P.D.325年 クリュセ郊外 アドモス商会。
マクギリスの助けもありギャラルホルンの包囲網を突破し、アトラとクーデリアをアドモス商会へ届けた俺──オルガ・イツカはそこで連絡がついた時苗の爺さんやアジーさんの朗報を聞いて、希望を胸に抱きつつ、鉄華団本部へと戻ろうとしていた。
アドモス商会の廊下を歩く俺の隣で足取り軽やかなライドが口を開く。
「なんか静かですね。街の中にはギャラルホルンもいないし、本部とはえらい違いだ」
「あぁ……火星の戦力は軒並み向こうに回してんのかもな」
「ま……!そんなのもう関係ないですけどねぇ!」
「上機嫌だな?」
「そりゃそうですよ!みんな助かるし、タカキも頑張ってたし!俺も頑張らないと!」
「あぁ……」
そうだ。俺達が今まで積み上げてきたモンは全部無駄じゃなかった。これからも俺達が立ち止まらないかぎり、道は続く……!
そして、アドモス商会を出て、ライドとチャドが用意してくれた車に乗り込もうとしたその時──事件は起こった。
キィィィィィ ガチャン
車のブレーキ音と扉を開く音が俺の耳に届く。
何事かと思い、そちらを見た瞬間──
ズドドドドドド
俺は
「団長!?……何やってんだよ、団長!!?」
「う"う"っ!」
ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!
俺はミカから借りた銃で、謎の襲撃者目掛けて発砲。
その銃弾は振り向きながら撃ったものにも関わらず、襲撃者の一人の頭を掠める。
「なんだよ、結構当たんじゃねぇか……」
着弾した仲間を車に乗せ、謎の襲撃者は逃げ去った。
しかし、俺はどうやらここまでみてぇだ……。
「だ……団長!?あぁ……ああ……!」
ライドは俺の身体から流れて止まらない血を見て、そんな声にもならない声を漏らす。
「なんて声……出してやがる……ライドォ!」
「だって……だってぇ……!」
「俺は……鉄華団団長……オルガ・イツカだぞ!こんくれぇ、なんて事はねぇ!」
「そんな……俺なんかの為に……!」
「団員を守んのは、俺の仕事だ……!」
「でもぉ……!!」
「いいから行くぞぉ……!」
俺は止まらずに歩き出す。
ライドとチャドに…鉄華団の団員──皆に、俺は止まらねぇ、ってことをこの満身創痍の身体で示してやらなきゃならねぇ……。
それが俺の、鉄華団団長として出来る最期の仕事だ……。
「皆が……待ってんだ!それに……!」
俺が最期の最後に思い浮かべた顔は──やはりミカの顔だった……。
「ミカ……やっと分かったんだ。俺達には辿り着く場所なんていらねぇ……。ただ進み続けるだけでいい……!止まんねぇ限り……道は……続く……!」
《謝ったら許さない》
ああ、わかってる。
「俺は止まんねぇからよぉ……!お前らが止まんねぇ限り、その先に俺はいるぞ……!」
俺はその場で倒れこむ。
ライドやチャドの声はもう聞こえない。俺の口も動いてんの動いてないのかもう分からねぇ……。
だけど、これだけは伝えなきゃいけねぇんだ。
俺は最期の力を振り絞って、こう叫んだ。
「だからよ……止まるんじゃねぇぞ……!」
そして、俺は意識を失った。
────目覚めると俺はアドモス商会の前で倒れていた。
身体から流れて止まらなかった血は何故かもう止まっている。
俺は立ち上がって周りを見渡すが、ライドもチャドも……クーデリアとアトラの姿もない。
「どういうことだ……?」
ライドとチャドが用意してくれたはずの車もなく、鉄華団本部に戻ることも出来やしねぇ……。
俺は仕方なく、アドモス商会に戻ることにした。
………のだが、
「お嬢さーん、アトラ~、ククビータさん……誰もいねぇな……」
アドモス商会の中には誰もいなかった。
「……ん?なんだありゃ?」
社長室にやってくると、部屋の中央には古いカメラが置かれていた。
三脚に乗ったそれを覗いて、俺は目を見開いて驚く。
ファインダーの中に見えたのは、カメラの先の景色ではなく、広い砂漠だった。
「は?」
俺はカメラから目を放して社長室を見渡した。そこはやはり見慣れたアドモス商会の社長室だ。
「…………見間違いか?」
俺は再度確認の為に、もう一度そのカメラを覗き見る。
「やっぱり、砂漠じゃねぇか……」
カメラのファインダーの先は広大な砂漠。しかし、カメラから目を放すとアドモス商会の社長室。
突然いなくなったライドやクーデリア達のことも含め、俺の頭の中は疑問でいっぱいだった。
「意味わかんねぇ……」
そう言いながら頭を掻きつつ、俺は落ち着いて外の空気を吸おうとアドモス商会から出る。
するとアドモス商会の外は────
「砂漠じゃねぇか……」
先ほどカメラのファインダーから覗き見た砂漠が一面に広がっていた。
「勘弁してくれよ……。ライドやクーデリア達もいねぇし、さっきまでクリュセに居たはずなのにいきなり外は砂漠になっちまってるし、一体何がどうなってるんだ?」
俺はパニックになって大きな独り言を呟く。
後ろを振り向くと砂漠の中にぽつりとアドモス商会だけがあった。
「……俺は鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……。こんな状況、なんて事はねぇ…………はずだ」
一度アドモス商会に戻って、飲み物やらなんやらを探すが……何もなかった。
もう一度外に出たらまた景色が変わるんじゃねぇかと思ったが……そんなことはなかった。
俺は大きなため息をついてからこう呟いた。
「とりあえず、この砂漠にずっといるわけにはいかねぇ。オアシスか……とにかく飲み物を探さねぇと……あと今何時なんだ?」
────────────────────────────────────────────
そして、俺が砂漠のど真ん中を歩き続けて約数分後──
《ハッハッハッハーー!!》
いきなり現れたグレイズに俺は追われていた。
なんでグレイズが?
なんで俺は追われてるんだ?
疑問は未だ絶えないが、俺はまずそんな疑問は一旦置いといて必死に足を動かして砂漠の中を逃げ続けていた。
ユージンなら「死ぬ死ぬ死ぬうゥゥゥ!?」って叫んでるだろうが……。
「俺は死なねぇ!」
おそらく、俺はあの時クリュセで死んだんだろう。ここは多分、昔昭弘が言ってた死後の世界ってやつだ。
「一回死んでんだ!もっかい死んでたまるかよ!!」
俺は逃げながらそう叫ぶ。
「このままじゃ……」
そう、このままじゃ……。
「こんなところじゃ……終われねぇ!」
俺はとある男の顔を思い浮かべた。
あいつの目に映る俺は、いつだって最高に粋がって、格好いいオルガ・イツカじゃなきゃいけねぇんだ。
だから、俺は諦めない。
生きることを諦めない。
二回も死ぬなんて、格好悪い姿をあいつに見せられねぇ。
……それに、諦めなければあいつは必ず俺に応えてくれる。
「……だろう?」
俺はその男の名前を叫んだ。
ミカの……三日月・オーガスの名を……。
「ミカアァァァ!!」
その声とともに砂漠の地面が割れる。
地下から現れた悪魔の名を冠するガンダムが大きなメイスを振りかざし、俺を追っていたグレイズを叩き潰した。
そして、その機体──ガンダム・バルバトスルプスに乗っているミカの声がスピーカー越しに届く。
《ねぇ、次はどうすればいい?オルガ》
「決まってんだろ」
《うん?》
「行くんだよ」
《どこに?》
「ここじゃない……どこか」
そう……。ここじゃない……どこか。
幼き俺がミカに示したその場所は……ヒューマンデブリも宇宙ネズミも関係なく人が人らしく、皆で笑い合える場所──俺達の本当の居場所は……鉄華団だった……。
だけど、その鉄華団はもうここにはいない。
ならどうする?
……新しい鉄華団をまた作るしかないだろ?
新しい仲間を……またこの死後の世界で……。
《うん……行こう……。俺達の本当の居場所に……》
死後の世界に辿り着いたオルガと三日月。彼らはその世界で何を見るのか?
次回『神の世界』
お楽しみに!