「あ、ナイスヒットだね阿部さん♪」
「ありがとうみずきちゃん」
ダッグアウトに戻る俺を笑顔で祝福してくれるみずき。
「うむ…阿部さん、みずき。
済まないが、今の結果内容は喜べたものでは無いぞ」
喜ぶ二人に聖が釘を刺す。
「ちょっと聖!アンタ水差す事を言わなくて…」
「いやみずきちゃん、聖ちゃんの言う通りだ。
あれじゃーなぁ…」
それもその筈、明らかマグレな当り。
というのも、自分でも分かったがタイミングの取り方がめちゃくちゃ。
初球のストレートには完全に振り遅れ、2球目の変化球には初球のストレートの印象が有ったのか逆に早く取り過ぎたせいで、踏ん張りが出来ずまた空振り。
そもそも、本来バスター打法はあんなフルスイングする様なフォームでは無い。
もっとシャープに振り抜き、ヒッティングに重点を置いたフォーム。
「次、六道!」
「私の番か。では、行って来るぞ」
聖ちゃんもまた、アカデミー指定の木製バットを握り締めバッターボックスに向かう。
「べー!三振しちゃいなさい!」
「まーまーみずきちゃん。俺は気にして無いから仲良くね?」
「アハハ!ジョーダンだって阿部さん!」
阿部さん真にしちゃってウケる♪
それに、あの娘が簡単に三振しちゃうと思って?
ざ〜んねん♪聖はバッティングも凄いんだから!
長打力は無いけど、選球眼とミート力はそこらの男子に負けて無いからね♪
ブランクが無ければの話だけど。
・
・
・
『ストライッ!バッターアウッ!』
「」グスン…
あらら。
三球三振、秒殺だったなー
ベンチ最奥に座り込み、暗く落ち込む聖ちゃん…
あおい先生とみずきちゃんが慰めに行く。
俺はそっとしよう…
今の俺が喋り掛けるのはナンセンス。
・
・
・
「次、鬼塚!」
「よっしゃ!俺の番だ!」
気合十分の鬼塚。
「ピッチャー交代!小南!」
「はい!」
小南VS鬼塚。
(ん?鬼塚?)
“鬼塚”という単語に聞き覚え有る阿部。
(…確か俺が通ってたジムのスタッフの子じゃ無かったか…?)
後で挨拶してみようか…
もし人違いだとしても、損は無い筈。
ザッ
向き合う両者。
鬼塚は左打席に入り、高々とバットを上げる。
(早速小南との対戦か…!)
全力で行くぜ!!
ザッ
オーソドックスなワインドアップモーションの小南。
そこから…
ビュッ!
「∑なッ!」
ズバーーーン!
『ストライッ!』
唸りを上げる豪球に全く反応出来ず見逃す鬼塚。
「すげぇな…」
ダッグアウトから見ても速すぎて分からねえ…
これが噂に聞く、小南球児のストレートか…
「また速くなってるわねアイツ…
あおい先生、小南君何キロ位出てるんですか?」
若干の嫉妬混じりにみずきがあおいに訪ねる。
「どうかな…確か大学の時のMAXが154Km/hだったけど…」
ヒュー、おっそろしい♪
盗み聞きしてした小南球児の球速に感服しちまう俺。
(150超えとかプロ並みじゃねーか)
そんな奴がなんでアカデミーに…?
まあ何はともあれ、これはしっかり目に焼き付けてとかねーとな。
・
・
・
(速い…速すぎるだろコイツ…!)
神宮出場は伊達じゃない。
バッセンの160を見た事有るが、まるで別格…
(これが同じ人間が投げる球かよ!)
ザッ
「ッ!」
ビュッ
クッ
(まがっ…)
ズバーーン!
『ストライッ!ツー!』
自身に食い込んで来る変化球に腰が引けてしまったが、ストライク宣告。
(あ、あの速度で曲がって来やがった…)
「へっへー!追い込んだぜ鬼塚♪
どうした?フォームだけは威圧感有るけど見掛け倒しか?」
「ッ…!」
小南の挑発に1度打席を外す。
ブォン!!
『!?』
魂心の素振りを披露。
マウンドまで届く風斬り音を轟かせ、再び打席に戻る。
(やるな…!)
スイングスピードから察するにパワーだけなら友沢以上。
ザッ
(そう来なくちゃ…)
ビュッ!
(面白くねーぜ!)
クッ
ズバーーン!
『ボッ!』
一瞬ピクリとバットが動くが見送る鬼塚。
打者の手元で小さく落ちたボールは僅かにストライクゾーンから外れボール。
一見見切った様に見えるが、只反応が間に合って無いだけ。
鬼塚の圧倒的不利に変わり無い。
(あっぶねぇ…)
首の皮一枚残った…
まだだ…
まだ負けてねぇ!!
ザッ
(最後だ!!)
ビュッ!
ズバーーーーン!!
『ストライッ!バッターアウッ!』
全力のストレートを真ん中高め一杯へねじ込む。
鬼塚の魂心のフルスイングも敢え無く散る…