「英雄、逆から読むと雄英……だっさぁぁ」
ヒーローの名門『雄英高校』の個性訓練用の施設を襲撃する愛しの弟『死柄木弔』の活躍をビデオに納めるべく、透明化の怪人にカメラを持たせてリアルタイムでそれを観戦する彼女は、ポリポリと感覚のない左腕を掻きながら時計をみてぼやく。
「参ったなぁ……折角オールマイトにでも使えるように作ったのに」
怪人が爆破の個性を持つ少年を殴り、硬化の個性を持った少年を鋭い爪で切り裂く。
圧倒的で面白いぐらいの蹂躙劇だ。
宇宙服を着たヒーロー教師にゴーグルのヒーロー教師は、あの人の
怪人は硬化の少年を切り裂いた時にべとりと爪に染み付いた血を長い舌で舐める。
『オマエ、オイシイ、クウ、クウゥゥ!!!!』
硬化の少年がどさりと尻餅をついた。
たぶん、下は漏れてる。
「いやぁ~でも、これはこれで?弔好みだしいっか!」
これが二年か三年生となれば違っただろう。半端とはいえヒーローとしての覚悟が固まりつつある卵たちに殺気だけで心をおるなんて簡単に出来る事じゃない。
だが、いくらヒーロー科といえど入って数日で死ぬかもしれないなんて、怖くて逃げたくて当然だ。
「見ろよ、ヒーロー!子供が死ぬぞ!」
怪人が爪を振り上げる。
硬化の少年は恐怖で個性の発動も忘れてしまったのか、絶望した顔でそれを見上げる。
――死.
『CAROLINA SMASH!』
それを救ったのは遅れてやって来た正義のヒーロー『オールマイト』急いで時計をみた彼女はガックリと項垂れた。
『なっ!?』
「ゲームオーバーだよ」
怪人が爆破……当然、少年二人を抱えて退避したオールマイトはダメージを負わず、弔がボリボリと頭皮を掻き毟って『遅ぇんだよ!クソっ!』叫び声を上げているのが目に入った。
彼女の個性【怪人創造】は怪人が強ければ強いほど消費するエネルギーが増え、怪人の存在時間が減っていく。エネルギーを増やせば多少は延びるが、オールマイト級の怪人となるとせいぜい30分が限界だった。
「ショック無効じゃなくて吸収だし、たぶん脳無も勝てないよねぇ……弔の初陣は敗北かぁ、やだなぁ……」
彼女は何とか弟の勝利に貢献できないものかと透明怪人に「子供にしがみついて自爆しろ!」等と命令を下そうかと本気で考えて、止める。
「弔のしたいことに邪魔しちゃ悪いもんね!」
弟の邪魔になるかもしれないから殺さない。
その思考は泥のような濁りをみせていた。
「あー!痛てぇ!クソクソォ!」
「コンさん、治療をお願いしても宜しいですか?」
「うん、いいよ!」
そして、黒霧と撃たれた傷でのたうち回る弔がワープしてきた。
彼女=コンは慣れた様子で弾を取り出し傷口を縫って包帯を巻く。
「……負けた。最悪だ、最低な気分だよ姉ちゃん」
「弔……提案なんだけどさぁ、これを使って嫌がらせしない?」
不貞腐れた弔にコンはUSBメモリーを差し出した。
「雄英に
脳無が空の彼方まで殴り飛ばされる滑稽な様をゴミ箱に、怪人が二人を襲う所だけをイジらしく抜き出して編集した彼女はネットの海に解き放つ。
「10万……50万……うはっ100万再生だって!有名人じゃんマジうけるー!」
「姉ちゃんアンタ、マジで最高だよ!」
まさに勝負に負けて試合で勝った。
あの人はご満悦で、弔は笑い転げるほど嬉しそう。
『――これより雄英の謝罪会見が、』
コンは酒をぐびぐび呷りながら同じく笑う。
この日、雄英は世間からの信頼を失った。