~やちよside
「やちよ、行かなくていいのかよ?」
ガブモンにそう言われたけれど、私の足は動かない。
「仲間だろ?」
「仲間じゃないわ・・・っ!」
仲間じゃない。環さん達は決して仲間なんかじゃない。
「・・・このままじゃまた仲間を失うぞ」
「だから仲間じゃないって言ってるでしょ!!」
また仲間を失う。そう告げてくるガブモンに対して私は怒りの言葉を告げる。
「・・・怖いんだろ。仲間を失うのが」
「・・・黙りなさい」
「黙ってほしけりゃいつものようにデジヴァイスに戻せばいいだろ。できないのは何でだ?」
ガブモンの方も引くつもりがないみたい。だったらと私は震える手でデジヴァイスを取り出してガブモンを戻そうとしたけれど、手が震えているせいでデジヴァイスを落としてしまう。
「本当は自分がどうしたいのか分かってるんだろ」
「それができれば苦労しないわよ」
魔法少女が誰かに騙されるのを見過ごせないだけ。そう自分に言い聞かせながら私はデジヴァイスを拾い上げ、フェリシアのGPSを頼りに記憶ミュージアムへとむかった。
~いろはside
「初めまして環いろは。わたくしは里見灯花。マギウスの1人だよ」
「里見灯花って確か・・・」
「ねむって奴と一緒に探してた妹の親友だっけ?」
「うん。そうなんだけど・・・」
よりにもよってマギウスだったなんて。
「本当にわたくしのことを探していたんだね。ねむのことを探してるってのは耳にしていたんだけど。ちょっと驚いちゃったよ」
灯花ちゃんはまさか自分もだなんてと驚いた反応をしていた。
「灯花ちゃん、本当にういのことを覚えてないの?」
「覚えてないもなにも、最初から知らないよ~。さっき言ったよね。初めましてって」
「っ!」
やっぱり灯花ちゃんも・・・ういのことを覚えてないんだ。
「というわけで、わたくしは環いろはの覚えている里見灯花じゃなくて、マギウスの里見灯花として接してね」
まさか講義を受けに来てこんな事実を知るだなんて。
「は~い。それじゃあ講義を始めよっか。今回の内容はね、魔法少女の真実。マギウスの翼にいる人なら誰もが知ってる嘘でも冗談でもないあるがままの真実だよ。これからそれを1つの物語として話すからよーく聞いてね」
そう前置きをした灯花ちゃんはその『物語』を語り始める。
「講義1、ソウルジェムについて。あるところに3人の魔法少女がいました。AさんとBさんとCさんはとても仲が良く、いつも3人で魔女と戦っていました。そんなある日、苦戦して魔女を倒せなかった3人は日を改めて同じ魔女に挑戦しました。ところがその結果は大ピンチ。3人は魔女の圧倒的な力を前に負けてしまいそうになりました。その時、Cさんは立ち上がると1人で魔女に突撃していきました。そのおかげで魔女は致命傷を負い、Aさんによって魔女は倒されたのですがCさんは死んでしまいました。体は無傷で怪我もないのに。ここで問題です。それはどうしてでしょうか?」
も、問題形式なんだ。
「毒でも喰らったんじゃね?」
「ブブー」
「息ができなくなった?」
「それも違うよ~」
フェリシアちゃんとさなちゃんが立て続けに不正解となると、鶴乃ちゃんは重たい口を開く。
「ソウルジェム?」
「正解!さすが最強さんだね~!」
「えっ?ソウルジェム?」
いったいどうしてソウルジェムが?
「体に怪我の無いCさんの傍には砕けたソウルジェムが落ちてありました。その時AさんとBさんは気づいたのです。ソウルジェムは文字通り自分達の命そのものだと」
命・・?ソウルジェムが?
「このソウルジェムが私の命?」
「サナ・・」
さなちゃんもその事実には動揺を隠せないみたい。
「実感はないよね~」
「ない・・・です」
「じゃあそのソウルジェムをそこい置いてみて」
「はい。・・・あぐっ!?」
さなちゃんは言われた通りにソウルジェムをテーブルの上に置いてみると、さなちゃんは痛がった反応をした。
「ごめんね。でも分かったでしょ?こうやって魔力でちょっと衝撃を与えるだけでこんなに痛いんだからソウルジェムが砕かれたりでもしたら死んじゃうよね」
「ソウルジェムが命、それなら魔力を使うのって・・・」
「うん。文字通り自分の命を削るっていうこと。そういうの感じたことない?」
ある。初めてドッペルを出した時、凍りつくように冷たい感覚に捕らわれた。きっとあれが・・・命が尽きそうになる感覚だったんだと思う。
「それはね。バッテリー切れの証拠みたいなものなんだよ。ソウルジェムは体内の命を出して見えるように固形化したものなの。まさに内部バッテリーを抜いて、外部バッテリーにしたようなものなの」
「そのたとえだとグリーフシードは充電器ですか?」
「本来はクリーナーだけど、それでもいいかも。バッテリーも酸化と還元を利用して何度も使えるものね。バッテリーは放電すれば物質が変化して使えなくなるけれど、充電すれば元の物質に戻る。ソウルジェムも使えば魔力が穢れに変わっていって、グリーフシードを使えば元に戻る。ソウルジェムってバッテリーだね。面白いよね」
「面白くないですよ・・だってそれ、もう私は人じゃないってこと・・・ですよね?」
さなちゃんは今にも泣きそうな表情になる。正直私もこれ以上聞きたくないとすら思えている。
「人なら死んでる戦いを魔女としてきたんだよね。その時点で人じゃないよ。それに自分が人だと思えば人なんだと思うよ。今の医療って様々な学問に乗っ取った技術を使ってわたくし達の体をいじくってるよね?人自身が人を改造してるのに、それは受け入れちゃうの?」
「それは・・」
「考えすぎだよ~」
確かに考えすぎと言われればそれまでかもしれない。だけどそれは中々受け入れがたい事実だと思う。
「講義2、魔女について。AさんとBさんはソウルジェムが自分の魂だと受け入れた後、他の仲間とチームを組んでいました。その頃にはデジタルモンスター。通称デジモンがパートナーとなるのが主流になりつつあり、AさんとBさん、そしてその仲間達にもそれぞれパートナーデジモンがいました。この時はDさん、Eさん、Fさんが増えていて、5人と5体というチームになっていました」
5人5体のチーム。なんだか私達みたい。
「そんなある日、他のテリトリーから魔女が流れて来ました。Dさんは都合が悪くて合計4人と4体。この日も協力して魔女を倒そうとしましたが、他のところから流れ着いた魔女は強く、彼女達でも太刀打ちできないほどでした。Aさんがピンチに陥った時、Fさんは身を挺して彼女を守ると倒れてしまいました。戦いは魔女が逃げて終わりましたが、Fさんはボロボロ。グリーフシードもありません。ソウルジェムは黒く染まりきり、Fさんの身体は動きませんでした」
「っ!ねぇこの話って、Dさんって・・・!」
「知りたかったら後で教えてあげるから、今は講義に集中して」
話に出てくる人物たちに心当たりのある鶴乃ちゃんはつい声を荒げてしまうも今は講義に集中してと言われてしまいました。
「それではここで第2問です。Fさんは何に変わったでしょう?」
変わった?どういうこと?
「変わった?んなの分かるわけないじゃん」
フェリシアちゃんは匙を投げると灯花ちゃんは「もっと頭を回転させて」と叱りつけた。
「ヒントをあげる。ソウルジェムに溜まるのは穢れ。魔女が振りまくのは呪い。穢れを溜める魔法少女と呪いを振りまく魔法少女。どう?なにか繋がらないかな~?」
「あっ・・・!」
「そんな・・」
「やっぱり・・・」
フェリシアちゃん以外の私達は気づいてしまう。
「みんなは気づいたみたいだね。傭兵さんも少しは察するところがあるんじゃない?」
「・・・・」
どうやらフェリシアちゃんも気づいちゃったみたい。
「倒れてしまったFさんの隣には黒く染まりきったソウルジェムがありました。そしてFさんが苦しみ始めると、ソウルジェムはグリーフシードへと変化して魔女を生み出したのです」
「魔法少女が魔女に・・・なんだそれ?ワケわかんねーよ。だってそれなら・・・ソウルジェムが魂なら・・オレ達も魔女じゃんか!」
「残念だけどこれが正解なんだよ。最初に言ったでしょ。嘘でも冗談でもない真実だって」
「いや信じねぇ!オレは絶対に!!」
フェリシアちゃんは頑なに信じないというも、かくいう私も信じられない気持ちでいっぱいだった。
「じゃあ次の講義に移るね。講義3、ドッペルについて。魔女化を目撃してからというもの、半年経ってもBさんはずっとショックを受けたままでした。考え方を変えようにもできないまま、ただ魔法少女となった自分を呪い続けていました。それから更に半年が過ぎ、神浜に魔女が集まるようになった頃には、その負の感情は次第にソウルジェムを蝕み、Bさんのソウルジェムは真っ黒に染まってしまいました。Bさんは思いました。ついに自分もFさんと同じく魔女になってしまうのかと。ですがそうはなりませんでした。この答えはもう簡単だよね?環いろは」
「ドッペル・・・」
「そういうこと。うん、正解」
灯花ちゃんはドッペルの話の続きを語り出す。
「Bさんは魔女にはならずドッペルを出していました。この時には既に神浜では魔法少女を解放しようとする動きが始まっていたのです。そして1人の少女が現れるとBさんにこう言ったのです。『一緒に魔法少女を解放しよう』と」
それがマギウス。灯花ちゃんってことだね。
「これが魔法少女を取り巻く真実と解放の意味」
「じゃあこのドッペル化はマギウスの翼が引き起こしていることなの?」
「うん。そうだよ。どう?わたくしってすごいでしょ?マギウスの翼って凄いでしょ?みんなもマギウスの翼に入りたくなったでしょ?」
「いろは・・・」
アグモンは不安に震える私の手をギュっと握りしめてくれる。
「どれだけ説明されても分かりたくなんてない。ソウルジェムの事も、魔女化のことも」
「強情だな~。それじゃここからはこの話の途中から出てきたデジモンについての講義ね。講義する先生の交代だよ~」
そう言った灯花ちゃんはデジヴァイスから胸に鏡を抱えた1体のデジモンを呼び出しました。
エンシェントワイズモン
・究極体
・古代突然変異型
・ウィルス種
鋼の属性を持つ古代デジタルワールドを救った伝説の十闘士デジモン。遥か古代に存在した初めての究極体であり、デジタルワールド一の知恵者である。叡智を全て記憶するアカシックレコード的存在で判らないことはないと言われている。必殺技は叡智を持って異界への座標を割り出し、未来永劫に渡って別宇宙に敵を閉じ込める『ラプラスの魔』だ。
エンシェントワイズモン。究極体の・・・灯花ちゃんのパートナーデジモン。
「ここから吾輩が講義をさせてもらおう。まずは君達は吾輩たちデジモンをどれほど理解しているのかな?」
「えと・・・デジタルワールドに住んでいたけど、住む場所がなくなってこっちの世界に住み着き始めたデジタルな生命体。ですよね?」
さなちゃんは自分の知る知識でそれに答える。私も同じ答えだ。
「概ね正解だ。では何故吾輩たちデジモンがこの世界にやってくるようになったのか、そもそもデジタルワールドとは何なのかを講義させてもらおう」
そう告げたエンシェントワイズモンはその鏡に1つの地球によく似た星を映し出しました。
「これはかつてのデジタルワールドだ。どうだい?」
「地球に似てますね」
「そうだろう。デジタルワールド。それはこの地球と限りなく近い次元に存在する、いわば表と裏の関係性をした世界なのだよ」
表と裏の関係?
「人間達が『ネットワーク』というものを作り上げたとき、デジタルワールドは構築された。デジタルワールドは地球の時間とは大幅に時の流れが違うため、地球ではたかが数十年でもデジタルワールドでは幾億年もの月日が進み、一度は自然豊かながらも地球の電子ネットワークを遥かに上回る世界となった。地球が幾度となく滅びを迎えそうになったことがあるように、デジタルワールドも幾度となく滅びを迎えそうになり、そのたびにそれを乗り越えてきた。かくいう吾輩もその滅びから世界を救わんとした立役者の1人だ」
デジタルワールドと私達の世界じゃ時間の流れが違うんだ・・。
「おっと話が逸れたね。それでは何故デジタルワールドが崩壊したのかの話をしよう」
エンシェントワイズモンがそう告げたら、鏡にはロードナイトモンを含めた13人のデジモンと巨大な2つの首を持った竜との戦いが映し出された。
「彼らはデジタルワールドを守護する円卓の騎士『ロイヤルナイツ』。そして相対するデジモンこそ『~~~』だ」
「えっ?何て・・?」
「おや済まない。人間には聞き取れない単語だったようだね。終末の千年魔竜と呼ぶことにしよう。その千年魔竜とロイヤルナイツとの戦いは激闘を繰り広げ、その戦いは数百年にも及んだ。そしてロイヤルナイツは何とか千年魔竜を異次元に封印する形で勝利を収めたが、結果的にデジタルワールドは崩壊し、生き残ったデジモン達はこの世界へと流れ着いたのだ」
「そうだったんだ」
アグモン達からもそんな事、聞かされてなかったな。
「歴史に関する講義は以上だ。さて次に何故我々デジモンが人間とパートナー契約を行わなくてはならないのかの講義をしよう」
今度は鏡にデジヴァイスを映し出す。
「おっと、まず大前提として、デジタルワールドが崩壊しているため、この世界にいるデジモンは自分の力だけでは進化できないという点を覚えておいてくれ」
前提を前置きしたエンシェントワイズモンは続きを語る。
「デジヴァイス。それは人間の感情エネルギーをデジモンのデジコードへと変換し、デジモンに進化の力をもたらすデバイスだ。それは人間なら誰でも良いというわけではなく、デジコアに宿るコードが・・・人間でいうところの魂の波長が合う相手でなくてはならないのだ。吾輩のように既に究極体に達しているデジモンも人間とパートナー契約をするのには利点がある。たとえばジェネラルである灯花の場合デジクロスによる強化などが・・・おっと、また話が逸れそうになってしまったな。すまない」
話が逸れそうになって1人語りしてしまいそうになるのはクセなのかな?
「君達の持っているデジヴァイスはいわば模造品。正規のデジヴァイスを持つ選ばれし子供はこの世に3人しかいない。そのうちの1人が灯花だ」
「ふふっ、凄いでしょ?」
「私達のデジヴァイスは模造品だったんだ」
「あまり驚かないんだね」
「別に本物と模造品の違いなんて私達にはわからないし」
「そう!『分からない』それが凄いんだ。君達の持つデジヴァイスは実に精巧な作りをしている。よほどの者が作ったに違いない」
「エンシェントワイズモン」
エンシェントワイズモンはその人物を賞賛していると灯花ちゃんにまた話が逸れていると注意された。
「吾輩としては一度そのデジヴァイスを作った可能性のあるゲンナイという人物とあってみたいのだが、灯花がマギウスという役職がある以上それが難しいのがとても残念だよ」
「なによ~。人のせいみたいに」
エンシェントワイズモンは自分もゲンナイさんに会ってみたいと反応していると、ずっと黙っていたみふゆさんが口を開きました。
「灯花。そろそろ良いのでは?」
「そうだね。・・・どうせみんな。わたくし達の話を信じられないって思ってるでしょ?」
エンシェントワイズモンが言ってたデジモン関連の事は本当かもしれないけれど、未だに私達は灯花ちゃんの言っていたことが信じ切れずにいた。
「だからこの場所を選んだの。ここのウワサは人の記憶を見られる場所だからね」
「つまり講義で聞いた物語を本当に見られるということです。灯花の話が信じられないというのなら次の体験学習のステップに進みましょう」
「それって・・・私達を・・洗脳する気、ですよね。記憶ミュージアムでは他の人の記憶に影響されるって」
「話して駄目なら洗脳しようだなんて!今聞いた話で十分ですから、もう帰ります!」
私は振り返って帰ろうとするも、エンシェントワイズモンは私達の道を塞ぐ。
「もう帰れないよ。今はみんな揃ってウワサの中だからね」
灯花ちゃんの手にはベルが握られていた。ベルと言えばここのウワサの・・・!そう思った瞬間、灯花ちゃんはベルをチリンと鳴らしてしまった。
「これはワタシの記憶。講義で語られた物語の記憶です」
~やちよside
「はぁ・・はぁ・・」
ガルルモンに乗って記憶ミュージアムへと到着した私は環さん達を探していると1人の少女とそのパートナーデジモンと出会った。
「あら?あなたベテランさん?」
「あなたは・・」
「初めまして七海やちよ。わたくしは里見灯花。マギウスの1人だよ」
里見灯花!?環さんが探していた・・・!いえ、その話は後よ。
「環さん達は何処にいったの?マギウスの1人というのなら、ここで講義をしていたんでしょう?」
「言え!言わないと・・・」
ガルルモンはフォックスファイヤーを撃つ構えを取るも、デジモンの方はおろか、里見灯花さんも動じない。
「講義ならもう終わったよ~。今は記憶ミュージアムで体験学習中」
「邪魔をされるわけにはいかないよ。・・・いや、いっか」
「どういうつもりだ?」
「体験学習の邪魔をしたいなら行ってもいいよってこと。一応行っておくけどこの言葉には裏があるからね。それでも行く?」
「えぇ」
裏だろうがなんだろうが構わないわ。その裏すら潰してくるから。
神浜デジモンファイルに
「里見灯花&エンシェントワイズモン」
が登録されました。
次回「チームは解散よ」