さぁ、いよいよツアーだ。
Morning Rain Feeling Pain Tour。
公演する場所は、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、福岡の6ヶ所だ。
前回のような失敗のないように、ツアーの準備もしっかりしてきたし、ツアー前は仕事も減らした。万全の体制だ。
サポートメンバーもちゃんといる。
キーボード担当、梅木音葉。
…よーするにいつものヤツだ。
さらに、今回は前座もついてくる。
どうやら俺たちはとうとう前座を引き連れてツアーできるまでに成長したということだ。
企画を聞いた時から、割とワクワクしていた。事務所の身内とはいえ、そもそも俺は交友関係が狭いから、どんなヤツが来るのか知らねえ。
どんな演奏をしてくれるのか楽しみだ。
というわけで、ツアーの準備期間の間に顔合わせした。
バンド名は『Star Beats』スリーピースバンドだそうだ。
メンバーは多田李衣菜（Vo/Gt）、五十嵐響子（Ba）、白雪千夜（Drs）の三人。
数曲披露してもらったが、これが中々イイ感じ。歌詞は日本語で、演奏もまだ荒削りだが、光るものを感じた。
多田李衣菜は、声質こそ可愛らしい感じだが、声量も出て迫力があるし、始めたばかりの初心者にしてはギターも中々様になってる。
五十嵐響子はほぼ素人にも関わらず、いきなり5弦ベースをツーフィンガーで弾く逸材だ。テンポの良い曲だとやや走り気味になるが、まぁ許容範囲内レベルだな。
白雪千夜はリズムが精密だ。叩く力にまだムラがあるから、腕はまだ一流とは言えないが、精確なリズムを保てるだけのポテンシャルは充分ある。
全員アイドルとして、結構な期間やってきた連中だ。
今後の成長に期待できそうだ。
今回はトラブルが無いと嬉しいんだが。
ツアー初日、東京でのライヴ。
なぜかぼくはあらゆるモノに対して喧嘩腰だった。
1曲目、『Standing Middle Finger』
セトリ組んだヤツ誰？
いきなりこんな激しいの入れるなよ。
マジ見る目無し男の仕事できなさ男Aだわ。
なんて思ってると、会場が真っ暗に。
演奏スタート。
入りは上出来。
星花ちゃんと夏樹ちゃんを横目で見ると、笑っていた。楽しそうでなにより。
お姉ちゃんの荒々しい歪んだギターが聴こえると、ぼくの魂が震え始める。
照明さんが張り切ってる。
レーザー演出とかしちゃってさ。
目がチカチカしてきた。
とりあえず酒飲んどこ。
う〜ん、やっぱライヴにはビールだね！
さて、やりますか。
「I’m all over my crisis」
「I feel hot but I’m back in the ice」
目が慣れてきた。
光の海だ。
ピンクの小さな光が、蛍の大軍みたいで美しい。
「Out of control so give up」
「Come on！come on！today」
やべ、シャウトし過ぎた。
別にいいや、今日はパンクに行こう。
「I'm growing middle finger」
「I feel hate in the shock of the peace」
「I fall into the darkness town」
「come on！come on！come on！」
んー！テンション上がってきた！
いいねぇ〜！やっぱり！
歌うのってイイ気分だ！
まさに今実感してる！よ！
Fooooo↑！！
「Love is a kill machine」
「In the rusty garage」
「It’s all in my head」
「It’s all in my head」
間奏。
イライラしてきた。
まだ歌いたい。
のむ。飲む。酒を飲む。
あ？アイツなにこっち見てんの？
中指立てちゃえ。
「Love is a demonic」
「I hate miracle magic」
「It’s all in my head」
「It’s all in my head」
「It’s all in my head」
「come on！come on！come on！」
叫ぶ。がなる。シャウトする。
さぁ、祭りは始まったばっかりだ。
「Morning Rain Feeling Pain」はGreen・Rainのセカンド・アルバム、及び映像作品である。
「Morning Rain Feeling Pain」
Green・Rainのスタジオ・アルバム
リリース
2020年11月4日
ジャンル
ロック、グランジ、サイケデリック・ロック
時間
50分5秒
レーベル
Jコロムビア
プロデュース
夢見のえる、亀田悠真、真島俊
チャート最高順位
1位（イギリス、オーストラリア、日本）
3位（オーストリア、ドイツ、オランダ）
4位（アメリカ）
5位（ノルウェー）
8位（フィンランド）
19位（フランス）
発売直後は国内でしかヒットしなかったものの、後に世界中で爆発的な売り上げを記録し、Green・Rain最高のセールスを記録したアルバム。日本だけでも、歴代4位となる470万枚以上、全世界では2500万枚以上を売り上げ、Green・Rainは世界を代表するバンドとしてスターダムへ駆け上がった。2020年の日本ロック・メーカー誌の年間ベストアルバムランキングにおいても1位を獲得している。
ジャケット写真が横断歩道の白線の上にGreen・Rainのメンバーが寝そべっている写真のため、インターネット上で物議を醸した。
収録曲
全曲、夢見のえるによる作詞作曲。
1.Good Night
2.Get With It
3.Standing Middle Finger
4.Don't Come Back my Home
5.Hey You！
6.Green Submarine
7.We are Shadow People
8.She's Mystic
9.Morning Rain Feeling Pain
10.Craft Gin Supernova
ツアーはあっという間に終わる。
ディストーションギターの残響は、頭にまだ住み着いてるのに。
全ての公演が終わり、なんやかんやし、打ち上げが終わり、家に帰った。
風呂に入って、ベッドに倒れ込む。
飲み過ぎた。
明日は二日酔い確定だろう。
ガンガン痛む頭を抱えつつ、今回のツアーを振り返った。
トラブルはなかった。
何もなかった。
ツアー中俺は傲慢に振る舞った。
少しでも何かをしくじったスタッフが居たら、とにかく怒鳴り散らした。
メンバーにも同じことをするつもりだったが、この数週間の間、リハ本番問わず一度もミスをしなかった。
ビビった。
何事にもトラブルやミスは付き物だ。
俺だってミスすることはある。
だが、奴らはどうだ？
このツアーの間、ミスしなかった。
ツアー前はミスを心配していたのに、今はミスが無いことを心配している。可笑しな話だ。
そりゃ、リズムが多少走ったりはした。だがあんなのミスに入らねえ。むしろライヴ感がゴリッゴリに出て、CD音源垂れ流しを疑われないし、テンポが速くなると客もノれるからありがたい。
そして何より奇妙なのは、奴らはライヴ中ずっと楽しそうに笑っていた事だ。
不気味だ。
体調が悪いから、弱気になってるのか？
いいや、そんなことはない。ただ奴らの頭がお花畑なだけだ。気にすることはない。
今回のデキは最高だった。
それで良いじゃねぇか。それで話は終わりだ。クソッタレ。
きっとアメリカでも成功できる筈だ。
今俺には何が必要だろう？
退職届？金？酒？ヤク？
あぁ〜久々にハッパ吸いたい。
訳わからん事考えてると、もっと訳わからなくなりたくて吸いたくなる。
目蓋が勝手に落ちてくる。
暗闇に包まれる。
俺の脳はまだビートを刻んでいるのに。
体はいち早く眠りたいようだ。
精神は加速していくのに。
肉体は駐車したいようだ。
勝手に脳裏に浮かぶロサンゼルス。
いや、シアトルでもいいかもしれない。
待ってろアメリカンドリーム。
俺は成り上がる。
あらゆるモノを犠牲にしても。
クソカス髭もじゃロン毛爺の神サマ、妹の喉と俺の魂を差し出すから、世界の頂点に立てる曲を書けるようにしてくれ。
OK？