胡蝶家三女の死者行軍   作:漣@クロメちゃん狂信者

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来てしまったパワハラ面談

「……焦げてて美味しくない。」

 

でも皆鬼に殺されてしまった。なら責任はとらないとだよね…。

大人子供、燃やされて犯されて遊ばれた遺体をもぐもぐと消化していく。鬼は皆殺しにした。虫唾が走ったし、私に瞬殺されるぐらい弱かったし。でもこの惨状だもん、久々に頭領のお呼び出し食らうかも。…嫌だなぁ…でも仕方ないよなぁ…。

 

「…でも私とばっちり受けただけだし。私はちゃんと考えて動いてたもん。…なんて言い訳通じないのが頭領なんだよなぁ…はあ。」

 

思わず溜息が零れ落ちる。この間も手は止めない。待機していたお人形たちに遺体を集めさせ、ひたすら消費していく。その間に、先程お人形にした鬼に私の拠点の破壊工作をさせて、違和感のないように街を整えておく。

この街は複数の鬼に襲撃され、一晩で消えた。

そういうことにしないと、もうどうしようもなくなってしまった。遺体をとにかく食べる食べる食べる。急がないと、朝になっちゃう。朝になる前に別の街か森の中に入ってしまいたいのに!!

こういう時にお姉ちゃんがいれば!!いや、お姉ちゃんなら人肉なんて絶対食べないだろうけど。でもお姉ちゃんはお肉が大好きだったから、人肉どうこうって話じゃなくて単純にこのくらいの量のお肉はペロッといけるはず。私は甘味なら負けないけど、お肉はそれなりで良いのに…どうして鬼の主食はお肉なの。

 

「よし、食べ終わった!!私頑張ったよ、お姉ちゃん!!」

 

立ち上がると、人形たちに命令を下す。人間のお人形3体にはリュックを持ってもらって、腹立たしい鬼の人形達は検証も兼ねて此処に放置していく。肉盾くらいにはなっただろうが、こんな奴らを使役したくはなかった。

 

「行くよ。」

 

そうして私はこの街を出た。

 

 

街を出て私が向かったのは森だった。最初は隣の街にでも行こうかと思ったんだけど、旅人や商人とすれ違って、勘ぐられたらやだなと思った。森の中に運よく洞窟を見つけ、人形達と一緒にそこに潜り込む。もうすぐ朝日が昇る。ここで移動は止めておくべきだろう。足跡はダミーを残したし、洞窟の入り口は草木を使ってお人形達に隠してもらった。大丈夫だと信じたい。

 

破壊された街を確認ついでに、人形達に回収させたお菓子をリュックから取り出す。金平糖…今世の両親がよく買って来てくれて、その度に姉さん達と一緒に食べたっけ。そういえば姉さん達大丈夫だったかなぁ?家に放置してきた二人の姉をふと思い出す。お姉ちゃん、カナエ姉さん、しのぶ姉さん。お姉ちゃんにはもう会えないかもしれない。でも、姉さんたちはまだ生きてるかもしれない。

 

「もし姉さん達を見つけたら私が殺してお人形にしてあげよう。他の鬼に食べられるのは何か癪だし。それに、私のお人形になったらずっと一緒にいられるよね。お姉ちゃんとは一緒に居られなかった分、姉さんたちは…姉さん達こそは…ちゃんと私が殺してあげないと。」

 

そう呟いて金平糖を1つ摘み上げる。ピンク色の可愛いお星様。それが何だか懐かしくて、笑ってしまう。久方ぶりのお菓子。それに嬉しくなって、ニコニコと金平糖を眺め回す。しかし、少ししてやっと金平糖を口に運んだ私は絶句した。

 

「……」

 

味がしない。

 

鬼になる前はちゃんと感じられていたはずの、舌に絡みつくような至福の甘みは全く感じられなかった。大好きだったはずの甘味が、美味しくない。それに驚いて、理解して、絶望して。そして苛立ちのまま金平糖を噛み砕いたが、口の中がじゃりじゃりとしただけだった。それにさらに苛立ちが増す。

…人間しか味がしないから、鬼は人間を食べるのかな。

 

「あーあ、つまんないの。」

 

金平糖の入った瓶をリュックに戻す。そのまま私はリュックを枕にふて寝を決め込んだ。勿論鬼になった以上本来は睡眠なんて必要ない。あくまでもポーズ。だって疲れたんだもん。完璧な襲撃を決めた。だというのに、それを溝に捨てやがった馬鹿が沸いて、その後処理して、急いで美味しくないお肉食べさせられて、逃げるように街を出て。要するに不貞腐れたのだ。人形達も一回しまって、目を瞑る。今はただ1人になりたかった。

 

 

しかし、そんな中空気を読まない奴がいる。

 

ベンッ!

 

「貴様、何をしている。答えよ。」

 

琵琶の音が聞こえたと思ったら無限城に居た。…私の感傷を返せ。思わずムスッとした顔をしてしまう。それを見た頭領の顔にピシリと青筋が浮かんだ。

 

「なんだその顔は?その不愉快な面を見せるな。頭を垂れて平伏し、さっさと報告しろ。」

 

これ以上怒らせると怖いので、大人しく指示に従う。今私の目の前で仁王立ちしている頭領は他の鬼の頭の中を覗けるみたいなんだけど、私も伊達に元暗殺者していない。感情を隠すのは得意なんだよね。だから、記憶とか感想は覗けても、多分私の感情は読めてない。だから今だって本来なら頭を吹っ飛ばされるような事を考えているのにも関わらず、頭領は私に攻撃してこない。

 

「…頭領に頂いた拠点で人を狩りながら上手く擬態して生活していました。人も結構食べたので、血鬼術と思しき能力に目覚めました。丁度その時に、あの街に藤の家紋の家が出来ると聞いて潰したのですが、鬼狩りどもにばれない様上手く工作したといのに馬鹿が沸いてそれを台無しにされましたので、拠点を変えるべく移動しておりました。」

 

「ほう?つまりお前は鬼狩りから逃げる気だったと?」

 

「否定はしません。有体に言えばその通りかと。しかし、根拠としましては、頭領が以前、産屋敷は執念深くて頭がおかしいとおっしゃっていましたので、万が一頭領から借り受けた拠点から頭領の居場所や擬態先を割り出されたら面倒だと思い、別の拠点を自分で見つけるまでは避けて…というよりか鬼狩りを無駄に寄せ付けないよう工作しつつの狩りに徹する予定でした。血鬼術もまだ検証が不十分で、十全に使いこなせていないので。」

 

「私が産屋敷に後れを取る無能だと言っているのか?」

 

「人間社会に適合しているのはどちらかと聞かれればどうしても向こうに軍配は上がるでしょう。ですが、私は勇気と無謀を履き違えるほど馬鹿のつもりはありませんし、戦うべき時と撤退すべき時の判断を違えるような愚か者になる気はありません。」

 

「では貴様はいつ役に立つ?」

 

「血鬼術の検証が終わればすぐにでも。私の怠慢が不安とあらば、宣言いたしましょう。血鬼術の検証を1週間で終わらせます。その後、ご所望の品の探索と鬼殺隊狩りを並行しまして、更に頭領のお望みとあらば…鬼狩りの柱の首、取って参りましょう。」

 

「…ほう?言ったな!?」

 

…まずい。大口叩きすぎたかも。

頭領からすごく愉快そうな気配がする。さっきまであんなに不機嫌だったのに。…え、なんで?柱ってそんなに強いの?超級危険種とどっちが強い?

混乱で頭がグルグルする。で、でも具体的に柱の首何日以内で取ってこいとか言われてないし!!まだセーフ、セーフなはず。

 

「良いだろう。ただし検証は3日だ。1週間も無駄を踏むな、3日で終わらせろ。そして私に大口を叩いたのだ、柱の首しかと持って来い。そうだな…それこそ1週間以内にでも。十分に温情はかけたぞ?…分かっているな?」

 

…つんだ。…かくなる上は!!

 

「…かしこまりました。僭越ながら頭領。」

 

「…なんだ。」

 

「新しい拠点を下さい…」

 

「…何故私がお前なんぞに施さねばならない。」

 

「そこは頭領の広いお心でなんとか…!!先行投資だと思って下さい…!!」

 

「…まあ、良いだろう。今は機嫌がいい、有り難く思え。」

 

「やった!…コホン、ありがとうございます。」

 

勝訴!!心は狭いし、器も小さいけど、贈り物の規模はでっかいね、頭領!!

さて、私の1週間チャレンジが今始まる…あぁ、もう怠いなあ。

 




本作の無惨様は、パワハラポンコツ上司(小物成分高め)です。
あとそれなりにちゃんとした理由をそれっぽく堂々と話して、適当に無惨様最高!わっしょい!!ってしてれば原作よりも比較的チョロいです。(優しくなるとは言っていない)

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