スキルアウトと地球の記憶   作:マルチスキルドーパント

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プロローグ

 

 

 

 

 学園都市って、知っている?

 そんな質問を母からされた。

 学園都市……? ああ、と思い出す。

 家族が入学していると言うあの大きな都心部と言うか、都市部の……。

 夕飯の席で、向かい合いながら義理の母は笑っていた。

 今度、年明けにでも向こうに引っ越しをしないか。そう突然言われた。

 引っ越しをすると言われても。あんなセキュリティの厳しい都市部にどうすると言うのか。

 で、案の定その辺の問題はクリアしているとか。

 聞けば、義理の姉と妹が、なんでもとても誇らしい立場になったと最近連絡が入った。

 大能力者、と言われる。レベル4? なんのことだかわからない。

 専門用語と言われ、理解できない頭じゃ頷くしかできなかった。

 高校進学と同時に姉妹は学園都市に入学していた。

 凄いお金がかかったらしい。けど、代わりに自分は地元の学校に進学した。

 頭もよくないし、なんの取り柄もない自分にはこの生活が気に入ってのだが残念。

 いわく、後から内部に引っ越すのも一応可能らしい。

 なんか随分と面倒な手続きがあるようだが。

 しかもまたお金がかかる。大丈夫だろうか本当に。

 まあ、地元でも有数の金持ちとかよく嫌味を言われるが、こう見てみると確かに身内の金銭感覚はおかしい。

 お金は問題ない。現在単身赴任の父も学園都市に既に住んでいると初めて聞いた。

 何年も戻ってこないと思ったらもうそっちに暮らしていたのか。

 母はそう言うことを聞かないと教えてくれないので困る。

 トントン拍子で此方の意見も聞かないし、決定事項なら確認しないでいい。

 どうせ友達など居やしない。と言うか、未練もない。

 元々人付き合いは苦手で、普通に生きていければ満足の毎日。

 変化するならそれでもいい。構わないと言って、その日は終えた。

 ……で。

 

 ――半月後にはもう自分が学園都市内部にいるのにビックリだった。

 

 何が起きた。手続き早くないか。待って、認識が追い付かない。

 朝起きたら何故か自室に母がいて、引っ越しの準備は全部業者に発注したとか言うし。

 軽い荷物を抱えて黙ってついてきて数時間したら学園都市? 

 立ち並ぶ高層ビル。そこらで回っている風車に、見たことのない機械や都会的な風景。

 ゲートを超えた先に広がっていたのは近未来の非常識。あのドラム缶はなに? お掃除?

 そこに行き交う様々な制服の学生たち。実家をあけて、小さなアパートに引っ越す母と自分。

 その内自分は学生寮に放り込まれるらしい。

 明日には外部から入学してきた生徒に行うテストがあるとかなんとか。

 それを受けたのち、編入する学校が決まる。能力開発とかいう変なことするんだそうだが。

 いや、受けるけど。受けるけどなにあの光景。

 徒歩で移動していたら内部に入って早々大乱闘が起きていた。

 手品ですか? 自動車放り投げている男子生徒が何やら叫んでいるんだけど。

 ドッキリですか? 投げられ墜落し、爆発する自動車から逃げた拳銃持った誰かがこっち走ってくるんだけど。

 母が呆然としていた。此方も呆然としていた。歩道で立ち尽くす。

 なにこれ? この治安の悪さ。本当に国内?

 チンピラみたいな人が、立ち尽くす自分に走って近づき、不味いと思って思わず咄嗟に母を突き飛ばす。

 でも、遅かった。自分が代わりにそのチンピラに首に腕を回されて捕縛。

 背後に回り込まれて、持っていた拳銃をこめかみに突きつけられた。

「動くな!! 動くとこいつの頭をぶち抜くぞ!?」

「…………」

 ああ、そう言うこと。人質か。こんな白昼堂々。

 周囲を観察。武装した大人、此方は体躯の良い成人男性。そこに捕まる自分。

 向かうあい、突きつける銃口はアサルトライフルと見る。何したのだこの人は。

 こういう場合、暴れると身内にまで被害が出るから大人しくしよう。

 抵抗すれば此方を尻餅ついて見上げている母まで巻き添えになる。

 チンピラは周囲を威嚇する。近付くな、車を用意しろ。

 銃口をそっちに向けていた。思わず怯む恐らくは警備の人らしき人物たちが宥めている。

 無抵抗にして、チンピラに小声で言った。

 母は逃がしてもいいか、と。

「あぁ!? お前なにいってんだ!?」

 もう一度こめかみに突きつけられた。だから、繰り返す。

 別に自分はこのまま人質で良いから家族は邪魔だから追い払ってと。

「……はっ? お前マジで何言ってるんだ?」

 唖然とするチンピラ。そんなに変なこと言ったか?

 母はどう見ても逃亡の邪魔になる。車を用意しろと言うなら逃げるんだろう?

 あんたは一人。人質は二人いたら逃亡の足手纏いになる。

 足手纏いはイコール射殺、という結果を避けたいだけだ。

 此方は家族が無事ならまあ仕方ないと思うから諦める。

 どうせ勝てないし早死にもしたくはない。

 利害の一致。母だけ遠ざけてくれないかと。

 ここまで来れば抗えない流れなので大人しく人質でもなんでもするから。

 だから遠ざけろと言うのだ。

「……お、おぅ、分かった。おいそこのお前! 早く向こう行け!!」

 呆れていたのか何なのか知らないが、チンピラは母に銃口を向けて失せろと怒鳴った。

 母は息子を離せと言うが自分が言った。

 死にたくないなら早く逃げろと。最悪外部で何とかしてもらえればいい。

 ここであの警備の人間と銃撃戦されたら此方にまで位置的に飛んでくる。

 痛いのは勘弁で死ぬのも勘弁。故に言うことを聞いて早く逃げろ。

 ハッキリ言った。すると、母はそれでも諦めない。

 まだ離せと叫ぶ。話聞いていないのか。

「お、おい……聞いてねえぞあの女! どーするんだよ!」

 小声でこっちに犯人が聞いてくる。確かにどうするこの場合。

 此方は無抵抗と決めた。生殺与奪は犯人の都合。

 ならばそっちに合わせて解放するまで付き合うしかない。

 焦れてきて撃たれるのもごめん被る。

 一つ提案。一度撤退。このまま自分を楯にして後方に迂回は可能かと問う。

 逃走に協力するのが現状最も生存率が高い方法と断定。

 自分としても、それで一向に構わない。

 決めるのは犯人。任せると素早く説明して委ねる。

「……クソッ! 仕方ねえ、逃げるぞおら!」

 不利と理解して、そのままの体勢でジリジリ後退して、角の近くで小さく言って命令。

 了解して、一瞬の隙で拘束をほどいて、先に走る。直ぐに近くの角を自分で曲がった。

 案の定いきなり警備の人は犯人に向かって発砲。慌てて犯人も逃げ出す。

 人質が居なければいきなり射殺か。アメリカのような場所だと思う。

 背を向ければ迷わず攻撃。実におかしい学園都市。姉妹はこんなサバイバーな場所で生活している。

 おかしい、外部向けのアナウンスと話が違う。何が最新のセキュリティだバカ野郎。

「おい、お前地理が分かるのか!?」

 分かるか。こちとら今来たばかりの引っ越してきたばかりだぞ。

 どういう流れか一緒に逃亡。自分を殺そうとするような相手なのに。

 って言うか人を楯にするなら案内しろよと悪態をつく。

「お前良い度胸してんな!? まあいい、ついてこい!! 協力するなら無傷で解放してやるよ!!」

 犯人もあまりにふてぶてしい自分に呆れているようだった。

 そっちの都合で巻き込んでおいてよく言う。仕方無いので最後まで付き合おう。

 何で犯人に付き合っているのか自分も分からない。混乱しているようだ。

 先に走る犯人に続いて、取り敢えず追走する。

 初日から、本当になんなのだ。男を追いかける外部の子供は、文句しか思い付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放置された廃墟のビル。

 その一画に犯人と彼はいた。

 全力疾走は流石にキツい。体力がないから見事に干上がった。

 ぜーぜー言っている彼に、犯人は一息ついて、聞いた。

 なぜ、協力した。普通なら抵抗してあの場で解決もできたはずだ。

 確かにそうだ。だが、それはあくまで可能性。

 こちとら外部から来たばかりの右も左も分かっていない外部者。

 内部の常識が外に通じると思うなと逆に言う。

 要するにあの過剰な武器持ってきた警備の人間と自動車投げつけるような人間の存在を信じるか。

 バカを言うな、巻き添えはゴメンだと言った。

 確実に助かりたければ、身内を優先して離脱させるにはああするのが一番早い。

 自分はここの認識など知り得ない。どこの世界に拳銃一つにアサルトライフル持ち出す民間人がいる。

 狂っている。そう、思うと。

「……そうか、お前外部の人間か……。だからバランスが分かってねえのか。納得したわ。悪かったな、てっきり学園都市の無能力者と思ったんだが」

「?」

 なぜ、謝る。犯人の癖に。知らないやつを巻き込んで悪かったと言われても。

 大体、レベル0? なんだそれは?

 そもそもレベルって何? 聞いたことがない単語。

 もしかしてちゅーに?

「阿呆! 学園都市の学生にとっては死活問題なんだぞレベルってのは! 何にも知らないんだなお前!!」

 だから外部の人間だって言っているだろうが。

 聞けば超能力とかいう科学的なモノを開発しているとか。

 ちょっと待てそんなの知らない聞いてない。

 母、知っていただろうにまたこういう重要な問題を言わない教えない。

 いい加減にしろ真面目に。頭を抱える。あの自動車投げつける手品はその能力者とかいう学生の仕業。

 で、学園都市の学生は大なり小なり超能力とやらを持ち、その強弱の呼び名がレベル?

 概要を教えてくれるのはいいが、じゃああんな超人がゴロゴロ居るのか学園都市。

「居ねえよ。俺なんか無能力者だぞ。因みに学園都市の半分ぐらいは俺と同じ弱いレベルの連中だ。レベル0は、基本的には外部の人間と大差無い、お前が言う普通の人間。無力な、蹂躙されるだけのオモチャさ……」

 最高値が超能力者、レベル5。所謂化け物。

 対して最低値が無能力者、レベル0。所謂雑魚。

 上位になればなるだけ、こんな拳銃風情じゃ太刀打ちできないと嘆くように犯人は言った。

 項垂れて、不平不満を溢すようにぼやく。

「お前に言うと信じて貰えないとは思ってる。人質にしたのも気が動転していたといえ、バカじゃねえかよおい。何やってんだよ本当に……。俺だってなぁ、本当は大事にする気じゃない。単に暴行受けた挙げ句にカツアゲされた金を取り返しに行っただけなんだ。銃だってよ、護身の為に必死になって手に入れただけなのに。一方的に俺が拳銃持ってりゃ悪者扱い。相手の暴行にもカツアゲにも一切触れない風紀委員に警備員……。学園都市は不平等なんだよ。相手はレベル3……ああ、お前に言っても分からねえか。強いのと弱いのの中間みたいなもんだ。その時点でこんな拳銃じゃ敵わないような能力なんだぜ? 笑えるだろ? お前にも分かりやすく言えばな、相手は武術の達人で、此方は丸腰の素人。勝ち目がないのに武器を持てば弱者が悪だ。ふざけんな、向こうのほうがよっぽど強いだろうが畜生め! 能力は武器じゃねえとでも言いたいのか!」

 ……なんかよく分からないが、相手はとても強いとは分かった。

 拳銃で自動車投げつける相手に勝てれば苦労しない。そんな理屈は見ればわかる。

 相手は合法で暴力を振るう。弱いやつに。けど、それは取り締まってはくれないと。

 そう言うことか?

「……お前、物わかりがいいな。そうだよ。この学園都市じゃ、無能力者は上の連中には常に見下されて笑われる。カーストの最底辺。数だけが多くても結局正義は向こうにつく。知力も能力も財力も権力も力という力は全部向こうの味方。勝てるのは武器を使った暴力だけなんだ。俺達を遊び半分でお掃除とか言って襲ってくる輩は一時期よりは減ったがまだまだ居る。お前も気を付けろよ。俺が巻き込んでおいて言うのも何だが、レベルの高い能力者は信じない方がいい。あいつらは内心ずっと無能力者を笑っている。忘れるなよ、あいつらは単なる悪魔だ」

「…………」

 まだ、全部を自分で見てはいない。

 けれど、学園都市は自分の常識が通用しないことはよく分かった。

 警告は覚えておく。学園都市は、レベルがすべてと言うことを。

「……あぁ、そうだな。お前みたいに俺達の話を聞いてくれる人間も今じゃ珍しい。スキルアウトって言うんだ、俺達みたいな集まりをな。レベルの高い能力者に対抗するために武力で身を守る連中のことをいう。不良見たいな集団と思われがちだが、俺は実際金奪われるまでは普通に暮らしていたよ」

「……」

 何だか気の毒に思えてきた。

 嘘かどうかは分からないが、少なくとも後悔と悔しさは本物じゃないかなと思う。

 そういえば、能力者って何でもありなのか?

 試しに聞いてみた。自分も理解できない変な力がある。

 数年前に偶然発見したのだが、これはその超能力なのか?

「はっ? いや、超能力は学園都市の内部で開発しないと開花しないぞ?」

 思い切り動揺された。まあ、以前にも知り合いに話して夢を見ていると言われた。

 この反応は予想していた。じゃあこれもやっぱりこれは摩訶不思議な何かか。

 USBメモリを違うものにする能力。なんに役立つのか未だにさっぱりの一発芸。

 因みにビックリ、これを人間にぶっ差すと怪人に変身する。

 一回自分で試して大変驚いた記憶がある。

 何をいうかと言うので記念に一本実践してみる。

 こんなときのために、手荷物にメモリを数本持ち歩いている。

 大体何でもできるんで何ほしいと聞いた。

「……何でもいいのか? じゃあ……そうだな。俺は無能力だが、一応発火能力って言うんだ。炎に関するものは出来るのか?」

 否定的だが何だかんだ見るらしい。

 パイロキネシス。漫画で知っている。その名前の通り発火させる。

 チョイとグレードあげても良いかなと一本握って目を閉じて念じる。

 やる前に一般的なメモリと見せておいて、いつも通りやる。

 この人にピッタリのメモリをイメージすると。

 

 ――マグマ!

 

 何か思ったよりも物騒な単語がメモリから聞こえた。

 男も目を丸くした。彼の握った手のなかで、放電するように一瞬火花が散った。

 で、色と形が変わった。化石みたいなメモリが開かれて見せられた。

 証拠と言われて愕然とする。なんだこいつ。聞いたこともない妙な能力者。

 しかも外部の。混乱する男に見せびらかす。

 そうこうしているうちに、追っ手が……追い付いていた。


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