TSロリエルフの稲作事情   作:タヌキ(福岡県産)

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米ディッ!!(いつもの)

さて、後編ですよ。
ここからはしばらくの間米キチの米キチによる米キチのための和食ライフが始まる予定。
あ、そういえば。

「魔銃使いは異界の夢を見る」
https://syosetu.org/novel/214037/

ダンまちTSロリジャンルの大御所である魔法少女()様とコラボした小説でございまする。
べ、別にオイラそこまでバイタリティ溢れてる訳じゃないから……

内容?
米キチがいつもの如くその言動でミリアちゃんを困惑させてるだけだよこの野郎。

面白いからぜひコラボ先の「魔銃使いは迷宮を駆ける」も読んでね。
向こうは全然米出てこないけど。……当たり前か。

それでは、告知も済んだ事ですので予告詐欺をやっちゃった後編をどうぞ!!




……因みにリリアの名前の由来はリリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツさんです(小声)。元ネタが分からない?ばっかやろう配信者の原作の作者様(あとがきの神)をよく調べるんだよ。


わりと暇な第一王女の一日(後編)

 迷宮都市オラリオ。

 世界の中心とも呼ばれる大都市、その象徴である存在の迷宮(ダンジョン)。その20階層にて。

 やる気を出しすぎた土の微精霊によって人造迷宮(クノッソス)さえも貫いて出来たトンネルを通って無自覚のままに迷宮へと足を踏み入れたリリアは、現在奇妙な人物と共に早めの軽食をとっていた。彼女の手にあるのは、真っ白な米を三角形に固め、持ちやすいように草で包んだおにぎり。ぱくりと一口頬張れば、程よく効いた塩と米の甘味が絶妙なハーモニーを作り上げてリリアに米の素晴らしさを訴える。

 日本人であるならば食べたことの無い者はいないであろうこの超基本的な料理(おにぎり)は、基本であるからこそ真に美味しく作るのは難しい。

 米の炊き具合、塩加減、握る強さ。

 料理というものは単純であればあるほど、少ない要素で味の全てが決定されるからだ。

 その点、このおにぎりはどうだ。昼前に精霊とリリアが丹精込めて炊き上げた米は一粒一粒が綺麗に粒立ち、艶々と白く光り輝いている。

 そして十分に蒸らされた米はその優しい甘味を存分に引き出され、千穂が絶妙な力加減で握ることにより、米の食感を損なうことなく綺麗な三角形を形作っている。

 ひとつ間違えるとその自己主張の強さから全体の調和を乱しがちな塩も、米の甘味を引き立てつつも自身の旨味も伝える良い塩梅だ。

 更にもう少し深くかじりつけば、おにぎりの中央に宝玉のごとく埋め込まれていた梅干しがその酸味で舌を心地よく刺激する。

 ニニギ・ファミリアの漬け物担当である千恵が丹精込めて作り上げたこの梅干しは、隠し味に蜂蜜が使われておりほんのりと優しい甘味がする。この梅干しの柔らかい酸味がしばらく歩き続けていたリリアの疲れを癒し、同時に食欲を沸き立てる。

 しばし無言でおにぎりを食べ進めたリリアは、自分の隣に座る人物が手の中にあるおにぎりをじっと見つめていることに気がつき、自分の分のおにぎりを食べ終わると隣に座る「彼」に話しかけた。

 

「……おにぎり、食べないんですか?」

「……いや、戴こう」

 

 こてん、と首を傾げながら問い掛けたリリアにそう言って、彼女のとなりに座っていた人物―――――雷光(アステリオス)は己の手の平にちょこんと乗っていたおにぎりを一口に頬張った。

 とは言え、そのおにぎりは人間よりも遥かに大きい怪物(モンスター)の一種、牛人(ミノタウロス)である彼にとっては小腹にも満たないようなささやかな量であった。

 

「お味はどうですか?」

「……分からない」

「……はい?分からない?」

 

 そして、わくわくしながらアステリオスへとおにぎりの味の感想を尋ねたリリアに、彼はそう返した。

 量が彼にとって少なすぎたと言うのもあるが、それ以上に彼が生まれて初めて食べた味でどう判断したらいいのか分からないという困惑もあった。

 それに、怪物である自分にこうも屈託なく笑いかけてくる目の前の小さな狩り人(リリア)の存在にも、アステリオスは戸惑っていた。

 

「吐き出したくなるような感じはしない。むしろ食べたいと思うから、たぶん美味しい……のだと思う」

「……ほー。不思議な人ですね」

 

 ある意味リリアにだけは言われたくない台詞で評されたアステリオスは、ふんすと返事の代わりに鼻息を吹くと、椅子の代わりに座っていた倒木から立ち上がり、立て掛けていた両刃斧(ラビュリス)を手に取った。両刃斧を構えた彼の目の前では、ビキビキと壁にひび割れが入り、今まさに迷宮が力なき者の命を奪う尖兵を産み出そうとしていた。

 自分に続いて立ち上がろうとしていたリリアを視線で制したアステリオスは「耳を塞いでおけ」とだけ言うと、壁からズルズルと這い出てきた怪物たちを相手取る。数は合計10体。その全てが巨大な蜂型のモンスターであり、肥大した針をこれ見よがしにアステリオスへと向けていた。

 キチキチ……とリリアなど直ぐに噛み裂いてしまえそうな大きな顎から威嚇音を鳴らす蜂の様子を油断無く伺いつつも、アステリオスは後ろのリリアが大人しく耳を塞いだのを確認した後、

 

「フンッ!!」

「ガ、ギッ!?」

 

 凄まじい勢いで、蜂の群れへと強襲した。

 迷宮の地面が陥没するほどの強力な踏み込みで、その巨体に似合わない俊足を見せたアステリオスは、驚いたような鳴き声をあげる蜂の横面に両刃斧を叩き込んだ。

 轟音が鳴り響き、迷宮が微かに揺れる。

 踏み込みの勢いをそのまま乗せられた両刃斧は蜂の大顎を割り砕き、周囲に蜂の体液を撒き散らす。当然、彼の周りにいた蜂から攻撃を受けるが、そんなものでは彼は止まらない。

 次の瞬間にはアステリオスの腕が閃き、銀の閃光と凄まじい衝撃音と共に蜂のスクラップがその数を増やす。

 咆哮(ハウル)で敵の動きを止めたいところだが、彼は今深層に向かう道中。下手に目立つ真似をして他の狩人をおびき寄せては敵わない。負けるつもりは微塵もないが、もし自分と同等かそれ以上の強い相手とぶつかれば手加減をすることは出来ない。

 そうなれば同胞たちとの約束が守れない。

 しかし、それがどうした。

 咆哮が封じられたところで、敵の動く前に屠ればよい。蜂の攻撃を受けても傷ひとつ付かない己の体を奮わせ、アステリオスは壊滅状態の蜂の群れへと躍りかかる。

 斧で蜂を真っ二つにし、背後のリリアへと襲い掛かろうとした蜂を蹴りで粉砕し、集団で飛び掛かってきた蜂の集団を鍛えられた全身で轢き殺す。

 

 正に蹂躙。

 正に無双。

 

 一騎当千の活躍で瞬く間に迷宮によって産み出された蜂の群れを鏖殺したアステリオスは、不満げに鼻を鳴らしながらリリアの方を振り返り―――――そうしようとして、ぴくりと肩を揺らして動きを止めた。

 アステリオスは恐れたのだ。

 振り向いたとき、あの小さな狩人が自分にどういった目を向けるのか。

 強さを恐れられるのはまだ良い。それは闘争に身を置く者にとって数え切れないほどの回数浴びせられた感情だから。

 

 しかし、もし。

 

 もし、彼女から「醜い怪物を見るような目」を向けられれば―――――それは、少し堪えるかもしれない。

 闘争のみに明け暮れていた頃ならばまだしも、今は他の存在に気を向けるだけの余裕があった。……他者とのふれあいというものを知ってしまった。

 そこまで考えて、アステリオスはなぜここまで自分は彼女からの印象を気にしているのかを自問した。他の狩人には、例え醜い怪物と蔑まれようとも、恐ろしい化け物と怖がられようとも気にすることはなかったというのに。

 ……彼女からは、同胞と同じ気配がしたからであろうか。

 アステリオスはそう自答した。自分に闘争以外のものに関心を抱かせた大切な存在。彼女からは、彼らと同じように敵意を感じなかった。むしろ、こちらに好意的な感情をもっていたかのように感じた。まるで、アステリオスが彼女と同じ存在であるかのように。

 そんなはずはない。

 彼女はヒトで、自分は怪物。決して交わることはない存在、その筈なのに。

 

「えっと、獣人さん?」

「……ああ」

 

 彼女は真っ直ぐにこちらを見ていた。その目に、力への恐れも、怪物への嫌悪も宿す事なく。

 ヒトは、自分達を嫌っている。そう同胞達から教えられていたアステリオスは困惑した。今目の前で起きた蹂躙劇の主役がアステリオスである事を分かっているはずなのに、その目で見たはずなのに、むしろキラキラとした目で自分を見ている。

 

「ありがとうございました。助けてくれて」

「……いや、問題ない」

 

 リリアは、良くも悪くもヘスティア以上に差別、偏見を持たない存在だ。

 その判断基準は彼女らしく「米」。彼女は、本気の本気で一緒に米を食べれば皆友達、と考えていた。

 そして、彼女がこの世界に生を受けてから一度も怪物を見たことがないのも幸いした。彼女からしてみれば、アステリオスは「一緒におにぎりを食べたやけに牛っぽい獣人の男性」だ。

 つまりはソウルフレンドだ。心の友よ。

 そんな彼女がアステリオスの暴れっぷりを見ても特に何を思うこともなく、強いて言えば「この人超つえー」といった感心の類だった。その為、躊躇なくアステリオスに近づけるし、その手を握ることだって出来た。

 ピクリ、とアステリオスの手が震える。それに気付く様子もなく、リリアは彼に笑いかけた。

 

「そう言えば自己紹介がまだでした。……私の名前はリリア。リリア・ウィーシェ・シェスカです。リリアと呼んでください、獣人さん」

「……あ、アステリオス」

「アステリオス……雷光ですか!素敵な名前ですね!特に『雷』の部分が!とっても強そうです!」

 

 リリアはそう言うと、ちらっと後ろの壁を見た。そこには、また新たに亀裂が走り、怪物が産み落とされようとしていた。それに気がついたアステリオスは、リリアを片手で制したまま、彼女の前に出る。

 何故自分が、こうして自らを倒す存在であるはずのヒトを守る様な真似をしているのかは分からない。

 だが、彼女を見捨てる事は今、出来なくなった。

 

「アステリオス……牛っぽいから、あだ名は『モーさん』でいいですか?」

「ああ、好きに呼べ」

「ありがとうございます、モーさん」

 

 彼の名前にかすりもしないあだ名で呼び始めるリリアを尻目に、両刃斧を再び構える。

 壁から生み出される魔獣の他にも、何やら巨大な花のようなモンスターもやってきている。まるで、()()()()()()()()()()()()かのように蠢く巨大な花々を見ても、アステリオスの心は少しも揺らぐことは無かった。

 体はどことなく軽く、今なら同族をいくらでも殺せるような気がした。飽くなき闘争、それをリリアの笑みに肯定されたような気がしたから。

 

「……リリア、ここは任せろ」

「分かりました。……怪我はしないで下さいね」

「大丈夫だ」

「……よーし、一度言ってみたかったんですよ、この台詞」

 

 地面を踏み締め、力を溜める。ぎちぎちと、全身の筋肉が軋む音を心地よく聞きながら、アステリオスは目の前に広がる地獄絵図を見た。

 前方の敵の数、およそ30。小さな広間(ルーム)でリリアと話していたため、後方の事を気にする必要は無い。踏み締めた地面が悲鳴をあげ、敵が今にも突撃して来ようとする。

 ここから先に、進めると思うなよ。

 アステリオスのその心の声を感じ取ったのか、巨大な花のモンスターが飛び掛かろうとした瞬間。

 

「――――やっちゃえ、モーさんッ!!」

『ヴオオオオオオオオオオッ!!!』

 

 アステリオスの姿が()()()()()

 ゴッッッ!!!!と音を超えた衝撃波がリリアの号令とほぼ同時に広間に発生し、アステリオスが足をつけていた場所がまるで鍬で抉り取ったかのように捲れている。

 牛人(ミノタウロス)が己の最大の武器である角を用いて行う必殺の攻撃。何者も止めることの出来ない、あらゆるものを粉砕する怒涛の突撃(チャージ)

 第1級冒険者でさえも『地獄』と言い切る深層にてその能力(ちから)を磨き続けたアステリオスのその一撃は、進路上にいた不運な巨大な花の怪物や蜂の怪物、その全てを一瞬で残骸へと変えた。

 悲鳴をあげる暇すらない。

 己を守る事すら許さない()()()()()

 ここまで派手に暴れてしまえば、他の狩人の事など気にする事に意味は無い。枷を外したアステリオスは、己の気配を隠す事なく敵の群れの中に突撃し、両刃斧を目にも止まらぬ速さで振り回す。

 常人には構える事すらままならない超重量の銀塊が、瞬く間に怪物の体を引き裂き、砕いていく。防御の為に甲殻を構えれば、その上からうち砕き、カウンターを狙って放たれた触手の攻撃はそれごと()()()()()

 10秒と経たない間に怪物達の群れの約半数を屠ったアステリオスは、討ち漏らした怪物達の群れの中からリリアを襲おうと躍り掛かる巨大な花々を感知した。

 彼我の距離は5mも無い。恐らく1秒後には、リリアの体に怪物の触手が打ち付けられ、彼女は息絶えるだろう。20階層の適正レベルである第3級冒険者の平均的な能力であれば、まず救うことの出来ない絶望的な状況。

 しかし、ここにいるのはアステリオスだ。

 

『ヴァァァアアアッ!!!』

 

 ズンッ!!!

 己の両刃斧(えもの)を躊躇無く投げ飛ばすアステリオス。その刃は違う事なく花の触手へと突き刺さり、衝撃に引っ張られた怪物ごと迷宮の壁に縫い止める。リリアまでの直線距離が拓けたアステリオスは、そこで彼をじっと見つめたまま怯えた様子も見せないリリアを見た。

 それは、アステリオスが絶対に自分を助けるという信頼の表れでもあるようで。

 

『オオオオオオオオオオッ!!!!』

 

 轟音。

 広間が大きく揺れる程の突撃。矢のような鋭い蹴りにより体を貫かれた怪物は、次の瞬間その体を灰へと変えた。それを見て優先度を変えたのか、リリアへと向かっていた怪物達は一斉に進路をアステリオスへと変えた。得物は壁に深くめり込み、直ぐに引き抜いて応戦する事は出来そうに無い。

 となれば、後の武器は己の肉体のみか。

 アステリオスがそう考え、拳を構えたその時。

 

「モーさん、これ使って!!」

「ッ!!」

 

 リリアの叫び声と共に、一本の巨大な大剣が迷宮の天井から生えてきた。

 原理など気にする事なく、躊躇いもせずにその大剣を引き抜いたアステリオスは、怪物達に向かって全力でその剣を振るった。

 壁からの光を反射して白銀に輝くその大剣は、リリアが土の微精霊に頼んで急造させた特注の代物。最硬精製金属(アダマンタイト)を弄ったことによりその構成を覚えた大地を司る者だからこそ出来る、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。怪物に叩きつけられた大剣は、その斬れ味を遺憾無く発揮して怪物達を両断した。

 パラパラと灰に変わる怪物。それを尻目に、アステリオスは残る怪物達の掃討に向かった。

 

 

 

 

 

 そして、5分後。

 追加で現れた第2波も苦労する事なく殲滅したアステリオスは、リリアと共に彼女が「降って」きた穴の下に来ていた。どうやら彼女を守護する存在から帰った方が良いと言われたらしい。寂しそうな様子のリリアに、アステリオスは静かに語りかける。

 

「リリア」

「はい」

「また会おう」

「……はい!」

 

 怪物である自分から、ヒトに再会を望むとは。それも、自分の憧憬(ゆめ)でもない者に向かって。

 アステリオスはそう思いながらも、どこか良い気持ちであった。

 リリアも、元気よくそう答えると何かを思いついたようにごそごそと懐を漁り……鮮やかな緑色に染め抜かれた、一枚の布を取り出した。

 

「お近づきの印に、これをあげましょう。エルフの里で作られた布です!」

「……それは、どうすれば良いのだ?」

「少ししゃがんでくれますか?こう、私が貴方の角に触れるくらいに」

 

 そのリリアの指示に従ってアステリオスはしゃがみこみ、頭を下げた。すると、リリアは彼の角にその布を被せると、くるくると巻きつけてまるでリボンの様に端を縛り付けた。

 

「はい、出来ました!……えっと、嫌だったら別に取ってもらっても良いですよ?」

「……いや、いい。……感謝する」

「はい!」

 

 そっとアステリオスが触ると、そこには確かに布の感触がした。

 銀の大剣に、緑の布。二つの贈り物をリリアから貰ったアステリオスは、しゃがみ込んだ体勢から、彼女に跪き、こう告げた。

 

「リリア。我が身は憧憬を追う者。それ故にいつも貴女の力になるというわけにはいかない」

「はい。モーさんも頑張って夢を追いかけてください」

「だが、もし貴女と再び相見えることがあれば。……その時は、この身に出来ることならば何事であっても力を貸そう」

「……本当ですか」

「約束しよう」

「じゃあ、私も。……その時は、私に出来ることであれば、微力ながらお手伝いさせてください」

「ありがたい」

 

 こうして、牛人(アステリオス)愛し子(リリア)の間に、一つの約束が交わされた。

 ……後に、この約束がオラリオ最大の異常因子(イレギュラー)となり、ロキ・ファミリア首脳陣や関係者各員の胃を的確に破壊していくものになるなどとは、まだこの時は誰も考えていなかった。

 

「それじゃあ、また」

「……ああ、また」

 

 そして、リリアは地上へと帰還した。「えっ、あのちょっと、風の精霊様急ぎすぎではああああぁぁぁぁぁ!?」という悲鳴が聞こえた気がしなくもないが、ひとりでに穴の埋まった天井をしばらく見つめたアステリオスはフッと笑うと、再び深層へと潜り始めた。

 心配していた狩人が現れる様子はない。

 この隙に一気に潜ってしまいたいものだと考えながら、彼の手はそっと、角に巻かれた緑の布に触れていた。

 ……そして。

 

「ウラノス、大変だ」

「……どうした、フェルズ」

 

 ギルド本部地下、『祈祷の間』。四距の松明に照らされる地下神殿の中で、大神ウラノスと賢者の成れの果てである愚者(フェルズ)は話していた。ウラノスに相対するフェルズの顔はフードで隠れ見えないが、声音は彼の驚愕を表しているかの様に震えていた。

 

「……『精霊の愛し子』だ。精霊の愛し子が、アステリオスと接触した」

「……なんと」

 

 彼の言葉を聞き、さしものウラノスもその泰然とした表情の中に少しの驚愕を浮かべる。

 精霊がこの世からほとんど姿を消してはや数百年。もはやお伽話の中にしか存在しないはずの存在が現れたと聞き、ウラノスは静かにフェルズに続きを話す様に促した。

 

「確認できたところでは火、風、土の精霊から加護を得ている様だ。……いや、あれはもしかするとまだ微精霊なのかもしれないが」

「どちらにせよ変わらぬ。精霊と微精霊は名が付いているかいないかの違いでしか無いのだから」

 

 精霊とは、冒険者とは真逆の存在である、と昔誰かが言った。

 冒険者は、その力を高め、器を昇華させる事で名を得るが、精霊はその逆。

()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

「それで、どうであった」

「極めて友好的な関係を築いている様だった。……若干愛し子の態度が不自然ではあったが、少なくとも彼に嫌悪感を抱いている様子はなかった」

「なるほど。……フェルズ」

「ああ」

 

 ウラノスの言葉に頷き、フェルズは踵を返すと祈祷の間から出て行った。愛し子が今どこにいるのか、どこのファミリアに所属しているのかを確認する為だ。未だこのオラリオで話題になっていないということは、どこかの零細ファミリアに所属している可能性が高い。

 ならば。

 

「……今は、まだ。表舞台に出て来てもらっては困る」

 

 その存在を限りなく隠蔽する。他の神に、他の都市に仇なす存在に見つからぬ様に。

 来たるべき時に、その存在を有効に活用できる様に。

 

 

 

 こうして、ロキ・ファミリアとエルフの胃痛の種がもう一つ増えることとなった。

 頑張れ、強く生きろ。




【アステリオス】
装備
両刃斧(ラビュリス)
・第1級冒険者装備。

《銘無し》
・特大剣。最硬精製金属(アダマンタイト)製。
・斬れ味、耐久性は折り紙つき。
・へファイストス・ファミリア作成の武具には劣るものの、第1級冒険者装備。

《王家の紋章付き元ローブ》
・高級品。
・エルフの里の最上級機織が作成。
・防御力は無いに等しい。
・アステリオスはこれを庇いながら戦闘を続けている。本人曰く「ちょうど良いハンデ」。
・防ぎきれなかった返り血などで若干汚れている。



次回予告

無自覚ながら迷宮から帰ってきたリリア!!
そして魔法が発現した千穂!!(唐突)

「なんで!?」
「こちらが聞きたい……!」

そんなゴタゴタを他所にニニギ・ファミリアに吹き荒れる嵐の予感!!

「ここで決着をつけておこうと思うんだわ」
「奇遇だな、俺もそう思っていた」
「負けられねぇ……この戦いには!!」

神をも巻き込み、極東系ファミリアで突如勃発した戦争を前に、リリアが取る決断とは!!

「争いは何も生まない。武を捨てよ、話はそれからだ」
「リリアちゃん!?」



次回、TSロリエルフが稲作をするのは間違っているだろうか。
『冷や奴定食、絹ごしで食うか?木綿で食うか?』


-追記-
感想欄にて豆腐の好みを報告していただけるのはありがたいのですが、出来れば二次創作の中身にふれた感想も付けていただければと思います。そうしなければ完全に規約違反らしいので……


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