「ISは現在最も進化したパワードスーツであると言える。パワードスーツの原点は第二次世界大戦後、原子力の発展に伴い、放射線物質を扱ったり原子炉の内部に立ち入ったりする際に用いられた『モデル・マニュピレータ』だ。しかしこれは遠隔操作型であり、今のISや国連で開発中のEOSのように人が乗り込むタイプの物ではなかった。人が乗り込むパワードスーツが初めて登場したのが1961年……」
オリムラ先生と呼ばれた女性が教室の真ん中に立ち、ISとかいうパワードスーツの授業を始めるが……。
「……正直ピンと来ませんね」
その授業の意味が全く分からず、俺はオリムラ先生にバレないような小さな声でそう呟いた。
するとその呟きを後ろの席のミカも聞いたようで、小さな声で俺にこう耳打ちした。
「オルガもわからないんだ?」
「ミカもわからねぇのか?」
「うん。参考書みたいなのをもらえれば分かるかもしれないけど、途中から話し聞いてるだけじゃ全然」
「そうか、ミカがわかんねぇなら俺がわからねぇのも仕方ねぇな。それにしても……」
授業は俺もミカもついていけてないので理解する事を諦めた。
それに他にも俺は気になる事があった為、ミカにこう聞く。
「ミカ、このクラス。女子が多すぎないか?」
「俺とオルガ、あとさっきのイチカ?しかいないよね。なんでだろう?」
「わからねぇ」
「ふーん」
冬夜の世界もわからねぇことだらけだったが、この世界もやっぱ意味がわからねぇところが多すぎる。
やっぱ説明なしにいきなり知らない世界に放り出されて理解しろって方がおかしいんだよ。
「なぁ、ミカ……」
俺が再びミカに話し掛けようと後ろを振り向いたその時、本日三度目の衝撃が頭に走った。
ガン!
「私語は慎め」
「すいませんでした……」
オリムラ先生の拳骨をモロに食らった。
……痛ぇじゃねぇか。
「やはり【
「……?」
オリムラ先生が何か言った気がしたが、良く聞こえなかった。
「授業を続ける。ISにも人が乗り込む以外の物が存在する。遠隔操作型や生体同期型といったものだ。その中でも特に生体同期型は対戦相手に幻覚を見せたり、自身の姿を変えられるような物も……」
オリムラ先生はすぐさま、授業に戻った。俺とミカも大人しく授業を聞く事にした。
「やっぱり、ピンと来ませんね……」
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キーンコーンカーンコーン
再び鐘の音が放送で鳴り響くと、どうやら授業が終わったようでオリムラ先生がこう言った。
「分かっているとは思うが次の授業はIS実習だ。10時までにISスーツに着替えて第三アリーナに集合しろ。遅れた者は懲罰を与える!一分足りとも遅れるな!」
「「「はい!」」」
教室に生徒達の返事が響いた直後、俺はイチカとかいう男子生徒に腕を掴まれる。
「何、ボーっとしてんだよ!?早く更衣室行くぞ」
「あ、あぁ……ISスーツに着替えなきゃいけねぇもんな」
「そうだよ。ミカも行こうぜ」
「うん」
イチカとともに教室を出るとオリムラ先生から声を掛けられた。
「織斑、オルガ、三日月!遅れるなよ。今は廊下を走るのも見逃してやる」
「分かってます!ありがとうございます」
イチカは一言そう返して、廊下を走り出した。
「イチカを追うぞ。ミカ」
「うん。早く行かなきゃ」
俺とミカもイチカの後を追うように走った。
「…………」
その様子を後ろから睨んでいるオリムラ先生にこの時の俺は気付かなかった。
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第三アリーナの更衣室についた俺とミカはそこら辺のロッカーに入っていたISスーツへと着替える。
冬夜の【ミラージュ】は俺のワインレッドのスーツとミカの鉄華団のジャケットに掛けた魔法らしく、脱いでもIS学園の制服から元の服に戻る事はなかった。
ありがとよ、冬夜。
その着替えの最中、イチカがこう聞いてきた。
「オルガ、ミカ。なんで今日起こしてくれなかったんだよ。危うく遅刻するところだったじゃねぇか!朝食急いで食べたからあんまり味わえなかったし……」
「すまねぇな。こっちも色々あってよ……」
「色々?そういやオルガも今日の朝なんか様子おかしかったよな?なんかあったのか?」
「様子が……え、えっと……」
俺が言い淀んでいるとISスーツに着替え終わったらしいミカが助け舟を出してくれた。
「早く着替えないとオリムラ先生に怒られるよ」
「確かに!オルガも早く着替えろよ」
「待ってくれ……待てって言ってんだろ……!」
そして、俺とミカとイチカがISスーツに着替えて、第三アリーナにやってくるとオリムラ先生が何やら大きな剣を持って待っていた。
その後にゾロゾロと女子生徒達も集まっていく。
その女子生徒達はさっき教室で見た数の倍くらいの人数になる。
キーンコーンカーンコーン
授業の始まりであろう鐘の音が鳴ると、オリムラ先生は早速話しを始めた。
「今日の一組と二組の合同実習ではISの武器についての実習を行う。今、私が持っているのはIS用の太刀だ。これは打鉄の主要武器であり……」
やはり理解出来ない話が始まり、俺もミカも首を傾げる。
そして、一通り説明が終わると、オリムラ先生は俺の名前を呼んだ。
「オルガ、
「はい!」
ファンと呼ばれたツインテールの小柄な少女が大きな声で返事をする。
俺もその後にこう返事をした。
「は?……はい」
……なんだ?もしかして俺が別世界の俺だとバレたのか?
不安を覚えながらもオリムラ先生の前まで歩いていくと、彼女からこう指示を受けた。
「オルガ、
「はい」
ファンという少女は右腕の黒いブレスレットを光らせ、その光を全身に広げる。
ミカがバルバトスを召喚した時と似たような現象だ。
そして、光が消えると、背中、腕、足だけにモビルスーツのような赤い装甲がつき、両肩の上にモビルスーツの肩装甲のような物が宙に浮かんでいた。
背中の装甲には大きな斧のような物も折り畳んで取り付けてある。
「なんなんだよ、こいつは……」
俺がそう呟くのを聞いてか聞かずか、オリムラ先生は俺にこう言う。
「どうしたオルガ?早くISを展開しろ」
「…………」
ヤバいぞ……。どうやらこの世界にいた俺はあのファンとかいう子と同じようなパワードスーツを纏えたみたいだが、今の俺にはあんなのどうやって召喚すればいいのか分かんねぇ……。
無言のまま数秒間、どうこの場を乗り切ろうか考えてみるが、俺の頭じゃいい案が思い付かねぇ。
黙って見ていた生徒達もヒソヒソと小さな声で何かを話し始めた。
ミカの方をふと見ると、ミカは首を縦に振った後、手を上げてこう言った。
「えっと……実はオルガ、IS…を展開するファンのブレスレットみたいなのを失くしちゃったみたいで今日の朝探したんだけど、見つからなかったんです」
「……そういう事か。なら仕方ないな。三日月。代わりにISを展開してみてくれ」
「分かりました」
助かったぜ、ナイスだ!ミカ!
前に出てきたミカはバルバトスを人間サイズで召喚する。その大きさにも出来るのか、すげぇよ、ミカは……。
「ほう。三日月はバルバトスを展開出来るのか。だが、少し調べが足らなかったな」
「は?」
オリムラ先生は手に持つIS用らしい剣を俺とミカに突き付ける。
「正体を現せ!」
「は?」
隣にいたファンも同じように背中の斧を手に持って、俺達を警戒していた。
「アンタ達、何者?」
朝、教室で話し掛けてきた青い瞳の金髪ロングの少女も同じく青いISを纏う。
「貴方達、本当にオルガさんと三日月さんですの?」
シャルロットとラウラも俺達に疑問を問いかける。
「今日のオルガ様子おかしいよ?何かあったならちゃんと説明して」
「ミカ、どういう事だ!?」
そんな彼女達の様子にピンと来ていないらしいイチカが皆に向けてこう言った。
「鈴、セシリア、千冬姉!シャルロットにラウラも!?どうしたんだよ?オルガはオルガ、ミカはミカだろ?」
「……一夏、三日月がさっき鈴の事をなんと呼んだか聞いたか?」
「え?なんだよ箒?……良く聞いてなかったけど……「リン」じゃないのか?」
「あの三日月は鈴の事を「ファン」と呼んだんだ。今日の朝の二人の行動と合わせても何かおかしい」
……名前の呼び方が違ったのか!
「ちっ……!」
ミカは小さく舌打ちをした。
「それにオルガのIS待機状態はその前髪のはずだ。失くしたというのもおかしな話だな」
オリムラ先生がさらにそう付け足す。
……つまり、この世界の俺は前髪が光るってのか?勘弁してくれよ……。
「もう一度言う。正体を現せ……!」
「正体も何も、俺は俺、ミカはミカだ!イチカも言っただろ」
「この後に及んでまだ言い訳するか……」
オリムラ先生は俺達に剣を向けたまま、ざわめく生徒達にこう説明した。
「一組には先ほど生体同期型のISについての授業を行ったな。私は生体同期型のISについてなんと説明した?……織斑」
「えっと……確か、敵に幻覚を見せたり、姿を変えたり……あ!」
「そういう事だ。わかったな!」
マジかよ……勘弁してくれよ……。
「さぁ、正体を現せ!オルガの姿をしたお前が生体同期型のISを使えるんじゃないのか!?」
「違う。そうじゃねぇ!」
「もう無理だ。オルガ……」
ミカがそう呟く。
辺りを見回すと、六機のISに取り囲まれていた。
イチカは白いISを
ホウキと呼ばれた黒髪ポニーテールの少女はファン…じゃなくてリンのやつより薄めの赤色のISを
シャルロットはオレンジ色の
そしてラウラも黒いISをそれぞれ身に纏って俺達を取り囲んでいる。
そして、他の生徒は第三アリーナからすぐさま離れていく。この避難の早さ……何回も襲撃を受けて修羅場に慣れてるような動きだな。どうやらここは力ずくで乗り切るしかなさそうだ。
「こうなったら仕方ねぇ!やっちまえ、ミカアァァァ!!」
俺の叫びとともにバルバトスルプスはモビルスーツサイズまで巨大化し、六機のISと対峙したのだった。
激しい攻防を繰り広げるバルバトスルプスと六機のIS、そして織斑千冬。この戦いにどんな意味があるというのか?
次回『
お楽しみに!