あなたは日輪刀ならぬ日リング刀を使って戦う剣士。今日も元気に身体を動かし鬼と戦うぞ。
ごめんなさい。
読む前にダイナミックストレッチをしますか?
ついに最終選別試験の日が訪れた。
この日のためにあなたは規則正しい生活を続け、栄養を考えられた食事をとり、厳しい鍛錬を乗り越えた。
あなたの手に握られた、円の形をした特殊な日輪刀……いや、日リング刀が、あなたが鍛錬を乗り越えた証なのである。
いわゆる普通の日輪刀と違い、日リング刀は遥かに柔らかくできていて、刀を押し込んだり、引っ張ることができる。
あなたの育手である「身振り」さん曰く、もっと詳しく形が知りたいなら公式サイトを確認すればいいそうだが、大正時代を生きるあなたには意味がさっぱり理解できなかった。
日リング刀を両手に持ち、軽く走りながら山道を進めば、すぐに鬼殺隊の卵が集まっている地点までたどり着いた。
背中に背負った沢山の食料や水筒、そして何よりも日リング刀を持ったあなたは非常に目立っているようで、周囲から視線が集まる。
しかし、最終選別の説明を聞き終えた鬼殺隊の卵たちは、すぐさま山奥へと走り去ってしまう。
注目を集めたのは一瞬。最終選別を生き残るため、あなたも山奥へ進もうとした時、怯えた様子の金髪の男子が目に入ったあなたは、何があったのかの近寄った。
「し、死ぬ死ぬ死ぬ絶対に死ぬ。はぁぁぁぁ、俺なんかここで死ぬに決まってるよぉ」
「こんな所でどうしたの? キミも鬼殺隊に入りたいんだよね?」
金髪の男子がこちらに振り向くが、ほっといてくれと聞く耳を持たない。
「僕はリング! 日リング刀っていうちょっと珍しい刀なんだ! 君の名前は?」
「は?」
金髪の男子が何を言っているんだと言いたげな表情をしてあなたを見つめる。そう、あなたは一切口を開いていない。
「僕たちも山に入らないといけないし、ジョギングしながら一緒に話そうよ! 行こう!」
「え?それ?それが喋ってるの?……ってはっや!! 何で!? 何で走るの!? ゆっくりで良くない!? っていうかじょぎんぐって何!?」
そう、この日リング刀は喋る。修行中も喋る。少なくとも握っている間は大体話しかけてくる。
あなたは日リング刀を正面に構えながら走り続け、最終的に金髪の男子に必死の形相で呼び止められるまで走り続けた。
「疲れてきたかな?水分とろうね!」
「ぜぇ、死ぬ、鬼に殺されるんじゃなくて走りすぎて死ぬ……「大丈夫だよ!」ねぇ何でこの刀こんなに明るいの!?」
「そういえばキミの名前を聞いてなかったね!教えて欲しいな!」
「俺は我妻善逸……爺ちゃんからも聞いたことがないけど、これ刀なの……?刃が無いよね?」
「うん!僕も太陽の力を宿した日輪刀だよ!」
「普通の刀は喋らないと思うんだけど」
善逸の真っ当すぎる返しはさておき、あなたは身振りさんから伝えられた日リング刀についての情報を伝えた。
「へー、ウドンテンニって花札の? こんな変な道具まで作ってたのか」
変な道具と言われたことにショックを受けたリングだが、一般的に知られる刀とは明らかに違う形をしているため無理もない。
「ここはちょっと戦いにくいし、もう少し広い場所に移動しよう! みんなも運動するときは十分なスペースをとってね!」
「いや狭い場所じゃ運動できないだろ。……俺は動きたくないんだけどなぁ。動くと鬼に見つかるかも……ひいいぃっ!」
善逸の視線の先には一体の鬼。あなたと目が合った鬼はにやりと笑い、奇声を発しながら善逸へ飛び掛かる。
人間では考えられないほどの速度だが、あなたも鬼殺隊に入るべく修行を積んだ身、素早く善逸の前に立ち、自身の腹に日リング刀を押し当てる。
「足を少し曲げるとやりやすいよ! 全集中……腹の呼吸、壱ノ型!」
「刀の方が言うの!? っていうか腹の呼吸って何!?」
「腹筋ガード!!」
「腹筋!?腹筋でどうするの!?無理無理無理だ腹筋だけじゃ俺を守り切れないぜ」
全集中の呼吸で腹筋に力を集め、日リング刀がフィットネスパワーに変換し正面の攻撃を受け止める腹筋ガード。
ガードといいつつ大体無傷で済まなかったり、やたらとガードする時間が長くなったりと思い返せば思い出も多く、一番多用した技かもしれない。
流石に鬼の攻撃となると受け止めるにも一筋縄ではいかず、じりじりと身体が押し戻されていく。だが、修行により鍛えられた腹筋が鬼を上回った。
鬼は大きく後方に吹き飛ばされ大きな隙を見せる。あなたはすかさず呼吸を整えるが、よく考えれば後ろにいる善逸も一人の剣士だ。
「善逸、今だ! 鬼の首を切って!」
「俺!?いや俺弱いから! びっくりするほど弱いから! このまま腹の呼吸で倒してくれよ~頼むよぉ」
「分かった、任せて! 全集中、脚の呼吸……弐ノ型!」
「ちょっと待って!? 呼吸が違うんだけど!? 脚!?」
「日リング刀を真っ直ぐ上にあげて……モモアゲアゲ!!」
全集中の呼吸を行い足に力を集め、日リング刀を振り下ろすと同時に左右の足を上げるモモアゲアゲ。
日リング刀の持つ太陽のエネルギーを脚のフィットネスパワーと共に放出するため威力も高く、他の型と比べ体力の消耗も少ないため連発しやすい便利な技。
「日リング刀を振り下ろす度に鬼が苦しんでる!? あいつは動けないみたいだし首を切った方がいいんじゃないの!? ねえ!」
「鬼の首を切る……? しまった!!」
なにがしまったの!?と善逸が尋ね、日リング刀が振り下ろされながら小さな声で答える。
「僕、全年齢対象(CERO-A)だから首を切れないんだよね……」
「だよね!? 意味は分かんないけど君刀じゃないもんね!? ああもう終わった俺はここで死ぬ……ぐぅ」
モモアゲアゲを続けながら隣を少し確認したあなたは、善逸が眠ってしまっているのを目撃した。このままでは善逸が危ないと腹筋ガードの用意をしたその時。
「全集中……雷の呼吸、壱ノ型」
「善逸!? 大丈夫!? スムージー飲む?」
突如倒れ起き上がった善逸。刀を持ち姿勢を低くすると、バチバチと何かが弾けるような音が聞こえてくる。
善逸が大地を強く蹴ったその瞬間、鬼に向けて
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「死ぬわ死ぬ死ぬ死ぬ生き残っても絶対死ぬわ俺」
「大丈夫だよ! 善逸は鬼と何度戦っても生き残ったじゃないか!」
あなたと善逸は無事に最終選別試験を生き延びた。
たとえ鬼と対峙しても、あなたと日リング刀で動きを止め、善逸が眠り止めを刺すという一連の流れを確立させたおかげで、特に危なげなく生き延びることができた。
しかし、最終選別で生き延びたのはたった六人。生き延びたことを喜ぶため、これまでの運動を
「さあ! これまでの運動をビクトリーポーズでEXPに変えよう!」
「何!? 急に何言いだしてんの!? 試験終わってまだ運動するの!?」
日リング刀は善逸にも同じ動きをするよう頼むと、しぶしぶ善逸も足を開き、背筋を真っ直ぐに正した。
「腰をさげて~伸ばしてっ!! ッビィークゥートーリィィィ!!!」
「声でかっ!! 止めて!恥ずかし「そのうち慣れるよ!」あんたらこれ毎回やってんの!? めっちゃ見られてるけど!?」
ビクトリーポーズを終え、あなたは日リング刀を手にあてもなく走り出す。
筋肉は一生の相棒。あなたの冒険はまだ始まったばかりだ。
「鋼いらないの!? えっえっえっ、いやいやあいつ何しに来たの? 嘘でしょ?」
この後善逸の頭からビクトリーポーズが離れなくなり、鬼に勝利する度にビクトリーポーズを決めるようになったそうだ。
身体が冷える前にスタティックストレッチを行いましょう。
善逸君は文句を言いながらでも毎日続けてくれそう。小説は続きません。