学戦都市アスタリスク 悲願花を越えて   作:8674

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 シュタゲとワートリによって、一ヶ月半の時を経て、妄想を形にするために、ハーメルンよ、私は帰ってきたぁぁぁッッ!!


届かぬ手

 ユリスの六弁の爆焔花(アマリリス)にも劣らない威力の爆発に、実行者であるはずの行人は息を呑んでいた。

 

 

 使用した爆薬はなんでも軍用にも使われる代物らしく、仕入れるのに金がかかるし重量もキツかったが、それに見合う効果は嫌でも感じ取れる。

 

 

 《星脈世代(ジェネステラ)》だとしても、生身では重症間違いなしだ。だがアルディはそれを障壁もなしで食らった。装甲にヒビくらいは入っているだろう。

 

 

 一方、利奈たちの方は──

 

 

「避けて!」

 

 

「は?」

 

 

 と、行人が振り向こうとしたと同時に、利奈の悲鳴にも似た声が聞こえてくる。そして……

 

 

「ッ!」

 

 

 後方から響いてきた音に悪寒を感じ、半ば反射的に体を翻らせる。顔を上げると、元いた場所は無数の跡が残り蜂の巣になっていた。

 

 

 空中からこちらを見据えるリムシィ。口を開いていたように見えるが、何を言っているかはわからなかった。何故ならリムシィは今もなお空中にとどまり、煌式武装(ルークス)を連射し続けているからだ。

 

 

(化け物が……!)

 

 

 どれほど神業級の射撃技術を持ってしても、空中という不安定な場で銃器を連射しその悉くを標的に当てるなど、人間業ではない。

 

 

 加えてリムシィは、それを片手で、さらにこちらと利奈を個別に狙いながらそれを成し遂げている。元々光弾に光弾を当てて防御していたからといって、勝手が違いすぎるだろう。

 

 

 相手が人間でないことを、改めて再認識させられた気持ちだ。

 

 

(後ろに目があるわけでもあるまいし、まして反動だってあるんだぞ……!?)

 

 

 左右に小刻みに動くことで、狙いを定めさせないよう立ち回る。この程度の動きで対処できるのは、三人の位置がほぼ一直線状になるよう利奈が調整してくれているからだ。

 

 

 今のうちにアルディを叩く。そう意を決したのも束の間で、凄まじい重圧が気迫と共に襲いかかるのを感じた。

 

 

「まだまだ、この程度ではないのであろう!?」

 

 

 そのハンマーが振られる毎に、熱のこもった風圧が頬をすり抜けていく。機械とは思えない、まるで戦士……いや本物の騎士とでも言うかのような攻撃。

 

 

 あまりの凄みに武器で受け止めることも出来ず、それどころか時々加わるリムシィの援護射撃への対応も疎かにしてしまいそうだ。

 

 

「さて、どうだろう、なッ!」

 

 

 挟み撃ちを避けるため、水平に振られたハンマーを、そしてアルディの頭上をも越えるべく脚に星辰力(プラーナ)を込めて跳躍する。

 

 

「ぬおっ!?」

 

 

 しかし、その行く手を突如謎の壁のようなものによって遮られた。

 

 

「隙有りである!」

 

 

「ッ、クソ……が……!」

 

 

 咄嗟の判断で数多の偽り(ナイアーラトテップ)を盾に変形させ、殴り付けるように攻撃を受ける。

 

 

 文字通り人間ではない膂力に、行人の身体は完全に宙に浮いて吹き飛ばされるが、それで終わりではなかった。

 

 

「ッ……ぐっ……!」

 

 

 一メートル程度のところで、行人の身体が何かに打ち付けられる。大きく弾んだ身体に、追い討ちに猛スピードで走ってきたアルディのハンマーが行人を押さえつける。

 

 

「感謝するぞ! 貴君との戦いによって、我輩は新たな戦い方を知ることが出来た!」

 

 

「お前……ッ!」

 

 

 身体を軋ませながら、全身の筋肉と星辰力(プラーナ)を酷使して圧力に耐える。

 

 

 想定しておくべきだった。防御力に気を取られて、その障壁を妨害に転用してくる可能性を考えていなかった。

 

 

 とはいえこの戦い方を今知ったということは、奴の障壁に対する捉え方は差程変わっていないはずだ。ならば……

 

 

(…………)

 

 

 力を身体全体から足を中心になるよう入れ直し、体制を変えて拳銃の発動体を取り出す。

 

 

 ハンマーやらに遮られて大まかな位置しかわからないが、これでこの状況は打破できるはずだ。そう信じて、銃口をアルディの校章付近に向ける。

 

 

「むッ!」

 

 

 しかし思惑は悉く外れ、壁の感触が消える気配は全く無い。防ぐのに障壁を使って欲しかったのだが、壁を攻撃の要とすると同時に捉え方も変わってしまったのだろう。

 

 

「そんなものでは、我輩を止めることなど出来ないのである!」

 

 

「ッ……! ──クソがぁッ……!!」

 

 

 歯ぎしりして自分の甘さを悔やみながら、持っていた最後の手榴弾のピンを抜き、自爆覚悟で放り込む。

 

 

 やっと消えた障壁と共にハンマーが振り抜かれ、行人の身体が受け身も取れず外壁にぶち当たる。

 

 

 意識が飛びそうになり喉元まで少量の血が上ってくる。この感じだと内臓を少しやられただろう。

 

 

 まあ爆発が効かず痛み分けにならなくとも、最低限脱出は出来た。……正直、この時点で手に負える気がしないが。

 

 

「ハァ……ハァ……ホント、反則だよな……」

 

 

「その言葉、誉め言葉として頂戴するのである」

 

 

 血を吐き捨て、肩で呼吸を整えてアルディを睨み付ける。減らず口を叩く場面では決してないのだが、それでも思わず口から漏れ出してしまう。

 

 

 見たところアルディの身体からは、未だ目立った外傷が見られないのだ。爆発物は行人にとって、純星煌式武装(オーガルクス)に頼らず出せる火力で最高クラスだが、それら全てがほとんど効いていない。

 

 

(──白江……アイツはまだ持ちこたえている……ならリムシィを不意打ちで倒せばいけるか……?)

 

 

 このままアルディを狙っても、耐え切られてやられるだけだ。ならいっその事、片方を先に叩く作戦に切り替える他ない。

 

 

 確かアルディの障壁は、強度と展開速度が高いが複数の展開はしていなかった。もしそれが出来ないのであれば、二人がかりで当たれば突破も少しは現実味を帯びてくる。

 

 

 やるしかない。

 

 

「さあ、そろそろ終わりにするのである」

 

 

 アルディがハンマーを正面に構え、ゆっくりとこちらに歩いてくる。もちろんこちらの近くには、逃げ道の一つを潰すように障壁が展開されている。

 

 

 しかしこれから横に薙ぎ払われるであろうハンマーを、行人はギリギリまで待ち構える。直前まで引き付けて、隙を少しでも作るために。

 

 

「フン!」

 

 

 限界まで脱力していた脚を星辰力(プラーナ)で強化し、これでもかと言うほどの力で地面を蹴り、前方に向けて飛び出す。狙いはリムシィただ一人。

 

 

 それと平行して、ここにはまだ存在していない……しかしどこからでも自分を妨害できるものに意識を張り巡らせる。

 

 

「させんのである!」

 

 

 現れたのは、これまた防御障壁。こちらの走る軌道に合わせていきなり出現しては、行人は何度もそれに衝突する。当然後ろからは、アルディも走りで向かってきている。

 

 

 予備動作は特になし、来るタイミングも不明。唯一頼れるのは己の予測のみだが、高度な演算能力を持っているであろうロボット相手に、そんなものは加味できない。

 

 

(鬱陶しい……!)

 

 

 行動毎にタメを入れ、そこからサッカーのフェイントのように急旋回を繰り返していたが、もはや焼け石に水だ。精度が上がってきているところを見るに、パターンはほぼ割り出されてしまっている。

 

 

 となると……

 

 

(松葉杖……いや、車椅子は考えておくか)

 

 

 リムシィまでの高度、およそ五メートル強。一般的な星脈世代(ジェネステラ)の身体能力は、鍛えた男性三人分相当だと聞いた。

 

 

 跳躍力はどれだけ見積もっても大体二メートル、脚に星辰力(プラーナ)を込めたとしても三メートルほどだと仮定しても、リムシィには届かない。

 

 

 何かしら高度を稼ぐ手段が必要だが、我ながら考えがぶっ飛んでいる。

 

 

 ──まぁ、文字通り()()()()のだが。

 

 

「今度こそ! 砕け散るのであるッ!」

 

 

「砕けるもんなら──」

 

 

 ハンマーの振りはほぼ直線、構えた場所もベストだ。

 

 

 玉砕上等、脚の骨くらいくれてやる。

 

 

「砕いてみやがれぇッ!」

 

 

 行人はハンマーが斜めになるタイミングを図り、その面に向かって着地する。衝撃は膝を使って吸収、もちろん全ては無理だが、有り余った力は行人の身体を砲弾のように発射させた。

 

 

 それが狙いだ。これでいい。このまま一直線に飛べばたどり着く。

 

 

(……ッ!?)

 

 

 まずった……アルディの障壁だ。行き人は空中で動ける能力なんてないし、バーニアなんて都合のいいものも今回は装備していない。

 

 

 せめて吸血暴姫(ラミクレシア)……いや、《覇潰の血鎌(グラヴィシーズ)》とでも戦っていれば……

 

 

(そうじゃないだろ! マジでどうする……!? 十八番の爆弾戦法も在庫がないが、かといってこれを切るのだって……ああ、クソッ! もう打つ手がねぇッ!)

 

 

 血管が熱を帯び、脳が焼き爛れてしまいそうな思考が、破裂してしまうかのような心臓の鼓動が、幾万と繰り返されているのを久々に感じる。

 

 

 考えろ、考えるんだ。ありとあらゆる手段、全てを講じてこれを突破し──

 

 

「ぬおっ!」

 

 

 突如、障壁は現れたかと思えばすぐさま消えた。混乱する行人だが、思考などもはや行人の頭にはなかった。

 

 

 リムシィまであと少し……あと少しだ……あと少しで……

 

 

「────!?」

 

 

 そこで行人の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「極度の緊張状態によるストレス、ですか……? そうだとしても、あんな風になるとは……」

 

 

「君の話では、彼は以前も《星武祭(フェスタ)》に参加していたのだろう? ──残酷だが、どれだけの選手でも限界はあるし、大局での負けによってトラウマを負う者は少なくない」

 

 

(──ここは……どこだ……?)

 

 

 行人が目を覚ますと、そこは知らないベッドの上だった。いつもの寮のベッドではなく、寝返りが打ちにくい入院患者に使われるようなベッドだ。

 

 

 近くからは聞き覚えのある、年季の入った男と若い女の声が聞こえる。

 

 

 感覚器だけを使って周囲の情報を集めるが、これ以上は流石にわからない。行人は仕方なく、呻き声を上げながらその重苦しい身体を起こした。

 

 

「……クローディア? それと……」

 

 

「と、起きたかね、永見行人君」

 

 

 仏教面で声をかけてきたのは、ヤン・コルベル院長。星脈世代(ジェネステラ)でも類稀な治癒能力者*1が多く集う治療院の長。本人は治癒能力は持っていないが、数多くの怪我人を見てきた優秀な医者だ。

 

 

「……院長、何があったか聞いても?」

 

 

「端的に教えるならば、君は空中を飛んでいる最中で失神し、敗退を余儀なくされた、というところか」

 

 

「失神、ですか?」

 

 

「おそらくだが、原因は過度のストレスであろうな。君たちのような星脈世代ならば、Gによるものとは考えにくい。試合が終わってからも発汗がひどく、血圧、心拍数も異常値だったのを見るに、余程焦っていたのかもしれん」

 

 

 つまり自分は、久しぶりすぎる大試合に緊張しすぎて意識を失ったということか。しかし……

 

 

「……の割には、俺の体、特に怪我してないですね」

 

 

「ああ、それなら心配しなくていい。曰くあの擬形体(パペット)が、落下する君を助けてくれたらしい」

 

 

「リムシィが……?」

 

 

 何故そんなことをしたのか、若干腑に落ちなかったが、事実怪我が無かった行人は頷かざるを得なかった。そして事態を理解したことで、一つの疑問が浮上してきた。

 

 

「白江は……!?」

 

 

「ご心配なく。白江さんなら既に寮へと帰宅してますよ。目立った怪我もありませんでしたし、問題ありません」

 

 

「……そうか、よかった」

 

 

 ホッと胸を撫で下ろす。自分が意識を失って、もしそのまま戦闘を続けていた可能性を危惧していたが、どうやら杞憂だったようだ。

 

 

「ただ、何か話があるようでしたよ。病院を出たらすぐ来てほしいと、そう言われています」

 

 

「……そうか、……そうかぁ……」

 

 

 だが別の問題が発生してしまったことで、行人の束の間の安堵はすぐに憂鬱へ変貌した。利奈に対する謝罪……いや、それも聞き入れられるかどうか……。

 

 

 彼女が《星武祭(フェスタ)》に何を望むのかは正直わからない。だが少なくとも、お遊び感覚で参加した訳でないのは明らかだ。

 

 

 中等部で、武術の教えも無しでいきなり挑もうとすることが、どれだけ事を急いでいるか察せないほどバカではない。

 

 

(……場合によっては、一生賭けて償わないとならんかもな……)

 

 

 そうだ。これで願いを叶えられる、そう思って俺を頼っていたのであれば、俺はそれを裏切った。

 

 

 誰もが大袈裟だと思うだろう。願いが叶う──文面でしか理解出来ないそれは、救いを求める者以外にはその重さは到底理解出来ない。

 

 

 かつて自分がそうだったからわかる。故にその事実は、行人にはより一層重く伸し掛かった。

*1
魔女や魔術師の中でも、治癒能力を持つ者は極めて稀。基本的に治療院専属である




 なんで自分は後書きで別作品の名前出してるんでしょうね?←(知るか)

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