のように空気を揺らがせる闘気。

 大反攻(バックドラフト)大熱闘(インテンスヒート)、二つのスキルが最大出力で唸りを上げ、彼女たちの一撃に必殺の威力を与える。

 それに気が付いたベートも笑みを浮かべ、奥の手と用意していた雷撃の魔剣を銀靴(フロスヴィルト)の宝玉に宛がい、魔力を吸収させる。極上の餌を得た狼の牙が歓喜の声を上げ、その身から電流を迸らせる。

 

『ヴ、オォオオオオオオオ!!?』

「消し、飛べッ!!!!!」

「あああああああああッッ!!!」

「お、オォッ!!!!」

 

 ベート、ティオナ、ティオネ。三人の必殺が『怪物』の体を貫く。

 咄嗟に両刃斧と大剣で防ごうとするアステリオスだが、遅い。

 先ほどのお返しとばかりに砕かれた両刃斧を貫通して、彼らの一撃が着弾した。

 

 

 

 

 

「……」

 

 オッタルは、戦場と化した通りから少し離れた場所にある建物の屋上にて、その黒い牛人(ミノタウロス)と【ロキ・ファミリア】の戦闘を眺めていた。

 彼の視界の隅では、盾をへこませ、全身の鎧に傷をつけたガレスが荒い息を吐きながら膝をついている。

 

「何を……考えている、【フレイヤ・ファミリア】……ッ!!」

 

 忌々しいと言わんばかりにオッタルを睨みつけるガレスであったが、人一人殺せそうなほどに鋭いその眼光も都市最強の冒険者の前では無意味だ。

 向けられた敵意を特に意に介したそぶりも見せずに、オッタルはただ迷宮街の一戦を眺めるばかり。そんな彼の横では、二人の神が笑みを交わしながらにこやかに会話をしていた。

 

「オイオイオイ、なんだよなんだよ。フレイヤ様よぉ……オレを助けに来てくれたってかぁ?」

「うっふふ……そうね。貴方をそこの彼に連れていかれたら、少しだけ、ほんの少しだけ困っちゃうもの」

「アッハハハ……愛されてるなぁ、オイ」

 

 神イケロスと神フレイヤ。

 自ら望んで陥ったとはいえ、女神に窮地を助け出され嫌らしいニヤケ顔を浮かべる男神に、愛と豊穣、そして戦を司る美神は見る者全てを魅了する笑みを浮かべた。

 そして、慈愛に満ちた表情で口を開く。

 

「ええ。だって─────貴方を痛めつけるのに、丁度いい機会が無くなってしまうもの」

「……は?」

 

 ピシリ。

 そう音が聞こえてくるほどに、イケロスの顔が固まる。

 そんな男神の様子など知らないとばかりに、フレイヤは追撃を仕掛ける。

 

「今日、私のお気に入りの子が一人、貴方の眷属に大けがを負わされてしまってねぇ?危うく死ぬところだったの。……そしたら私、とてもとても悲しくって……ねえ、イケロス?眷属(こども)のしたことは、主神(おや)が責任を取らなきゃ。そうでしょう?」

「……ま、待ってくれよ、フレイヤ様。まさか、オレを送還するって?」

「送還……?いいえ、いいえ。そんなことしたって、貴方が楽になるだけじゃない。また退屈なだけのあの天界(せかい)に戻ってのうのうと暮らさせるなんて、私の気が済まないわ」

「……一体、何を……!」

()()()()()()()()

 

 フレイヤがそう言ってほほ笑むと。

 ピタッと、イケロスの動きが止まる。

 神ですら魅了してしまう、人外の美。彼女の「お願い」に抗える者など、純真無垢な思いで英雄の階段をひた走る愚者(ベル)か、純真無垢な思いで米を作り続ける米キチ(リリア)くらいしかいない。

 美しい笑みに目を奪われ、動けなくなった男神にフレイヤは近づくと─────その体を屋上に押し倒した。

 どさ、と音を立てて尻もちをついたイケロスに、フレイヤの影が覆いかぶさる。

 

「私のお気に入りの子を傷つけた罪─────」

 

 美神に魅了されながら恐怖で体を震わせる哀れな男神に、フレイヤは冷徹な笑みをくれてやる。

 そして、羚羊(かもしか)のように細く美しい、鋭い(ヒール)を持つ靴を履いたおみ足を振り上げ。

 

「─────その身で贖いなさい」

「ぃひぐっ」

 

 イケロスの股間に振り下ろした。

 ぐち、とナニカが潰れる湿った水音と、どこから出しているのか分からないイケロスの短い断末魔がガレスの耳にまで届く。

 男であれば一生に一度は経験するであろう想像を絶する激痛を思い出し、その場にいた男性は思わず前かがみになった。

 イケロスのイケロス君がリル・ラファーガされ、彼は悲鳴すら上げることが出来ずに水揚げされた魚のように屋上をのたうち回る。白目を剥き、口から汚くも涎を垂れ流すその姿に神としての威厳は無い。

 男としては限りなく致命傷な一撃。

 だが悲しいかな、人も神も、逸物を潰された程度では死なないのだ。

 神の力(アルカナム)は主の命を守り、致命傷を回復させるために働くが、今回は命にかかわる系統の致命傷ではない。

 ……いや、イケロスの様子を見れば普通に命にかかわりそうではあるが。

 ビクン、ビクン、と汚い痙攣を繰り返すイケロスを、フレイヤは満足げな笑みを浮かべて見下ろしている。

 彼女のいる屋上の下、建物と建物の間にある裏通りでは、もう一人の男神が脂汗を流し前かがみになりながら、「フレイヤには絶対に逆らわないでおこう、うん」と一人必死に頷いていた。

 

「リリア・ウィーシェ・シェスカ。この名前……貴方は聞き覚えがない、イケロス?」

「ぃぐあっ、り、リリアぁ……?……ぁ、あ……」

「─────何、リリア?」

 

 フレイヤは気絶したイケロスの腹に強烈な踏みつけ(ストンプ)をお見舞いし、強制的に叩き起こすと、激痛に呻くイケロスにそう尋ねた。

 その背後では、ガレスが思いもよらない単語に驚愕の表情を浮かべる。

()()()()()()()()()によって人間(こども)たちが使い物にならない今、彼女(リリア)について調べるならば闇派閥の主神と推定されるイケロスに話を聞くのが一番手っ取り早い。

 

「……ぅぐ、ぞ、そう言えば、最近そんな名前のエルフの餓鬼を殺してくれって依頼が来てるって、ディックスが言って」

「……それは私も知っているわ。きっと、それ以外に、貴方は知っていることがあるでしょう?」

「ひぃっ!?わ、わがっだ!!話す、話すがら!!」

 

 何かを隠すような視線の動きを見せたイケロスに、フレイヤは足を少し上げながら尋問を加える。普通であれば露出を増やした女神の生足に唾を飲み込むところが、今のイケロスにはそれが恐怖の対象でしかない。

 

「で、でも、なんでそんな餓鬼の事を……」

「私のお気に入り。あの子について調べたいのだけれど、今はうちの眷属()が使えないから、ちょっと……ね」

「……あ?お気に入り?『アレ』を?……ハ、ハハッ」

 

 だが、続くフレイヤの言葉で、イケロスの瞳はあらんばかりに見開かれた。

 その瞳に宿るのは、隠しようのない恐怖と、驚愕。そして……昏い()()だった。

 

「お、オイオイ……フレイヤ様、アレをお気に入りだなんていうのは、やめといた方が良い。っぐ、う……冗談じゃねえ。色々と人間(こども)たちの薄暗い所を見てきたオレからの助言だ」

「……ふぅん、どういうことか、一応聞いておこうかしら」

 

 恐怖で顔を引き攣らせながらも、口の端を吊り上げて笑うイケロスのぐちゃぐちゃな表情にただならぬものを感じ、フレイヤは冷たい表情を崩さないままにイケロスに続きを言うように促す。

 それを受けて、笑みになっていない崩れた笑みを浮かべたイケロスは、うわごとのように喋り始める。

 

「あ、アレは……オレが知ってる中でも一番の馬鹿な人間(ガキ)の夢の果て。馬鹿げた夢の『完成形』。知ったのは密輸で外に出た時だったかな……アレは、あ、アレは、()()()()()()()……は、は。ぃ、がっ……この街にいるってんなら、きっと、ヤバいことになるぜぇ、フレイヤ様ぁ……ぅぐ」

「……そう。ありがとう、もう用は済んだわ」

「ぃぎゃっ」

 

 そこまで聞いたフレイヤは、最後にゲシッ、とイケロスのイケロス君にとどめを刺してオッタルの下へと向かう。

 と、その時。

 彼女たちがいる場所からでも分かるほどに強大な威力を持った雷霆が、先ほどから【ロキ・ファミリア】が戦闘を続ける戦場から空へと突き立ったのが見えた。

 迷宮都市の中でも有数の魔法使いであるリヴェリアの全力砲撃にも劣らない凄まじい砲撃は、周囲に爆音をばら撒き、衝撃波をまき散らす。咄嗟にオッタルから庇われ、事なきを得たフレイヤは、背後で息を呑むガレスへと流し目を送った。

 

「行かなくていいの?貴方の仲間がピンチのようだけれど……」

「……クッ、そこの神(イケロス)は連れて行かせてもらう!!」

「ええ、構わないわ。……気を付けて」

 

 そうフレイヤが返した瞬間、屋上を爆砕する勢いで宙へと身を繰り出したガレス。襟を掴まれてがくがくと揺れながら一緒に宙を駆けるイケロスを無感動な目で追いながら、フレイヤはオッタルとは別に周囲で陰ながら護衛を続けていた【炎金の四戦士(ブリンガル)】ことガリバー兄弟に声をかけた。

 

「アルフリッグ、ドヴァリン、ベーリング、グレール。あの武装したモンスターが逃げるのをそれとなく手助けしてあげて」

「……よろしいのですか」

「ええ。目が覚めた時に仲間が減っていたら、あの子が悲しむでしょう?」

「……フレイヤ様、先ほどの神イケロスの言葉を鑑みるに、あのエルフとは、もう」

「駄目よ。それは駄目。私にあの子を諦めろと言うの、オッタル?」

「……僭越ながら」

「嫌。私はあの子を諦めないわ。あの子といると退屈が殺せる(まぎれる)もの。……それに、もしあの子が本当に私を殺す者だとしても」

 

 そう言って、オッタルとガリバー兄弟たちに目を向ける。

 

「─────貴方たちが私を守ってくれるでしょう?」

「……貴女がそれを望むなら」

「「「「御意」」」」

 

 自らの眷属に対する絶対的な信頼。

 その一端を見せつけられたオッタルたちは、その体を歓喜に震わせ、彼らの主神の命令(オーダー)を遂行せんと迷宮街を駆ける。

 

「うっふふ……さぁ、面白くなってきたじゃない」

 

 神の本質である娯楽への飢餓。それを覗かせる笑みを浮かべたフレイヤは、舞台女優のように大仰に両手を広げながら空を仰ぐ。

 

 

 

「せいぜい私を楽しませて頂戴、ね?」

 

 

 

 その声に応えるが如く、猛牛の咆哮が迷宮都市を貫いた。

 

 

 




【ロキ・ファミリア】拠点(ホーム)、【黄昏の館】。
尖塔の集合である複雑怪奇なこの建築物、その女子寮の一室にて。
緑を基調とした部屋の中に、二人の人影があった。

『……あの子が泣いているわ、私』
『ええ、あの子が傷ついているわ、私』

互いを「私」と呼び合う二人は─────そう呼び合ってもおかしくはないほどにその姿が似通っていた。
黄金の瞳に、長い金色の髪。人ではありえない程に整った相貌は、無機質な表情で固定されている。
もし彼女たちを【ロキ・ファミリア】の団員たちが見たのであれば、「アイズと瓜二つ、いや瓜三つだ」と言うであろう容姿をした彼女たちは、ふわふわとした口調で互いの意思を統一していく。

『ドライアルドが側にいるみたい』
『なら安心ね。でも、不安ね』
『ええ。あのお爺さんは少しやりすぎてしまうわ』
『でも、止めるのも少し面倒くさいわね』
『ええ、面倒くさいわ』

ゆらゆらと、まるで風のように不安定な様子で言葉を交わす彼女たちは、しばらくすると共通の結論にたどり着いた。

『それじゃあ、とりあえずあの子の所に行きましょうか』
『ええ。とりあえずあの子の所に行くわ』
『この子と遊ぶのは楽しかったけれど』
『ええ。この子と遊ぶのは楽しかったけれど』
『私はやっぱりあの子の側が落ち着くもの』
『ええ、私の言う通りよ。あの子の側が落ち着くわ』
『うざったいエルフリートは今はいない』
『ちょっとめんどくさいメリュジーネだっていないわ』
『何を考えてるのか分からないシェイドは……相変わらずどこにいるのか分からないけれど』
『ウンディーネがいないのは寂しいわ』
『今からでもドライアルドと交換できないかしら』
『私の言うとおりね。交換したいわ』

『『まあ、それじゃあ。リリアに会いに行きましょうか』』

そう言うや否や、彼女たちの姿は風となってかき消えた。
あとに残されたのは、専用の台に立てかけられた《霊樹の大枝》のみ。
神ロキも気づかぬ間に、リフィーリアと共にオラリオへとやってきていた風の精霊王イズナは、三位一体ならぬ二位一体の体を風へと変換して、愛し子の下へと文字通り疾走した。




異端児騒動終息後、最初のお話

  • 闇鍋(表)
  • 闇鍋(裏)
  • 稲作戦隊米レンジャー
  • 鰻のかば焼き
  • 和製びーふしちゅー

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