胡蝶家三女の死者行軍   作:漣@クロメちゃん狂信者

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評価、感想、いつもありがとうございます。勘の良い読者も発狂中の読者も私は大好きです。あ、評価のバーが満タンな赤色になっていてびっくりしました。本当にありがとうございます。

ちなみにですが前回のダイスの女神の選択肢としては、
クロメちゃん…ドキッ★ばったり原作前善逸との出会い〜正体は触れない奇妙なお茶会〜
童磨…人間だって強いんだ!~女は怖い?命知らずな婚約者~
無惨様…麗さんとの増していくデート〜クロメ、貴様がなんとかしろ。無茶振りの無惨〜
黒死牟…飽きるまで止まない無限手合わせ〜拳で語る乱入者〜
でした。



命知らずな婚約者事件 前

「は?今なんて言ったの?」

「ははは、やだなぁクロメちゃん、いつから耳がそんなに遠くなったんだい?」

「ううん、今日も私の耳は絶好調だよ。今一階の台所でが小皿が割れた音までばっちり聞こえた。でももう一回言って?」

「結婚させられそう。」

「…はい?」

 

私が思わず聞き返した意味がお分かりいただけただろうか。

久々に寺院に戻った私を迎えたのは、不機嫌で無表情な童磨だったわけなんだけど、私はずっと、私に対して童磨が怒っていると思っていた。しかし、その実、私が不在の間にやってきた2人の母娘によって教祖な童磨のストレスがマッハであったためにあんな顔をしていたのが理由の大半であった事が判明したのがつい先ほど。

ホントに?私に対して怒っていない??そう何度もしつこい程確認して、全て肯定されたときの私の心情はまさに大歓喜(ハレルヤ)!!!ここが私の極楽浄土(アヴァロン)だった!!!…失礼、キャラがぶれた。話を戻そう。

 

「…え、童磨結婚するの!?」

「しないよ!?だから助けてって言ったんじゃないか!あの2人の思考回路が、流石の俺にも分からないから困っているんだぜ…」

「童磨から観察眼を取ったら一体何が残るっていうの…?」

「クロメちゃん、最近俺に対して遠慮がなくなってきたんじゃないかい?」

「えー、…でも割と本気な話、童磨の脳みそでも理解不能なその2人は何者?」

「そう言うと思って信者たちに調べさせておいたから、後で資料が来ると思うよ。」

 

流石、仕事()出来る男。とりあえずは、どうしてそんなことになったのか詳しい話を本人の口から聞くことにする。…話が進むにつれ、私の顔がとんでもない厄介ごとの気配に歪んでいくのが分かるが、確かにこれを放置するのは無理だよなぁと、同時に大きな溜息が零れる。

 

「はぁ、童磨…悪いことは言わないから、一回結婚しちゃいなよ。その後、奥さん達ご一家には不慮の事故に遭って貰うってことで丸く収めよ?」

「え、なんかヤダ。」

「……は???」

「なんかヤダ。」

「なんかヤダ!?それが一番楽な方法なのに!?」

「うん。…で、彼女たちは一体どういう意図なわけなんだい?そう提案してくるってことは何か分かったんだろう?」

 

私の提案を飄々と無視した童磨の態度に頭痛がしてくるが、確かにこういうタイプの人種は童磨にはあまり縁がなかったのかもしれない。こういうものの対処に慣れていそうなのは、どちらかというと頭領の方だろう。私も前世でこういう輩は腐るほど見てきたが、こいつらは得てして大変面倒くさい奴らなのだ。蛇のように狡猾で、鷲のように蜿蜒と獲物を狙い、蜂のように敵を仕留める。

頭上にハテナマークを飛ばし続ける童磨にもこればっかりは説明してやらねばならないかもしれない。少なくとも私の手でどうにかなる問題ではないのだ。

 

その時、丁度私を探していたという信者が入室を求めてきた。童磨が許可し、信者が私に紙束を渡してくる。その信者は、私に紙束を渡す時にそっと私の耳に口を寄せてきた。多分童磨には聞こえちゃうと思うけれど、内緒にしたい話なのだということは察せられたから、素直に耳打ちを受けることにして、信者の言葉に耳を傾ける。

 

「出来れば、その…教祖様にはお見せしないでください。ご心労をおかけすることになりそうですので。」

「…どういうこと?」

「…読めば分かるかと。我々も見たとき絶句しましたから…。」

 

……何なの、その嫌な予感しかしない不穏な台詞は。

私この報告書読みたくない…今から駄々こねて逃げ出したい…。頬が引きつりそうになるのを必死に抑え、報告書を受け取る。

書類に目を通した私は、前世でも最上級に関わりたくなかった部類の案件であることを理解し、虚空を眺めた。

 

 

 

さて、事情をまとめよう。時は私が寺院に戻る数日前まで遡る。

ある日寺院を訪れた2人の母娘がいた。なんでも娘の婚約者が浮気をし、別の女性と駆け落ちをしたんだそうだ。2人は自身の不幸を嘆き、幸福になりたいと泣いて過ごしていた。そんな時、この宗教の話を耳にし、藁にも縋る思いでこの門を叩いた。そして教祖にお会いし、話を聞いてもらって心が落ち着くのを感じ、彼女たちはすっかり信徒となり、先日からその務めを果たしている……で、終わっていればよかったのだが。

 

その話は表向き。話はそこで終わらない。

彼女たちの一族は、没落した元華族の末裔であった。今でもその影響力は大きく、その力は見過ごせるものではない。幸いにも鬼殺隊と関わりがある家ではないようだが、それでもこちらも人と偽装して生きている以上、彼女たちを無視するわけにもいかないのが現状だった。せめて新しい相手が見つかればよいものだが、そんな大きな家の娘の結婚がご破算ともなれば、詳しい事情も分からぬまま男に捨てられたその娘を娶ろうなんて酔狂なやつはいない。娘は幸いにも容姿が良い方ではあったため、そんな美人が捨てられたなど、何か娘の方にも問題があるのではないかと世間は面白おかしく騒ぎ立てた。それに対し、例の母娘はご立腹。悲しみに暮れることさえも許さぬ世間と何故私達がこんな目にと駆け落ちした元婚約者に大激怒した二人は、この万世極楽教に目をつけた。

 

正直宗教と聞けば胡散臭い。しかし、このあたりの地域にしか根付いてはいないものの、それなりに人気がある上、金の回りも良さ気、信者たちも行儀が良く、悪い噂も聞かない。宗教は宗教でも悪印象はあまり浮かばないし、寧ろ私達と繋がりが持てることを喜ぶに違いない。元婚約者の男はそこそこ大きな商家の息子であったが、こちらも悪い縁ではないだろう。そんなどこから出るのか分からない過剰なまでの自信を持って、二人は此処に入信のフリをして乗り込んだ。

そんな二人は、教祖を胡散臭い老人だろうと思い込み、最悪は権力を盾に信者の中から男を見繕おうと高を括っていた様だったが、そこで思わぬ計算違いを起こす。なんと教祖は年若い、それはそれは美しい男であったからだ。娘は教祖に一目惚れ、母もその美しさを一目で気に入る。しかし、伊達に権力者をしていない二人は、それを態度や表情に噯にも出さず、婚約者に捨てられた哀れで可哀想な娘とそれを慰める母を演じるに徹したのだ。

 

…童磨が嘘泣きといったのも頷ける。寧ろよく見破ったな、童磨。

 

要するに、彼女たちは童磨が思う以上に逞しく、野心家だったのである。

あぁ、前世の苦労が思い出される。権力と金に目を光らせ怒涛の如く迫る貴族…押し掛けるご令嬢、ご令息たち…困惑するランとウェイブ…止めて、そんな助けを求める子犬のような目でこっちを見ないで…私とセリューも迫られてるの…私達だけではどうしようもできない…隊長早く戻ってきて…

 

「クロメちゃん?」

「ハッ!!」

 

いけないいけない、少しトリップしてた。

手に持つ書類に再び目を落とす。えっと、これを童磨に説明しないでなんとかしろって?…普通に無理でしょ。信者さん達には悪いけど、童磨には現実を教えなければなるまい。信者たちには上手く隠しているけど、目の前のこの男、頭脳(と顔)だけは一級品なのだから。彼の頭を借りない理由がない。用意周到、深慮遠謀、用心堅固、寛仁大度…まぁ全部類語だけど、要するに「気が利く」んだよね、童磨は。普段はさ、発想の仕方がちょっとどころか330°くらいズレているから、変な方向に行ったり頭のおかしいスカポンタンになったりして、相手の地雷踏みまくったり神経逆撫でしたりするけど、こと作戦立案においては間違いなく「気が利く」男なのである、…と、先程童磨の宗教をボロクソに貶した手前、フォローしておくね。

ちなみに、実力はある癖にいつまでたっても童磨が頭領に気に入られないのは、その「気を利かす」方向を間違うからだ。逆に言えば、童磨は空気が読めないだけで、他のポテンシャル自体は頭領に重宝される(せざるを得ない)だけあって非常に高い。いや、正確には、空気の読み方は過去の事例から学んでいるため、理解はしている。が、使い方というか使い処というか…「()」が壊滅的に悪い。結果、よく関わる人にほど嫌われやすいという謎の傾向にあるのだ。本人がお喋り好きというのもそれに一役買っている。雉も鳴かずば撃たれまい。口は災いの元。まさにそんな諺の権化が童磨。可哀想。

 

そんな童磨が、何故今回の母娘の思考を理解できないのかというとだ。

おそらく彼は慣れてしまっているのだ。教祖という立場上、あまりにも人に「崇拝」され慣れている。まぁ、一種の偶像崇拝だよね。それに、「神」に恋する人間はいない。神話上は兎も角としても、姿も見えない、話も出来ない、助けてもくれない、そんな存在に恋はしない。「渇望」され、「畏敬」され、「愛」されることはあれど、「恋」はされない。それが『神』の姿だと、私は思う。つまり、童磨()にとって信者は「救い」を求めてくる者であって、決して肉欲的、金銭的な「見返り」を求めて来る者ではないのだ。金銭的な利益や人としての好意が付随するのは、童磨の働き(救い)に対する、信者たちからの寄付というか心遣いというか…彼らからの感謝から来る自発的好意であって、別に童磨が寄こせと彼らに求めたものではないのだ。

 

だからこそ困惑する。

娘が自分に恋愛的な好意を寄せているのは分かる。肉欲的な行為を求めているのも分かる。だが、それが何故自分と結ばれたいと思うのか。お金は自分宛に信者が寄こしたものだが、鬼である俺には食事も性的な行為も睡眠も要らない。だからこそその金は、無惨様の役に立つためにも、自分の地盤固めの為に私的な事にはあまり使わず、大部分をこの宗教にかけている。だからこそ、自分と結ばれても彼女を抱くことはないし、彼女の身を飾る事もない。何よりも自分は信者の為に真摯であるべきなのだから、と。

まぁ、本人の感情が希薄なのもそれに拍車をかけている。変な所で高潔だよね。プライドが高いっていうか。

 

さて、ここまで聞いて長ぇよと思った諸君の為に、そんな童磨よりは断然人間寄りな私が、彼の長ったらしい文言をまとめさせていただいた。一文に表すと、多分きっとこうなる。

 

 

“タイプじゃないんです”

 

―――と。

 

 

「恐らく帰り際に母娘が怒って帰ったのは、美しい自分に思った以上に童磨が食いつかなかったから。虚仮にされたと思ったんだろうね。」

 

私の言う意味が良く分かっていないらしい童磨が首を傾げる。

私も同性として最も厭忌する人種だ。あまり語りたくはない。

 

「あのね、童磨。女っていうのはめんどくさいんだよ?特に今回みたいな外面・ステータス系の自意識過剰なタイプはね。」

 

うん、実に分かりやすいね。タイプじゃないなら仕方ない。結婚する気も無いなら仕方がない。あー、仕方ないなぁ(棒)

未だ把握しきれていない童磨が眉を顰める。現状は理解したけど、今まで学習したことのない新たなケースに戸惑っているみたい。考察と経験が繋がらないってあたりかな。ならば、私から出来る助言はただ一言だろう。

 

ね、童磨。ああいう面倒なタイプはね。

 

「ボロクソに言い負かして、ふっちゃえばいいんだよ。」

 

 

…決して私が考えるのが面倒くさくなったとか、そんなわけではない。ホントダヨ?

 




多分、前・中・後の三部構成になる。

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