スキルアウトと地球の記憶   作:マルチスキルドーパント

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動き出す裏側

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、襲撃のその後は。

 先ず、ゴキブリの津波によって上条当麻は飲み込まれて身体中をかじられた。

 一部は幻想をぶち殺したのは良いがやはり物量には勝てなかったらしい。

 いわく、

「気色悪い上にインデックスさんよりも遥かに痛かったんですが!?」

 とのこと。痛いに決まっている。

 因みにゴキブリと比べられたと激怒したシスターさんによるかじりつきも追加されたのは言うまでもない。

 不幸だ? いい加減同棲している彼女かミコチューかどっちかに決めない彼が悪い。閑話休題。

 上条当麻は病院に送られ、検査したが心配していた感染症などの心配はなく、無事だった。

 発生させたアーウェント・モーリッツ・ヴェルディはドーパントが解けた錬太郎共々担ぎ込まれた。

 此方はより重症で、消耗による風邪に似た発熱を発症。

 入院などにはならないものの、現在も自宅療養を余儀無くされている。

 尚、雫は無事に保護されており、事が事だけに警備員なども本腰を入れて捜査した、らしいが……。

「詳細不明!? どう言うことですか!!」

 翌日。錬太郎の部屋にて。

 騒ぎを聞いて大慌てだった姉妹が看病をして甲斐甲斐しく世話を焼いている最中。

 柳に、警備員から一報が入る。捕まった黒服たちの聴取が終わった。

 同時に粗方捜査もしておいて、身内なので説明できる範囲で聞けばこの有り様。

 結果は、詳細不明。何でも事前に薬品投与による洗脳と心理操作をされており、本人たちは操られていた。

 決して怪しくないその辺のスキルアウトが犯人だった。連行された過去の記録もない。

 学園都市だからこそ出来る怪しいお薬による襲撃。

 結論は、闇の中。事故ったそれも盗難車を使う、犯人たちは操られ、何も覚えてない。

 少なくともガイアメモリの使用方法を知っていることと、それなりの規模の相手だと言うことだけが判明した、後味の悪い襲撃事件。

 アフターサービスまでバッチリときた。これは警備員に追跡されるのを想定した前提の計画。

 そう考えるのが妥当だろうか。

「そんな事だろうと思ったわ。学園都市の深淵は覗きたくないから、それ以上捜査しないで。どうせ、また来る」

 近所だから一緒に面倒を見ると、モーリッツは自宅から雫の部屋で寝ていたが、杠が話を聞いて誘拐してきた。

 現在は身の危険を感じつつ、姉のベッドを借りて寝ていた。

 布団に潜る彼女は慣れない匂いに緊張しつつも、額に張った冷却シートを交換する。

 やはり使えない能力の行使は心身にダメージを与える。

 錬太郎もぐったりしつつ、ぼやいた。

「マジで勘弁してくれよ……。此方の身体が持たねえ」

 消耗は錬太郎のほうが激しい。今も起き上がるのも辛いようで、虚空を眺めては呟く。

 これが科学者の言っていたことか。普通の連中以外にも狙われるとなると、暗殺の対象の気分になる。

 無論、言うわけにもいかない。ガイアメモリをばら蒔いたことは柳は陽動程度なら許すとは言うが、

「あんまり捨てないでくださいね、お兄ちゃん。最近、スキルアウトや一般生徒の中でも有名になりつつあるんです。ガイアメモリが、高値で取引されているとかいう話も聞きました。研究所が要らないものを廃棄する際に、闇ルートか何かに流れてしまったようですが……」

 わざとやっているのか、レア物扱いで裏取引されているとか風紀委員に入ってきているという。

 連中も研究のためなら何でもする。まさかこれもその一貫かと思うが錬太郎は思考を放棄。

 正解であるが、彼にもそこまで行けばどうしようもないのも事実。

 彼はミコチューではない。物理でどうにか出来る立場ではないから。

 電話を切った柳が雫に説明した。野郎たちは邪魔になるので、見舞いに大量の食料と医薬品を置いて帰っている。

 現在は、五人しかいない。

 暴走の一件は錬太郎の記憶になく、完全に呑まれていたとみていい。

 エッジガイアメモリ。暴走する多才能力を他者に強引に付与するガイアメモリ。

 試しに柳が使うも、手にした瞬間。

「痛!?」

 静電気のような音をさせガイアメモリが自衛していた。

 触ることすら拒絶しているのか、錬太郎以外が触れると皆こうなる。

 バリアガイアメモリは起動しないのに対して、エッジガイアメモリはそこまで強く拒否する。

 攻撃的と言うか、なんと言うか。戦闘用ガイアメモリは想定以上に強力と見る。

 話を聞いて、錬太郎は謝罪してきたのは気にしない。ああしないと本当にモーリッツは死んでいた。

 雫も無事だったか分からない。故に、仕方無いのだと彼女は受け入れた。

 モーリッツはこういう厄介なことは増えると思う。素直に皆に言った。

 一度でも強硬手段を用いたら、後続は必ず来る。

 どうせ追跡も不可能。とかげの尻尾切りになるだけと言いながらも、雫にも警告する。

「つっきー。もう、四の五の言えない。戦えるようにしないと、モーリッツたち邪魔だから殺されるわ。……今更先輩追い出しても、関係性があるから逃げられない。多分、不細工たちもそうだけど。知られているんだろうね、モーリッツたちのこと。同じスキルアウトのチームである以上は、庇うだけじゃダメだよ。ぶっ殺す気概で抗うべきだとモーリッツは思う」

「…………やりたくないよ。わたしは、死にたいないけど……誰かを殺すのも嫌」

 雫は首を振った。叩きのめせばいい。それ以上の過剰な暴力は怖いのも痛いのも知っている。

 故に他人にしたくない。しっぺ返しに戻るのを避けたい。お礼参りが怖い。

 経験上、雫は相手に攻勢に出るのを極度に避けたいと思う。

「……申し訳無いです。風紀委員でありながら、こんな事態になるまで間に合わず」

「お姉ちゃんがその場にいたら全員灰にしてやるのに! 弟君を殺そうなんて百年早いんだよ!」

 項垂れる柳と憤る杠。

 大能力者ならばドーパントにも対抗できるだろうが、生憎と学校の違う姉妹はここから一番離れている。

 連絡してくれれば助けに行ったと言われても、モーリッツは適当に誤魔化したが信用はしない。

 相変わらず、死にかけてもそれだけは言わない。争わないだけで、信じる信じないとは別の話。

 モーリッツを助けたい訳じゃないし、勿論スキルアウトの為でもない。

 家族のために過ぎない。友達でも何でもない奴に助けてなど言いたくないのである。

 錬太郎は既に認めた。だから、命懸けでも文句はない。

 だが、杠と柳は所詮風紀委員の面々。簡単には、彼女たちはモーリッツは近寄らない。

「つっきーの気持ちはわかるわ。けど、そんなん相手に通じないって分かるじゃん?」

「…………そうだね。リッツの言う通り」

「けど、つっきーはそれは出来ない。したくない」

「……うん」

 モーリッツはぶっ殺してでも生き残る。身を守る。仲間を守る。

 雫は過剰なことは控えたい。追い払う程度にしておきたい。

 この場合甘いのは雫だが、無理もない。

 いつも痛い思いばかりの雫は相手を倒すほどの反撃の意思が潰されて欠落している。

 横になるモーリッツに、包丁でリンゴを剥いている雫はどこか消沈した顔で俯いている。

 制服姿の彼女は、今日も右頬にガーゼをする。

 その傷跡が、雄弁に語るのは、雫が長年叩き込まれている恐怖や痛みの記憶。

 反抗は過激の一途を加速させるという経験。避けるのに何かおかしな部分はあるだろうか?

「死にたくはねえけど、あんなのはごめん被るわ。マジでさ、俺そのうち死ぬんじゃねえかな」

「縁起でもない、って言えないよね……」

 錬太郎も荒事にはまだまだ慣れないし、殺される日常など真っ平ゴメンだ。

 こんな消耗するまで抵抗しても、大本には結局届かない。また来る。

 どうすればいいのか。警備員も分からない、風紀委員も後手になる。

 彼らは悩む。日常に生きる表の彼らは、悪意に対応できなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、彼女は違う。

 闇にある程度は手が届くし、情報だって手に入る。

「ん? どうした? 出掛けるのか?」

 ある男に、彼女は問われた。

 高級マンションの一室、毎日のように開けて留守にしがちな家主に変わって居候する彼女は、家事をてきぱきとこなしつつ、恩人に拾われて平穏に過ごしていた。

 然し、そうも言ってはいられない。どうも、彼らがピンチのようだから。

 怪しげなローブを被る彼女は笑って答えた。

「ああ。悪いね、軍さん。ちょっと野暮用さ」

「おう、そうか。気を付けていけよ」

「そうするよ」

 黒い変質者は、白いハチマキに特攻隊のようなシャツと学ランの男に告げて出ていく。

 情報は、あの人から受け取った。

 彼女にはしたいことがある。生きる場所を作る。そして生きていく。

 この学園都市の隅っこで、おとなしく。慎ましく。細々と。

「根性入れていけよ。生きるためにな」

「分かっているとも。軍さんほどじゃないが、仮にも僕とて拝借しているんだから、レベル5を」

 出ていく彼女に、恩人は詳しく聞かないで見送る。

 知り合いの友人が路頭に迷う少女を拾った。訳ありの、居場所がない少女だった。

 友人が言うには、邪悪な悪の組織によって甦ってしまった彼女。

 元々は半分死んでいるような虚弱な女の子らしく。

 何時もみたいに助けるけど、暫く匿ってあげてくれと言われた。

 二つ返事でオッケーだった。悪の組織に利用され捨てられた彼女を見捨てるほど彼は薄情じゃない。

 詳しく聞く必要などないのだ。困っていれば助ける。出来ることがあれば、彼は全部する。

 生きたいと願う少女の為に、戦う術を自己流で叩き込み(スパルタで)、特訓と称して日々弟子のように鍛えまくり(間違った方法で)、出来上がったのは友人にも負けない力強い能力者。

 根性で彼の一撃を堪えられるまでに成長するのは、教える立場として楽しかったものだ。

 ……蛇足だが、こいつの鍛え方は我流で根性論だったが、彼女は真面目に根性だけで乗り越えた。

 彼女が強いのは、教えた相手が規格外の一人であったから。

 パンチ一発で謎の大爆発を起こす男が先生やってるのだ、弱いわけがない。

 悪の組織に関しては、友人がそっちは此方でどうにかするというので一任。

 レベル5で恐らく最も善人であろう二名に救われたある少女は数時間経過した頃。

 ある高校の前で、ローブ姿で待っていた。放課後の事だった。

「……ねぇ、君が上条当麻って人かい?」

「はいっ?」

 知り合いの女子生徒と話ながら出てきた彼、上条当麻にそう問うのは不審者。

 夕暮れ時に、真っ黒なローブ姿で彼に用事があるので話したいと申し出た。

「失礼ですが、どちら様です?」

 顔見知りじゃない、完全な赤の他人と思う女の子らしい声に訝しげに、上条当麻は聞く。

 知り合いたちを先に行かせて、背丈の小さな女の子に言うと。

「……質問を返さないでくれるかな? 質問をしているのは僕なんだから」

 思い切り苛立つ声で、その場で足踏みした。

 途端、アスファルトが派手な音をさせて陥没。

 周囲に行き交う生徒が驚いてこちらを見た。

「ちょっ!?」

「言うことを聞くのか、聞かないのか。それだけが今君が言うべきことだよ上条当麻。これ以上余計なことを口走るなら、さっきのあの人たちが血塗れになる。警告は一度だけだ。次は返事をしてよ」

 殺気に放って、脅す。

 上条当麻も相応の相手と瞬時に判断して、慣れているので対応を変える。

 鋭く睨み、低く言う。

「あんた、俺に用事があるなら他の奴を巻き込むな。いいぜ、話でもなんでもしてやる。代わりに俺の知り合いには一切手を出すな」

「命令するとは良い度胸だね。それを決めるのは僕だ。君じゃないんだよ、上条当麻。荒事にしたくないなら大人しくしてくれないか。不愉快なんだよ、君みたいな人間を見ていると。僕をイラつかせないでほしい。傷付くのは君じゃなく、君の周囲にいる君の知り合いになるんだから」

 単純に上条当麻という人間が気に食わないから周囲に傷つける。

 そういう理由だと彼女は言った。

「何なんだよお前……何がしたいんだ」

「五月蝿い。聞いたことだけ答えろと言ったはずだ。まだ何か言うと君の家を吹っ飛ばすよ」

 混乱する上条当麻を引き連れて、ローブ姿の変質者は歩き出す。

 背を向ける彼女はかなりイラついているようで舌打ちして、人気のない河川敷に案内した。

 心配そうに見ている同級生に愛想笑いを浮かべて対応して、上条当麻は黙ってついてきた。

 見たことのない子供みたいな言い分の相手。

 ただ、何か言えば本気で実行する気なのは肌で感じる。

 背を向けて、立ち止まる彼女は漸く聞きたいことを口にした。

「上条当麻。君の学校に、この前女の子が駆け込んできたはずだ。ナイフを持った、プラチナブロンドの髪の毛の女の子。知り合いでもなんでもないのは事実なの?」

「……? ああ、あの子か? 俺は全然知らないけど」

 思い出すはゴキブリフェスティバル。ぶるっと身震いして彼は答えた。

 全く知らない。面識のない彼女は名前すら聞いていない。

「何で助けたんだい? 僕には理解できないよ。相手が何なのか君は知らないはずなのに、襲っている相手のことも君は何なのか、分かってないのに。どうして助けたの?」

「……何が言いたい」

 暗に責められている。そう感じ上条当麻は先を促す。

 己の行動を、他人に責められる謂れはない。悪行をしたわけでもあるまいに。

「ガイアメモリで変異した大人が相手なんだぞ。なんで助けに入るのが間違いのように……」

 そして、上条当麻は最大の地雷を踏んだのに気付かない。

 その知り得ない単語を口にしたのは、完全な間違いだった。

「待って。なんでガイアメモリって知ってる?」

 突然、振り返り彼女は鋭く問う。

「僕は今、一度もガイアメモリなんて言ってない。なのに今、君は自分から言った……。上条当麻、君は何を知っている? 何故知っている? ……誰からガイアメモリのことを聞いたッ!? 答えてよッ!!」

 ガイアメモリ。その単語は、上条当麻は何を意味するかは詳しくは知らない。

 知り合いが教えてくれただけ。だが、相手の剣幕は明らかに普通じゃない。

 焦りと、怒り。ハッキリと上条当麻は分かった。

 彼女は、恐らくあの連中の関係者。

「お前こそ、何を言ってる!? あの女の子とお前は何か関係あるのか!?」

「黙れッ!! 聞いているのは僕だ! 吐け、教えろ上条当麻! お前は何者だッ!?」

「お前の想像するような人間じゃないのは確かだ!」

 何やら互いに認識に齟齬があると気付いて指摘しようとするも、

「ふざけるな! お兄さんの敵か! お前もお兄さんと僕の敵か!! だったら、ここで始末するしかない……!」

「お、おい落ち着け……!!」

「落ち着けるか! なら、今すぐここで死ね上条当麻!! お前は僕の……藍花悦の敵だ!!」

 ローブのフードを取って、顔を見せる少女。

 怒鳴る彼女の、その顔は……。

 

「……御坂妹っ!?」

 

 彼のよく知る、女の子によく似ていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガイアメモリ解説。

 エンジンガイアメモリ。

 機関の記憶を内包する複数の能力を使用できる珍しいメモリ。

 スチーム、ジェット、エレクトリックの三つの能力を持っているが出力が高すぎるため、反動が発生している。

 藍花悦が蒸気、加速化、電撃を使用できるのにどうやら関係しているらしい。

 尚、これらは常時最大出力のため、コントロールが非常に難しいが藍花悦は難なく使用している。

 解説終了。


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