346アイドルと迂闊なプロデューサーの話   作:usgismr

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市原仁奈と向井拓海と迂闊なプロデューサーの話3

 水分補給を終えた仁奈が子供たちの促す声につれられて笑顔で駆けてゆく。

 そんな友達とのひと時を全力で楽しむ仁奈に声をかける。

「仁奈、転ばないように、怪我をしないように気をつけろよ」

「はいですプロデューサー! 仁奈は気をつけるでごぜーます」

 振り向いた仁奈が右手でぴしりと、敬礼のポーズを返す。

 そしてまたとてとてと遊具コーナーに向かっていった。

 

「さて拓海、聞きたいことがあるんだけど」

「な、なんだよ」

「さっきの巴の話なんだけど、誰から聞いたんだ? まさかとは思うが、巴本人か?」

「あんた……いや、どうして情報元が巴以外だって思うんだ? ふつうは誰だって巴から聞いたって考えるだろ」

「いや、巴はこういうことをぺらぺらと喋る子じゃあない。まあ、お前みたいに気のしれた人だけにはこっそり話すかもしれないけど。あとまあ、あるいは」

「あるいは?」

「……年少の子供たちとの何かしらの自慢大会中に、巴がついぽろっと口を滑らせ、喋ってしまった。それをそこに居合わせた拓海が偶然聞いてしまった可能性も……ううむ。いや、ないか」

「…………ふーん」

「な、なんだよ。その意外そうな顔は。おれ、なにかおかしなこと言ったか?」

「いや、あんたが言うように意外だっただけだよ。……プロデューサー、あんた巴のこと、結構分かってるんだな」

「おいおい、自分の担当アイドルを理解・把握してないプロデューサーが何処にいるんだ? それに巴は根はしっかり者だけど、年相応な一面もあるからその辺はこっちも気をつかってるよ」

「は? いや、いるし。あたしのすぐ前にいるよ。『担当アイドルを理解・把握してない』に、該当するプロデューサーがひとり、あたしの目の前に。……それにちったぁこっちにも、……気をつかえよ」

「拓海……お前さ、おれになにか恨みでもあるの? ほんとに泣くよ? いい年こいた大の大人が滑り台で、滑り台で、滑る台……大の大人が、ププッ」

「まあ、さっきの話はあんたがいうように、あたしが巴から聞き出したんだよ。この間のレッスン中、巴には珍しく元気なかったからさ、それでちょっと気になって相談に乗ったわけ」

「…………」

「なんだよ、なにかご不満か? プロデューサー」

「いえ、なんでもないです。はい」

 また渾身のネタがスルーされた。

 悲しい、私はすごく悲しい。

 拓海の叱責がきつくて最後に言われたことをつい、そのまま聞き流してしまった。

 

 時同じくして秋口にはまだ少し早い、冷ややかな風が吹いてきた。

 その風が木を揺らし枝を揺らし奇妙な物音を立てる。足元に散らばった落ち葉も風にふわりと持ち上げられ、そのまま滑るように何処かへ飛んでいった。

 仁奈が風邪を引かないうちに帰ろう。そう思ってベンチから腰を上げる。

 他の保護者も同じこと考えたのか、自分の子供に声を掛け、子供は母親と手を繋ぎまたひとり、またひとりと公園から去っていった。

 そんな公園の遊び友達を仁奈はひとり、寂しげな表情で見送っていた。

 

「ばいばーい仁奈ちゃん、またあそぼうねー約束だよー」

「勿論でごぜーますよー、仁奈も楽しみにしてるから、またあそびましょー。ばいばーいでごぜーます」

 仁奈が友達に両手を振って笑顔で見送る。

 そして公園の遊具コーナーは346プロダクションの三人だけになった。

 仁奈は見えなくなった友達にまだ手を振り続けている。

 そんな仁奈の手の動きもだんだんとゆっくりになっていき、やがて止まった。

 仁奈がぽそりつぶやく。

「…………やくそくでごぜーますよ、ぜったい、また」

「――仁奈」

「!! ぷ、プロデューサー、び、びっくりするでごぜーます。だ、だめでごぜーますよ急に話しかけたら、仁奈の心臓がばっくんばっくんしやがるです」

「それはごめん、悪かった。次から気をつけるよ、はい」

 慌てて着ぐるみの袖で顔をごしごし擦る仁奈の前に、中腰になって手を差し出す。

「えっ?」

「じゃあそろそろ一緒に帰ろうか? 仁奈と拓海の帰りを待ってる、我が家にさ」

「ぷ、プロデューサー……」

「帰ってちゃんと着替えないと風邪ひいちゃうぞ? 風邪をひいたらさっきの女の子との約束、守れないんじゃないか?」

 だっ、ぎゅうぅっ。

 仁奈が差し出した手をすり抜け飛びついてきた。

 咄嗟に受け止め、抱きついた仁奈の背中をあやすようにたたく。

「プロデューサー、ありがとうでごぜーます。……仁奈はほんとに、ほんとにうれしいです。だからプロデューサーのことが、大好きでごぜーます」

「そりゃよかった、ありがとう嬉しいよ。……ちなみに仁奈のその台詞は、もう十年ぐらい経ってから、聞かせてほしかったかな」

 げしっ。

「いてっ、なにすんだよ拓海」

「九歳の子供相手になにいってたんだ。このろくでなしの青ピーマンは」

 告白相手に返事を返していたら尻を蹴られて罵られた。

 それは果たしてご褒美なんだろうか。そしてまた突然の野菜呼ばわりである。

 だいたいこっちはそちら側の業界人ではないので、蹴られても罵られても嬉しくない。

 そんな二人のやり取りを仁奈は笑いながら見ていた。

 

 そしてこのあと三人、仁奈の希望でお互い手を繋いで事務所に帰ることになった。

 




つづく

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