まさか、だりーと一緒にライヴできるとはね。
亀田プロデューサーから、サプライズがあるって言われたけど、まさかこれとはね。
顔合わせの後、ちょっと時間があったから、話しかけてみた。
「よぉ!だりー!」
缶コーヒーを投げ渡してやる。
「わわっ!なつきち!?」
おぉ…ナイスキャッチ。
「まさか、前座がだりー達だったとはな〜ビックリしたぜ」
茂場プロデューサーの差し金かな?だとしたら感謝しないとな。
「どぉ〜?驚いたでしょ!?こうやって一流のバンドの前座で経験を積む…!まさに駆け出しのロックバンドって感じだね!」
アタシたちが一流…一流なのか?
いや…だりーや、もしかしたらファンの皆にはもう、一流のロックバンドに見られてるのかな。
だとしたら嬉しいな。
いや…一応アタシたちアイドルだけど。
まぁいっか!今更だな!
「ハハッ!じゃ、頑張れよ…期待してるぜ」
やっぱり、応援されると勇気が湧いてくる。
自分たちのパフォーマンスで喜んでくれる人がいる限り、アタシはまだ、この仕事を好きになれる。そう思う。
「なつきち!また一緒にカラオケ行こうね!」
それに、最近は自分が独りになる事を好きになり始めてた気がしていたけど、案外そうでもないかもな。
「おう」
のえる…アンタには、勇気を与えてくれる友人がいるのかい?
アタシは…アンタに勇気を与えているのかい?
というかそれ以前に…友人と思ってるのかね。
あぁ〜あ、どうしたもんかな。
「…ん?ああ、茂場さん…」
考え事しながら歩くもんじゃないね。
あぶないあぶない。
「…え?ああいや、ちょっと悩み事があってね…大した事じゃないんだけど…」
にしても茂場さんとこうして話すのは、だいぶ久しぶりだな。まぁ同じアイドル部門の人だけど、アタシたちの担当じゃないし、当たり前か。
「……聞いてくれるんならありがたいけどね…ちょっと長くなるけどいいかい?………まぁ、そこまで言うならありがたく…」
なんか気を遣わせちゃったかなぁ。
「…てなわけでね。…………………………はぁ!?…いやそんな事したらアタシぶっ飛ばされちまうよ!…えぇ…」
うわぁ…ちょっと相談したら、とんでもねぇ提案されちまった。
いや、でも当たって砕けろだ!
「分かった分かった…やってみるよ……」
てか、茂場さんってあんなキャラなんだ…
やっぱプロデューサーってみんなどっかヤバい人達なのか…?
幸運…いや、これはもう運で掴み取ったモノじゃない。
俺たちの実力で勝ち取ったモノだ。
クソイベントのバンドルアワードで審査員をやってたあのオッサン、高井がビッグ・チャンスを持ってきた。
あの野郎は、
詳しい話はごちゃごちゃしているから割愛するが、よーするにあの野郎は偉い奴で、俺たちのレーベルが日本という世界から見ればインディーな会社から、三大レコードの傘下という、海外への絶大なアドバンテージを得られる会社に変わったってだけだ。
このレーベルで販売されたシングルやアルバムは、もちろん海外でも流通される事になる。
ネットでしか海外に広まってなかった俺たちの曲が、世界中のCDショップにも出回るという事だ。
まさにビッグ・チャンス。
俺のアメリカでのロックンロール・ライフが、より鮮明に見えてきた。
曲を書いて、ライヴして、レコーディングして、テレビで歌って、また曲を書いて。
これを繰り返していれば、いつか必ず世界の頂点に辿り着く。
そう考えたら、情熱が漲ってくる。
ある日、いつもの様にスタジオで練習していると、休憩中に夏樹が話しかけてきた。
「なぁ…ちょっといいか?」
俺は、メンバーとは普段、話したりしない。ちょっと前に、遊びに連れて行かれたことがあったが、まぁ俺が途中で勝手にバックレたら、それ以降はあんまり誘われなくなった、最近は休憩中の雑談もあんまりしてなかったから、今日の様な日は珍しい。
ライラと星花はハラハラした顔をしている。別に取って食ったりはしねぇーっての。
「なんだよ?」
夏樹はいつになくモジモジしやがっていてキモい。世の男性諸君はこの動作を見てキュンと来るのかもしれないが、俺から見ればこれにギャップ萌えは感じない。
「その…今度、『Star Beats』がさ、次のアタシたちのシングルと同じ日に初シングル出すだろ?もし、あの子達の方が売り上げが良かったら__________________てのはどうだ?」
…は?
「………殺すぞ」
俺を舐めてんのか?
どうやら夏樹はマジに殺されたいみたいだ。
「こ、怖いのか?負けるのが」
上等だ。
「…今やってる曲は、全部ボツだ。明日までに新しい曲を書いてくる」
「え!?」
ふんっ、最近は色んなジャンルを開拓してたせいで、俺の魂が不完全燃焼だったんだ。
この際バリバリのロックをあのクソガキ共に見せつけてやるぜ。
「お前ら、次のレコーディングまでに出来る様になっとけ、もし出来なかったら…」
「で、出来なかったら…?」
「生き埋めにする」
どうせならメディアにも公表してやるよ!そんであいつらクソガキに思い知らせてやる!
「お、おいそれはよせっ!」
「あぁ!?俺が負けると思ってんのか!?」
『夢見のえるがまさかの爆弾発言!?次のシングルの売り上げがStar Beatsを下回れば、歌番組でお願いシンデレラを熱唱すると宣言』
毎週土曜日の夕方にやっている音楽番組『POP & ROCKーON』
様々なジャンルのアーティストたちが、一堂に集まるこの番組は、新進気鋭な若手から、大ベテランまで出演する。
今回出演したGreen・Rainは、バンドアイドル。
アイドルとは思えぬ激しい演奏が魅力ですが、今日は実はアイドルらしい一面があるという事をアピールしてくれる様です。
ご覧ください、このフリフリの衣装。
彼女は夢見のえるさん(26)
このバンドで作詞作曲と、リードギターを務めている、まさにGreen・Rainの屋台骨。
しかし、アイドルらしい姿を見せるのは、今日が初!
どんなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか?
それでは歌っていただきましょう。
夢見のえるで、『お願いシンデレラ』
なぁ、NIL'VANEのドナルド・コバックス。
お前の、『Smell』がシアトルの若者に大流行して、メディアのオモチャにされて辛かった時の気持ち、今なら分かるよ。
あの時はお前のことクソって言って悪かったな。
どうせお前地獄にいるんだろ?
俺と組まねぇか?
俺もたぶん地獄行きだからよ。
俺たちが組んだら最強だぜ。きっと最高の曲を作れる。
だからよ………
「離せクソ茂場ァーッ!俺は飛び降りなきゃならねぇんだァァ!!」
あぁ…クソ…マジでヤクが欲しい…