もし夢見りあむの姉が某眉毛みたいだったら   作:石田たつを

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第十五話

『Standing Middle Finger』はGreen・Rainが発表した楽曲、及び同曲を収録したシングル。通算6枚目のシングルである。

 

『Standing Middle Finger』

Green・Rainのシングル

リリース 2020年

ジャンル ロック、グランジ

レーベル Jコロムビア

作詞作曲 夢見のえる

プロデュース Green・Rain、亀田悠真

 

収録曲

1.Standing Middle Finger

2.Red Rum

3.Hurricane Ride

4.Break Burst(Live at Budokan'20)

 

夢見のえる作詞作曲のシングル。

セカンドアルバム『Morning Rain Feeling Pain』の3枚目のシングルカットである。グランジの特徴である暗く苦悩に満ちた歌詞や、静と動のディストーションギターによる暗くヘヴィなサウンドによって構成されており、前回のシングルと真逆の方向性を示したことで、のえるの作曲センスの幅広さを周知させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるライヴハウスでの演奏中、クソ無能で怠け者な給料泥棒のボケカス警備員が、俺たちが奏でる爆音をBGMに目かっ開きながら居眠りしやがっていたせいかは知らねえが、あのクソどもが仕事をサボりやがったせいで、どっかのキモオタキチガ◯野郎にステージに乱入された。

一気に混乱だ。

悲鳴とカオスとキ◯ガイの怒号の大嵐の中、不思議な安堵さえ覚えていた俺は、死ぬほど忌み嫌っていたはずの退廃的かつ暴力的な空気に酔いしれていた。

さぁ、いざギターであのイカれた野郎の頭をカチ割って、頭からつま先までディストーションしてやろうとした時、りあむがブチギレた。

正直意外だった。

いざという時の荒事は俺の仕事だと思っていたし、それがやるべき事だとも思っていた。

他のメンバーは所詮イイ奴らだ。故に強硬手段ができない。

アイツらは、所詮は温室育ちの良い子ちゃんだ。

だが、りあむはどうやら野生の魂があるらしい。

 

その日、りあむはキレた。

何曲も歌い終わった後の、ガラガラの声で叫んだ。

自分よりも背が高い小太りのイカれたオッサンの胸倉を掴んで叫んだ。

鬼のような形相で叫んだ。

叫びながら顔面をガッツリ殴っていた。

その日、りあむは怒りを解放した。

 

「テメェーッ!!このクソオタァーッ!!マジでブッ殺すぞォーッ!!??」

 

周りが静まり返る中、俺はこう思った。

 

お前…普段からその声量で歌えや。

 

まぁその後は、色々とゴタゴタあった訳だ。

まず意外にも、りあむは前科一犯にならなかった。

あのイカれポンチは、ポケットに折り畳みナイフを入れていたらしい。なぜそんなもん持ち歩いていたかなんてのは知らない。どうでもいい。

後は客の証言で正当防衛が証言された。まぁ向こうは刃物持ってるマジ◯チなんだから残当だな。

そんでりあむのSNSが燃えた。

いや、よく考えたらこれ通常運行だな。

ちなみにこれのおかげで逆にファンも増えた。どうやらロックなファンが増えたみたいで良かった。

あと事件の現場となったライヴハウスは潰れた。りあむの炎上の飛び火のせいである事ない事書かれて言われて呟かれたからだ。まぁどうでもいいな。

俺は死ぬほど興味無かったが、俺以外のメンツはちょっと落ち込んでいた。

なんでも、『Slight・Rain』時代にやった最初で最後のライヴの場所がここだったらしい。

ゲロクソどうでもいいな。マジで。

 

ちなみにこの事件の影響のせいか、俺たちのライヴは暴れてもいいという風潮になった。

俺はカチンと来た。

りあむもカチンと来た。

りあむはライヴで歌う時、いつものスタンスに加え、間奏中は観客に向かって中指を立てたり、棒立ちのまま親指で首を切るジェスチャーをするようになった。

もはやロックスターではなくプロレスラーだ。

…気に入ってないとは言ってないぜ。

アメリカに行く前に、喧嘩腰のメンタリティを習得したみたいで一安心だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、もうすぐセカンドアルバムとプロモーションツアーだ。

前回同様ツアーの準備と録音のおかげで、どっかしらに飛び回る必要はなくなったが、やはり俺の仕事量だけが増えて不愉快だ。

「俺」と「あいつら」はしばらくプライベートな話をしていない。俺が忙しいから配慮しているのか、それとも単に内輪で仲良くやるのに忙しいのか。

まぁ好きでも嫌いでもない連中と、一緒に居なきゃいけないってのは、まるで家族みたいだな。クソッタレ。

そうそう、最近夏樹は作曲に凝ってるらしい。だがどれも何というか…イマイチ燃えない曲だ。悪いが俺の趣味じゃない。どーしてもやりたいってんなら、俺のテリトリーから離れた所でやって欲しいね。

 

今回やる予定のツアーは前回と比べライヴの数が多い。

前回みたいなトラブルは許されない。

大型ライヴの度に体調崩すメンバーなんて要らねえよな?そんなんじゃファンは着いてこねぇよな。

流石に今回は大丈夫だろ。亀田Pが辞めても付き合い短いからみんな立ち直れるだろ?いやでも真島は付き合い長いしな…今のうちにクビにしとくか…?

だが真島までいなくなったら代わりの人材探すのかったりぃな…よかったな真島、失業手当でメシを食うハメにはならないようだぜ。

 

ライラと星花のスキルもグングン上達しているみたいだ。

ライラは腱鞘炎になるほどの自主練を辞めた。ライラが度々行ってるらしいドラム教室を覗くと、トレーナーが一人増えていた。もしかすると良い指導者に会えたのかもしれない。

星花はリズムが走ったり、細かなミスがキッパリ無くなった。つまり精神的に負担のある場面でのミスがキッパリ無くなった。かつて、たかが失恋如きで病んでリハをサボってたような奴とは思えんほどの上達っぷりだ。

りあむも新しいサングラスとタンバリンを買ってやる気に満ちている。コイツはマジのアホだから気にしなくていいか。

作曲を却下した事で夏樹のモチベーションが下がることを危惧していたが、どうやらそんな様子もない。なんだか逆に不気味だぜ。

 

結成したての空気に戻り始めている。

重たくピリピリした空気は消え始め、休憩中の談笑や休日に遊びに行く事も増えた。

この時俺もなんだかんだで遊びに連れて行かれる。

不気味だ。

りあむの件から思っていたが、どうやらウチのメンバーは俺が頭を下げようが下げなかろうが、時間が経てば怒りや悲しみを忘れ仲良しこよしになるらしい。まぁ言っちゃなんだが不気味だわな。

だが、そんなことも言ってられん。

要は良い演奏が出来れば良いんだ。

気にすることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一回バンドルアワード。

企業の豚が考えたクソイベントだ。

新シングルを宣伝するという目的がなければこんなゴミイベント出るつもりはなかった。

まぁ聞け。

俺たちは346プロのアイドル部門に所属しているバンドアイドルという括りなわけだ。分かるよな?

だがプレイしている楽曲のジャンルはロックだ。つまり俺たちはロックバンドでもあるわけだ。ガールズロックバンドというヤツだな。

だってのに、ステージ上での飲酒、喫煙、中指を立てるといった行為を運営から禁止された。

 

頭ん中にクソでも詰まってんのか?

 

俺たちは今までそうやってきたし、ファンもそういった立ち振る舞いを望んでいる。

散々禁止禁止言われたわけだが、結果はご存知やってやった。

なにかと渋るりあむにも飲ませて吸わせて立てさせた。

俺も飲んで吸って立てた。

ついでにりあむから奪い取ったタンバリンを観客に投げ入れた。「あれはオキニだった」って後で文句を言われたが、知らねえよそんなこと。どうせ腐るほど持ってんだから我慢しろ。

 

まぁ正直言って出禁になると思った。

審査員にも念入りに指差した後、中指をアッパーカットのように突き上げてやった。

りあむはいつも以上に泥酔していたので、マイクスタンドと喧嘩したり、見えない敵と殴りあったり、絶賛演奏中の俺にセクハラをしていた。

ちなみに一部の客と審査員のほとんどがドン引きしていた。

ライラと星花と夏樹は慣れているので涼しい顔してスルーしてた。

慣れって怖いな(他人事)

だが審査員の一人はそんな俺たちを大層気に入ったらしい。

その審査員の名前は高井一郎。

たぶん日焼けサロンに週7で通ってるレベルの肌の浅黒いオッサンだ。

だが、彼のおかげで俺たちはとあるチャンスを掴み取る事ができた。

やはり幸運というモノは探し出さなきゃ見つからないらしい。

 

会場を後にする時に、出禁を言い渡してきた運営のオッサンにがっつり中指を立てながら「うっせバーカッ!」って言ったら、どうやら動画を撮られていたようで、ネットでめっちゃバズった。

掲示板生まれのオタク共は俺たちが大好きなようで一安心だ。


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