もし夢見りあむの姉が某眉毛みたいだったら   作:石田たつを

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第二話

ぼくはかつて『Slight・Rain』というガールズバンドユニットのボーカルだった。

ボーカル担当だった理由は、ユニットのメンバーはぼく以外みんな楽器経験者だったから。

夏樹ちゃんはエレキギターをギュイーンギュイーン鳴らしててやばやばだし、ライラちゃんはドラムをぶっ壊すくらいの勢いでドコドコ叩くし、星花ちゃんがベインベイン鳴らすベースはメトロノームくらいリズムが精確。

そんなハイクオリティな演奏の中、ぼくがやる事はただ歌うだけで、ダンスも必要ナッシングという半分社内ニート状態だった。

ちょっとした気休めに、カラオケで置いてありそうなやっすい赤いタンバリンを買った。

ユニットを結成してから、メンバーと顔合わせして、委託した楽曲を数曲練習していると、結成から僅か数日でとってもちっちゃいハコだけど、ライヴをすることが決まった。

Pサマ曰く、もしこのライヴが成功して仕事が増えていけば、CDデビューも目と鼻の先らしい。

 

「やったなりあむ!アタシたちの実力見せてやろうぜ!」

夏樹ちゃんは最初はリーゼントにビビったけど、ワイルドなのに優しい笑顔で、いつもぼくに元気をくれた。

 

「ライラさんもがんばるのですよー」

ライラちゃんは可愛いくておっとりしてるのに、実は意外と中身がロックで、ぼくによく構ってくれた。

 

「わたくしワクワクしてきましたわ〜」

星花ちゃんはお淑やかで、それでいて芯があって、そんでもってよく美味しい紅茶を淹れてくれた。

 

この時が人生で一番…いや、()()()に楽しかった。

みんなとおしゃべりして、レッスンして、たまに帰り道で王◯の餃子を食べて。

こんな日が毎日続けばいいと思ってた。

でも、現実はそう上手いこと行かない。

そう、このユニットとしての初ライヴが運命の日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がまだ21だったころ、ローディーをやってたバンドで喧嘩した。理由は何か忘れたが、あんまりにもムカついたからバンドのメンバーを全員ギターでボコボコにしてやったのは覚えている。

幸いにも訴えられなかったが、やっぱり仕事は失った。

そこからしばらくフラフラしていたが、ある日何となく近所のライブハウスに行くと、長らく音信不通だった見知った顔がステージに立っていた。

夢見りあむ(アホ)だ。

最初は冷やかすつもりでライヴを観ていたが、俺の心は次第に惹かれていった。

ギターも中々上手いし(俺ほどじゃないが)、リズムも安定しているし、何よりもりあむがかなりカッコよく見えた。

 

おいおいマジかよ!?こんなところにチャンスが転がってるじゃねぇか!!

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初ライヴ終えてからしばらく経ったある日……えーっと、たしかリーゼントがあんまりキマッてなかった日だったかな?

朝から若干イラつきながら、二人仲良くラジオ体操してるライラと星花を尻目に、一人静かにスタジオの隅で練習前に相棒(ギター)のチューニングしている時だった。

Pさんが見慣れない人を連れてやってきた。

よりによってこんな日にお客さんかよ……ってげんなりしながらお客さんの顔を見るとビックリ!黒髪のりあむだった。

しかしどこかおかしい、りあむにしてはタッパがある(てかアタシよりデケェし!)し、何より胸が全く無かった。

たぶんライラも星花もビックリしてたと思うぜ。あんまりにも顔がそっくりだったからな。

ぽかんとしてるアタシたちを一瞥すると、りあむ似のお客さんはやたら不機嫌そうに呟いた。

 

「りあむはまだ来てねぇのか?」

 

そういえばりあむが居ねえ、まぁアイツは割と遅刻が多いタイプだったから、今更腹が立つわけでもなかったが。

たぶんこのお客さんは、りあむの姉貴だろう。

大方弁当でも届けに来てやったのかな?なんて思ってると、いきなり爆弾発言しやがった。

 

「まぁいい、今日から俺、夢見のえるがこのバンドを仕切る。とりあえずお前ら新しい服と靴を買ってこい」

 

流石にカチンと来たね。

ライラと星花はまたもやポカンとして言葉が出なかったみたいだけど。

でも、いきなり現れて好き勝手言いやがるもんだから、ついつい喧嘩腰で対応しちまった。その高い高い出鼻を挫いてやろうと思ってね。

 

「へぇ〜?アンタ、いきなりやってきて随分偉そうじゃないか、どっからそんな自信が湧いてくんだい?」

 

こう言うと、りあむの姉貴…いや、夢見のえるは不敵な笑みを浮かべながらこう言った。

 

「俺は曲が書ける。それもとびきりイイ曲をな」

 

のえるは背負っていたリュックとギターケースを降した。

 

「俺がお前らを必ず億万長者にしてやる。だから俺についてこい」

 

その時初めてのえるの眼をちゃんと見た。

まるで砂漠の泉(オアシス)のように綺麗で、それでいて力強い瞳だったのを今でも覚えている。

だからかもね……のえるのビッグマウスを不思議と信じる気になった。

 

「そこまで言うなら、アンタの曲聴かせてみな、納得のいくモンなら文句言わねぇよ」

 

のえるがギターを取り出したその時、ようやくりあむが現れた。

 

「おはようござ…!?おおおお姉ちゃん!?」

 

りあむはエ◯ロスミスのスティー◯ン・タ◯ラーくらい口をおっきく開けて飛び上がってびっくらこいてた。そんでそのままカチカチに固まっちまった。

漫画みてぇなリアクションしてんな。

さっきから黙って見てたPさんも、流石に小声で「うぉっ」って言ってた。後でその事をいじったら、結構本気で恥ずかしそうにしてたな。

 

「ナイスタイミングだぜアホ(りあむ)、それじゃあ今から一曲聴かせてやるよ」

 

思わず生唾を飲んだ。

夢見のえるの顔つきが変わったからだ。

まだギターを弾いてもいねぇのに、まるでこの場の支配者みてぇな威圧感で……無意識に身体が強張った。

どんな曲を聴かせてくれるのか……そんな期待が最高潮に達した時、星花が言った。

 

「あの…一ついいでしょうか?」

 

のえるはすっっっごい不機嫌そうに答えた。

 

「何だよ…」

 

ぐううぅぅ〜と気の抜けた音が、スタジオに鳴り響いた。

 

「て、ティータイムに……朝のティータイムにしてもよろしいです…か?」

 

「ライラさんもコーヒーが飲みたいのですよー」

 

……いや二人ともマイペースすぎだろ。

てか、りあむはいつまで固まってんだ。

夢見のえるの登場で場に緊張感が生まれたと思ったら、結局いつもの感じになっちまった。

のえるはだいぶ真剣な顔でアタシに言った。

 

「……なぁ、俺…もしかして早まったか?」

 

ごもっとも。

まぁ、アンタもいずれ毒気を抜かれるだろうよ。

アタシたちを率いるってんならな。


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