静寂が部屋を支配する
その中心に立っているのは二人の男
黒いコートを纏い二つの剣を装備した男の名はキリト
赤と白の装備に身を包み大きな十字の盾に十字の剣を装備した男の名はヒースクリフ
この二人を中心に静寂が広がっている理由はただ一つ
ヒースクリフの頭上に見える"Immortal Object"の文字である
"Immortal Object"というのは破壊不能の物体のことである通常は町や浮遊城自体につけられているそれが一プレイヤーにつけられているわけもない
そんな事はゲームマスターである茅場晶彦にしか不可能なのだ
すなわちヒースクリフは茅場晶彦ということでありそれを理解したプレイヤーたちは言葉を発することができないでいるのだ
「ふざけんなよ!俺たちを騙してたのか!」
静寂を破ったのは血盟騎士団のプレイヤー、それも仕方がない信じてついて来たリーダーが黒幕だったのだから。しかし、怒ったプレイヤーたちの突撃はヒースクリフに届くことはなかった。
ヒースクリフがメニューを操作することによってキリトを除くプレイヤーが麻痺状態になったのだ。
ヒースクリフ、いや、茅場はキリトに正体を見破った報酬としてある提案を持ちかけた。それは、この場で決闘をして勝てばプレイヤーを解放するというものだった
キリトはどう考えても罠であるその提案を受け
先に動いたのはキリトのほうだった、キリトはソードスキルを使わずに、否、使えずにヒースクリフを攻めていた。
ソードスキルは決まった動きで攻撃するため、すべてのソードスキルを知っている茅場には逆効果になってしまうのだ。
しかし完全には読めないはずの攻撃をヒースクリフは涼しい顔で防いでいる。それでもお互いのHPは少しずつ減っていき、ついにレッドゾーンへと突入した。
黒と白と赤、三つの色がぶつかり合い火花を散らす。
その長い攻防で焦ったのだろう、キリトが二刀流スキルの奥義ともいえる二十七連撃"ジ・イクリプス"を使ってしまった。
キリトも無意識のうちに使ってしまったのだろう。後悔が顔に出ているが一度発動したスキルを止めるとより大きな隙ができてしまう。そのタイミングでダメ押しにキリトの持つ白い剣"ダークリパルサー"が折れてしまい、ソードスキルが中断される。
そこでできたすきに茅場がとどめを刺そうとしたとき、そこに乱入する影があった。
なんと麻痺で動けないはずのアスナがキリトをかばったのだ。これにはさすがの茅場も驚いた顔をしていたが、アスナを失い、剣も折れ、呆然としているキリトに今度こそとどめを刺すべく表情を戻し剣を構える。
覚悟を決め、諦めたキリトにしかしその剣が届くことはなかった。不思議に思ったキリトが顔を上げるとヒースクリフの右手首から先が切り落とされていた。
切り落とされた右手と剣のそばには見覚えのある黒い短剣が突き刺さっていた。
飛んできた短剣が来た先には予想通りというべきか、8が立っていた。
なぜ8が動くことができたかというと、それは八幡が持っていたユニークスキル"暗殺者"が原因である。
このスキルは隠蔽時状態以上発生率を上げるほかに、毒を作ることができる効果もあり、8はこのスキルを使い、さまざまな効果を持つ毒や解毒剤を作っていた。今回はその毒の一つが効き麻痺を解除することができたのだ。
そうして麻痺を解除し、短剣を投擲スキルを使い投げることでヒースクリフの右手を切り落としたのだ。
しかし、8の作った解毒剤は酸性とアルカリ性を混ぜて中性にするように、別の毒を使い中和するものである。今回は通常では回復できない麻痺を解除するために時間経過以外では直らない代わりに他の状態以上を解除する毒を服用したために、毒によるダメージにより、8も死んでしまった。
その隙をキリトが見逃すこともなく、ヒースクリフにとどめを刺し、出血ダメージにより自身もポリゴンになり砕け散った。
SAOは数多くの犠牲者を出しその幕を閉じた
アスナとキリトが茅場晶彦との会話を終え現実世界に戻った後、浮遊城の崩壊も終わり何もなくなった空間に8は立っていた。
八幡side
夕焼けの中透明な床のようなものの上に俺は立っていた。どういうことだ?俺は確かに毒で死んだはずだ。ここは死後の世界なのか、現実で死ぬまでのタイムラグなのか。そんなことを考えていると後ろから声が聞こえてきた。
「この格好でははじめましてだね、エイト君」
名前を呼ばれて振り返ると茅場晶彦が立っていた。ヒースクリフのアバターではなくテレビでも何度か見たことのある白衣姿だった。
「まずはゲームクリアおめでとう、君の活躍もあってキリト君は見事私を倒してみせたよ」
よかった、あそこまでやってクリアできませんでしたじゃいたたまれないからな。
「ここはどこだ?俺は死ぬのか?」
とりあえず一番疑問に思っていたことを聞いてみた。
「ここはゲームの中、アインクラッドの崩壊した後だ。最後に話をするためにこの時間を作っただけだ。話しが終わったら君も現実世界に帰すよ」
俺は死なずに済むらしい。いくら覚悟してても死にたくないと思うのは仕方のないことだろう。
「一つ聞きたいのだが、君はなぜ動くことができたのだ」
ゲームの製作者として理由のわからないことは知りたいのか、麻痺を解除した方法を聞かれたので俺はユニークスキルのことについて話した。
「暗殺者スキルを手に入れれるプレイヤーがいるとはね、あれの取得条件は隠蔽索敵スキルの完全習得に戦闘中の毒の使用や未発見状態で敵を倒したりとかなり厳しい習得条件だったはずだが?」
「俺は隠蔽から状態以上にかけた後にまた隠蔽して……を繰り返して戦ってましたからね。偶に遠距離から投剣だけで倒したこともありましたし」
「ふむ、フロアボスではわからなかったが君はなかなか面白い戦い方をしていたんだな」
俺はそれからもいくつかの質問に答えたり、SAOを作った理由を聞いたりした。茅場がそろそろ時間だと言っていたので一つ聞かせてもらうことにした。
「あんたこれからどうするんだ?
「私の体はもうとっくに死んでいるよ。自分の脳をスキャンしたからな。私は電子の海に生きるモノになったんだ」
「もう時間だ。またいつかどこかで会えるかもしれないな」
「じゃあな茅場晶彦、最悪なゲームだったけど、まあ、おもしろかったぜ」
茅場はどこかに去って行った。最後に横顔が笑っているように見えたのはあいつもゲームを楽しんでほしいと思っていたのだろうか。
現実世界に帰ったらリハビリしないといけないし、学校も退学になっているだろう。きっと政府から何かしらの支援はあると思う。
現実に帰ったら小町に会いたいな。もう二年もあってないし俺のことを心配してくれているだろうか。
そんなことを言いながら俺の